最新医学65巻9号 
特集 ウイルス肝炎の病態解明と治療の進歩

要  旨



アプローチ

榎本信幸*

* 山梨大学医学部第一内科 教授

要  旨
 本特集ではウイルス肝炎の病態解明と治療へのアプローチとして,治療が必要な患者はどれくらいいるのか,どのような患者をどのように治療するか,肝炎ウイルス増殖機構はどこまで解明されているか,発がんメカニズムはどこまで解明されているのか,ヒトゲノム解析を肝炎病態解明にどのように応用するか,新規治療法の開発動向は,といった点についてテーマを設定し,第一人者の先生方に最新の解説をお願いしている.

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ウイルス肝炎の疫学

田中純子*   松尾順子**

* 広島大学大学院医歯薬学総合研究科疫学・疾病制御学 教授 ** 同助教

要  旨
 我が国における肝炎ウイルス感染を疫学的視点から検討したうえで,今後の肝炎ウイルスキャリア対策を考えると,「肝炎ウイルスの新規感染の動向調査・従来の感染防止対策」を継続しつつ,「感染を知らないまま潜在しているキャリア」への対策,「患者としてすでに通院・入院しているキャリア」への対策,「感染を知ったが受診しないままでいるキャリア」への対策,という4つの柱を立てることができる.近未来の我が国の肝がん死亡のさらなる減少を目指すうえで重要である.

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HBV 治療ガイドライン
―厚生労働省熊田班による平成 22 年度B型慢性肝炎治療ガイドラインを中心に― 

中本晋吾*   横須賀 收**

* 千葉大学大学院医学研究院腫瘍内科 ** 同教授

要  旨
 B型肝炎の自然経過は多岐にわたる.近年の治療法の進歩は著しく,各種治療ガイドラインが発表されている.現在,B型肝炎の治療はインターフェロン(IFN)療法と核酸アナログ療法が主流である.核酸アナログのうちエンテカビルが,高い抗ウイルス効果と低い耐性株出現率の点で優れる.IFN は投与終了後の効果が長期持続する利点がある.年齢,HBVDNA 量,HBe 抗原,線維化の程度などに基づいたB型肝炎治療が必要である.

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HBV の発がん機構

室山良介*   加藤直也**

* 東京大学医科学研究所疾患制御ゲノム医学ユニット ** 同特任准教授

要  旨
 B型肝がんに対する有効な治療法の開発は臨床における最重要課題の1つであり,そのためにはB型肝炎ウイルス(HBV)による発がん機構の解明が不可欠である.本稿では,主にXタンパク質(HBx)と HBVDNA 組み込みによる発がん機構について,最近の知見を述べる.HBV の発がん機構の解明により,より有効なB型肝がん固有の治療法が開発されることに期待したい.

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ゲノムワイド関連解析による慢性B型肝炎疾患感受性遺伝子の同定


松田浩一*   中村祐輔**
* 東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターシークエンス技術開発分野 准教授
** 同センター長

要  旨
 B型肝炎ウイルス暴露後の臨床経過は,一過性の肝炎を経て無症候性キャリアになるものから,慢性肝炎から肝硬変,肝細胞がんに至るものまで多岐にわたる.我々はゲノム上の数十万ヵ所の1塩基多型を指標としたゲノムワイド関連解析により,HLA-DP 遺伝子を慢性B型肝炎の疾患感受性遺伝子として同定した.このような病気にかかわる遺伝因子を同定・臨床応用することにより,オーダーメイド医療の実現を目指し,現在我々は解析を続けている.

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HCV の増殖メカニズムの解明


脇田隆字*
* 国立感染症研究所ウイルス第二部 部長

要  旨
 C型肝炎ウイルス(HCV)は,肝臓に持続感染して肝炎から肝臓がんに至る疾患を引き起こす.HCV は RNA ウイルスであり,NS5A タンパク質が RNA 依存性 RNA ポリメラーゼ活性を有し,感染細胞内で複製増殖する.その複製には,細胞内膜構造,脂肪滴,多くの宿主タンパク質および miRNA が関与していることが明らかになってきた.HCV の感染増殖過程の分子機構を詳細に解明することにより,新たな抗ウイルス療法の開発が期待される.

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HCV 粒子の産生機構における脂質の重要性

日紫喜隆行*   清水裕子*
* 千葉工業大学附属総合研究所

要  旨
 C型肝炎ウイルス(HCV)はフラビウイルス科に属する RNA ウイルスである.慢性肝炎,肝硬変,肝臓がんの原因となり,我が国では約 200 万人が感染していると推定されている.近年,HCV の実験系として培養細胞系が樹立され,HCV が複製増殖する際に宿主の脂肪代謝系を巧みに利用していることが明らかになってきた.本稿では HCV 粒子の形成機構に焦点を絞り,最新の知見を概説する.

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C型肝炎とゲノム解析



田中靖人*
* 名古屋市立大学大学院医学研究科病態医科学・肝疾患センター 教授

要  旨
 ゲノムワイド関連解析により,第 19 染色体の IL28B 遺伝子周辺にペグインターフェロン(PEG-IFN)+リバビリン(RBV)併用療法の有効性に関連する遺伝子多型(SNPs)を発見した.この代表的な SNP である rs8099917 がマイナーアレルGを持つC型肝炎患者群は,危険率約 30 倍の確率(p=2.68×10−32)で PEG-IFN+RBV 併用療法が無効となることが分かった.C型肝炎診療の中で,治療前にこの遺伝子多型を調べることで高い確率で治療効果の予測が可能となり,テーラーメイド医療として期待される.



ウイルス肝炎の発現解析

本多政夫*1*2 金子周一**2
*1 金沢大学大学院医学研究科保健学専攻先端医療技術学 教授
*2 同消化器内科 **2 同教授

要  旨
 インターフェロン(IFN)療法に対する応答・不応答にかかわる因子の探索は,IFN 療法の治療成績の改善,その後の肝がんの発生阻止の観点から極めて重要と言える.我々は肝臓における遺伝子発現解析から,IFN 療法に対する応答・不応答にかかわる宿主因子の探索を行った.肝臓における遺伝子発現解析から,IL28B 遺伝子マイナーアレル型では肝内高 ISGs 状態となり,IFN 不応答を誘導していることが明らかとなった.

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HCV ゲノム解析から見た治療方針

坂本 穣*1  榎本信幸*2
*1 山梨大学医学部附属病院肝疾患センター長・准教授
*2 同内科学講座第1教室(消化器内科) 教授

要  旨
 C型慢性肝炎に対する IFN 療法は,ペグインターフェロン+リバビリン併用により格段に進歩したが難治例も存在する.C型肝炎ウイルス(HCV)の遺伝子型をはじめとしたゲノム解析は治療効果予測に有用で,特に NS5A 領域に存在する ISDR や IRRDR は重要である.これに最近発見された宿主 IFN 感受性を決定する IL28B SNP を組み合わせることで,個別化医療が可能となる.

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データマイニングによる病態解析

泉 並木**  黒崎雅之*
* 武蔵野赤十字病院消化器科部長 ** 同副院長・部長

要  旨
 ウイルス慢性肝炎は長期経過の中で肝がんを合併するが,その特徴にはウイルスと宿主の両者が関与する.C型慢性肝炎に対してペグインターフェロンとリバビリン併用療法を行う場合に,その効果はウイルス,宿主と治療要因など複雑に関連し合う.これらの複雑な病態を解析し,臨床的に意味がある肝発がんのリスク症例を見極めたり,治療効果の予測を立てる場合に,データマイニング解析が非常に役立つ.病態解明や効果予測の重要な情報源となる.

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ウイルス肝炎からの発がんリスク

建石良介*   小池和彦**1
* 東京大学大学院医学系研究科消化器内科 ** 同教授

要  旨
 B型・C型慢性肝炎は,我が国の肝細胞がん患者の 85% を占める高リスク群である.慢性ウイルス肝炎からの発がんは慢性炎症に伴う肝細胞の壊死・再生を背景として起こってくるため,蓄積した壊死・再生の結果である肝線維化の進展度と発がんリスクの間には強い関連があり,肝硬変の存在は最も強い危険因子である.そのほかにも,B型・C型肝炎に共通した危険因子として高齢,男性,肥満が挙げられる.さらにB型肝炎において,近年 HBVDNA 量が発がんを規定する重要な因子であることが明らかになった.

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プロテアーゼ阻害薬

鈴木文孝*   熊田博光**
* 虎の門病院肝臓センター ** 同部長

要  旨
 C型慢性肝炎に対する現在のペグインターフェロン(PEG-IFN)とリバビリン(RBV)の 48 週間併用療法での遺伝子型1型,高ウイルス量患者の治療成績は依然高くない.現在治験中の新たな治療薬のうち,プロテアーゼ阻害薬(テラプレビル telaprevir)の治療成績について述べた.本邦のデータでは,過去に IFN 治療を施行されていない症例におけるテラプレビル,PEG-IFN と RBV の三者併用療法 12 週間投与では,投与中全例で HCV RNA の陰性化が得られ,その SVR 率は 70% であった.このように三者併用療法の効果は高い.さらに,現在三者併用療法 24 週間投与の第V相臨床試験が開始され,その効果が期待されている.

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新規治療薬の開発動向

坂本直哉*
* 東京医科歯科大学消化器内科/分子肝炎制御学講座 准教授

要  旨
 C型肝炎ウイルス(HCV)に対する新規薬剤として,欧米を中心に STAT-C をはじめとする一連の薬剤の臨床試験が進行している.試験が進んでいる主要な薬剤は NS3 プロテアーゼ阻害薬,NS5B ポリメラーゼ阻害薬,および NS5A 阻害薬,さらに新規インターフェロン(IFN)製剤などがあり,今後数年間で複数が登場することが予想される.今後,患者の高齢化が進み難治例の多い日本の実情に即した新規薬剤の運用の検討が必要である.

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対談
血液および血液疾患を語る(第18回)
 血管新生を追及して


ゲスト  浅原 孝之 先生(東海大学)
聞き手  齋藤 英彦 先生(名古屋セントラル病院)

 対談シリーズ「血液及び血液疾患を語る」は、司会を名古屋セントラル病院・齋藤英彦先生にお願いし、お招きするゲストの先生方にご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、本誌の対象読者である若手研究者へのアドバイスを頂き、日頃の臨床・研究活動に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 第18回はゲストに東海大学教授・浅原 孝之 先生をお迎えして「血管新生を追及して」をタイトルにお話をお伺いしました。
 血管新生研究の最前線でご活躍されている浅原先生が足の動脈硬化研究の権威であるSt.Elizabeth's Medical CenterのIsner教授の研究室に留学された時は無給のお立場だったそうです。
 留学から1年後には有給の身となり、3年半後には血管内皮前駆細胞(EPC)が循環血中に含まれることを発見されたのですが、当時誰も成しえなかった領域だけに大変なご苦労をされました。
 当時を振り返りながら、新たな幹細胞を発見した経験者として若い研究者の先生方へのメッセージを語って頂いています。
 更にEPCについてその由来、研究の最前線のお話や再生医療のこれからの方向性などについてもお話頂きました。
 是非、ご覧下さい。 



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