最新医学66巻10号 
特集 分子イメージングの最先端


要  旨


座談会
分子イメージング医学応用の近未来

 米国国立衛生研究所 小林 久隆
 
大阪大学        石井 優
 浜松医科大学     瀬藤 光利 (司会)

 座談会の内容
 ・分子イメージングのモダリティ
 ・生きたままでのイメージング
 ・分子イメージングのメリット
 ・イメージングの問題点   など 

  石井先生    瀬藤先生        小林先生

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がんの分子イメージング
米国における分子イメージングの現状

小林久隆*
* 米国国立衛生研究所/米国国立がん研究所分子イメージングプログラム
チーフサイエンティスト


要  旨
 本稿では,生体のがんの分子イメージング(in vivo cancer molecular imaging)についての定義,近年の米国における推移と現状を知っていただくことを目的として,まず分子イメージング(Molecular Imaging)全般の研究の基本的な定義と近年進められてきた経緯を紹介する.その中でも生体内の分子イメージング(in vivo molecular imaging)について,核医学,MRI,光イメージングの主力3機器を用いた方法論について論じたい.また,ナノテクノロジーとの関連についても触れたい.

キーワード
分子イメージング、がん、生体イメージング、ナノテクノロジー 

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がんの分子イメージング
蛍光プローブの精密設計による高精細 in vivo がんイメージング

浦野泰照*
* 東京大学大学院医学系研究科生体物理医学専攻 教授

要  旨
 筆者らはこれまでに,がん細胞だけを蛍光で光らせる分子ツールを開発することで,従来法では不可能であった1mm以下のがん部位を in vivo で明確に検出することに成功した.本稿では,本イメージング技術に必須となる蛍光プローブの精密設計法,開発に成功したプローブ類,および activatable プローブを活用した高選択的がんイメージング例の概説を通じ,医療における蛍光イメージング技術の利点を紹介する.
キーワード
蛍光プローブ、光誘起電子移動、酸性検出蛍光プローブ、がん抗体、リソソーム 

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がんの分子イメージング
質量分析によるがんの分子イメージング

涌井昌俊*1  久保亜紀子*2  大村光代*2
末松 誠**2

*1 慶應義塾大学医学部臨床検査医学 *2 同医化学 **2 同教授

要  旨
 質量分析イメージングは,組織上の分布局在情報を保持したまま分子を検出する画期的な手法である.ホモジナイズした生物試料を用いる従来の網羅的解析では検出できない正常部と病変部の差異,あるいは組織学的に一見均一である病変組織の多様性を検証できる.病態形成に関する理解の深化とがんバイオマーカーの検索・同定を目指した質量分析によるがんの分子イメージングの現状と課題について概説する.

キーワード
質量分析イメージング、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI) 、
組織分子局在情報、がん、顕微質量分析機器

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がんの分子イメージング
生体共焦点顕微鏡による造血幹細胞微小環境の検討


藤崎譲士*
* ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院
ウェルマン光医学センターシステムバイオロジーセンター

要  旨
 生体共焦点顕微鏡(IVM)とは,生体小動物内で蛍光ラベルした細胞動態,機能を可視化する顕微鏡である.我々は IVM を用いて,骨髄中の造血幹細胞微小環境を観察する方法を確立した.IVM は造血幹細胞およびその微小環境の細胞レベルでの描出を三次元で可能にし,さらに分裂やホーミングの観察にも応用できる.この方法を用いて我々は,制御性T細胞が造血幹細胞微小環境に集積し,造血幹細胞を免疫反応から保護する免疫特権を与えることを示した.

キーワード
幹細胞微小環境、生体共焦点顕微鏡、免疫特権、制御性T細胞

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内科疾患の分子イメージング
膵内分泌組織における分子と機能の可視化



高橋倫子*   河西春郎**
* 東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター構造生理学 講師
** 同教授

要  旨
 インスリンの分泌不全は,2型糖尿病の主要な成因の1つである.2光子励起顕微鏡を膵島に応用し,インスリン開口放出現象を高い時空間分解能で検出する実験系を確立した.分泌の空間分布や融合細孔の動態解析が可能となり,分泌の様式に関する新知見が得られた.さらに,本手法を用いると複数種類の蛍光シグナルを同時に解析できるため,膜融合関連タンパク質の構造変化と分泌の関連を測定することが可能となった.

キーワード
膵、FRET、2光子励起、糖尿病、インスリン

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内科疾患の分子イメージング
生体分子イメージング手法でみる血栓形成過程と血小板機能

西村 智*1*2  長崎実佳*1*3
*1 東京大学医学系研究科循環器内科
*2 東京大学システム疾患生命科学による先端医療技術開発拠点 特任助教
*3 東京大学コンピュータ画像診断学/予防医学講座 特任助教

要  旨
 我々は,高速共焦点レーザー顕微鏡を用いた高時間・空間解像度の生体内分子イメージング手法を新たに開発し,マルチカラーでの生体内での細胞動態や末梢組織の詳細な三次元構造の可視化手法を開発した.本手法により生体内の単一血小板の細胞動態が解析可能となり,多色化により複数の細胞種の連関も明らかになった.分子イメージングとレーザー傷害による血栓形成モデルを組み合わせ,血小板機能に異常を来す各種遺伝子改変動物における血栓形成過程を観察し,遺伝子改変と生体内での血小板機能の関係を明らかにした.

キーワード
血栓、生体イメージング、血小板

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内科疾患の分子イメージング
骨・免疫系の細胞動態イメージング


島津 裕*1*2  菊田順一*1*2  久保厚子*1*2 石井 優**1*2
*1 大阪大学免疫学フロンティア研究センター細胞動態学 **1 同教授
*2 科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(CREST)

要  旨
 生体イメージングは,生体内で起こっている現象をリアルタイムでとらえることができる点で,非常に強力な研究ツールと言える.このため,特に細胞の動態および相互関係が重要な免疫・血液系の研究分野で大きく発展してきた.本稿では当研究室で行っている骨髄や免疫組織のイメージング研究の実際について概説し,それらによって得られた新知見について紹介するとともに,生体イメージングの限界と今後の展開についても述べたい.

キーワード

免疫、生体イメージング、細胞動態

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神経の分子イメージング
病態科学のための PET プローブの開発と遺伝子改変モデルマウスを用いた生体分子イメージング


宿里充穂*   水間 広*   尾上浩隆**
* 独立行政法人理化学研究所分子イメージング科学研究センター分子プローブ機能評価研究チーム ** 同チームリーダー

要  旨
 PET は標識化合物の多様性に優れ,生体内における物質の動きを in vivo の本来の機能を保ったままの状態で,ごく微量かつ超高感度に測定することが可能な技術である.疾患特異的な生理活性物質(バイオマーカー)を認識できる分子プローブは,疾患の早期発見,診断,治療薬の開発に欠かすことのできない重要なツールとなることが期待される.さらに,遺伝子操作技術により病態にかかわる特定の分子の発現を操作されたマウスを用いた研究において,PET イメージングは生きた脳における分子の生理的機能や病態に関連した変化を非侵襲的に明らかにすることが可能である.

キーワード

生体分子イメージング、遺伝子改変マウス、in vivo、カップリング反応

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神経の分子イメージング
アルツハイマー病のホールマークと神経炎症の分子イメージング

季  斌*   樋口真人**  須原哲也***
* 独立行政法人放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター分子神経イメージング研究プログラム
** 同チームリーダー *** 同グループリーダー

要  旨
 アルツハイマー病患者脳に蓄積する老人斑と神経原線維変化は,疾患を特徴づける病理学的ホールマークである.また,これらの封入物の蓄積に伴い,中枢免疫を担うミクログリアの活性化による神経炎症が認められる.こうした病的変化はアルツハイマー病の発症進行に重要な役割を果たすと考えられており,時空間的にモニタリングする技術が求められている.本稿では,これらの病理変化をターゲットとした分子イメージング技術の最新の進歩をまとめて解説する.

キーワード
ポジトロン断層撮影(PET)、アルツハイマー病、アミロイド、タウタンパク質
18kDa-translocator protein(TSPO)

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神経の分子イメージング
パーキンソン病の分子イメージング

尾内康臣*
* 浜松医科大学メディカルフォトニクス研究センター生体機能イメージング研究室 教授

要  旨
 パーキンソン病患者の脳内神経伝達物質系を生きた状態でとらえる方法は,PET しかないと言っても過言でない.MRI や SPECT といった他の手法でも部分的に可能であるが,得られる情報は限られる.PET ではドパミン神経のコンポーネントである受容体やトランスポーター,酵素活性などを標的として,分子レベルの異常を可視化することができる.本稿では,ドパミン神経を中心にパーキンソン病脳の病態を図説する.

キーワード
パーキンソン病、ポジトロン断層撮影、ドパミン受容体、ドパミントランスポーター、
神経炎症

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細胞の分子イメージング
FRET による細胞シグナルの分子イメージング

水野 礼*1*2 清川悦子*3  松田道行**1*4
*1 京都大学大学院医学研究科基礎病態学講座病態生物医学 **1 同教授
*2 京都大学大学院医学研究科消化管外科学
*3 金沢医科大学病理学T講座 主任教授
*4 京都大学大学院生命科学研究科高次生命科学専攻認知情報学講座生体制御学 教授


要  旨
 蛍光タンパク質の発達により細胞内局在は明らかになってきたものの,細胞内で分子がいつ,どこで活性化されるのかという時空間的情報は欠如している.蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の原理を利用したバイオセンサーの開発により,低分子量 GTP 結合タンパク質やリン酸化酵素群の活性を生細胞で可視化できるようになった.今後,細胞がん化機構の解明やハイスループットスクリーニング系の樹立に貢献するものと期待される.

キーワード

FRET、バイオセンサー、低分子量Gタンパク質、リン酸化酵素

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細胞の分子イメージング
確率的な細胞内シグナル処理の1分子イメージング解析

松岡里実*1*2*3 上田昌宏**1**2**3
*1 独立行政法人理化学研究所生命システム研究センター細胞シグナル動態研究グループ **1 同グループディレクター
*2 大阪大学大学院生命機能研究科生体ダイナミクス講座細胞シグナル動態研究グループ **2 同特任教授
*3 科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(CREST)**3 同研究代表者

要  旨
 細胞は,その構成要素である分子が生来的に持つゆらぎの影響から逃れることはできない.生体システム特有の情報処理の原理を解明するためには,生体分子の確率的動作特性を理解する必要があり,1分子の挙動を直接観察できる1分子イメージング技術は欠かせない.細胞極性にかかわるシグナル分子 PTEN の局在形成ダイナミクスを例に,1分子のゆらぎが分子集団全体の局在の安定性や柔軟性に活かされている可能性について議論する.

キーワード
細胞内情報伝達、1分子イメージング、細胞性粘菌、走化性、ゆらぎ

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細胞の分子イメージング
電子顕微鏡による生体分子イメージングの現在

村田和義*
* 自然科学研究機構生理学研究所脳機能計測・支援センター形態情報解析室 准教授

要  旨
 電子顕微鏡は,細胞からタンパク質分子までの幅広い構造を直接観察することができる顕微鏡である.最近の電子顕微鏡技術および画像解析技術は,これをさらに自然に近い状態で立体的に観察することを可能にした.本稿では,このミクロンからサブナノのスケールをカバーする電子顕微鏡による最新の生体分子イメージング技術を解説する.そしてこれを使った最近の研究例を紹介する.

キーワード
クライオ電子顕微鏡、タンパク質、トモグラフィー、単粒子解析、立体構造解析ー

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連載
現代社会とうつ病

  現代社会において問題となっております「うつ病」について病気そのものの解説、法、サポート体制などを連載形式で詳しく紹介する目的で連載「現代社会とうつ病」を企画致しました。
 今号から約3年間にわたり国内の診療・研究の最前線でご活躍されている先生方に「うつ病」について詳しくご解説をお願いしております。

 第6回は理化学研究所・前川 素子 先生による「遺伝子発現からみたうつ病の神経科学」です。

要  旨
 うつ病の神経科学は,三環系抗うつ薬(代表的なものはイミプラミン)が 1950 年代にセレンディピタスに発見され,その作用メカニズムを解明していく中で発展してきたと言えよう.初期の「モノアミン枯渇仮説」から始まって,抗うつ薬の投与から効果発現までのタイムラグの説明が動機の1つとなって,受容体の研究,神経栄養因子との関連,神経新生の関与と進んできた.このようにアプローチがたくさん存在するが,本稿では死後脳における遺伝子発現に着目する.

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連載
臨床研究のススメ

 これまで我が国では臨床研究に対する評価はそれほど高いものではなく、諸外国に比べて大きな成果を上げるのが難しい状況でした。最近になってようやく臨床研究が評価されつつあるものの、日本以外のアジア諸国の台頭もあり、我が国の臨床試験の遅滞状況は危機的なものとなっております。
 そこで、この度、臨床研究とはどの様なもので、何に基づき、何をどの様にやらなければならないかをご紹介する目的で先端医療推進財団・理事長 井村 裕夫 先生にご監修頂き「臨床研究のススメ」を企画致しました。

 第7回は「未来の医学と臨床研究」と題して井村先生に司会をお願い致し、座談会を開催致しました。

 京都大学       福原 俊一
 慶応義塾大学    佐藤 裕史
 
京都大学       川上 浩司
 京都大学       井村 裕夫 (司会)

座談会の内容
・臨床疫学・コホート研究・トランスレーショナルリサーチ
・新しい医療技術開発のための課題
・未来の医学
  など 

 佐藤先生   井村先生   福原先生  川上先生



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連載
トップランナーに聞く(第10回)
がんにおいて治療の標的となる融合遺伝子を探索するて

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
 第10回は肺がん遺伝子のEML4-ALKをはじめとして、種々のがんにおける融合遺伝子に関する研究で成果を上げられているがん研究会がん研究所の竹内 賢吾 先生にお話を伺いました。

 竹内 賢吾 先生

 本職はリンパ腫を専門とする血液病理医です。診断コンサルテーション、治験の中央診断、臨床病理学的研究、診断法の開発、新疾患概念の提唱などを主にしています。現在、血液病理で培った知識と経験を種々の固形がんに転用し、融合遺伝子の探索をしています。病理組織学的な手法によりスクリーニングをするというユニークなシステムですので、病理医にしかできないと思っています。すでに幾つか新規同定をしましたが、全て分子標的治療の対象になり得るものです。 


トピックス
リンパ球性下垂体炎の今

―疾患概念の再構築と診断法の開発へ―

椙村益久*
* 名古屋大学大学院医学系研究科糖尿病内分泌内科


要  旨
 リンパ球性下垂体炎は主にリンパ球が下垂体に浸潤する慢性炎症性疾患で,中枢神経症状と下垂体機能異常症を呈する.病因は自己免疫機序が考えられているが,詳細は不明である.また臨床では診断が困難で,誤診されることも少なくない.我々は,非侵襲的なバイオマーカーおよび診断法の開発に向けて,プロテオミクスを用いて新規病因自己抗原候補を同定した.今後さらに検証を進め,分子学的機序に基づいた新たな疾患概念の再構築を目指している.
キーワード
リンパ球性下垂体前葉炎、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎、プロテオミクス、
バイオマーカー 

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トピックス
慢性炎症因子アンジオポエチン様因子2と生活習慣病

尾池雄一*
* 熊本大学大学院生命科学研究部医学系分子遺伝学 教授


要  旨
 近年,運動不足や肥満などに起因する組織内の慢性炎症が,インスリン抵抗性/糖尿病,動脈硬化性疾患などさまざまな生活習慣病の共通した基盤病態として注目を集めている.慢性炎症の鍵となる分子の同定およびその機能を解明することは,生活習慣病に対する新たな治療法や予防法を開発するうえで重要である.我々は,アンジオポエチン様因子2(Angptl2)がその鍵因子の1つである可能性を見いだしており,本稿においてその一端をご紹介したい.

キーワード
アンジオポエチン様因子2(Angptl2)、慢性炎症、メタボリックシンドローム、
インスリン抵抗性、心血管病

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