最新医学66巻11号 
特集 骨髄増殖性腫瘍(MPN)の最新の進歩


要  旨


座談会
MPNの過去・現在・未来

 三重大学        片山 直之
 
山梨大学        桐戸 敬太
 順天堂大学       小松 則夫 (司会)

 座談会の内容
 ・MPNの歴史
 ・JAK2の変異と診断
 ・瀉血とHt値
 ・MPNの未来   など 

  桐戸先生       小松先生      片山先生

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MPNの新WHO分類(2008 年)とその問題点

小松則夫*
* 順天堂大学医学部血液内科学講座 教授


要  旨
 WHO 分類第4版は,2008 年9月に公刊された.2001 年に WHO 分類第3版が刊行されて以来,造血器腫瘍の病態解明がさらに進んだこともあり,第4版では真性赤血球増加症,本態性血小板血症,原発性骨髄線維症に共通して見られる JAK2 遺伝子変異の発見などの研究成果が診断基準の中に盛り込まれている.慢性骨髄増殖性疾患という名称も,「腫瘍性」を強調して骨髄増殖性腫瘍に変更されている.しかし3年が経過し,問題点も幾つか指摘されている.

キーワード
WHO分類第4版、骨髄増殖性腫瘍、JAK2遺伝子変異、RARS-T

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MPN の分子病態

桐戸敬太*
* 山梨大学医学部血液腫瘍内科 教授

要  旨
 骨髄増殖性腫瘍(MPN)の分子病態においては,JAK2 変異による細胞内シグナル伝達分子の活性化が重要な役割を果たしている.一方,最近の研究により,DNA のメチル化やヒストンの機能調節にかかわる多くの分子の変異も見いだされている.これより,MPN の分子病態については,シグナル伝達経路の活性化変異とエピジェネティックな遺伝子発現の調節経路の変異が複雑にかかわるとする新たなモデルが提唱されている.
キーワード
骨髄増殖性腫瘍、TET2変異、DNMT3変異「、ASXL変異、EZH2変異 

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MPN の遺伝子変異と解析法

森下総司*1  常田 聡*2  小松則夫**1
*1 順天堂大学医学部血液内科学講座非常勤講師 **1 同主任教授
*2 早稲田大学理工学術院先進理工学部生命医科学科 教授

要  旨
 2005 年の JAK2 V617F 発見以降,骨髄増殖性腫瘍(MPN)に関する研究は目覚ましい進歩を続けている.近年では JAK2 V617F の JAK2 全遺伝子量に対する比(JAK2 V617F allele burden)と疾患の予後に相関性があるとの報告もあり,変異を検出するだけでなく定量することの重要性が増してきた.一方,近年の分子生物学的手法の発展により,JAK2 V617F 以外の変異が次々と同定されている.本稿では,最新の JAK2 V617F allele burden 定量技術を紹介するとともに,JAK2 V617F 以外の変異にも言及し,その役割を概説する.

キーワード
変異解析技術、遺伝子変異、JAK2V617F

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MPN の SNP アレイ解析


小川誠司*
* 東京大学医学部附属病院がんゲノミクスプロジェクト 特任准教授

要  旨
 骨髄増殖性腫瘍(MPN)は,造血幹細胞を起源とする,終末分化を伴った骨髄系細胞のクローン性増殖によって特徴づけられる腫瘍性疾患である.広義には bcr/abl 融合遺伝子による慢性骨髄性白血病,慢性好中球性白血病,異型慢性骨髄性白血病などが含まれるが,通常はより狭義に,真性赤血球増加症(PV),原発性骨髄線維症(PMF),および本態性血小板血症(ET)を含む疾患単位である1).JAK2 の活性化型変異(V617F)が,PV では実質的にほぼ全例で,また PMF および ET においても 50% 内外の頻度で認められ,MPN の重要な遺伝学的特徴となっているが2),クローナリティ解析の結果からは,しばしば JAK2 陰性の腫瘍クローンの存在が示唆されること,また急性骨髄性白血病(AML)への移行に伴って JAK2 変異が検出されなくなる症例が存在することなどから,MPN の発症初期には他の遺伝子変異が関与している可能性が示唆されている2〜4).一方,MPN では del(20q)をはじめとする特徴的な染色体異常が報告されており,MPN の発症や急性転化にかかわっていると推定されるが,こうした遺伝的変化の詳細はなお十分解明されているとは言い難い.本稿ではそうした遺伝的変化に関して,SNP アレイ解析を通じて得られる知見について,我々の解析例を中心に解説する5〜7).

キーワード
骨髄増殖性腫瘍、SNPアレイ、JAK2、片親二倍体

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MPN モデルマウスから学ぶ



幣 光太郎*   下田和哉**
* 宮崎大学医学部消化器血液内科(第二内科) ** 同教授

要  旨
 変異 JAK2 発現マウスは骨髄増殖性腫瘍(MPN)を発症する.変異 JAK2 の発現量が増加する血球系統に影響を与えており,変異 JAK2 の発現量が多いと主に赤血球が増加し真性赤血球増加症を,少ないと血小板が増加し本態性血小板血症を発症する.MPN initiating cell は正常造血幹細胞と同様,LSK(Linlow Sca1−cKithigh)分画に存在している.JAK2 の変異は造血幹細胞に増殖優位性を付与しないため,MPN の発症には JAK2 変異に加え,増殖優位性を付与する遺伝子変異が必要と推測される.

キーワード
JAK2TET2、真性赤血球増加症、本態性血小板血症

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MPN のリスク分類(予後因子)

臼杵憲祐*
* NTT 東日本関東病院血液内科 部長

要  旨
 本態性血小板血症(ET)と真性赤血球増加症(PV)の生命予後を規定する血栓症の主なリスク因子は年齢 60 歳以上と血栓症の既往であり,最近,白血球増加が報告されている.また JAK2 V617F allele burden は,ET では血栓症のリスクであり,PV では骨髄線維症への進展のリスクである.白血病化のリスク因子は ET では貧血と血小板増加,PV では高齢であり,ヒドロキシ尿素の投与はリスク因子とはならない.原発性骨髄線維症(PMF)では,IPSS,DIPSS,DIPSS Plus などの新しい予後スコアが報告されている.
キーワード
白血球増加、JAK2V617F allele burden、DIPSS、IPSS

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MPN と血栓症メカニズム


猪口孝一*
* 日本医科大学血液内科 教授

要  旨
 骨髄増殖性腫瘍(MPN)は造血幹細胞のクローン性疾患であり,最近では JAK2 V617F 遺伝子変異がこの MPN の主たる変異であることが分かってきた.動脈血栓症,静脈血栓症は頻度が高く,血小板活性化,白血球活性化そして赤血球粘着能亢進がそのメカニズムの主たる原因であるが,その分子生物学的なメカニズムも次第に明らかにされてきている.

キーワード

血栓症、骨髄増殖性腫瘍、真性赤血球増加症、本態性血小板血症

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MPN の治療


小松則夫*
* 順天堂大学医学部血液内科学講座 教授

要  旨
 真性赤血球増加症や本態性血小板血症の予後は良好であり,いかに血栓症の合併を予防するかに治療の主眼が置かれ,血栓症のリスクの高い患者にはヒドロシキ尿素を中心とした抗腫瘍薬投与が行われている.一方,原発性骨髄線維症は一般に予後不良であり,予後予測モデルを活用していかに予後不良群を抽出し,造血幹細胞移植を行うかが重要な鍵になる.現在では JAK2 阻害薬が開発され,これらの治療法は大きく変わろうとしている.

キーワード

骨髄増殖性腫瘍、血栓症、瀉血、抗腫瘍薬、造血幹細胞移植

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MPN の新規治療薬:JAK2 阻害薬

片山直之*
* 三重大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科学 教授

要  旨
 JAK2 遺伝子変異の発見に始まった骨髄増殖性腫瘍(MPN)の分子病態の解明は,これまで合併症の予防と対症療法が中心であった MPN の薬物療法を大きく変化させようとしている.JAK2 阻害薬が開発され,臨床試験において原発性骨髄線維症を中心に,脾腫の縮小,全身的な症状の改善が得られている.MPN 治療は新しい時代を迎えようとしている.

キーワード
骨髄増殖性腫瘍、JAK2阻害薬

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MPN の新規治療薬(JAK2 阻害薬を除く)

田中 勝*
* 栃木県立がんセンター血液内科 医長

要  旨
 JAK2 阻害薬を除く骨髄増殖性腫瘍(MPN)に対する新規治療薬としては,ペグインターフェロン,免疫調整薬,メチル化阻害薬,ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬などがあるが,一定の効果は認められるものの,その効果はいまだ限定的で,今後のさらなる治療法の開発が期待される.

キーワード
ペグインターフェロン、免疫調整薬、メチル化阻害薬、ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬

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MPN に対する造血幹細胞移植

塚田信弘*
* 日本赤十字社医療センター血液内科


要  旨
 本稿では,慢性骨髄性白血病(CML)および骨髄線維症に対する造血幹細胞移植の現時点での戦略を解説する.イマチニブの登場後,CML の治療は激変し,移植の適応はより慎重に判断されるようになった.骨髄線維症に対する造血幹細胞移植では,従来高い治療関連死亡率が問題となっていたが,骨髄非破壊的前処置の導入により移植成績は向上している.

キーワード

造血幹細胞移植、慢性骨髄性白血病、チロシンキナーゼ阻害薬、骨髄線維症、
骨髄非破壊的前処置 

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MPN と遺伝

原田結花*1  原田浩徳*2
*1 広島大学原爆放射線医科学研究所被ばく資料調査解析部
*2 同血液・腫瘍内科 講師

要  旨
 遺伝性あるいは家族性の骨髄増殖性腫瘍(MPN)には,高度な遺伝浸透度を持ち,反応性に単一血球系の増加を来す症候性の MPN と,低遺伝浸透度ながら腫瘍性の多系統血球増加を来す MPN がある.前者は,さまざまな遺伝子の異常によって引き起こされる増殖刺激因子またはその受容体の増殖促進的機能異常により生じる.後者には,MPN を発症しやすい何らかの遺伝的素因があると考えられ,JAK2 遺伝子ハプロタイプとの関連が推測されている.

キーワード
 遺伝性骨髄増殖性腫瘍、、家族性骨髄増殖性腫瘍、Chuvash赤血球増加症、
MPL遺伝子変異、JAK2ハプロタイプ

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慢性好酸球性白血病・特発性好酸球増多症候群の診断と治療

定 明子*1  松井利充*2
*1 神戸大学大学院医学研究科内科学講座血液内科学
*2 小野市民病院血液内科 内科部長

要  旨
 近年,慢性好酸球性白血病・特発性好酸球増多症候群(CEL/HES)の原因として,PDGFRA,PDGFRB,FGFR1 などの受容体型チロシンキナーゼ異常が次々と発見された.2008 年の新 WHO 分類では,これらの分子異常に基づく骨髄系/リンパ系腫瘍という新たなカテゴリーが設けられた.本稿では,さらに 2008 年 WHO 分類以降に明らかになった最新の知見を加味して,HES の診断と治療の現状を概説する.

キーワード
FIP1L1-PDGFRA、PDGFRB、PDGFR1、慢性好酸球性白血病、キナーゼ阻害薬 

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連載
現代社会とうつ病

  現代社会において問題となっております「うつ病」について病気そのものの解説、法、サポート体制などを連載形式で詳しく紹介する目的で連載「現代社会とうつ病」を企画致しました。
 今号から約3年間にわたり国内の診療・研究の最前線でご活躍されている先生方に「うつ病」について詳しくご解説をお願いしております。

 第7回は帝京大学・中尾 睦宏 先生による「疾病について-うつ病と糖尿病」です。

要  旨
 いまやうつ病も糖尿病も有病率の高い国民病となっている.うつ病は見逃されやすく,糖尿病は未治療のまま放置する患者が多いので,医療従事者としては注意が必要である.うつ病患者は糖尿病になりやすく,また糖尿病患者もうつ病になりやすい.特にうつ病と糖尿病が併発した場合は予後が悪いことが分かっており,糖尿病の治療中にうつ病が疑われた場合は早期に精神症状を評価して,うつ病の治療を考慮することが大切となる.

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連載
臨床研究のススメ

 これまで我が国では臨床研究に対する評価はそれほど高いものではなく、諸外国に比べて大きな成果を上げるのが難しい状況でした。最近になってようやく臨床研究が評価されつつあるものの、日本以外のアジア諸国の台頭もあり、我が国の臨床試験の遅滞状況は危機的なものとなっております。
 そこで、この度、臨床研究とはどの様なもので、何に基づき、何をどの様にやらなければならないかをご紹介する目的で先端医療推進財団・理事長 井村 裕夫 先生にご監修頂き「臨床研究のススメ」を企画致しました。

 第8回は京都大学・中尾一和先生に「臨床医学研究の勧め」と題してご解説をお願いしました。 。



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連載
トップランナーに聞く(第11回)
がんにおいて治療の標的となる融合遺伝子を探索するて

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
 第11回は解糖系酵素GPIに関連する関節炎で幅広い研究をされている筑波大学の松本 功 先生にお話を伺いました。

 松本 功 先生

 K/BxN関節炎マウスを用いてGPIに対する自己抗体が単独で関節炎を惹起することを明らかにし、RA患者では、重症な関節炎患者にこの自己抗体が存在し、抗原特異的なT細胞誘導やFcγ受容体の活性化を介してRA病態が起きることが推測されました。さらに生物学的製剤の有効プロファイルがRAに近いGPI誘導関節炎の研究を進め、Th17細胞とIL-6のリンクや、新規TNF誘導分子を同定し、RAを制御しうる分子の同定・治療法の開発を目的として研究を進めています。


トピックス
MicroRNAと循環器疾患


尾野 亘*    木村 剛**
* 京都大学大学院医学研究科循環器内科学 講師 ** 同教授


要  旨
 microRNA(miRNA,miR)は,ヒトにおいて約 1,000 種類が報告され,遺伝子の 50% 以上を制御しているとの報告がある.miRNA は種を越えて保存されており,個体発生のみならず,多くの重要な生命現象をつかさどっていることが明らかになってきた.今後,疾患の早期診断や治療への応用に向けた研究がますます発展してくるものと考えられている.
キーワード
miRNA、non-coding RNA、ABCA1、HDL

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トピックス
イマチニブ耐性 BCR-ABL

一戸辰夫*    木村晋也**
* 佐賀大学医学部内科学講座血液・呼吸器・腫瘍内科学 准教授 ** 同教授


要  旨
 BCR-ABL は,t(9;22)(q34;q11)転座によって形成される BCR-ABL 融合遺伝子の転写・翻訳産物であり,その恒常的なチロシンキナーゼ活性を介して,慢性骨髄性白血病や一部の急性白血病の発症に深く関与する.これらの白血病の治療成績は,ABL キナーゼ活性の特異的阻害薬イマチニブの導入によって大きく向上したが,BCR-ABL 遺伝子の点突然変異によるイマチニブ耐性の克服が新たな課題となっている.

キーワード
BCR-ABL、イマチニブ耐性、チロシンキナーゼ阻害薬、点突然変異

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