最新医学66巻5号 
特集 中枢神経系感染症のUp-To-Date


要  旨


座談会
抗NMDA受容体脳炎における未解決の問題

 信州大学         池田 修一
 
静岡てんかん・神経医療センター
                高橋 幸利
 
北里大学          飯塚 高浩 
 日本大学         亀井 聡 (司会)

 座談会の内容
 ・受容体の発現分布
 ・生殖と免疫系との関連
 ・治療法のストラテジー  など 

 高橋先生    亀井先生  池田先生  飯塚先生

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病態
単純ヘルペス脳炎における HSV 再活性化の機序

皆川洋子*
* * 愛知県衛生研究所 所長

要  旨
 初感染後神経細胞に潜伏感染を樹立した単純ヘルペスウイルスは,再活性化の結果単純ヘルペス脳炎を発症することがある.神経細胞におけるウイルス再活性化に対し,CD8+T細胞など宿主免疫系による細胞傷害を伴わない制御メカニズムの存在が想定される.脳炎の増悪要因としても注目される炎症反応とは一線を画する免疫による制御反応の解明が実現すれば,発症予防や治療成績の向上に結びつくことが期待される.

キーワード
脳炎、潜伏感染、再活性化、単純ヘルペスウイルス、発症病理

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病態
HHV-6 脳炎のメカニズムとその診断,治療 ―サイトカインとウイルス直接侵襲の関与―

河村吉紀*   吉川哲史**
* 藤田保健衛生大学医学部小児科   ** 同教授

要  旨
 HHV-6 は,突発性発疹(突発疹)の原因ウイルスである.本疾患は一般的に予後良好であるが,ときに脳炎・脳症を引き起こす.近年,さまざまな臨床病型の HHV-6 脳炎・脳症が報告されており,病型ごとの病態解析が今後の治療法開発などの点で重要と考えられる.また,HHV-6 は初感染後潜伏感染し,宿主が免疫抑制状態に陥った際に再活性化して脳炎を起こす.記憶障害と頭部 MRI における海馬の病変が本疾患の特徴的な所見で,臨床的には辺縁系脳炎の経過を示すことが多い.in vitro 実験系による解析では,ガンシクロビルやフォスカルネットが有効であることが知られており,臨床的にも主にこの2つの抗ウイルス薬が使用されている.

キーワード
HHV-6、脳炎、脳症

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病態
抗 NMDA 受容体脳炎に合併した卵巣奇形腫と正常卵巣における NMDA 受容体の分布

立花直子*1  有馬邦正*2  池田修一*3
*1 市立岡谷病院神経内   *2 国立精神・神経医療研究センター病院精神神経科
*3 信州大学医学部脳神経内科、リウマチ・膠原病内科 教授

要  旨
 抗 NMDA 受容体脳炎に合併した卵巣奇形腫と正常卵巣を免疫組織化学的に検索し,本症における NMDA 受容体の抗原提示の契機や抗体産生の機序について考察した.脳炎合併の卵巣奇形腫には多量の NR2B 抗原や GluR 関連抗原が発現しており,正常卵巣の卵胞内にも NR2B 抗原が発現していた.本症発症前の感冒様の前駆症状によってこれらの抗原が提示され,抗体産生に結びつき,抗 NMDA 受容体脳炎を発症する可能性が考えられた.この際,卵巣奇形腫の存在は NMDA 受容体抗原を大量に提示する可能性があり,本疾患発症の重要な危険因子と位置づけられる.

キーワード
自己免疫性脳炎、抗NMDA受容体脳炎、NMDA受容体、卵巣奇形腫、正常卵胞

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病態
抗 NMDA 受容体脳炎における最近の進歩


飯塚高浩**  安田 徹*   望月秀樹***
* 北里大学医学部神経内科学   ** 同講師 *** 同教授

要  旨
 抗 NMDA 受容体脳炎は,NMDA 受容体の NR1 サブユニットの細胞外成分に対する抗体を有する自己免疫性脳炎である.この数年で,臨床像の多様性,年齢,性,人種による腫瘍合併率の違い,過去に知られていた類縁疾患との関係,細胞レベルでの抗体の作用機序などが明らかにされてきており,現在では,本疾患は「自己免疫性シナプス脳症」の1つとしてとらえられている.今回,400 例の臨床データに基づいた新しい治療アルゴリズムが,Dalmau らのグループから提唱された.

キーワード
NMDA受容体、傍腫瘍性脳炎、細胞膜表面抗原、卵巣奇形腫

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臨床
単純ヘルペス脳炎の診断と治療


森田昭彦*
* 日本大学医学部内科学系神経内科学分野

要  旨
 単純ヘルペス脳炎(HSE)は,未治療では致死率が約 60〜70% の重篤な疾患であることから,neurological emergency として位置づけられている.臨床症状や髄液検査,画像所見から HSE が疑われる場合は,直ちにアシクロビルを開始し,髄液の PCR を含めたウイルス学的検査を行う.臨床的に HSE を否定できない場合には,アシクロビルを継続しながら髄液を再検することが重要である.

キーワード
単純ヘルペス脳炎、ガイドライン、アシクロビル、副腎皮質ステロイド

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臨床
結核性髄膜炎の最近の動向

平良直人*
* 日本大学医学部内科学系神経内科学分野

要  旨
 結核性髄膜炎は内科的緊急疾患であり,治療の遅れは転帰不良と強く関連するので,疑った場合には確定診断を待たずに直ちに抗結核療法を開始するべきである.最初の2ヵ月間はイソニアジド(INH),リファンピシン(RFP),ピラジナミド,エタンブトールの4剤で治療し,その後10ヵ月間は INH,RFP の2剤による治療が基本であり,重症度にかかわらず,すべての HIV 非感染例で副腎皮質ステロイドの併用が推奨される.
キーワード
結核性髄膜炎、抗結核薬、副腎皮質ステロイド

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臨床
中枢神経系真菌感染症における最近の動向


大野秀明*
* 国立感染症研究所生物活性物質部第一室 室長

要  旨
 中枢神経系真菌感染症ではクリプトコックス属による髄膜炎がよく知られているが,そのほか髄膜炎の原因菌としてカンジダ属,また海外ではこれにコクシジオイデス属,ヒストプラスマ属が加わる.クリプトコックス髄膜炎は健常人でも認められることがあるが,HIV 感染者に合併する疾患として重要である.一方,近年北米を中心に新たな遺伝子型のクリプトコックス属による感染症が多発するなど,真菌症分野においてもその様相が変化してきており,今後の動向が注目される.

キーワード
中枢神経系真菌感染症、クリプトコックス脳髄膜炎、高病原性クリプトコックス症、地域流行型真菌症、免疫不全

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臨床
細菌性髄膜炎におけるワクチン接種の意義と問題点



岩田 敏*
* 慶應義塾大学医学部感染制御センター教授

要  旨
 細菌性髄膜炎は,抗菌化学療法の進歩した今日においても治療に難渋することの多い重症感染症であり,発症した場合は適切な治療が行われても死亡したり後遺症を残したりすることがあるため,発症予防が重要なポイントとなる.国内でもようやく接種が開始された7価肺炎球菌結合型ワクチンとインフルエンザ菌b型ワクチンは,細菌性髄膜炎の予防に極めて重要なワクチンであり,今後定期接種化による普及・接種率向上が望まれる.

キーワード
細菌性髄膜炎、肺炎球菌結合型ワクチン、インフルエンザ菌b型ワクチン、定期接種、肺炎球菌血清型

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臨床
新型インフルエンザ脳症の臨床像

山下信子*   森島恒雄**
* 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科小児医科学 ** 同教授

要  旨
 2009/2010 シーズンの新型インフルエンザ脳症には,季節性インフルエンザ脳症と異なる臨床的な特徴があった.すなわち,@年長児症例が多い,A初発神経症状として異常行動が多い,B頭部 MRI で脳梁膨大部病変を認める例が多いという特徴である.これらは同シーズンの流行の主体が学童であったことによると考えられる.新型インフルエンザ脳症による致命率は季節性と同じであり,次シーズン以後,流行の主体が乳幼児に移行した場合の重症化に注意が必要である.
キーワード
新型インフルエンザ、インフルエンザ脳症

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臨床
亜急性硬化性全脳炎に対する治療の動向

細矢光亮*
* 福島県立医科大学医学部小児科 教授

要  旨
 亜急性硬化性全脳炎(SSPE)は,変異した麻疹ウイルス(SSPE ウイルス)が神経組織に持続感染した脳炎である.神経障害には SSPE ウイルスの増殖が直接かかわっているため,ウイルスの増殖を抑制する抗ウイルス薬や免疫賦活薬などが試用されてきた.これまで試みられた薬剤では,イノシンプラノベクスとインターフェロンの2剤に延命効果が示されている.近年,核酸類似抗ウイルス薬であるリバビリンを脳室内に直接投与する治療が期待されている.

キーワード
リバビリン、脳室内投与療法、インターフェロン、イノシンプラノベクス

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臨床
プリオン病に対する治療法の開発

坪井義夫*
* 福岡大学医学部神経内科学教室 准教授

要  旨
 プリオン病の脳には不溶性プリオンタンパク質が凝集し,神経細胞の脱落,空胞の形成が強く見られる.頻度の高い孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病でも,発生率は年間 100 万人に約1人とまれであるが,発症すると進行性で致死的な神経変性疾患である.有効な治療法は確立されていないが,近年,正常型プリオンタンパク質から異常型への構造変化や蓄積を阻害する化学物質がスクリーニングされ,臨床応用されている.その中で,キナクリン,フルピルチン,ペントサンポリサルフェートなどの臨床研究を概説する.

キーワード
プリオン病、臨床研究、キナクリン、ペントサンポリサルフェート

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臨床
プリオン病のサーベイランス

坂井健二*   山田正仁**
* 金沢大学大学院医学系研究科脳老化・神経病態学(神経内科) ** 同教授

要  旨
 我が国の CJD サーベイランスは,1999 年4月より開始された.2010 年8月までに 2,005 例の情報が収集され,1,552 例がプリオン病と判定された.孤発性 CJD1,192 例(76.8%),遺伝性プリオン病271 例(17.5%),硬膜移植後 CJD83 例(5.3%),変異型 CJD1例(0.1%),分類不能 CJD5例(0.3%)で,硬膜移植後 CJD は過去の症例を加えると 141 例となった.
キーワード
プリオン病、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、サーベイランス、プリオンタンパク質

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臨床
橋本脳症 ―小脳失調型を中心に―

松永晶子*   米田 誠**
* 福井大学医学部附属病院神経内科 ** 同診療教授

要  旨
 橋本脳症は,慢性甲状腺炎(橋本病)に伴う自己免疫性脳症である.これまでに筆者らの施設で行った多数例の解析結果から,本症の患者では急性脳症型を呈する症例が半数以上を占めるが,臨床像は多彩であり,小脳失調症状を主徴とする病型も約1割存在する.慢性の失調症状を呈し脊髄小脳変性症が疑われる症例でも,特に眼振を欠き,脳波の徐波化を伴い,頭部 MRI で小脳萎縮が乏しい場合は,橋本脳症の可能性を鑑別として念頭に置く必要があると考えられる.

キーワード
橋本脳症、小脳失調、抗NAE抗体

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新連載
現代社会とうつ病

  現代社会において問題となっております「うつ病」について病気そのものの解説、治療法、サポート体制などを連載形式で詳しく紹介する目的で連載「現代社会とうつ病」を企画致しました。
 今号から約3年間にわたり国内の診療・研究の最前線でご活躍されている先生方に「うつ病」について詳しくご解説をお願いしております。

 第1回は本連載の企画をお願い致しました九州大学・神庭重信先生による「連載開始にあたり」です。

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連載
臨床研究のススメ

 これまで我が国では臨床研究に対する評価はそれほど高いものではなく、諸外国に比べて大きな成果を上げるのが難しい状況でした。最近になってようやく臨床研究が評価されつつあるものの、日本以外のアジア諸国の台頭もあり、我が国の臨床試験の遅滞状況は危機的なものとなっております。
 そこで、この度、臨床研究とはどの様なもので、何に基づき、何をどの様にやらなければならないかをご紹介する目的で先端医療推進財団・理事長 井村 裕夫 先生にご監修頂き「臨床研究のススメ」を企画致しました。
 第2回は住友病院院長・松澤佑次先生に「臨床研究の推進に向けて-総合科学技術会議連携施策群の取り組み-」と題してご解説をお願いしました。

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連載
トップランナーに聞く(第5回)
自然免疫による腸管粘膜免疫系の制御機構

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
 第5回は自然免疫学領域の第一人者で、自然免疫による腸管粘膜免疫系の制御機構を解明されました大阪大学の竹田 潔  先生にお話を伺いました。

 竹田 潔 先生

  免疫学の基礎研究を専門としています。免疫系の中での自然免疫系の活性制御機構、自然免疫系による感染制御機構を、種々の遺伝子改変マウスを用いて解析しています。 また、自然免疫系の活性制御機構の破綻がどのように免疫疾患の発症に繋がるのかを、特に炎症性腸疾患をモデルに解析しています。 将来、私たちの研究成果が、免疫系の人為的な活性制御技術を用いたヒトの疾患治療に応用されることを夢見ています。


トピックス
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)に対するエクリズマブ治療

山本正樹*   西村純一*
* 大阪大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科学


要  旨
 PNH の溶血に対する治療薬として,ヒト化抗 C5 抗体であるエクリズマブ(ソリリスメ)が開発され,本邦では 2010 年6月より販売開始となった.発売より半年が過ぎた現在まで,欧米での成績と同等の有効性と安全性を示している.エクリズマブの効果,安全性,適応,問題点について考察した.

キーワード
PNH、エクリズマブ、溶血、補体、C5

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トピックス
新規制吐薬を用いたシスプラチンの外来治療

酒井 洋*
* 埼玉県立がんセンター呼吸器内科 科長兼部長


要  旨
 シスプラチン(CDDP)は,固形がん治療におけるキードラッグであるが,悪心・9吐などの副作用が強く,さらに腎障害予防目的に大量輸液と強制利尿が必要とされ,我が国ではこれまで基本的に入院で治療が行われてきた.一方,支持療法の進歩により,欧米では day1のみ輸液を行う(short hydration)外来化学療法が中心である.本邦でも NK1 受容体拮抗薬と第2世代5-HT3 受容体拮抗薬が使用可能となり,症例を適切に選択すれば short hydration による CDDP の外来治療が可能な時代となった.

キーワード
制御性T細胞、IL-10、自己免疫疾患、LAG-3、Tr1I

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