最新医学66巻7号 
特集 大動脈疾患の最新知見


要  旨


座談会
急性大動脈解離・大動脈瘤の診療の落とし穴、今後の課題

 自治医科大学さいたま医療センター                 安達 秀雄
 
榊原記念病院    桃原 哲也 
 杏林大学       吉野 秀朗(司会)

 座談会の内容
 ・急性大動脈解離の診断における内科医・外科医の役割
 ・発症のメカニズム
 ・診断の落とし穴
 ・手術適応例  など 

 桃原先生        吉野先生      安達先生

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総  論

吉野秀朗*
* 杏林大学医学部第二内科 教授

要  旨
 大動脈解離・大動脈瘤は,一部の遺伝性疾患を除き,典型的な動脈硬化性疾患である.発症までのメカニズムには不明な点が多いが,中膜が2層に剥離する大動脈解離は中膜変性や大動脈壁の vasa vasorum の破綻などによって発生し,大動脈瘤は内膜から中膜に存在する粥状動脈硬化,中膜弾性線維の破綻と平滑筋細胞の萎縮・アポトーシスなどによって瘤形成が起こる.重症例ほど多彩な症状で来院するが,CT を用いた迅速な画像診断と降圧療法を基本とする的確な大動脈置換術,ステント留置術が急性期より施行され,救命率は向上した.今後,病病連携を中心とした患者受け入れ体制の確立が望まれる.

キーワード
動脈硬化、ガイドライン、スーパーネットワーク、総合血管専門医

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大動脈解離と大動脈瘤の病理

池田善彦*
* 国立循環器病研究センター臨床検査部臨床病理科

要  旨
 大動脈解離,大動脈瘤の病因に関して,動脈硬化性以外の病因が明らかにされつつある.最近では大動脈壁の結合組織の構成要素や平滑筋細胞の収縮タンパク質の遺伝子変異例が報告されてきており,Marfan 症候群の fibrillin-1 や Loeys-Dietz 症候群の TGFβ受容体,平滑筋αアクチン2や平滑筋ミオシン重鎖 11 などが原因タンパク質として同定されている.

キーワード
大動脈炎症候群、Marfan症候群、Loeys-Dietz症候群、嚢状中膜壊死

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大動脈解離の診断 1.臨床兆候

圷 宏一*
* 日本医科大学付属病院集中治療室 講師

要  旨
 急性大動脈解離は誤診率が高く,急性期における死亡率も高い.その理由の1つは多彩な臨床徴候である.本疾患の診断のために有用な臨床徴候は,胸背部痛,高血圧,血圧の左右差(20mmHg 以上),移動して引き裂かれるような痛み,などである.また,胸背部痛を訴えた意識障害の患者は急性大動脈解離を想起すべきである.詳細な病歴聴取と丁寧な診察で本疾患を疑うことが,速やかな診断への早道であると考えられる.

キーワード
胸背部痛、高血圧、血圧の左右差、移動する痛み、引き裂かれる痛み

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大動脈解離の診断 2.エコー


齋藤 顕*
* 川崎医科大学循環器内科

要  旨
 大動脈解離の診断には,造影 CT 検査が広く用いられている.心エコー図は非侵襲的な診断法で,救急外来やベッドサイドにおいても使用可能であり,その診断や重大な合併症の確認,血行動態の評価など,さまざまな役割を担っている.経胸壁および経食道心エコー図法では,アプローチ法によって大動脈の観察領域が異なるため,その特徴を理解し,臨床現場で用いることが重要である.

キーワード
経胸壁心エコー図、経食堂心エコー図、存在診断、initial flap、合併症診断

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大動脈解離の診断 3.MDCT・MRI


林 宏光*
* 日本医科大学放射線医学 准教授

要  旨
 大動脈解離の診断において,CT や MRI は欠くことのできない非侵襲的診断法である.さらに近年の画像診断の進歩は目覚ましく,CT では multidetector-row CT が,そして MRI では高磁場装置に加えてさまざまな撮像法が開発されるに至り,両検査法の役割は,「単なる診断法としての位置づけ」から「治療支援画像を提供する検査法」へとパラダイムシフトしつつある.

キーワード
大動脈解離、画像診断、MDCT、MRI

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大動脈解離の診断 4.バイオマーカー

鈴木 亨*1*2   永井良三**1
*1 東京大学大学院医学系研究科循環器内科 **1 同教授
*2 同ユビキタス予防医学講座 特任准教授

要  旨
 大動脈瘤ならびに大動脈解離は,成人で見られる代表的な大血管の疾患である.ともに急性発症するため,迅速な診断法の開発は急務である.本稿では大動脈解離を中心に,大動脈瘤まで広げた大動脈疾患(急性)全般の診断法の研究開発の現状と,今後の可能性について概説する.
キーワード
大動脈解離、バイオマーカー

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急性大動脈解離の内科治療および合併症とその対応:内科の役割


加地修一郎*
* 神戸市立医療センター中央市民病院循環器内科 医長

要  旨
 急性大動脈解離の治療には,Stanford 分類に基づいて,A型解離は緊急手術,B型解離は内科治療という方針がとられる.しかしながら,合併症を有するB型解離は予後不良であるため,近年,ステントグラフトによる治療が施行されてきている.一方で,偽腔閉塞型という異なった形態の解離が存在し,別の治療方針がとられることが多い.特にA型偽腔閉塞型の治療方針には,内科治療をするべきか,多くの議論がある.

キーワード
大動脈解離、内科治療、予後、合併症

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大動脈解離の外科治療 1.A型解離(冠動脈灌流障害,脳灌流障害合併)



鈴木伸一*   益田宗孝**
* 横浜市立大学附属病院外科治療学心臓血管外科 准教授 ** 同教授

要  旨
 臓器灌流障害を合併した急性A型解離の手術成績はいまだ不良である.今回は灌流障害のうち,冠動脈灌流障害と脳灌流障害について述べる.いずれも術前に灌流障害発生の有無や虚血程度の診断に困難な点も多く,救命には早期手術による灌流障害の改善が必要である.しかし致死的な高度虚血が存在すると判断した症例では,大動脈手術に先行して冠動脈血流はカテーテル治療,脳血流は脳動脈灌流法で早期に再灌流することを考慮すべきである.

キーワード
急性A型大動脈解離、冠動脈灌流障害、脳灌流障害

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大動脈解離の外科治療 2.B型解離

荻野 均*
* 国立循環器病研究センター心臓血管 外科部長
(現東京医科大学血管外科主任教授)

要  旨
 急性B型解離においては,破裂や灌流不全などの合併症を有する 10〜20% の症例のみが手術やステントグラフト治療などの緊急外科治療対象となる.緊急手術成績は依然として不良であり,最近では後者が第1選択となりつつある.一方,慢性解離においては,ステントグラフト治療は新たな解離の発生,遠隔期の解離内膜破綻,認可デバイスの限界などの問題もあり,いまだ一般的ではなく,左開胸下の胸部下行・胸腹部置換が一般的である.
キーワード
B型解離、外科治療

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大動脈瘤の分子病態

吉村耕一**1*2 長澤綾子*1  山下 修*1 濱野公一***1
*1 山口大学大学院医学系研究科器官病態外科学 **1 同特命准教授 ***1 同教授
*2 山口県立大学大学院健康福祉学研究科 教授

要  旨
 大動脈瘤は,無症状のまま進行し放置すれば破裂死に至るため,この破裂死を回避することが大動脈瘤治療の最大の目的である.現在のところ,物理的に破裂を防止する外科的手術しか有効な治療選択肢がないため,病態や病因に基づく新しい内科的治療法の開発が望まれている.近年ようやく,大動脈瘤の病態生理とその分子機序に関する知見が蓄積されつつある.本稿では,大動脈瘤の分子病態について概説するとともに,臨床応用への展望についても言及する.

キーワード
大動脈瘤、炎症、細胞外基質、シグナル伝達

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大動脈瘤の診断と治療

窪田 博*
* 杏林大学医学部心臓血管外科 主任教授

要  旨
 大動脈瘤は全身動脈硬化病変の一部であることが多く,集約的治療を要する.手術数は年々増加しており,術前評価の進歩が安全な治療を可能にする一方,ステントグラフトの普及,直達手術とのハイブリッド療法,術中オープンステントの併用とデリバリーシステムの開発など,多彩な治療法も工夫されている.脳保護にも改良が行われ,従来手術困難とされていた大動脈瘤に対しても,安全に治療を行うための努力が続けられている.

キーワード
大動脈瘤、外科治療、ステントグラフト、脳保護法、オープンテスト

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大動脈瘤に対するステントグラフト治療

川口 聡*
* 慶應義塾大学医学部心臓血管外科 講師

要  旨
 大動脈拡張病変に対する治療は,従来より人工血管を用いた置換手術がその中心であったが,病変部位によっては体外循環を要したり,創が大きくときに出血量が多いなど,過大な侵襲を患者に与えることがある.本疾患においては,手術侵襲の低減は治療成績を向上させるうえで必要不可欠であり,最近の低侵襲治療として注目されている血管内挿型人工血管(ステントグラフト)を用いた血管内手術(ステントグラフト内挿術)は,ここ 15 年で急速な進歩を遂げている.本法は血管外科領域での大動脈瘤に対する有効な治療法の1つとして,今後さらなる展開が期待されている.
キーワード
ステント、ステントグラフト、血管内治療、大動脈疾患、大動脈瘤

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非動脈硬化性遺伝性疾患 1.Marfan 症候群と関連疾患

藤田大司*   今井 靖*   平田恭信**
* 東京大学大学院医学系研究科循環器内科学 ** 同特任准教授

要  旨
 Marfan 症候群は,大動脈病変,眼症状,骨格異常を主徴とする常染色体優性遺伝疾患である.原因として結合組織を構成する fibrillin 1 の遺伝子異常が同定されており,また TGFβの活性化の関与も判明してきている.従来の身体的特徴をもととした診断基準から,原因遺伝子や分子メカニズムを考慮した新基準に移行しつつあり,類縁疾患の概念の確立や診断・治療方法の進歩が期待される.

キーワード
大動脈瘤、大動脈解離、Marfan症候群、fibrillin、TGFβ

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非動脈硬化性遺伝性疾患 2.非動脈硬化性炎症性疾患:高安動脈炎ほか
−大動脈炎症候群のバイオマーカーと画像診断を中心にして−

手塚大介*   磯部光章**  石原 卓* 大東寛和*
* 東京医科歯科大学循環制御内科学 ** 同教授

要  旨
 加齢やメタボリックシンドロームが原因となる動脈硬化以外に,自己免疫疾患や感染など炎症性疾患により大動脈炎が惹起される.高安動脈炎のほかに巨細胞性動脈炎,IgG4 関連大動脈炎,血管ベーチェット病,梅毒性動脈炎などが挙げられる.発症頻度がまれである点でこれらは共通する.本稿では高安動脈炎のバイオマーカー・画像診断の最新の話題を中心とし,非動脈硬化性炎症性疾患に包含される大動脈炎について概説する.

キーワード
高安動脈炎、MMP-3、PTX3、FDG-PET/CT、IgG4関連大動脈炎

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連載
現代社会とうつ病

  現代社会において問題となっております「うつ病」について病気そのものの解説、治療法、サポート体制などを連載形式で詳しく紹介する目的で連載「現代社会とうつ病」を企画致しました。
 今号から約3年間にわたり国内の診療・研究の最前線でご活躍されている先生方に「うつ病」について詳しくご解説をお願いしております。

 第3回は虎の門病院精神科部長・大前 晋 先生による「診断と分類」です。

要  旨
 およそ 100 年前のクレペリンによる分類を参照したうえで,うつ病を3つのタイプに分類した.タイプAは,精神病性の特徴を伴うもので,精神機能のうち知・情・意のすべてが侵される重症の病態,タイプBは,いわゆる「軽症内因性うつ病」であり,感情あるいは気分の部門だけが侵される軽症の病態,タイプCは,いわゆる「神経症性うつ状態」,「抑うつ性パーソナリティ」などで,軽症だが慢性的な病態である.さらに現代では,タイプDとでも呼ぶべき,一過性の悲哀反応やストレス反応までもうつ病と呼ぶ傾向があり,批判を受けている.

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連載
臨床研究のススメ

 これまで我が国では臨床研究に対する評価はそれほど高いものではなく、諸外国に比べて大きな成果を上げるのが難しい状況でした。最近になってようやく臨床研究が評価されつつあるものの、日本以外のアジア諸国の台頭もあり、我が国の臨床試験の遅滞状況は危機的なものとなっております。
 そこで、この度、臨床研究とはどの様なもので、何に基づき、何をどの様にやらなければならないかをご紹介する目的で先端医療推進財団・理事長 井村 裕夫 先生にご監修頂き「臨床研究のススメ」を企画致しました。
 第4回は聖路加国際病院院長・福井 次矢 先生に「我が国の臨床研究の特徴と改善の方向性」と題してご解説をお願いしました。


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連載
トップランナーに聞く(第7回)
新薬を生み出す診療と研究の両立を目指して

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
 第7回は肺線維症の基礎研究から慢性閉塞性肺疾患(COPD)のアウトカム研究まで呼吸困難を伴う呼吸器疾患分野の様々な領域で先進的な成果を上げておられる京都大学の小賀 徹 先生にお話を伺いました。

 小賀 徹 先生

 COPD、気管支喘息、睡眠呼吸障害、呼吸不全、呼吸リハビリテーションなど幅広い分野でのアウトカムリサーチを実践しています。致死率の高い特発性肺線維症における難治性の線維化及びリモデリング、慢性炎症に関する病態解明と新規治療薬開発にも取り組み、呼吸困難の根治を目指しています。


トピックス
NBI 内視鏡による咽頭・食道がんの診断と内視鏡治療

上田康祐*1  森田周子*1  江副康正*2  堀松高博*1  宮本心一*1  
武藤 学**1
*1 京都大学大学院医学研究科消化器内科学 **1 同准教授
*2 同集学的がん診療講座


要  旨
 内視鏡技術の進歩によって,咽頭・食道領域のがんの早期発見が可能となった.特に,狭帯域光技術を用いた Narrow Band Imaging(NBI)の登場により,咽頭・食道の内視鏡診断は飛躍的に進歩し,臓器温存・機能温存が可能な内視鏡治療の適応症例は今後さらに増加していくものと思われる.本稿では,NBI 内視鏡がもたらした咽頭・食道領域の内視鏡診断と治療の新たな流れに関して解説する.

キーワード
Narrow Band Imaging(NBI)、咽頭表在がん、早期食道がん、内視鏡診断、内視鏡治療

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トピックス
進行性多巣性白質脳症 Update

岸田修二*
* がん・感染症センター都立駒込病院脳神経内科 部長


要  旨
 進行性多巣性白質脳症(PML)は,JC ウイルスによる中枢神経脱髄性疾患である.通常,免疫が高度に障害された状態のもとで発症する.多くは,ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症を基礎疾患として発症するが,我が国では血液疾患,特に移植関連での発症数が多い.最近,薬剤誘発性 PML の報告が増加している.PML の生命・機能的予後は極めて悪い.特異治療法はなく,早期に免疫を回復することが最初のステップであり,早期診断に努めることが重要である.

キーワード
古典的PML、炎症性PML、免疫不全症、JCウイルス、脱髄疾患

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