最新医学66巻9号 
特集 がん薬物療法のバイオマーカー


要  旨


座談会バイオマーカー研究の現状と未来

 国立がん研究センター 山田 康秀
 
近畿大学         岡本 勇 
 近畿大学         西尾 和人 (司会)

 座談会の内容
 ・バイオマーカーとは
 ・PKバイオマーカー
 ・PDバイオマーカー
 ・バイオバンクの意義  など 

  山田先生        西尾先生     岡本先生

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バイオマーカーを用いたがん第U相試験のデザイン

山中竹春*1  山本精一郎*2
*1 国立病院機構九州がんセンター臨床研究センター 室長
*2 国立がん研究センターがん対策情報センター 室長


要  旨
 従来の殺細胞薬に対する臨床試験では比較的大きな集団が試験対象とされてきたが,分子標的薬の臨床導入が一般化する中,適切な投与対象を意識しながら臨床試験を計画することの重要性が高まっている.本稿では,バイオマーカーの利用を前提としたがん第U相試験のデザインについて概説する.

キーワード
がん、第U相試験、バイオマーカー、臨床試験デザイン

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薬力学的バイオマーカーと POC 研究

荒尾徳三*   西尾和人**
* 近畿大学医学部ゲノム生物学講座 講師 ** 同教授

要  旨
 分子標的薬の臨床開発が飛躍的に増加するのに伴い,早期臨床試験において POC 研究および薬力学的バイオマーカー研究の重要性が明らかになってきた.特に,初めてヒトに投与するようなメカニズムの分子標的薬の場合に有用と考えられる.薬力学的バイオマーカーと POC 研究は,薬剤がヒト体内で標的分子に作用している科学的根拠を与え,効果をモニターすることおよび投与量・スケジュール決定などに寄与できる可能性がある.

キーワード
薬力学的バイオマーカー、POC研究

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体外診断用医薬品の開発と薬事要件

三好康弘*1  西田美和*2  田澤義明**1
*1 ロシュ・ダイアグノスティックス(株) IVD 事業本部製品・学術部門遺伝子検査部
**1 同部長 *2 同薬事・臨床開発部長

要  旨
 個別化医療が最も進んでいるがん領域では,薬の登場により,バイオマーカーの臨床意義が確立され,医薬品とバイオマーカーによる診断薬の同時開発が試みられている.しかし,診断薬の開発や薬事要件については,医薬品ほど知られていないのが現状である.今回,体外診断用医薬品について,その一般的な開発および薬事承認,保険適用プロセスを紹介するとともに,コンパニオン診断薬開発における課題についても考えてみたい.

キーワード
体外診断用医薬品、コンパニオン診断薬、遺伝子検査の2,000点問題

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臨床で用いられるがん分子標的薬のバイオマーカー:HER2,KRAS


佐々木尚英*   吉野孝之**
* 国立がん研究センター東病院消化管腫瘍科消化管内科がん専門修練医
** 同医長

要  旨
 乳がんおよび胃がんにおける HER2 過剰発現,結腸・直腸がんにおける KRAS 遺伝子変異は有用なバイオマーカーであり,日常臨床においても汎用される.HER2 陽性乳がんはトラスツズマブ,ラパチニブをはじめとした抗 HER2 療法により予後が向上し,他の抗 HER2 薬についても開発が進められている.HER2 陽性胃がんはトラスツズマブの併用による生存期間の延長効果が示された.KRAS 遺伝子変異の有無は結腸・直腸がんの抗 EGFR 抗体の効果予測因子として用いられ,変異別の意義についても探索が進められている.

キーワード
バイオマーカー、HER2、KRAS、EGFR

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肺がんにおけるがん分子マーカーと

―EGFR 遺伝子変異と EML4-ALK 融合遺伝子の役割―


山口葉子*   後藤功一**
* 国立がん研究センター東病院呼吸器内科 ** 同医長

要  旨
 肺がん領域では,EGFR チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)であるゲフィチニブ,エルロチニブの効果予測因子として EGFR 遺伝子変異が最も有力であることが示され,すでに広く臨床応用されている.近年,EML4-ALK 遺伝子も肺がんの新たなバイオマーカーとなることが示され,EML4-ALK 阻害薬であるクリゾチニブの有効性が第T/U相臨床試験で示された.
キーワード
非小細胞肺がん、EGFR、ゲフィチニブ、エルロチニブ、EML4-ALR、クリゾチニブ

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Cytotoxic Agents のバイオマーカー

武田真幸*1  岡本 勇*2
*1 岸和田市民病院腫瘍内科
*2 近畿大学医学部内科学腫瘍内科 准教授

要  旨
 殺細胞性抗がん剤は分子標的薬と異なり,作用メカニズムが十分解明されていないものも多く,そのため,その薬効を予測するバイオマーカーは開発途上の段階である.しかしながら,チミジル酸合成酵素(TS)は最も研究が行われているバイオマーカーの1つであり,5-FU,S-1 やペメトレキセドの標的であるだけでなく,効果予測因子として認識されつつある.そのため,今後実臨床へ向けたアッセイ法の validation は急務であると考えられる.
キーワード
バイオマーカー、Cytotoxic agents、非小細胞肺がん

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がんにおけるゲノムコピー数異常とその解析


宮脇 豊*   稲澤譲治**
* 東京医科歯科大学難治疾患研究所ゲノム応用医学研究部門分子細胞遺伝 ** 同教授

要  旨
 がんの発生に大きく関与しているゲノム異常の1つに,遺伝子の増幅,欠失といったゲノムのコピー数異常が挙げられる.歴史的にこれらをランドマークに数多くのがん関連遺伝子が同定され,またがん遺伝子増幅によるがん遺伝子産物の過剰産生を標的分子としてとらえることで,トラスツズマブなどの薬が開発されてきた.本稿ではゲノムのコピー数異常を解析する方法として,アレイ CGH について概説する.

キーワード
ゲノムコピー数異常、アレイCGH、FISH、Oncogene addiction

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ゲノム薬理学:SNP 解析



温泉川真由*1  小泉史明*2
*1 国立がん研究センター中央病院乳腺科・腫瘍内科
*2 国立がん研究センター研究所ゲノム研究グループ遺伝医学研究分野ユニット長

要  旨
 より効果が高く,より有害事象を軽減させることが,薬物にとって最も重要な課題である.近年,ゲノム薬理学によるゲノムバイオマーカーの探索が進み,日常臨床でも薬剤応答,有害事象の推定が行われ,の個別化がなされている.その中でも SNP 解析は定性的で再現性も高いことから,有用なゲノムバイオマーカーである.本稿ではゲノム薬理学,特に SNP 解析について概説する.

キーワード
ゲノム薬理学、Pharmacogenomics、SNP

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プロテオミクスによるバイオマーカー研究

西村俊秀*1*2
*1 東京医科大学臨床プロテオームセンター 客員教授 *2 同外科学第一講座

要  旨
 タンパク質バイオマーカー研究パイプライン,薬剤関連バイオマーカー研究例,課題と今後の方向性を示す.妥当性検討へ橋渡しする検証段階での Go/No Go 判定が開発を効率化する.新規検証手法の SRM アッセイや MS イムノアッセイについて紹介する.臨床現場での実用化において,臨床試料の質,解析手法の堅牢性・再現性・定量性,臨床的意義が十分反映された研究デザインの構築など評価すべき要項があり,Discovery Science と Regulatory Science の協調が不可欠である.
キーワード
検証手法、ターゲット・プロテオミクス、SRMアッセイ、MS-basedイムノアッセイ

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末梢循環がん細胞(CTC)計測技術のフロンティア

安田賢二*
* 東京医科歯科大学生体材料工学研究所 教授

要  旨
 近年,最新のバイオテクノロジーや微細加工技術を応用した末梢循環がん細胞(CTC)検出技術が開発され,CTC 測定法の診断,創薬への展開が期待されている.本稿では,現状での CTC 検出のための技術開発の最先端について紹介させていただくとともに,これらの技術の課題と今後の定量的計測への方向性について議論させていただく.

キーワード
がん転移、CTC検査技術、マイクロファブリケーション、イメージングフローサイトメトリー、DNAアダプタマー

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Circulating Biomarker

笠原寿郎*
* 金沢大学附属病院呼吸器内科 講師

要  旨
 進行がんの薬物療法の効果予測因子として,血液成分を用いる試みがなされている.血液成分は腫瘍由来の DNA,タンパク質を含んでおり,バイオマーカーのソースとして有望である.血液はすべての症例から容易に,繰り返し採取可能であり,採取に伴う侵襲性が極めて低い.直前に採取可能であり,モニタリングも極めて簡便である.本稿では,血液を主とした circulating biomarker の近年の研究・開発動向について概説したい.

キーワード
流血中DNA、血清、血漿

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半網羅的体細胞変異解析と個別化医療

古田一行*1*2 西尾和人**2
*1 三菱化学メディエンス(株)先端技術研究センター
*2 近畿大学医学部ゲノム生物学講座 **2 同教授

要  旨
 が臨床導入されるに伴い,バイオマーカーに基づく個別化医療が推進されてきている.体細胞変異は定性的で普遍性を持つマーカーであり,適応症例の層別化を考えるうえで非常に有望なパラメーターである.体細胞変異に関する知見が蓄積するに伴い,その測定法・検査法も,単一遺伝子/変異へのアプローチから複数遺伝子/変異への半網羅的アプローチへ,さらには全ゲノムアプローチへと進展していくであろう.

キーワード
体細胞変異プロファイリング、個別化医療、分子標的薬、がんゲノム解析

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腫瘍組織バンク

釼持広知*   山本信之**
* 静岡県立静岡がんセンター呼吸器内科 ** 同副院長

要  旨
 腫瘍組織バンクは,開発において有用な手段である.研究者と臨床医が協力してシステムを構築する必要がある.またシステム構築において,検体の質を維持することや,臨床情報との連結を可能にすることは非常に重要である.さらに,バンキングされた組織を用いて遺伝子解析を行い,その結果をフィードバックすることで,患者の選択にも役立つ可能性がある.

キーワード
組織バンク、腫瘍、ゲノム解析、バイオマーカー

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連載
現代社会とうつ病

  現代社会において問題となっております「うつ病」について病気そのものの解説、法、サポート体制などを連載形式で詳しく紹介する目的で連載「現代社会とうつ病」を企画致しました。
 今号から約3年間にわたり国内の診療・研究の最前線でご活躍されている先生方に「うつ病」について詳しくご解説をお願いしております。

 第4回は名古屋大学大学・中村 由嘉子 先生による「うつ病の遺伝環境相互作用」です。

要  旨
 近年うつ病発症の分子的機構が解明されつつあり,DNA メチル化などのエピジェネティックな変化とうつ病との関係が特に注目されている.エピジェネティックな変化とは,遺伝子の塩基配列の変化を伴わない後天的で可逆的な変化であり,人生のごく初期における環境要因の影響を受け,遺伝子発現プログラミングの安定的変化として生涯を通じて維持される.本稿では,エピジェネティックな変化とうつ病との関係に焦点を当てて論ずる.

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連載
臨床研究のススメ

 これまで我が国では臨床研究に対する評価はそれほど高いものではなく、諸外国に比べて大きな成果を上げるのが難しい状況でした。最近になってようやく臨床研究が評価されつつあるものの、日本以外のアジア諸国の台頭もあり、我が国の臨床試験の遅滞状況は危機的なものとなっております。
 そこで、この度、臨床研究とはどの様なもので、何に基づき、何をどの様にやらなければならないかをご紹介する目的で先端医療推進財団・理事長 井村 裕夫 先生にご監修頂き「臨床研究のススメ」を企画致しました。
 第6回は北里大学・竹内 正弘  先生に「臨床試験における統計学」と題してご解説をお願いしました。


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連載
トップランナーに聞く(第9回)
肺がんの新規標的EML4-ALKの研究を目指して

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
 第9回は新規融合型がん遺伝子EML4-ALKを発見し、このがん遺伝子を標的とした分子を確立された自治医科大学の曽田 学 先生にお話を伺いました。

 曽田 学 先生

 呼吸器内科学一般とゲノム医学が専門で、特に肺がんにおけるゲノミクス解析を中心に研究しています。2007年に肺がんにおける新規融合型がん遺伝子EML4-ALKの同定に成功し、本発見により現在このがん遺伝子を標的とした分子標的薬(ALK阻害剤)による臨床試験が実施されており、著しい腫瘍縮小効果が報告されています。現在もがん患者さんを救うべく、新たながん遺伝子の同定を目指して研究を行っています。


トピックス
新しい遺伝性筋萎縮性側索硬化症

伊東秀文*1   川上秀史*2
*1 京都大学大学院医学研究科臨床神経学 講師
*2 広島大学原爆放射線医科学研究所分子疫学研究分野 教授


要  旨
 我々は,家族性筋萎縮性側索硬化症(FALS)の新たな原因遺伝子 optineurin(OPTN)を発見した.OPTN 変異を伴う FALS 患者の臨床・病理所見は,孤発性 ALS(SALS)と類似していた.抗 OPTN 抗体による免疫組織化学では,SALS および SOD1 変異を伴う FALS の細胞質内封入体が陽性であり,OPTN SALS,SOD1-FALS の病態にも関与している可能性が示唆された.一方,FALS で認められた変異 OPTN は,NF-κB に対する抑制機能を失っていた.今後さらに OPTN の機能解析を進めることが,ALS の病態解明と法の開発に重要である.

キーワード
optineurin、筋委縮性側索硬化症、NF-κB、封入体

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トピックス
腎細胞がんの新しい分子標的療法

大家基嗣*
* 慶應義塾大学医学部泌尿器科 教授


要  旨
 血管新生阻害作用を有する分子標的薬であるソラフェニブとスニチニブ,mTOR 阻害薬であるテムシロリムスとエベロリムスが,進行腎細胞がんの薬として承認された.薬剤の適応と有害事象を十分考慮したうえで,患者の年齢,リスク分類,併存疾患,歴,転移臓器,組織型などを考慮に入れた個別化医療の傾向が高まっている.

キーワード
腎細胞がん、分子標的治療

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総説
アルガトロバン高用量療法の脳血管再開通メカニズムについて

石橋浩明*1  名取達徳*1  小原智子*1 熊坂由紀子*2  田村乾一*1
*1 岩手県立中部病院神経内科 *2 同放射線科


要  旨
 アルガトロバン高用量療法前後で MRA により責任血管の変化を確認できた脳梗塞 16 例について検討し,16 例中 15 例と高率に血管再開通を確認した.この高率な血管再開通のメカニズムについて,血管内皮やトロンビンならびに t-PA やアルガトロバンなど現在までに解明されている作用をもとに,血管再開通について考察した.その結果,トロンビン作用を完全に抑制するアルガトロバン高濃度を投与すると,血栓中のトロンビンで抑制されていた血管内皮が t-PA を放出し血栓を溶解すると考えた.すなわち,アルガトロバン高用量療法は血管内皮を介した t-PA 療法であると考え,そのメカニズムを提示した.さらにアルガトロバンがトロンビン活性を抑制するため,血管内皮同士がタイトジャンクションを構築し血管壁も強固となり,血管再開通時出血の危険性が極めて少なくなると考えた.そのことが,発症から 24 時間以上たってからアルガトロバン高用量療法でした5例でも血管が再開通し,臨床上5例とも有効以上であったことを立証していると考えた.一方,t-PA 療法では血栓溶解で流出したトロンビンが血管壁を脆弱にし血液脳関門を破壊するため,出血の危険性が非常に高くなると考えられる.
 アルガトロバン高用量療法は血管内皮を介した間接的 t-PA 療法と言える法であり,t-PA 療法で最大のリスクである血栓溶解で大量に流出するトロンビン活性を抑制する.したがってトロンビン活性を完全に抑制するアルガトロバン高用量療法は,脳梗塞法として最適と考える.

キーワード
アルガトロバン、再開通、脳梗塞、高用量療法、再開通メカニズム

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