最新医学65巻11号 
特集 慢性炎症と疾患
 -病態解明と治療の新展開-

要  旨


アプローチ
慢性炎症と疾患 ―基礎と臨床の架け橋―

松島綱治**  上羽悟史*   阿部 淳* 戸村道夫*

* 東京大学大学院医学系研究科分子予防医学 ** 同教授

要  旨
 さまざまなストレス侵襲に対する炎症・免疫反応により,いろいろな疾患がもたらされる.本稿では,炎症反応や疾患に対する概念的変換とも言うべき@炎症と獲得免疫のリンク,AヘルパーT(Th)細胞のパラダイムシフト,B自己炎症と自己免疫疾患の関連について概説する.

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病態と治療
関節リウマチ

住友 秀次*

* 東京大学大学院医学系研究科内科学専攻アレルギー・リウマチ学

要  旨
 関節リウマチの発症は,何らかの誘因を契機として自己抗原に対する寛容が破綻し,原因不明の自己抗原に対する自己免疫反応が活性化することが疾患の本態と考えられているが,明らかでない点も多い.治療については,メトトレキサートや生物学的製剤を使用することで,早期から強力に加療することが可能になってきている.発症早期より治療介入するためには早期診断の重要性が増したことから,現在診断基準の改訂が提唱されている.

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病態と治療
膠原病 ―多発性筋炎・皮膚筋炎を中心として―


上阪 等*

* 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科膠原病・リウマチ内科 准教授

要  旨
 膠原病,特に多発性筋炎・皮膚筋炎の病態に関しては,T細胞,B細胞,炎症性サイトカインのそれぞれについて解明されつつあり,筋傷害の病態を両疾患におけるT,B細胞のかかわり方で分けようとする過去の試みには無理がある.I型インターフェロンや腫瘍壊死因子,インターロイキンなどの炎症性サイトカインのかかわりも明らかになりつつあり,これらを標的とした治療も試されつつある.

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病態と治療
気道におけるアレルギー性炎症

茆原 順一**  伊藤 亘*

* 秋田大学大学院医学系研究科感染・免疫アレルギー・病態検査学 准教授 ** 同教授

要  旨
 アレルギー性炎症の病態では,好酸球やリンパ球を主体とした炎症細胞のほか,IgE やサイトカインといった多くの因子が複雑に絡み合っている.アレルギー性炎症疾患である喘息では,炎症によって気道上皮細胞が傷害を受けることにより,気道過敏性の亢進や気道収縮といった特徴的な症状,さらにはリモデリングの形成が起こる.それゆえ,気道のアレルギー性炎症に対し,吸入ステロイドを中心とした抗炎症治療が不可欠となる.

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病態と治療
動脈硬化と炎症


児玉 龍彦**  南  敬*

* 東京大学先端科学技術研究センターシステム生物医学 准教授 ** 同教授

要  旨
 我が国における高齢者の虚血性疾患に重要な役割を果たすアテローム性動脈硬化は,脂質の沈着したマクロファージ由来の泡沫細胞の集積したプラークを特徴とする.このプラークは,限局された境界明瞭な病変として形成される.そのメカニズムとして,MEK5-ERK5-MEF2 の MAP キナーゼ系を介した内皮細胞保護作用が重要であり,流れやスタチンはこのシグナルを活性化している.その標的が KLF4 であることが分かってきた.その抗動脈硬化作用が低下し,内皮細胞が活性化されると,接着分子やケモカイン遺伝子が誘導される.接着分子では VCAM1,ケモカインではフラクタルカイン,さらにはヒストン修飾酵素が治療標的として注目されてきている.

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病態と治療
慢性ウイルス肝炎と炎症


小池 和彦*
* 東京大学大学院医学系研究科消化器内科学教授

要  旨
 慢性ウイルス肝炎の病態においては,炎症が重要な役割を演じている.しかし,同じく「炎症」と呼ばれていても,感染症での炎症は病原体によって大きく異なる.B型慢性肝炎とC型慢性肝炎は一見類似した臨床像・組織像を呈するが,全く異なった病原体によって起こる別の病気であることを認識する必要がある.ウイルス肝炎における肝発がんにおいては,ウイルスの作用によって炎症の質がそれぞれ異なっており,肝発がんへの経路も異なる.

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病態と治療
炎症性腸疾患

三上 洋平*   金井 隆典*   日比 紀文**
* 慶應義塾大学医学部消化器内科 ** 同教授

要  旨
 20 世紀後半の分子生物学・免疫学の飛躍的な進歩は,炎症性腸疾患の代表である潰瘍性大腸炎とクローン病の病態の解明に多大な貢献をした.何らかの遺伝的素因を有する宿主が存在し,腸内細菌や食事などの環境因子に対して過剰・異常な免疫反応が惹起され,腸管の制御不能な炎症が生じるものと理解される.元来,対症的な抗炎症療法が内科的治療の基本であったが,難治性症例に対しては免疫統御療法や炎症性サイトカインを中心とした分子をターゲットにした分子標的療法が次々と開発され,根治治療に向けての治療法の進歩が著しい.

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病態と治療
呼吸器疾患と炎症 ―感染症と特発性間質性肺炎の接点―

藤田 次郎*

* 琉球大学大学院医学研究科感染制御医科学専攻感染制御特別コース感染症・呼吸器・消化器内科学(第一内科)教授

要  旨
 呼吸器疾患と炎症というテーマで,主として特発性間質性肺炎の病態について記載した.また,同じ慢性炎症性疾患である肺気腫の病態についても若干触れた.特に炎症性疾患の代表である感染症が,慢性疾患である間質性肺炎と関連しうる可能性について示唆した.これらの疾患の接点が上皮細胞傷害であり,特に肺胞口に位置する上皮細胞傷害の程度が疾患の本態となる.慢性炎症性肺疾患の病態解明に伴って,新たな治療戦略の可能性が開かれるかもしれない.


病態と治療
神経疾患と炎症 ―多発性硬化症を中心に―

千原 典夫*   山村 隆**

* 国立精神・神経医療研究センター神経研究所免疫研究部 ** 同部長

要  旨
 慢性炎症の役割がさまざまな神経疾患で推察されている.中でも多発性硬化症で代表される免疫性神経疾患では,T細胞やB細胞の介在する炎症病態がかなり詳細に解析されている.神経組織は血液組織関門により保護されているが,一方では神経細胞には十分な自己再生能がなく,その障害機序の解明と治療法の開発にはさまざまな因子を考慮しなければならない.本稿では多発性硬化症を中心に,炎症の介在する神経障害の機序や治療戦略について,最新の知見を紹介する.

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病態と治療
炎症性皮膚疾患

椛島 健治*   宮地 良樹**

* 京都大学大学院医学研究科皮膚科学 准教授 ** 同教授

要  旨
 皮膚は,Th1/Tc1 型反応としての接触皮膚炎,Th2 型反応としてのアトピー性皮膚炎,Th17 型反応としての尋常性乾癬や,また,制御性T細胞が関与する紫外線照射による免疫抑制などの多彩な免疫・アレルギー反応を呈することが可能なヒトにおける最大の免疫臓器である.本稿では,最新の知見を交え,炎症性皮膚疾患の発症機序の概説を行う.

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新しい治療戦略
プロスタグランジンと炎症制御

佐野 統*

* 兵庫医科大学内科学講座リウマチ・膠原病科 主任教授

要  旨
 プロスタグランジン(PGs)は特異的な細胞膜受容体に作用した後,炎症をはじめさまざまな機能を発揮する.非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は,シクロオキシゲナーゼ(COX)活性阻害によりプロスタグランジン産生を抑制し,その機能を発揮する.プロスタグランジンには核内受容体(PPAR)も存在し,その活性化が炎症,免疫調節,血管新生などを調節する.スフィンゴシン1−リン酸(S1P)などの脂質メディエーターも,炎症,細胞移出,血管新生などの病態を形成し,FTY720 による受容体(S1P1)制御が関節リウマチのモデル関節炎を抑制する.プロスタグランジン・脂質メディエーター制御が炎症治療のターゲットとなる.

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新しい治療戦略
脂質メディエーターと炎症制御

横溝 岳彦*

* 九州大学大学院医学研究院医化学分野 教授

要  旨
 免疫・炎症反応の制御における脂質メディエーターの関与は極めて大きい.ロイコトリエンは好中球,マクロファージ,樹状細胞,T細胞を活性化し炎症を促進する.12-HHT,リポキシン,レゾルビンといった新規の脂質メディエーターはむしろ抗炎症作用を発揮する.強力な免疫抑制薬として臨床応用が進む FTY720 は,スフィンゴシン1リン酸の受容体の脱感作を介してリンパ球の遊走を抑制し,その抗免疫作用を発揮する.

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新しい治療戦略
シグナル伝達標的低分子化合物による疾患制御

山岡 邦宏*   田中 良哉**

* 産業医科大学医学部第一内科学 講師 ** 同教授

要  旨
 代表的炎症性サイトカインである TNF を標的とした生物学的製剤は,自己免疫性炎症性疾患に対する画期的治療効果をもたらしたが,投与経路や薬価の面での問題が残されている.低分子化合物は,サイトカインが細胞内において活性化するチロシンキナーゼを標的として,生物学的製剤と同等の治療効果をもたらすことが明らかに なってきている.低分子化合物は経口投与可能であり,半減期が数時間と短く,薬価次第では生物学的製剤に取って代わる可能性を有する薬剤と考えられる.

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新しい治療戦略
生物学的製剤と炎症制御

金子 祐子*   竹内 勤**

* 慶應義塾大学医学部リウマチ内科 ** 同教授

要  旨
 生物学的製剤とは生物が産生したタンパク質を利用して作られた薬剤で,慢性炎症性疾患治療の中心は従来のステロイドから生物学的製剤へと移行しつつある.現在多数の生物学的製剤が使用可能または開発中であり,特に関節リウマチにおいては飛躍的な進歩を遂げている.今後より積極的かつ注意深い開発を進め,多様な治療薬が臨床現場に送り出されることが,さらなる福音に繋がるであろう.

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対談
血液および血液疾患を語る(第20回)
 鉄代謝研究の現状


ゲスト  高後 裕 先生 (旭川医科大学)
聞き手  齋藤 英彦 先生(名古屋セントラル病院)

 対談シリーズ「血液及び血液疾患を語る」は、司会を名古屋セントラル病院・齋藤英彦先生にお願いし、お招きするゲストの先生方にご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、本誌の対象読者である若手研究者へのアドバイスを頂き、日頃の臨床・研究活動に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 第20回はゲストに札幌医科大学教授・後 裕 先生をお迎えして「鉄代謝研究の現状」をタイトルにお話をお伺いしました。
 昭和49年、現在の臨床腫瘍学を先取りしていた感のある札幌医科大学附属がん研究所内科に入局された後先生の最初の研究テーマは血清フェリチンのラジオイムノアッセイ系を作る事だったそうです。その後の臨床で使うプロトタイプ完成された後先生は生化学の勉強のために米国へ留学されました。
 アルバート・アインシュタイン大学で代謝関連の熱力学的研究を1年間経験され、2つ目の留学先には様々なお誘いがありましたが、フェリチンの生合成の研究をすべくタフツ大学に移られました(HbA1c研究の大家であるSam Seifter教授から「これからはHbA1cの時代だ。わたしのところに残れ」と強く誘われたそうです)。
 札幌医大に戻られてからは白血病や悪性リンパ腫の化学療法の診療をされながらがんに伴う貧血や鉄欠乏の研究をすすめられ、赤血球の造血機構・鉄代謝など解明に取り組まれ大変なご成果を上げられました。
 当時のご苦労話や、がんの貧血メカニズム、鉄の代謝に関連する疾患など多岐にわたったお話をして頂きました。
 更に若い医師に対しては分かっているのではないかと思っても、実際によく考えたら分かっていないということがあまりにも多いということと、定形的になりすぎないようにとのアドバイスを頂きました。




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原著
ドリペネムの血液透析中薬物動態試験

井上 徹**  長門谷 克之*   山内 洋子*    松田 拓久*   
鍵谷 真希*   森 龍彦*

* 大阪医科大学血液浄化センター ** 同センター長

要  旨
 腎機能障害を有する感染症患者に対するカルバペネム系抗菌薬ドリペネム(DRPM)の安全で有効な用法・用量の設定に資するパラメーターの収集を目的として,血液透析施行中の薬物動態を検討した.感染症治療が必要な慢性維持血液透析患者に DRPM0.5g を点滴静注し,13 時間後より血液透析治療を行い DRPM の透析中薬物動態パラメーターを調べた.これらパラメーターは腎機能正常者の腎クリアランスに匹敵するものであった.

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