最新医学66巻3号 
特集 がん幹細胞と支持細胞を標的とする薬剤の開発


要  旨


座談会
がん幹細胞とそれを標的とする薬剤の開発

 国立がん研究センター 土井 俊彦
 
慶應義塾大学       佐谷 秀行 
 癌研有明病院      畠  清彦 (司会)

 座談会の内容
 ・がん幹細胞の概念
 ・新しい薬剤の開発
 ・今後の研究の方向 など 

土井先生         畠先生        佐谷先生

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本論
がん幹細胞に対する破骨細胞標的薬剤の役割 
―ビスホスホネート製剤,RANKL 阻害薬―

久保田 寧*   木村晋也**
* 佐賀大学医学部内科学講座血液・呼吸器・腫瘍内科 ** 同教授

要  旨
 がんの増殖・浸潤・転移には,がん細胞と周囲環境の相互関係が深くかかわっている.最近,骨芽細胞や破骨細胞とがん細胞,特にがん幹細胞との関与が明らかになりつつある.破骨細胞阻害を目的に開発されたビスホスホネート製剤や抗 RANKL 抗体などに抗腫瘍作用があることが,前臨床試験のみならず臨床試験でも明らかになってきた.今後,破骨細胞を標的とした薬剤による,がんや白血病に対する新たな治療戦略の確立が期待される.
キーワード
破骨細胞、がん幹細胞、ニッチ、ビスホスホネート製剤、抗RANKL抗体

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本論
がん幹細胞研究の動向と治療標的としての将来性

清水孝恒*   吉田 剛*   佐谷秀行**
* 慶應義塾大学医学部先端医科学研究所遺伝子制御研究部門 ** 同教授

要  旨
 正常組織幹細胞が自己複製能・多分化能によって当該組織を再構築する能力を有することと同様に,がん幹細胞は腫瘍組織を構成するすべての腫瘍細胞の源となるために必要な生物学的性質を有しており,腫瘍組織の維持という役割のみならず,治療後のがんの再発や転移に深く関与していることが明らかになってきた.つまり,がん幹細胞という新規概念に基づいた治療戦略を組み立てることにより,「再発・転移を標的とした抗腫瘍治療」が期待できる.本稿では,急速な進歩を遂げているがん幹細胞の研究の動向と,がん幹細胞を標的とする新しい治療戦略について概説する.
キーワード
関がん幹細胞、階層性モデル、可塑性、ニッチ、がん幹細胞特異的治療

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本論
乳がんのがん幹細胞様集団を標的とする薬剤の開発

川口展子*   上野貴之*   戸井雅和**
* 京都大学大学院医学研究科外科学講座乳腺外科学分野 ** 同教授

要  旨
 乳がんにもがん幹細胞が存在すると言われて久しい.がん幹細胞は治療抵抗性に関与していると考えられ,がん幹細胞に対する治療法が開発されれば大きなブレークスルーになると期待されている.乳がんではサブタイプ別のがん幹細胞の起源の研究が注目され,また Wnt 経路の阻害薬など乳がん幹細胞の制御に有望と考えられる薬剤が次々に報告されているが,現状では乳がんではいまだ厳密な意味でのがん幹細胞の定義が定まっていないことを認識しておく必要がある.
キーワード
乳がん幹細胞、治療抵抗性、サブタイプ分類、ニッチ、薬剤開発

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本論
白血病細胞の MDR1/ABCトランスポーターを標的とする薬剤耐性克服薬


泉二登志子*
* 東京女子医科大学血液内科 主任教授

要  旨
 ABC トランスポーターには,MDR1 とその産物であるP糖タンパク,BCRP,MRP1 などがある.いずれも抗がん剤を細胞外に排泄する作用があり,その結果細胞内の抗がん剤濃度が低下し,抗がん効果が減弱する.急性白血病細胞にP糖タンパクが発現している症例は治療成績が悪く,白血病性幹細胞にもこれらの ABC トランスポーターが存在する.耐性克服薬の有効性は報告によって一定しておらず,基礎的な耐性克服効果の検討が必要である.
キーワード
MDR1/ABCトランスポーター、白血病細胞、耐性克服薬、白血病性幹細胞

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本論
白血病幹細胞を標的とする薬剤開発
―チロシンキナーゼ阻害薬を中心に―

薄井紀子*
* 東京慈恵会医科大学内科学(腫瘍・血液) 准教授

要  旨
 慢性骨髄性白血病(CML)は,BCR-ABL 遺伝子が原因で発症する造血幹細胞を起源とする腫瘍性疾患である.CML 細胞が有する BCR-ABL チロシンキナーゼの選択的阻害薬(TKI)イマチニブは,第1選択治療として優れた治療効果をもたらしたが,治療抵抗性や CML 幹細胞の残存という課題も明らかにした.第2世代 TKI および高い耐性を有する T315I 変異体に有効な新規 TKI の開発について検討し,CML 治療の将来像を探る.
キーワード
慢性骨髄性白血病(CML)、BCR-ABLチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)、T351I変異、
CML幹細胞、TKI併用療法病

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本論
Hedgehog 阻害薬
―Smo 受容体アンタゴニスト GDC-0449―

土井俊彦*
* 国立がん研究センター東病院消化管腫瘍科消化管内科 副科長

要  旨
 Hedgehog 経路は発生の段階での重要な働きのみでなく,がん化にも関係している.基底細胞がんや髄芽腫では Hedgehog 経路の異常は腫瘍成立の critical pathway である.近年,幾つかの Hedgehog 阻害薬の開発が進んでおり,そのうちの1つ Smo 選択的阻害薬である GDC-0449 は,第T相臨床試験で基底細胞がんに対して 55% の奏効率を示した.そのほか,髄芽腫,大腸がん,卵巣がん,膵がん,小細胞肺がんなどを対象として臨床試験が進行中であり,期待が持たれている.
キーワード
Hedgehog阻害薬、Smo阻害薬、幹細胞

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本論
Notch シグナルとその阻害薬の開発


千葉 滋*
* 筑波大学人間総合科学研究科血液病態制御分野 教授

要  旨
 Notch シグナルは,主要な細胞運命制御システムの1つである.T細胞性急性リンパ性白血病(T-ALL)では約半数で Notch1 遺伝子変異が同定され,T-ALL の少なくとも一部は Notch シグナル依存性に増殖する.一方,乳がんや脳腫瘍などでは,がん幹細胞の維持に Notch シグナルが必須である.このため T-ALL に加え,固形がんのがん幹細胞を治療標的とした Notch 阻害薬開発が進められている.

キーワード
Notch、白血病、遺伝子変異、がん幹細胞、血管

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本論
骨髄腫幹細胞を標的とする薬剤



古川雄祐**  菊池次郎*
* 自治医科大学分子病態治療研究センター幹細胞制御研究部 講師 ** 同教授

要  旨
 一見均一に見える骨髄腫細胞集団であるが,クローン性の増殖を示す細胞はごく少数である.骨髄腫幹細胞のマーカーはCD138−/CD19+/CD27+/CD38− で,メモリーB細胞の段階で染色体転座や NF-κB 活性化により骨髄腫幹細胞が生じ,骨髄微小環境において骨髄腫として発症すると考えられる.VLA-4 を介する骨髄間質細胞との接着が,骨髄腫幹細胞の細胞周期停止,薬剤抵抗性に重要である.従来の抗がん剤のみで骨髄腫幹細胞を駆逐することは難しいが,プロテアソーム阻害薬,IMiDs,HDAC 阻害薬,抗 VLA-4 抗体などとの併用は有効と考えられる.
キーワード
B骨髄間質細胞、NF-κB、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)、
immunomodulatory drugs(iMiDs)、プロテアソーム阻害薬


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本論
リンパ腫に対する分子標的薬

小椋美知則*
* 名古屋第二赤十字病院血液・腫瘍内科 部長

要  旨
 分子標的薬は大きく分けると抗体薬と低分子化合物の2種類からなり,キメラ型抗 CD20 モノクローナル抗体(リツキシマブ)はB細胞リンパ腫治療に画期的な進歩をもたらした分子標的薬であり,その後,放射免疫療法薬であるイブリツモマブチウキセタンが導入されたが,いまだ多くの難治性リンパ腫が存在し,数多くの新規抗体薬および低分子化合物の臨床開発が進められている.本稿では本邦で開発中の抗リンパ腫新規分子標的薬について紹介する.
キーワード
悪性リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、分子標的薬、抗体薬、低分子化合物

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本論
グリオーマ幹細胞と TGFβ阻害薬剤の開発

生島弘彬*   宮園浩平**
* 東京大学大学院医学系研究科病因・病理学専攻分子病理学講座 ** 同教授

要  旨
 TGFβは一般的には腫瘍抑制因子として知られており,上皮由来の腫瘍細胞をはじめとして多くの細胞に対して増殖抑制作用を示す.しかしながら,グリオーマ細胞などにおいては逆に腫瘍促進因子として作用する.その作用機序として,TGFβシグナルによる細胞増殖の促進作用に加え,近年ではグリオーマのがん幹細胞(グリオーマ幹細胞)の維持にも TGFβシグナルが寄与していることが明らかとなった.本稿では,グリオーマ幹細胞に対する TGFβシグナルの作用とそのメカニズムや,それらの作用を標的としたグリオーマの新規治療戦略の開発の現状について紹介する.

キーワード
脳腫瘍、がん幹細胞、腫瘍原性能、分化誘導療法、TGFβ

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トピックス
循環血中がん細胞(CTC)

西田尚弘*1*2 三森功士*1  森 正樹**2
*1 九州大学生体防御医学研究所分子腫瘍学
*2 大阪大学大学院医学系研究科消化器外科学 **2 同教授

要  旨
 CTC は,原発巣や転移巣から遊離し,血中に浮遊する遊離がん細胞のことを指す.サンプル採取の簡便性から,予後マーカーや治療効果判定の手段として,すでに一部で臨床応用が始まっている.本稿では,この新しい診断ツールを臨床の適切な場面で用いるために,CTC の分子生物学的な位置づけと臨床的意義に関して,これまで分かっていることと今後の展望を概説する.
キーワード
循環血中がん細胞(CTC)、予後マーカー、免疫磁気分離法、上皮間葉移行

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トピックス
末梢循環血管内皮細胞(CEC)と末梢循環血管内皮前駆細胞(CEP)

松阪 諭*
* 癌研有明病院化学療法科


要  旨
 化学療法薬,特に血管新生抑制薬の治療効果を予測するバイオマーカーとして,血管内皮細胞および血管内皮前駆細胞の有用性が報告されている.測定法は,免疫磁気ビーズ法とフローサイトメトリー法の2つに大別される.これまでの報告では,治療奏効群での CEC 値は乳がんでは高値で,大腸がんでは低値を示した.CEC,CEP の検出マーカーの統一化および測定法の標準化が不可欠であり,各がん種別に大規模臨床試験による研究の集積が必要である.
キーワード
末梢循環血管内皮細胞(CEC)、末梢循環内皮前駆細胞(CEP)、
血管新生抑制薬、ベバシズマブ

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トピックス
がん幹細胞のマーカーと Cancer Spheroid Complex

三嶋雄二*
* 財団法人癌研究会癌化学療法センター臨床部

要  旨
 1997 年に白血病幹細胞の存在が証明されて以来,さまざまな悪性腫瘍でがん幹細胞を同定する研究が進められ,現在までに多くのがんでがん幹細胞の存在が報告されてきた.これらの報告は,がんが少数の細胞により発生し維持されることを明らかにし,がん治療の標的としての重要性を示唆する.本稿では,がん幹細胞を識別する方法に焦点を当てて解説を行う.併せて,がん幹細胞に対する創薬への利用が期待される三次元 spheroid 培養について考察する.
キーワード
がん幹細胞、表面抗原マーカー、spheroid

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新連載
トップランナーに聞く(第3回)
Rho/Rhoキナーゼ研究による血管収縮機構の解明を目指して

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
 第3回は高血圧や動脈硬化にRho/Rhoキナーゼが関与するいることを見いだされ、その治療薬の開発や予防に関して数々の業績を上げてこられた名古屋大学の天野睦紀先生にお話を伺いました。

 天野 睦紀 先生

 細胞は自律的に、あるいは外界からのシグナルを受けてダイナミックにその形態を変化させます。低分子GTPaseやそのエフェクター分子は主に細胞骨格や細胞接着を調節することで様々な細胞機能を制御し、またその異常な活性化が動脈硬化などの疾患にかかわっていることが示されています。その中でも私はRho/Rhoキナーゼを中心に、これらの分子が細胞内シグナルネットワークにおいてどのような役割を果たしているかを明らかにするために解析を行っています。


対談
血液および血液疾患を語る(最終回)
  エイズの制圧を目指して

 対談シリーズ「血液及び血液疾患を語る」は、司会を名古屋セントラル病院・齋藤英彦先生にお願いし、お招きするゲストの先生方にご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、本誌の対象読者である若手研究者へのアドバイスを頂き、日頃の臨床・研究活動に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 最終回である第24回はゲストに熊本大学教授・満屋 裕明 先生をお迎えして「エイズの制圧を目指して」をタイトルにお話をお伺いしました。


ゲスト 満屋 裕明 先生  (熊本大学)
聞き手 齋藤 英彦  先生  (名古屋セントラル病院)
 HIV治療薬であるAZTやddI、ダナビルなどの開発で主導的な役割を果たされた満屋先生ですが、NIHに留学3カ月目には「これで研究者としてもキャリアも終わりだ」と思うほどの状況になった事もあったそうです。
 その後、苦労されながら抗HIV薬のスクリーニングの有効なアッセイ系も確立されましたが、それには日本で培った技術が大変役に立ったそうです。
 当時、未知の病として誰もが敬遠していたため夜中にひっそりとされていた抗HIV薬開発時の大変貴重なお話も伺いました。

ご好評頂きました「血液および血液疾患を語る」は今回が最終回です。
来月からは先端医療推進財団・顧問 井村 裕夫 先生企画による「臨床研究のススメ」が始まります。
欧米と比べるとまだまだ遅れ気味であるわが国の「臨床研究」の現状・未来を国内の泰斗の先生方に詳しくご解説して頂きます。是非ご期待下さい。


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トピックス
ARDS 発症機序解明の新たな展開
―新興ウイルス感染症における ARDS を中心に―

今井由美子*
* 秋田大学大学院医学系研究科情報制御学・実験治療学講座 教授


要  旨
 ARDS は,肺組織の過剰炎症を特徴とし,人工呼吸を必要とするような重篤な呼吸不全を惹起する.近年,SARS,H5N1 鳥インフルエンザ,2009 年の新型インフルエンザをはじめとした新興ウイルス感染症による ARDS が問題となっている.本稿では,これらのウイルス感染症による ARDS の発症機構に焦点を当て,RNAi スクリーニング,マウス遺伝学などの近年技術進歩の目覚ましい手法を活用した研究について,私たちの研究成果を中心に最新の知見を紹介したい.
キーワード
ARDS、インフルエンザウイルス

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トピックス
結核研究の新たな展開
―潜在性結核と結核菌:休眠現象の分子メカニズム―

仁木満美子*1  仁木 誠*1  尾関百合子*1*2 岡 真優子*1  松本壮吉**1
*1 大阪市立大学大学院医学研究科細菌学分野 **1 同准教授
*2 園田学園女子大学人間健康学部食物栄養学科 教授


要  旨
 結核は,年間 180 万人の命を奪う最大級の細菌感染症である.結核菌はヒトの寄生菌であり,中間宿主は存在しないことから,活動性結核に加え,病原体の源泉である潜在性結核の対処が疾患のコントロールに重要である.潜在期において結核菌は休眠しており,現行の薬剤に抵抗性である.休眠は,結核菌の長期間生存を保証する高次生命現象である.休眠のメカニズムを明らかにすることが,結核の抜本的対策に寄与すると考えられる.
キーワード
結核、休眠、潜在性結核、内因性再燃、LTBI

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