最新医学65巻10号 
特集 レニン・アンジオテンシン。アルドステロン系の進歩

要  旨



アプローチ

宮森 勇*

* 福井大学医学部第三内科 教授

要  旨
 元来,レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)は,Na・水の保持に重要な体液調節系内分泌因子である.しかし,RAAS の過剰は心血管組織において炎症や酸化ストレスを惹起し,線維化,リモデリングを促進する.アルドステロンはアンジオテンシンUと独立して直接心血管および腎組織に作用して酸化ストレスを誘導し,細胞の増殖と肥大,線維化を促進する.さらにアルドステロンとアンジオテンシンUは相互に作用を増強する効果があり,臓器障害を進展させている.RAAS のクロストーク抑制は,降圧効果に加えて高血圧症による臓器障害を予防するための重要な治療戦略である.

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(プロ)レニン/アンジオテンシンと受容体の分子生物学
(プロ)レニン受容体の分子生物学

千本松 孝明*

* 埼玉医科大学薬理学 准教授

要  旨
(プロ)レニン受容体は,非活性産物と考えられていたプロレニンに結合して酵素活性を誘導し,同時に細胞内シグナルを活性化する.この機能は,組織レニン・アンジオテンシン系におけるレニン活性供給源として重要な機能である.ところが,分泌型(プロ)レニン受容体の存在,細胞内小器官への局在,発生分化への関与など多岐にわたる研究報告がなされ,さらに病態モデルを用いた研究では機能の裏づけが十分に証明されていない.

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(プロ)レニン/アンジオテンシンと受容体の分子生物学
心臓(プロ)レニン受容体の発達および病態生理における意義


市原淳弘*   伊藤 裕**

* 慶應義塾大学医学部抗加齢内分泌学講座・腎臓内分泌代謝内科 准教授 ** 同教授

要  旨
 全長型(プロ)レニン受容体はその構造上,レニン/プロレニン結合領域である細胞外領域の可溶型(プロ)レニン受容体部分と,膜貫通領域・細胞内領域の Atp6ap2 部分を含む.前者はプロレニンを活性化して心組織アンジオテンシン産生を刺激し,後者は細胞内 pH 調節因子である vacuolar H+-ATPase の機能に関与し,正常な心臓発達に必須な分子である.これら機能の相互干渉の可能性が今後の検討課題である.

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(プロ)レニン/アンジオテンシンと受容体の分子生物学
ACE2/Mas 受容体系と臨床的意義

大石 充*

* 大阪大学大学院医学系研究科老年・腎臓内科学 病院教授

要  旨
 アンジオテンシン変換酵素(ACE)/アンジオテンシンU/AT1 受容体に拮抗する系として,ACE2/アンジオテンシン(1-7)/Mas 受容体系が脚光を浴びている.特に,ACE2 遺伝子欠損によるアンジオテンシン(1-7)抑制が心不全や腎障害の進行を亢進させ,ACE/アンジオテンシンU/AT1 受容体系のカウンターシステムとして非常に重要な働きをしていると考えられる.この働きは AT1 受容体抑制時に特に顕著に現れるため,AT1 受容体抑制+ACE2/アンジオテンシン(1-7)/Mas 受容体系賦活化という新規治療戦略の可能性も含めて重要である.

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(プロ)レニン/アンジオテンシンと受容体の分子生物学
アンジオテンシン受容体と心血管リモデリング


赤澤 宏*   小室一成**

* 大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学 特任講師 ** 同教授

要  旨
 アンジオテンシンUにはGタンパク質共役型受容体であるタイプ1(AT1)受容体とタイプ2(AT2)受容体が存在するが,心血管系組織における作用の多くはAT1 受容体を介している.AT1 受容体は血圧や水・電解質の恒常性維持に中心的な役割を果たすとともに,組織レベルでは心血管系細胞の増殖や肥大,線維化を促進するなど,心血管リモデリングの病態形成に深く関与していることが明らかにされつつある.

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(プロ)レニン/アンジオテンシンと受容体の分子生物学
アンジオテンシンUと微小循環障害


千田美穂*1  森 建文*1*2 伊藤貞嘉**1
*1 東北大学大学院医学系研究科内科病態学講座腎・高血圧・内分泌学分野 **1 同教授
*2 同分子病態治療学分野 准教授

要  旨
 腎臓はレニン・アンジオテンシン系(RAS)により体液調節を行っている.アンジオテンシンUによる皮質表在ネフロンと傍髄質ネフロンの輸出入細動脈の収縮性は異なるため,高血圧では不均一に障害を受ける.腎髄質は常に低酸素にあるが,髄質の微小循環により調節を受け,血流は RAS 依存性の活性酸素および一酸化窒素(NO)のバランスによって調節されている.高血圧や糖尿病では髄質血流が低下し,酸素消費の強い髄質外層では障害を受けやすい.

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注目される RAS の臓器作用
RAS と血管内皮機能障害

東 幸仁*1*2
*1 広島大学大学院医歯薬学総合研究科心臓血管生理医学 准教授
*2 広島大学病院再生医療部 部長

要  旨
 レニン・アンジオテンシン系(RAS)活性化は,血管内皮細胞への障害作用や血管壁細胞における細胞内情報伝達系の活性化により,動脈硬化の発症や進展に重要な役割を果たしている.RAS 活性化による血管内皮機能障害,そして動脈硬化症発症に至る系は,悪循環を形成しながら動脈硬化症を維持・進展し,動脈硬化巣の破綻を来す.RAS 阻害薬は,一酸化窒素(NO)の生物学的活性を増加させることによって血管内皮機能障害を改善することが可能である.

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注目される RAS の臓器作用
脳内 RAS と循環調節

堺 浩二*

* 松山赤十字病院循環器センター 副部長

要  旨
 脳内のレニン・アンジオテンシン系(RAS)は,血圧制御,飲水行動,記憶などの多くの生理現象を制御することで知られる.多くの実験的証拠からアンジオテンシンペプチドは神経伝達物質として作用するらしいと考えられているにもかかわらず,その産生経路,作用メカニズムはまだまだ驚くほど理解が進んでいないのが現状である.本稿では,その脳内 RAS の制御系,分子機構について概説する.


注目される RAS の臓器作用
腎 RAAS(アルドステロンを中心に)と酸化ストレス

北田研人*   中野大介*   西山 成**

* 香川大学医学部薬理学講座 ** 同教授

要  旨
 アンジオテンシンUは腎臓局所で制御されており,この腎臓内局所で産生されたアンジオテンシンUがさまざまな病態における腎障害の進展に重要な役割を果たしていると考えられている.一方,単なる電解質調節ホルモンであると考えられてきたレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)の下流因子であるアルドステロンの直接的な腎障害作用の重要性も指摘されている.本稿では腎内 RAAS について,特にアルドステロンの腎障害作用を中心に,酸化ストレスの関与とともに概説する.

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アルドステロン研究の最前線
アルドステロン産生のエピジェネティクス

出村昌史*   山岸正和*   武田仁勇*

* 金沢大学附属病院内分泌代謝内科

要  旨
 肥大心や不全心からのアルドステロン産生は亢進し,病態に悪影響を与える.アルドステロン合成酵素遺伝子(CYP11B2)プロモーターに DNA メチル化標的部位である CpG ジヌクレオチドが散在する.アルドステロン産生副腎腫瘍(APA)では低 CpG メチル化状態,非アルドステロン産生組織では高 CpG メチル化状態で,CpG メチル化率と CYP11B2 mRNA レベルは有意な逆相関を示した.副腎皮質がん由来 H295R 細胞を用いた検討でも,プロモーター活性は CpG メチル化により抑制された.以上より,CYP11B2 転写活性の CpG メチル化依存性が示された.興味深いことに,肥大型心筋症の心筋組織では APA と同程度の低 CpG メチル化状態であった.肥大心からのアルドステロン産生亢進は,低 CpG メチル化状態に関連するかもしれない.

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アルドステロン研究の最前線
鉱質コルチコイド受容体の転写とエピジェネティクス

柴田洋孝*   伊藤 裕**

* 慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科専任 講師 ** 同教授

要  旨
 原発性アルドステロン症では,高アルドステロン血症による鉱質コルチコイド受容体(MR)の活性化が関与する.一方,肥満,メタボリックシンドローム,睡眠時無呼吸症候群,食塩過剰摂取,糖尿病などにおける治療抵抗性高血圧で,MR 拮抗薬の追加投与によって高血圧の著しい改善を認める病態では,血中アルドステロン濃度が正常範囲であっても MR のタンパク質修飾による活性化が推察され,「MR 関連高血圧」という病態としてとらえられる.

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アルドステロン研究の最前線
鉱質コルチコイド受容体の活性化と食塩/肥満

鮎澤信宏*   長瀬美樹**

* 東京大学大学院医学系研究科腎臓・内分泌内科 ** 同特任准教授

要  旨
 食塩感受性高血圧では,血圧上昇のみならず不適切な鉱質コルチコイド受容体(MR)活性化を介した心血管・腎障害が起こる.メタボリックシンドロームは食塩感受性臓器障害と関連し,そこには脂肪細胞由来のアルドステロン放出ホルモンによる不適切なアルドステロン分泌が関与している可能性がある.また,最近 MR 活性化の新規経路として見いだされた Rac1 がメタボリックシンドロームにおいて果たす役割も明らかになりつつあるため,本稿にて概説する.

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アルドステロン研究の最前線
血圧調節,糖・脂質代謝における11βHSD アイソザイムの役割

宗 友厚*

* 川崎医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科学 教授

要  旨
 アルドステロンを代表とする鉱質コルチコイドは,古典的標的臓器において体液貯留を介して血圧を調節するが,その生合成から効果器での作用発揮までには複数のステップを要する.中でも,受容体前の防御機構である 11βHSD2 の異常は,遺伝性高血圧 AME 症候群や甘草による偽性アルドステロン症を引き起こす.11βHSD1 と H6PDH による糖質コルチコイド作用増幅機構経路とのクロストークも重要である.

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アルドステロン研究の最前線
アルドステロンによる血管新生抑制作用

居軒 功*   藤井美紀*   稲葉 聡* 此下忠志**  宮森 勇***

* 福井大学医学部第三内科 ** 同准教授 *** 同教授

要  旨
 アルドステロンの血管新生に及ぼす作用を検討した.アルドステロンはヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)のマトリゲル上の管腔形成を抑制し,エプレレノンはこの抑制反応を解除した.そのメカニズムとして,アルドステロンが直接または PPARγ の発現抑制を介して VEGFR-2 の発現を減弱させることによることが示された.アルドステロンの血管新生抑制作用が心血管系疾患の病態に果たす役割について,今後のさらなる検討が期待される.

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対談
血液および血液疾患を語る(第19回)
 造血幹細胞移植


ゲスト  小寺 良尚 先生(愛知医科大学)
聞き手  齋藤 英彦 先生(名古屋セントラル病院)

 対談シリーズ「血液及び血液疾患を語る」は、司会を名古屋セントラル病院・齋藤英彦先生にお願いし、お招きするゲストの先生方にご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、本誌の対象読者である若手研究者へのアドバイスを頂き、日頃の臨床・研究活動に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 第19回はゲストに愛知医科大学教授・小寺 良尚 先生をお迎えして「造血幹細胞移植」をタイトルにお話をお伺いしました。
 卒後一年目の時に受け持たれた患者さんの症例を臨床血液学会で発表したことが契機となって血液学への道を歩まれた小寺先生はアメリカ留学時代にはメラノーマに対する自己抗体を発見されるなど腫瘍免疫の分野で多くの実績を上げられました。その一方で、骨髄移植についてはシアトル時代にフレッドハッチンソンがん研究センターのDr.Thomasの講義を聞いた程度のご経験だったそうです。
 そして日本に戻られたのは名古屋大学にも漸く骨髄移植のグループができた1979年のことでした。
 先生の最初の骨髄移植成功例は当時16歳のT-ALL(T細胞急性リンパ球性白血病)の患者さんで制吐剤のない時代に無菌室で吐きながらも高校受験の勉強をし、現在では大学を出て結婚されて子供さんもいるそうです。その後、小寺先生は25年間で1000例以上の骨髄移植に直接関与されました。
 この他にも造血幹細胞の詳しいお話や、造血幹細胞のソースとしての骨髄、末梢血、臍帯血の長所・短所、チーム医療としての骨髄移植の特徴、これまでハイリスク群として骨髄移植に適さなかった高齢者や臓器障害のある患者さんにも移植が可能となったミニ移植など造血幹細胞移植に関するあらゆるお話を伺いました。
 本対談恒例の若い先生方へのアドバイスも勿論いただいています。是非、ご覧下さい。 




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