最新医学66巻1号 
特集 インクレチン研究と創薬への展開

要  旨


座談会
インクレチン研究と創薬への展開

 東京大学     門脇 孝 
 秋田大学     山田 祐一郎
 関西電力病院  清野 裕 (司会)

 座談会の内容
 ・糖尿病の新しい診断基準
 ・糖尿病治療
 ・インクレチン関連薬 など 

山田先生        清野先生      門脇先生

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本論
インクレチン研究の歴史

表 孝徳*   清野 裕**
* 関西電力病院糖尿病・栄養・内分泌内科   ** 同院長

要  旨
 近年,2型糖尿病のインスリン分泌障害に対する新たな治療戦略として,「インクレチン」と呼ばれる消化管ホルモンが脚光を浴び,最近の知見の蓄積により,インクレチン関連薬として臨床応用が可能になった.我が国でも 2009 年 12 月にインクレチン関連薬である DPP-4 阻害薬が初めて保険収載され,2010 年6月には GLP-1 受容体作動薬が続いた.本稿では,インクレチンの概念と今日までの歴史について述べる.

キーワード
インクレチン,GIP,GLP-1,インスリン,糖尿病

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本論
GIP と GLP-1 の膵島への作用

原田範雄*   稲垣暢也**
* 京都大学大学院医学研究科糖尿病・栄養内科学   ** 同教授

要  旨
 食事摂取により分泌され,インスリン分泌を促進する消化管ホルモンをインクレチンと呼び,GIP と GLP-1 が主要なものである.GIP と GLP-1 は膵β細胞に対して,インスリン分泌に加えて細胞の保護作用を有している.また膵α細胞に対しては,GIP はグルカゴン分泌促進に,GLP-1 は分泌抑制に作用する.

キーワード
インスリン分泌,グルカゴン分泌,細胞保護作用

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本論
インクレチンの膵外作用

山田 祐一郎*
* 秋田大学大学院医学系研究科内分泌・代謝・老年内科学 教授

要  旨
 インスリン分泌促進因子であるインクレチン(GLP-1 と GIP)は,膵β細胞以外の組織にもその受容体が発現している.膵β細胞への作用は共通であるが,膵外での受容体発現様式は2つのホルモンで異なるため,固有の作用を発揮している.インクレチン薬は GLP-1 シグナルの刺激という点では共通であるが,GIP シグナルでは異なり,これが薬効の違いに繋がっている.

キーワード
インクレチン,GLP-1,GIP

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本論
インクレチン分泌のメカニズム


矢部大介*   清野 裕**
* 関西電力病院糖尿病・栄養・内分泌内科 ** 同院長

要  旨
 インクレチンは,食事摂取に応答して消化管内分泌細胞から分泌され,血糖依存的にインスリン分泌を促進するホルモンの総称で,これまでに GIP と GLP-1 が確認されている.インクレチン分泌制御に関する分子機構は依然不明な点が多い.しかし,近年のインクレチン関連薬の普及に伴い,精力的に解明が進められている.本稿ではインクレチン分泌制御機構について,これまでの知見と最近の話題を概説したい.

キーワード
GLP-1,GIP,SGLT-1,遊離脂肪酸,胆汁酸

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本論
糖尿病とインクレチン


竹田佳代*   荒木栄一**
* 熊本大学大学院生命科学研究部代謝内科学 ** 同教授

要  旨
 近年,DPP-4 阻害薬や GLP-1 アナログ製剤などインクレチンをターゲットとした糖尿病治療が注目されている.日本人は欧米人と比較して GLP-1 分泌が少なく,また DPP-4 によるインクレチンの不活化が亢進していることが示唆される.したがって,日本人にとってインクレチンをターゲットとした治療はより大きな効果が期待される.本稿では糖尿病患者におけるインクレチン分泌動態について,新しい知見を含めて概説する.

キーワード
GIP,GLP-1,インクレチン分泌能,インクレチン感受性,インクレチン不活化

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本論
DPP-4 阻害薬

中林容子*   谷澤幸生**
* 山口大学大学院医学系研究科病態制御内科学 ** 同教授

要  旨
 DPP-4 阻害薬は,GLP-1 や GIP の不活化を抑制することによりそれらのインクレチン作用を増強し,インスリン分泌促進,グルカゴン分泌抑制により血糖を降下させる.単独では低血糖を来しにくく,2型糖尿病患者に幅広く適用可能である.期待されるヒトでのβ細胞保護作用や長期の安全性については,さらに慎重に評価していく必要がある.

キーワード
DPP-4阻害薬,インクレチン,GLP-1受容体作動薬

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本論
GLP-1 受容体作動薬



俵本和仁*   加来浩平**
* 川崎医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科 ** 同教授

要  旨
 糖尿病治療薬の中でも最も注目されている GLP-1 受容体作動薬であるが,現在国内にて使用可能なリラグルチド(ビクトーザ)と,海外において使用可能であるエキセナチド(バイエッタ)について,その構造,薬物動態,臨床試験の成績を概説する.リラグルチドは日本国内の臨床試験において,2型糖尿病患者に 0.9mg/日の用量を使用した際,治療開始後 52 週間で約 1.9% の HbA1c 改善を示し,一方,エキセナチドは 2010 年 10 月,日本国内での製造販売が承認され,2011 年中にも一般臨床にて使用可能となるものと予想される.

キーワード
GLP-1受容体作動薬,2型糖尿病,ヒト

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本論
糖尿病治療の新しいパラダイムシフト
―インクレチン治療は糖尿病治療を変革するか―

大杉 満*
* 東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科 特任講師

要  旨
 DPP-4 阻害薬と GLP-1 受容体作動薬のインクレチン関連薬が日本で使用され始めた.これらの薬剤は,従来の薬剤にはなかったβ細胞保護作用やグルカゴン分泌抑制作用など,新しい薬剤効果や糖尿病の病態の本質を改善する可能性を秘めている.さらに心血管系の保護作用も期待されること,また治療に伴う低血糖が少ないことから,糖尿病治療薬として全く新しい位置を占めることが期待される.本稿では総論として,インクレチン関連薬による2型糖尿病の治療戦略を論ずる.

キーワード
GLP-1,β細胞,α細胞,インスリン,グルカゴン

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本論
糖尿病合併症とインクレチン

神谷英紀*1  中村二郎*2
*1 名古屋大学大学院医学系研究科CKD(慢性腎臓病)地域連携システム寄附講座 講師
*2 同糖尿病・内分泌内科学 准教授

要  旨
 近年,インクレチン(GLP-1 および GIP)には,膵β細胞以外の細胞あるいは組織に対する作用,すなわち膵外作用のあることが明らかになってきた.一方で,糖尿病合併症は糖尿病患者の QOL を著しく低下させる要因となっており,その新たな治療薬の開発が切望されている.本稿では,糖尿病治療薬として注目されているインクレチン関連薬が糖尿病合併症に及ぼす効果について概説したい.

キーワード
インクレチン,糖尿病合併症,膵外作用

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トピックス
GLP-1 の膵島再生・膵島イメージングへの応用

豊田健太郎*   稲垣暢也**
* 京都大学大学院医学研究科糖尿病・栄養内科学 ** 同教授

要  旨
 新規の2型糖尿病治療薬の標的である GLP-1 は,血糖依存性にインスリン分泌を促進するだけでなく,膵b細胞を増殖・再生させる可能性があるため注目されている.我々は GLP-1 受容体を標的とすることによって膵島イメージングが可能であることを報告し,実用化に向けて開発中である.非侵襲的に膵β細胞量を定量できれば,膵島量の観点から糖尿病の病態を解明することや治療法を最適化,さらには治療効果の評価が可能となる.

キーワード
GLP-1,増殖,アポトーシス,PET,プローブ

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トピックス
Bariatric Surgery とインクレチン効果

石木 学*
* 富山大学附属病院専門医養成支援センター 副センター長・特命准教授(富山大学第一内科)

要  旨
 病的肥満の治療法で減量目的に施行される bariatric surgery による耐糖能異常の改善には,減量による二次的効果のほかに,消化管ホルモンであるインクレチン作用の変化が深く関与していることが明らかとなり,肥満や糖尿病に対する治療に大きなインパクトを与えることが予想される.

キーワード
Bariatric surgery,インクレチン,肥満,2型糖尿病

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トピックス
メトホルミン,α-グルコシダーゼ阻害薬とインクレチン

勝田秀紀*1*2 石田 均**1
*1 杏林大学医学部第三内科 **1 同教授
*2 同附属病院糖尿病・内分泌・代謝内科

要  旨
 肝臓からの糖放出抑制作用を有するビグアナイド薬と,消化管よりのブドウ糖吸収を遅延させるα−グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)は,ともに膵β細胞におけるインスリン分泌機構へは直接影響せず,抗糖尿病効果を発揮する.また,両薬剤は共通して内因性インクレチンホルモンの血中動態に影響を及ぼすことが示されており,メトホルミンは GLP-1 の分解を抑制し,一方でα-GI には GIP 分泌抑制と GLP-1 分泌促進の2つの作用の存在が示唆されている.これらの薬剤の効果は,インクレチンホルモンのエンハンサーあるいはサプレッサーとして末梢ならびに中枢にて機能的に発揮されることから,インクレチン関連薬との併用療法により,糖尿病治療の効率を引き上げる可能性が期待されている.

キーワード
メトホルミン,α-グルコシダーゼ阻害薬,インクレチン,GIP,GLP-1

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トピックス
スルホニル尿素薬とインクレチン

柴崎忠雄*1  清野 進**1*2
*1 神戸大学大学院医学研究科細胞分子医学 講師 **1 同教授
*2 同糖尿病・内分泌内科学 教授

要  旨
 近年,糖尿病の新たな治療薬としてインクレチン関連薬が注目されている.インクレチンは膵β細胞の cAMP 産生を増加させることによって,プロテインキナーゼA(PKA)依存性経路および PKA 非依存性経路を介してインスリン分泌を増強する.最近筆者らは,PKA 非依存性経路を担う Epac2A が,インスリン分泌促進薬として広く使用されているスルホニル尿素(SU)薬によって活性化されることを新たに見いだし,また,Epac2A を欠損させたマウスでは SU 薬によるインスリン分泌作用や血糖降下作用が減弱することを明らかにした.これらの結果は,Epac2A が SU 薬とインクレチンの共通の作用標的であることを示している.臨床的に,多くの2型糖尿病患者に対して SU 薬とインクレチン関連薬の併用が血糖改善に効果があり,またある種の症例では重篤な低血糖を招来することも報告されていることから,Epac2A を介したインスリン分泌機構の解明は重要な課題であると考えられる.

キーワード
スルホニル尿素薬,インクレチン,Epac2,インスリン分泌,糖尿病

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新連載
トップランナーに聞く(第1回)
 難治性がんの撲滅を目指して

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
 第1回は血管再生能をもつ細胞の移植により、がん細胞周辺の腫瘍血管を修復する治療技術を開発された旭川医科大学の水上裕輔先生にお話を伺いました。

 水上 裕輔 先生

 消化器内科、特に胆膵疾患の内視鏡診断・治療、がん薬物治療を中心とした診療に従事しています。研究分野では血管新生、がん微小環境に興味を持っており、膵臓がん自然発症マウスモデルを用いて、膵臓局所で起こる初期イベントから転移病変の形成に至る過程での骨髄細胞の役割に注目しています。これらの基礎的研究を新しい診断・治療法の開発を通じて患者さんに還元することを心掛けています。


対談
血液および血液疾患を語る(第22回)
 造血幹細胞の体外増幅-iPS細胞の応用を含めて-


 対談シリーズ「血液及び血液疾患を語る」は、司会を名古屋セントラル病院・齋藤英彦先生にお願いし、お招きするゲストの先生方にご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、本誌の対象読者である若手研究者へのアドバイスを頂き、日頃の臨床・研究活動に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 第22回のゲストは京都大学教授・中畑 龍俊 先生です。

ゲスト  中畑 龍俊 先生 (京都大学)
聞き手  齋藤 英彦 先生 (名古屋セントラル病院)

 中畑先生には小児科に進まれた理由から始まり最初の研究テーマ、留学時代のお話、臍帯血中の造血幹細胞を発見されたきっかけや今回のテーマである「幹細胞の体外増幅」のお話などを伺いました。
 更に話題のiPS細胞を用いた最新の研究成果についても詳しくお話し頂きました。


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トピックス
α-グルコシダーゼ阻害薬ボグリボースによる耐糖能異常からの2型糖尿病の発症予防,ならびに正常型への復帰

河盛隆造*
* 順天堂大学大学院(文科省事業)スポートロジーセンターセンター長

要  旨
 経口糖負荷試験(OGTT)成績が耐糖能異常(IGT)である日本人を対象に,α−グルコシダーゼ阻害薬ボグリボースによる2型糖尿病の発症抑制について,無作為化比較試験を実行した.中間解析にて有意差が認められたことから,早期中止を決定した.平均投与期間1年.試験終了時点での糖尿病累積症例数は,ボグリボース群 897 例中 50 例に対してプラセボ群 881 例中 106 例であった.ハザード比(HR)は 0.595 で,2型糖尿病発症リスクが 41% 抑制された.正常型への累積移行例数は,ボグリボース群 599 例,プラセボ群 454 例であり,HR 1.539 であった.

キーワード
2型糖尿病,経口糖負荷試験,耐糖能異常,α-グルコシダーゼ阻害薬,インスリン

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