最新医学66巻2号 
特集 自己免疫疾患 -分子を標的としたトランスレーショナルリサーチ-

要  旨


座談会
次世代の自己免疫治療

 筑波大学    住田 孝之
 慶應義塾大学 竹内 勤 

 東京大学    山本 一彦 (司会)

 座談会の内容
 ・自己免疫治療の現状
 ・現在の治療の問題点
 ・将来的な研究の方向性 など 

竹内先生        山本先生        住田先生

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サイトカインを標的とした治療
TNF

湯川尚一郎*   三森経世**
* 京都大学大学院医学研究科内科学講座臨床免疫学 ** 同教授

要  旨
 関節リウマチにおける炎症性サイトカイン,中でも TNF を標的とした生物学的製剤の開発と臨床応用は,トランスレーショナルリサーチが最も成功した代表例である.現在我が国では TNF 阻害薬としてインフリキシマブ(IFX),エタネルセプト,アダリムマブの3剤が使用され,市販後全例調査によるエビデンスが構築された.今後は有効性予測や,現在のところ IFX でのみエビデンスが示されている寛解後の薬剤中止に関する検討は,重要な課題である.

キーワード
関節リウマチ,生物学的製剤,インフリキシマブ,エタネルセプト,アダリムマブ

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サイトカインを標的とした治療
IL-6

平林泰彦*
* 財団法人光ヶ丘スペルマン病院リウマチ膠原病内科

要  旨
 ヒト化抗 IL-6 受容体抗体であるトシリズマブは,IL-6 と IL-6 受容体との結合を阻害して IL-6 シグナルを遮断する.全身のスクリーニングと感染予防によって IL-6 産生を促すような合併症をなくすように努めると,トシリズマブは関節リウマチ(RA)に高率かつ速やかに奏効し,早期に寛解導入することができた.また,二次無効も認めていない.RA における「持続的」炎症には IL-6 シグナルが必要と考えられた.

キーワード
関節リウマチ,トシリズマブ,IL-6受容体,IL-6,DAS28ESR

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サイトカインを標的とした治療
自己炎症疾患における IL-1 阻害療法

武井修治*
* 鹿児島大学医学部保健学科 教授

要  旨
 近年,周期性発熱を特徴とする炎症性疾患において,インフラマソームと呼ばれるタンパク質群の変異を原因とする自己炎症疾患の概念が確立され,IL-1 阻害療法のターゲットは関節リウマチから自己炎症疾患へと変わりつつある.また,これまでリウマチ性疾患に分類されてきた疾患の一部は自己炎症疾患へ組み入れられようとしており,IL-1 を標的とした治療には新たな展開が期待されている.

キーワード
自己炎症疾患,IL-1,クリオピリン関連周期熱症候群(CAPS),家族性地中海熱(FMF),
TNF受容体関連周期熱症候群(TRAPS)

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サイトカインを標的とした治療
IL-17 を標的とした関節リウマチの治療


八子 徹*   南家由紀**  川本 学* 小竹 茂***
* 東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター内科 ** 同講師 *** 同准教授

要  旨
 IL-17 は活性化T細胞より産生され,関節リウマチ(RA)の滑膜細胞や単球に働いて各種炎症性メディエーター発現を促進する.さらに,直接的・間接的にヒト破骨細胞形成を促進し,骨破壊にも密接に関与している.IL-17 産生ヘルパーT細胞は Th17 細胞として,RA における重要性がマウス関節炎モデル,早期 RA 患者で証明されている.現在抗 IL-17 抗体が臨床試験進行中であり,今後の進展が期待されている.

キーワード
IL-17,Th17細胞,ヒト破骨細胞,抗IL-17抗体,Human Osteoclastology

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サイトカインを標的とした治療
IL-12/23


五十嵐敦之*
* NTT 東日本関東病院皮膚科 部長

要  旨
 IL-12 と IL-23 は,p40 サブユニットを共通に持つがその作用は異なっており,前者は Th0 細胞を Th1 細胞へ分化させ,後者は Th17 細胞の増殖維持を担っている.IL-23 から IL-17 へ至る免疫応答が,乾癬,関節リウマチ,多発性硬化症,クローン病などさまざまな炎症性疾患の病態形成に重要で,Th17 関連疾患として注目される中,p40 に対するモノクローナル抗体であるウステキヌマブが初めて実用化され,乾癬に用いられるようになった.

キーワード
IL-12,IL-23,ウステキヌマブ,乾癬,クローン病

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細胞表面分子を標的とした治療
CD20 と CD22

田中良哉*
* 産業医科大学医学部第一内科学 教授

要  旨
 関節リウマチ(RA)や全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患の治療は,ステロイドや免疫抑制薬のような副作用の多い非特異的な治療が中心であった.しかし,病態形成に重要な役割を担う分子を標的とした生物学的製剤の台頭に伴い,治療が一変した.抗 CD20 抗体を用いたB細胞除去療法は,幾つかの自己免疫疾患に対して高い臨床効果を示したが,海外での SLE に対するリツキシマブの治験の失敗,重篤な日和見感染症の併発などの課題も析出した.かような現状に対して,抗CD22 抗体を用いたB細胞標的治療が注目されている.

キーワード
自己免疫疾患,全身性エリテマトーデス,関節リウマチ,B細胞,生物学的製剤

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細胞表面分子を標的とした治療
CD28


上阪 等*
* 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科膠原病・リウマチ内科 准教授

要  旨
 TNFαや IL-6 などのサイトカインを標的とした生物学的製剤が,自己免疫疾患治療に用いられるようになった.一方,細胞表面分子を標的とする生物学的製剤の市場投入は遅れたが,我が国でもT細胞補助刺激分子 CD28 を標的とした抗リウマチ性生物学的製剤 CTLA4-Ig が市販された.この薬剤は関節リウマチでの有効性が示され,薬効発現や副作用の面で既存薬と異なったプロファイルで注目される.

キーワード
T細胞,補助刺激因子,CD28,CTLA4,アバタセプト,ベラタセプト

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細胞表面分子を標的とした治療
BAFF/APRIL



小端哲二*
* 獨協医科大学免疫学講座 教授

要  旨
 1999 年に同定された TNF ファミリー分子 BAFF は,末梢B細胞の恒常性維持に重要な役割を果たしている.その過剰産生は自己寛容の破綻を誘導し,自己免疫疾患の病態形成に深く関与していることが明らかとなった.BAFF を分子標的とする生物学的製剤が開発され,全身性エリテマトーデスを対象に臨床試験が終了し,現在承認申請中である.

キーワード
B細胞,自己寛容,記憶細胞,生物学的製剤

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細胞表面分子を標的とした治療
LFA-1/ICAM-1

門野岳史*   佐藤伸一**
* 東京大学大学院医学系研究科皮膚科学 講師 ** 同教授

要  旨
 LFA-1/ICAM-1 を標的とした抗体療法としてエファリズマブ(efalizumab)が知られている.エファリズマブは LFA-1 に結合することにより,炎症細胞の浸潤およびT細胞の活性化を抑制する.炎症性皮膚疾患である乾癬に臨床応用されたものの,進行性多巣性白質脳症の発症が報告されたため,使用中止となった.現在はこれらの分子を標的とした新たなモノクローナル抗体や低分子化合物の開発が進められている.

キーワード
LFA-1,ICAM-1,エファリズマブ,乾癬

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細胞表面分子を標的とした治療
スフィンゴシン1-リン酸受容体

千葉健治*
* 田辺三菱製薬株式会社研究本部薬理第一研究所 所長

要  旨
 フィンゴリモド塩酸塩(FTY720)は,スフィンゴシンと類似の構造を有する世界初のスフィンゴシン1−リン酸(S1P)受容体調節薬であり,最近,米国およびロシアにおいて多発性硬化症(MS)の治療薬として承認された.FTY720 は生体内でリン酸化され,S1P 受容体に作用してリンパ球の体内循環を制御し,自己反応性T細胞の中枢神経組織への浸潤を阻止することで薬効を発揮する.本稿では,FTY720 による S1P 受容体を標的とした MS 治療について概説する.

キーワード
スフィンゴシン1−リン酸(S1P),S1P1受容体,FTY720,リンパ球循環,多発性硬化症

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細胞内シグナル分子を標的とした治療
JAK

山岡邦宏*   田中良哉**
* 産業医科大学医学部第一内科学 講師 ** 同教授

要  旨
 関節リウマチ(RA)の治療は,TNF 阻害薬などの生物学的製剤の登場により治療目標は低疾患活動性〜寛解となり,最近ではより早期に RA を診断・治療することで治癒の可能性を示唆する知見も見られる.つまり,生物学的製剤は RA 治療にパラダイムシフトをもたらし,もたらし続けていると言えるだろう.しかし実際の診療においては,投与経路の煩雑さや経済的問題で,生物学的製剤の導入や継続に困難を来すことが少なくない.これらの問題点を解決可能な新規抗リウマチ薬として,最近,低分子化合物が注目されている.生物学的製剤が細胞外のサイトカインや細胞表面分子を標的とするのに対し,低分子化合物は細胞外からの刺激によって細胞内で活性化される酵素を標的とする.通常,半減期が数時間と短く,最近行われている RA を対象とした治療試験では生物学的製剤と同等の治療効果を示しており,新たなパラダイムシフト・治療革命の到来を予感させている.

キーワード
JAK,低分子化合物,関節リウマチ

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細胞内シグナル分子を標的とした治療
転写制御因子IκBζを標的とした Th17細胞制御

岡本一男*1*2 高柳 広**1**2
*1 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子情報伝達学 助教    **1 同教授
*2 科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(ERATO 型研究)高柳オステオネットワーク
                         プロジェクト グループリーダー   **2 同研究総括

要  旨
 近年,IL-17 を産生する新たなヘルパーT細胞サブセット「Th17 細胞」が同定され,関節リウマチや多発性硬化症などの自己免疫疾患の病態形成に深くかかわることが明らかとなった.そのため,創薬展開に向けた Th17 細胞分化機序の解明が重要課題とされている.最近我々は,転写制御因子 IκBζが Th17 細胞分化に必須であり,ROR 核内受容体との協調作用により IL-17 産生を誘導するという新規メカニズムを見いだした.したがって,IκBζは自己免疫疾患に対する有望な創薬ターゲットとして期待される.

キーワード
IκBζ,Th17細胞,ROR核内受容体,IL-17,多発性硬化症

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細胞内シグナル分子を標的とした治療
免疫系における PI3K/Akt/mTORC1経路と今後の展望

紅林 泰*   永井重徳*   小安重夫**
* 慶應義塾大学医学部微生物学・免疫学教室 ** 同教授

要  旨
 近年,免疫系における PI3K/Akt/mTORC1 経路の働きについて,興味深い知見が次々に得られている.例えばB細胞や樹状細胞のみならず,最近ではT細胞における働きについても明らかになりつつある.本稿ではこれらの新しい知見を簡潔にまとめ,PI3K/Akt/mTORC1 経路が自己免疫疾患の新しい治療標的となる可能性を示す.

キーワード
PI3K,mTOR,免疫

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細胞内シグナル分子を標的とした治療
NF-κB

沢田哲治*
* 東京医科大学病院リウマチ膠原病内科 准教授

要  旨
 NF-κB は炎症機転で重要な役割を果たす転写因子である.炎症性サイトカインによる NF-κB の活性化(古典的経路)には IKKβが関与し,抑制因子である IκB は IKKβによりリン酸化され,プロテアソームで分解される.NF-κB 活性の制御には IKKβ阻害薬やデコイ型核酸医薬が有望である.IKKβ阻害薬として開発された新規化合物も少なくないが,まだ臨床応用された薬剤はなく,有効性や安全性に関する今後の研究の進展が待たれる.

キーワード
転写因子、NF-κB,IKK阻害薬,デコイ型核酸医薬

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新連載
トップランナーに聞く(第2回)
人獣共通感染症の克服を目指して

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
 第2回はエボラ出血熱や鳥インフルエンザに関するフィールドを通じて人獣共通感染症に関する最先端の研究をされている北海道大学の高田礼人先生にお話を伺いました。

 高田 礼人 先生

 インフルエンザウイルスおよびエボラウイルスなどに対する抗体の研究と、それらのウイルスの病原性と宿主域に関する研究をしています。
抗体の研究では、ウイルスに対する抗体の中和活性や感染性増強活性のメカニズムの解析と病態や感染防御とのかかわりについて注目しています。病原性と宿主域に関する研究では、動物が保有しているウイルスを調査しながら、自然宿主動物の同定とヒトへの伝播経路の解明を目指しています。


対談
血液および血液疾患を語る(第23回)
  GPIアンカーと疾患 -発作性夜間血色素尿症を中心に-

 対談シリーズ「血液及び血液疾患を語る」は、司会を名古屋セントラル病院・齋藤英彦先生にお願いし、お招きするゲストの先生方にご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、本誌の対象読者である若手研究者へのアドバイスを頂き、日頃の臨床・研究活動に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 第23回はゲストに大阪大学教授・木下 タロウ 先生をお迎えして「GPIアンカーと疾患-発作性夜間血色素尿症を中心に-」をタイトルにお話をお伺いしました。


ゲスト 木下 タロウ 先生  (大阪大学)
聞き手 齋藤 英彦  先生  (名古屋セントラル病院)
 木下先生には昆虫内のバクテリアの研究から補体研究へとすすまれた理由に始まり補体に対する自己細胞の防御機構についてお話をお聞きしました。
 そして補体制御が破たんする発作性夜間血色素尿症(PNH)の発症メカニズム、溶血に至る経緯についてご解説頂きました。
 更にGPI(glycosylphosphatidylinositol)にまつわる大変興味深い研究成果についても詳しいお話しを聞く事が出来ました。
 


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トピックス
生体分子イメージングで見る肥満脂肪組織リモデリング,慢性炎症・免疫異常のかかわり

西村 智*1*2*3 長崎実佳*1*4
*1 東京大学医学系研究科循環器内科
*2 東京大学システム疾患生命科学による先端医療技術開発拠点 特任助教
*3 科学技術振興機構さきがけ「光の利用と物質材料・生命機能」研究員
*4 東京大学コンピュータ画像診断学/予防医学講座


要  旨
 最近の研究により,各種生活習慣病の背景には慢性炎症を基盤とした異常な細胞間作用が生体内で生じていることが明らかになってきた.我々は,一光子・二光子レーザー顕微鏡を用いた「生体分子イメージング手法」を開発した.本手法を肥満脂肪組織に適応したところ,肥満脂肪組織では脂肪細胞分化・血管新生が空間的に共存して生じ,微小循環では炎症性の細胞動態が生じていた.肥満脂肪組織には CD8+T細胞が存在し,肥満・糖尿病病態に寄与していた.

キーワード
脂肪組織,肥満,炎症,生体分子イメージング,血栓

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