最新医学65巻12号 
特集 骨髄異形成症候群(MDS)


要  旨


アプローチ
MDS に関する最近の研究の進歩

小澤 敬也*

* 自治医科大学医学部内科学講座血液学部門 教授

要  旨
 MDS の診断は形態学が基本となり,病型分類では従来の FAB 分類から新しい WHO 分類にシフトしつつある.なお,分子病態に関する研究も大きく進みつつあり,遺伝子診断も次第に導入されていくものと予想される.治療は IPSS といったリスク分類に基づいて行われているが,新規治療薬が次々に登場してきており,治療アルゴリズムも次第に変わっていくものと思われる.その他,輸血後鉄過剰症に対する鉄キレート療法が MDS 患者の予後を有意に改善することも注目される.

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病態と診断
骨髄不全症候群における MDS ―良性の骨髄不全(再生不良性貧血)とどうやって鑑別するか?―

中尾 眞二*

* 金沢大学医薬保健研究域医学系細胞移植学 教授

要  旨
 特発性骨髄不全のうち,血球減少の程度が軽い例では骨髄造血巣が残存していることが多く,また程度の差はあれ何らかの形態異常が見られることから,MDS と診断されることが多い.しかしその中には,通常の再生不良性貧血以上に免疫抑制療法に反応しやすい良性の骨髄不全(実体は非重症再生不良性貧血)が含まれている.非重症の骨髄不全を診る際に最も重要なことは,そのような免疫病態による骨髄不全を MDS の範疇に押し込めないことである.

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病態と診断
MDS の病型分類と予後スコアリングシステム

波多 智子*   宮崎 泰司**

* 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科附属原爆後障害医療研究施設
                 分子治療部門(原研内科)
** 同教授

要  旨
 MDS の分類は,FAB 分類から 2001 年,2008 年の WHO 分類へと変遷するに従い,予後スコアリングシステムも変化している.IPSS は,骨髄中の芽球比率,染色体異常,血球減少を示す系統数を点数化し,予後を予測したもので,現在でも実地医療の現場で治療方針の選択に広く用いられている.さらに,輸血依存性を考慮した WPSS も提唱されている.現況に合った予後スコアリングが今後も提唱されることが重要である.

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病態と診断
小児 MDS の特徴


小島 勢二**1  濱 麻人*1  伊藤 雅文*2

*1 名古屋大学大学院医学系研究科小児科学 **1 同教授
*2 名古屋第一赤十字病院病理部部長

要  旨
 小児 MDS はまれな疾患で,個々の施設における経験症例も少数にとどまる.成人例と比較して骨髄が低形成を示す症例が多く,とりわけ再生不良性貧血や先天性骨髄不全症候群との鑑別が困難である.2008 年改訂版 WHO 分類では,小児 MDS について独立した章が設けられ,暫定的な疾患単位として“refractory cytopenia of childhood(RCC)”が提唱された.本疾患の臨床的意義については,今後の前向き検討が必要である.

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病態と診断
MDS の形態診断


松田 晃*

* 埼玉医科大学国際医療センター造血器腫瘍科 教授

要  旨
 MDS の診断の基本は細胞形態学的評価となるが,その評価は検鏡者間で異なることがある.形態学的異形成には,クローン性疾患に特異性の高いものと,非クローン性疾患でも認められるものがある.MDS の診断には,異形成の種類に診断的重みづけをしたうえでの定量的評価が望ましい.WHO 分類第4版の病型診断には,芽球と前骨髄球の鑑別,異形成の定量的評価,環状鉄芽球の評価などが必要となる.

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病態と診断
MDS の分子病態


稲葉 俊哉*
* 広島大学原爆放射線医科学研究所がん分子病態研究分野 教授

要  旨
 今世紀に入り,MDS の分子病態解明には大きな進歩があり,多数のゲノム異常が同定された.その多くは新生 AML と共通の異常であり,MDS の骨髄増殖性疾患としての側面を示すものであると考えられる.今後,骨髄異型性や疫学データなどMDS の疾患特異性を,エピゲノム制御異常との関連のうえで理解していく方向で研究が進展していくことが期待される.

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病態と診断
MDS のゲノム解析

小川 誠司*
* 東京大学医学部附属病院がんゲノミクスプロジェクト 特任准教授

要  旨
 MDS とその関連疾患は,血球産生の異常と白血病への移行を特徴とする難治性造血器疾患である.現時点で根治的な治療手段は同種造血幹細胞移植のみであるが,本症の多くを占める高齢者への適応は難しく,予後は不良である.その本質は,造血前駆細胞に由来する異常クローンの拡大による腫瘍性疾患であって,造血前駆細胞に生ずる一連のゲノム異常が本症の発症と進展にかかわっていると考えられる.MDS においては,これまでにも多数の染色体・遺伝子の異常が報告されているが,本稿では高密度 SNP アレイを用いた MDS のゲノム異常の網羅的な探索,特にゲノムコピー数とアレル不均衡のゲノムワイドな解析と,こうした解析を通じて同定された遺伝子変異について解説する.

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治療
免疫抑制療法による MDS の治療

石川 隆之*

* 京都大学大学院医学研究科血液腫瘍内科 講師

要  旨
 一部の MDS 患者においては,シクロスポリンや抗胸腺細胞グロブリンを用いた免疫抑制療法により造血回復が得られる.特に,FAB 分類で不応性貧血に分類される患者のうち,若年,HLA-DR15 を持つ,PNH 血球陽性といった特徴を併せ持つもので有効率が高いが,効果予測因子の検証は不十分である.免疫抑制療法は造血回復効果の持続性に優れ,低リスク MDS における重要な治療選択肢であり,新規薬剤との使い分けは今後の課題である.


治療
レナリドミドによる MDS の治療

通山 薫*

* 川崎医科大学検査診断学 教授

要  旨
 MDS の治療戦略にかつてない進展が見いだされつつある.その一翼を担うと目されているのは,サリドマイド誘導体のレナリドミドである.染色体異常5q−を有する病型に対しては貧血改善効果に加えて細胞遺伝学的効果も期待できることから,画期的な新薬として注目を集めている.いよいよ本邦でも使用可能となったが,今後有効症例の抽出とともに長期的効果についても注視していく必要がある.

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治療
脱メチル化薬による MDS の治療

小林 幸夫*

* 国立がん研究センター中央病院血液腫瘍科 医長

要  旨
 今まで決定的な薬剤がなかった MDS に対してデシタビン,アザシチジンが有効であることが分かり,欧米ではすでに使用されている.in vivo での低メチル化と抗腫瘍活性との関係は必ずしも明らかではないが,第V相臨床試験の結果はこれら薬剤が MDS に対して有用であることを示している.

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治療
MDS に対する化学療法の過去と未来

伊藤 良和*   大屋敷 一馬**

* 東京医科大学血液内科 准教授 ** 同教授

要  旨
 MDS の治療では,本邦の医療事情からやむをえず化学療法を行っている実態があった.その効果を前提に考えると,IPSS では Int-2 の良好核型が AML に準じた化学療法の適応と考えられる.しかし,脱メチル化薬の登場や造血幹細胞移植の適応年齢の拡大によって化学療法の役割は変わりつつあり,化学療法のみで治癒を目指す症例はごく限られる.また,高齢者では化学療法の成績は不良である.

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治療
MDS に対する移植療法

國本 博義*   岡本 真一郎**

* 慶應義塾大学医学部内科学教室血液内科 ** 同教授

要  旨
 近年 MDS の病態生理が少しずつ明らかになり,新規治療薬の開発により特定の MDS 病型に恩恵がもたらされつつあるが,現時点でもなお造血幹細胞移植は唯一治癒の期待できる治療手段である.一方で移植関連合併症・死亡や QOL の低下などの問題もあり,実際の適応は綿密な予後予測に基づきながらも個々の患者,家族の意思を尊重し,shared decision making(意思決定の共有)のもとに判断されるべきである.

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治療
MDS に対する新薬の開発状況

木崎 昌弘*

* 埼玉医科大学総合医療センター血液内科 教授

要  旨
 MDS は同種造血幹細胞移植が唯一の治癒を期待できる治療法であり,有効な薬剤が存在しないのが現状である.メチル化阻害薬やレナリドミドなどが臨床応用されているが,さらに有用な薬剤の開発が望まれている.海外ではすでに承認された薬剤も含めて MDS に対する多くの新規治療薬の臨床試験が進行している.しかしながら単剤での効果は限定的であり,有害事象も問題となることが多く,薬剤の併用やさらに新たな薬剤の開発が行われている.

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治療
輸血後鉄過剰症の病態と鉄キレート療法

鈴木 隆浩*

* 自治医科大学医学部内科学講座血液学部門 講師

要  旨
 MDS などの難治性貧血では,頻回の赤血球輸血によって鉄過剰症を発症するリスクが高い.鉄過剰症はさまざまな臓器障害を引き起こすことが知られているが,十分な鉄キレート療法が低リスク MDS など一部の骨髄不全症において予後改善効果を持つことが明らかになってきた.本稿では,最近策定された輸血後鉄過剰症診療ガイドを含め,鉄過剰症の病態とその治療意義について概説する.

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対談
血液および血液疾患を語る(第20回)
 がんの幹細胞の探求


ゲスト  赤司 浩一 先生 (九州大学)
聞き手  齋藤 英彦 先生(名古屋セントラル病院)

 対談シリーズ「血液及び血液疾患を語る」は、司会を名古屋セントラル病院・齋藤英彦先生にお願いし、お招きするゲストの先生方にご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、本誌の対象読者である若手研究者へのアドバイスを頂き、日頃の臨床・研究活動に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 第21回はゲストに九州大学教授・赤司 浩一 先生をお迎えして「がんの幹細胞の探求」をタイトルにお話をお伺いしました。
 ワイル氏病スピロヘータの発見者・稲田龍吉先生が初代教授として就任された九州大学医学部第1内科に特別の思いを抱いて入局された赤司先生はFACS(フローサイトメトリー)を使った造血細胞の分化の研究を始められました。
 数年間の臨床経験の後、新たな刺激を求めスタンフォード大学のWeissman教授の研究室に留学した赤司先生は胸腺の分化においてのIL-7の役割について研究を進めていく上で、幹細胞研究の第一人者であるある日本人研究者に大変お世話になったそうで今でも顔が上がらないそうです。
 その後、ハーバード大学に移られたのですがFACSの解析技術の立ち上げにご苦労されたそうです。
 そしていよいよお話はご専門のがん幹細胞に移っていきます。
 がん化した細胞が全て転移巣を形成する能力がある訳ではないことから、末梢血もしくはリンパ流に入った多数の細胞のうち一部だけが、がん幹細胞のポテンシャルを持ち転移巣を作りうるとの考えられます。このがん幹細胞について赤司先生にその概念から最新の研究成果まで詳しくお話頂きました。
 また恒例の若い研究者へのアドバイスとして目標に対して逆算的に人生設計を立てる重要性をお話頂きました。
 是非、ご覧下さい。 


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