最新医学66巻6号 
特集 特発性間質性肺炎 -最近の進歩と展望-


要  旨


座談会
特発性間質性肺炎 -最近の話題-

 東邦大学      本間  栄
 
日本医科大学    吾妻 安良太 
 自治医科大学    杉山 幸比古 (司会)

 座談会の内容
 ・ピルフェニドン
 ・新しい薬剤
 ・治療面での今後の展望と期待  など 

 吾妻先生        杉山先生      本間先生

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特発性間質性肺炎の疫学

高橋弘毅**  千葉弘文*
* 札幌医科大学医学部内科学第三講座 ** 同教授

要  旨
 特発性間質性肺炎(IIPs)は過去に疾患概念が大きく変遷した歴史的経緯と,比較的まれな疾患で医療者間の認識に温度差があり,国内外ともに精度の高い疫学的データが少ない.最近,北海道での厚生労働省特定疾患個人調査票に基づく大規模研究の結果が報告され,IIPs の年間発症率が 10 万人対 2.65,有病率が 11.8 であること,特発性肺線維症(IPF)の生存期間中央値が60ヵ月,死因の最多が急性増悪(41%)であることが示された.

キーワード
特発性肺線維症、発症率、有病率、予後、死因

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遺伝子背景と病因論

貫和敏博*
* 東北大学大学院医学系研究科呼吸器病態学 教授

要  旨
 ヒトゲノム解読で幕を開けた 21 世紀.並行して進められた HapMap プロジェクトによる SNP マイクロアレイ解析は,多様な疾患で予想外の疾患関連遺伝子を見いだしている.さらに遺伝子以外のタンパク質相互連関などのより深いゲノム理解として interactome network が話題となっている.しかし肺線維症ではまだそうした試みは限られている.本小文はその中でも 21 世紀になり,肺線維症との関連が明らかになった遺伝子や新規有効薬剤を取り上げ,病因論を考える.

キーワード
特発性肺線維症、遺伝子背景、小児間質性肺疾患、
Hermansky-Pudlak症候群、テロメア短縮症候群

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特発性肺線維症/通常型間質性肺炎と蜂窩肺

長谷川瑞江*   酒井文和**
* 埼玉医科大学国際医療センター画像診断科 ** 同教授

要  旨
 特発性肺線維症は,慢性かつ進行性の経過をたどる予後不良な疾患である.画像診断においては高分解能 CT が不可欠であり,典型的所見は下葉背側,末梢優位の蜂窩肺である.現在の特発性肺線維症/通常型間質性肺炎の診断基準では,典型的な画像所見を呈するものは病理所見を必要としないため,画像所見で疾患を拾い上げ,不必要な外科的肺生検を回避することが重要である.しかし,蜂窩肺の画像診断の診断医による一致率は必ずしも高くなく,その診断基準の統一は今後の課題である.

キーワード
特発性肺線維症、通常型間質性肺炎、蜂窩肺、画像診断、高分解能CT

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通常型間質性肺炎とは何か ―病理診断上の問題点―


武村民子*
* 日本赤十字社医療センター病理部 常勤顧問

要  旨
 通常型間質性肺炎(UIP)は特発性間質性肺炎の中心となる病理像であり,特発性肺線維症(IPF)の病理像として認識されている.その特徴は,線維化病変は空間的・時相的に多彩で,正常肺と急峻に移行する斑状分布を示すことである.線維芽細胞巣は時相の不均一性を表し,IPF の予後に関与する局所的な肺胞傷害の形態像であり,蜂巣肺は肺胞の虚脱・破壊による末梢気腔の拡張と細気管支拡張を伴う集簇した病変である.肺生検においては,複数の肺葉の病理像が UIP とそれ以外の病理像を示すことも多いが,UIP における病変の斑状分布が線維性非特異性間質性肺炎(f-NSIP)との最も重要な鑑別点である.病理診断は,肺全体から見れば空間的・時間的制約の中で行われるため,ある時点で生検された検体において病理診断名を無理に1つのパターンに当てはめるのではなく,線維化の分布,線維化の質を明らかにし,治療反応性の有無や原因究明への示唆を発信することが重要である.

キーワード
通常型間質性肺炎、特発性肺線維症、線維性非特異性間質性肺炎、斑状分布、蜂巣肺

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肺気腫を合併した特発性間質性肺炎


田口善夫*
* 天理よろづ相談所病院呼吸器内科 部長

要  旨
 喫煙は肺気腫のみならず,特発性間質性肺炎の一部の疾患にも強く関連している.近年注目されている肺気腫合併肺線維症では,その病理像の多くは通常型間質性肺炎パターンとされ,多くは特発性肺線維症として認識されている.また本病態の特徴として,肺高血圧合併,肺気量分画が正常,拡散能の著明な低下などが挙げられている.しかし本病態は,いわゆる症候群であることを理解したうえで対応すべきである.

キーワード
肺気腫合併肺線維症、通常型間質性肺炎、特発性肺線維症、肺高血圧、症候群

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間質性肺炎のマーカー ―KL-6,SP-A,SP-D―

石川暢久*   河野修興**
* 広島大学大学院医歯薬学総合研究科病態制御医科学講座展開医科学専攻分子内科学(第二内科) ** 同教授

要  旨
 間質性肺炎バイオマーカーである KL-6,SP-A,SP-D は,我が国において開発された臨床検査である.現在では,間質性肺炎の診断・治療に欠くことのできない検査として臨床の現場に広く普及しており,他疾患との鑑別診断,間質性肺炎の病勢把握ならびに間質性肺炎の治療経過観察に有用である.いずれの間質性肺炎バイオマーカーとも,LDH をはるかにしのぐ有用な診断ツールであるが,それぞれの特徴を利用した有効な使い分けが必要である.
キーワード
間質性肺炎、血清マーカー、KL-6、SP-A,SP-D

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急性増悪とその治療


小倉高志*
* 神奈川県立循環器呼吸器病センター呼吸器内科 部長

要  旨
 特発性肺線維症の急性増悪は日本で提唱された概念であるが,国際的な定義も提唱され共通認識されてきた.感染症などの除外が診断に重要である.他の間質性肺炎でも急性増悪は発症する.薬物療法として根拠のある治療はないが,ステロイドパルス療法と免疫抑制薬の併用療法が行われている.非薬物療法として,エンドトキシン吸着療法による活性化した白血球やサイトカインの除去や,呼吸管理として非侵襲性陽圧換気療法が期待されている.

キーワード
特発性肺線維症、急性増悪、急性間質性肺炎、エンドトキシン吸着療法、
非侵襲性陽圧換気療法


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特発性肺線維症に対するN-アセチルシステイン療法



坂東政司*
* 自治医科大学呼吸器内科 准教授

要  旨
 N−アセチルシステイン(NAC)は,特発性肺線維症(IPF)に対する新たな治療薬の1つとして注目されている.NAC は還元型グルタチオンの前駆物質であり,抗酸化作用や抗線維化作用を有する.欧米を中心とした臨床試験では,NAC 内服併用療法による肺活量,肺拡散能力の経時的低下の抑制が報告されている.また,NAC 吸入療法に関する我が国の臨床試験でも新たな知見が得られた.しかしさらなるエビデンスの蓄積が今後も必要であり,また新規抗線維化薬などとの併用療法の有効性についても検討すべきであると考えられる.

キーワード
N-アセチルシステイン、グルタチオン、酸化ストレス、レドックス制御、特発性肺線維症

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特発性肺線維症の病態と治療 ―ピルフェニドン―

三浦由記子*1*2 斎藤武文**2  吾妻安良太**1
*1 日本医科大学内科学講座呼吸器腫瘍感染部門 **1 同教授
*2 国立病院機構茨城東病院内科診療部呼吸器内科 **2 同副院長

要  旨
 特発性肺線維症(IPF)は,漸次進行性で,生存期間中央値が3〜5年と予後不良である.慢性炎症が線維化に先行すると考えられた時代には,有効な治療薬はないとされてきた.近年,新たな病態が提唱され,海外や国内臨床試験において線維化自体を抑制する抗線維化薬ピルフェニドンの有効性が証明され,ようやく予後の改善が期待できる薬剤が登場した.市販後は適切な投与対象,投与時期,評価項目について,日々検討が続けられている.
キーワード
特発性肺線維症、ピルフェニドン、抗線維化薬、TGFβ、評価項目

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特発性間質性肺炎に合併する肺高血圧の診断と治療

松井秀夫*1  井上義一*2
*1 国立病院機構近畿中央胸部疾患センター循環器科 医長
*2 同臨床研究センター呼吸不全・難治性肺疾患研究部 部長

要  旨
 特発性間質性肺炎(IIPs)に合併する肺高血圧症は,特異的症状に乏しく早期診断が困難であり,心エコー図検査でのスクリーニング,右心カテーテル検査での確定診断が望ましい.治療の第1選択は長期酸素療法であるが,IIPs に合併する肺高血圧症に対しては,肺動脈性肺高血圧に準じボセンタン,シルデナフィルによる薬物治療が試験的に行われている.

キーワード
特発性肺線維症、肺高血圧、ボセンタン、エポプロステノール、シルデナフィル

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間質性肺炎合併肺がんの治療

海老名雅仁*
* 東北大学大学院医学系研究科内科病態学講座呼吸器病態学分野 准教授

要  旨
 重喫煙者に多い肺扁平上皮がんや小細胞肺がんは,同様に喫煙の影響が大きいさまざまな間質性肺炎を合併していることが多い.こうした間質性肺炎合併肺がん患者の治療に際して,放射線照射による放射線肺炎,抗がん剤による肺障害,そして全身麻酔下の肺切除後に起こる急性増悪などによって呼吸状態が急速に悪化し,ときにはそれが死因になる.抗がん治療後の増悪機序を解明し,発症予防・早期診断・早期治療の確立が必要である.

キーワード
肺線維症、急性増悪、扁平上皮がん、小細胞肺がん、気腫合併肺線維症

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慢性過敏性肺炎と特発性間質性肺炎

稲瀬直彦*
* 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科統合呼吸器病学分野 教授

要  旨
 慢性過敏性肺炎は長年の抗原曝露によるアレルギー疾患である.胸部 CT や病理所見が非特異性間質性肺炎(NSIP)や特発性肺線維症(IPF)と類似するため特発性間質性肺炎と診断されることが多く,中でも潜在性発症型の慢性過敏性肺炎と IPF の鑑別が困難である.鳥糞や羽毛,住居真菌などに曝露されていないか詳細に聴取し,胸部 CT などから本症を疑った場合には特異抗体測定,抗原回避,誘発試験などを行う.抗原曝露が持続すると肺線維化が進行し,致死的な経過をとることがある.
キーワード
慢性過敏性肺炎、特発性間質性肺炎、特発性肺線維症、非特異性間質性肺炎

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膠原病に合併する間質性肺炎

藤澤朋幸*   榎本紀之*   千田金吾**
* 浜松医科大学内科学第二講座 ** 同准教授

要  旨
 膠原病には間質性肺炎が高頻度に合併し,重要な予後因子となることから積極的な診断が重要である.その病理所見として非特異性間質性肺炎(NSIP)の頻度が最も高く,次いで通常型間質性肺炎(UIP)と続き,特発性間質性肺炎において UIP が最多であるのと異なる.予後に関しては,膠原病に合併する間質性肺炎全体では NSIP と UIP で違いが見られないことが示される一方で,関節リウマチに関しては UIP で予後が悪いことが報告されている.

キーワード
膠原病、間質性肺炎、非特異性間質性肺炎、通常型間質性肺炎

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連載
現代社会とうつ病

  現代社会において問題となっております「うつ病」について病気そのものの解説、治療法、サポート体制などを連載形式で詳しく紹介する目的で連載「現代社会とうつ病」を企画致しました。
 今号から約3年間にわたり国内の診療・研究の最前線でご活躍されている先生方に「うつ病」について詳しくご解説をお願いしております。

 第2回は精神・神経医療研究センター・立森久照先生による「うつ病の頻度と社会負担」です。

要  旨
 日本におけるうつ病の頻度とうつ病によって引き起こされる社会負担について概観する.DSM-W診断に基づいた大うつ病性障害の生涯有病率は 6.2%,12ヵ月有病率は 2.1% であった.性別では,女性が男性の2倍以上高い.諸外国の有病率を比較すると日本の気分障害の有病率は比較的低いが,それでも高頻度であり,それによる社会負担も大きい.2002 年の成人のうつ病の費用は総費用が約1兆4千億円と試算され,その9割近くが間接費用によるものであった.

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連載
臨床研究のススメ

 これまで我が国では臨床研究に対する評価はそれほど高いものではなく、諸外国に比べて大きな成果を上げるのが難しい状況でした。最近になってようやく臨床研究が評価されつつあるものの、日本以外のアジア諸国の台頭もあり、我が国の臨床試験の遅滞状況は危機的なものとなっております。
 そこで、この度、臨床研究とはどの様なもので、何に基づき、何をどの様にやらなければならないかをご紹介する目的で先端医療推進財団・理事長 井村 裕夫 先生にご監修頂き「臨床研究のススメ」を企画致しました。
 第3回は京都大学・福原俊一先生に「医療疫学研究の新しい流れ-「科学のための科学」から「医療のための科学」の時代へ-」と題してご解説をお願いしました。

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連載
トップランナーに聞く(第6回)
炎症から発がんの分子機序の解明及びその臨床応用を目指して

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
 第6回は肝がん発がん・進展の分子機構に関する研究の第一人者である近畿大学の櫻井 俊治  先生にお話を伺いました。

 櫻井 俊治 先生

 消化器内科が専門で、日常診療では早期がんの内視鏡的治療を主に行っています。炎症から発がんの分子機序の解明に興味があり、慢性肝炎だけでなく炎症性腸疾患にも非常に興味があります。今までMAPKのメンバーであるJNK、p38の炎症から肝発がんにおける役割について研究してきました。現在はJNK、p38に限らず熱ショック蛋白質(Hsp)などの広い意味でのストレス応答蛋白多プロテアソームに注目して研究を進めています。ヒトの組織またはマウス発がんモデルを用いた個体レベルでの解析を主に行っています。


トピックス
サブクリニカルクッシング症候群の病態と診断

岩崎泰正*
* 高知大学臨床医学部門教授・保健管理センター所長


要  旨
 サブクリニカルクッシング症候群(SCCS)は,コルチゾール自律性分泌能を伴う副腎皮質腺腫を有するにもかかわらずクッシング症候を呈さない病態で,副腎偶発腫として健診時などに見いだされることが多い.本邦では早期に診断基準が作成されたが,デキサメタゾン抑制試験時のコルチゾールカットオフ値,長期予後,および腺腫の手術適応などに関しては,根拠に基づいた診断基準の改定に向けて現在も議論が続いている.

キーワード
クッシング症候群、サブクリニカルクッシング症候群、副腎偶発腫、デキサメタゾン抑制試験、
コルチゾール

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トピックス
人獣共通感染サルマラリア原虫Plasmodium knowlesi

中澤秀介*
* 長崎大学熱帯医学研究所原虫学分野


要  旨
 近年,東南アジア各国からサルマラリア原虫 Plasmodium knowlesi のヒト感染例が報告されている.マレーシアの調査では死亡率1%,重症化が 10% である.P.knowlesi を5番目のヒトマラリア原虫に位置づける流れがある.一方,人獣共通感染症は医学において中心的テーマにはなりえず,臨床医学的にも知見経験に基づいて対応する感染症にすぎなかった.サルマラリアを取り上げる理由を述べる.

キーワード
マラリア、人獣共通感染症、サルマラリア、環境、進化適応

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