最新医学67巻3号 
特集 がんの分子病理診断
   
-免疫染色と遺伝子診断の進歩-

要  旨


座談会 がんの分子病理診断 -現状と近未来-

国立がん研究センター   津田  均 
愛知県がんセンター     谷田部 恭
東京大学          深山 正久(司会)

 座談会の内容
 ・分子病理診断の歴史
 ・分子病理診断の方法論
 ・保険診療上の問題点 など 

 谷田部先生       深山先生      津田先生

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乳がん -HER2 とトリプルネガティブ-

小倉拓也*   津田 均**
* 国立がん研究センター中央病院病理科・臨床検査科 ** 同科長

要  旨
 個々の乳がんの生物学的特性の指標は,組織型,グレードなどの病理学的指標と,ホルモン受容体,HER2 などの分子レベルの指標に大別される.2011 年の St. Gallen コンセンサス会議では,手術可能乳がんを有する患者の術後補助薬物療法の決定の際に,ホルモン受容体,HER2 ならびに Ki67 の検査によるサブタイプ分類を行うことが推奨され,これらの検査が診療現場で不可欠となった.現時点では病理学的指標とサブタイプ分類の組み合わせが,手術可能な乳がん患者の予後予測,治療適応決定に最も有効であると思われる.今後さらに治療の個別化に適応した診断体系の確立が望まれる.

キーワード
乳がん、サブタイプ分類、HER2、トリプルネガティブ

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胃がん-分子標的 HER2-

桑田 健*
* 国立がんセンター東病院病理科・臨床検査科

要  旨
 がんの増殖・維持にかかわる分子標的治療薬の開発が,がん治療の戦略を変えつつある.胃がんにおいても,これまで乳がんで用いられてきた HER2 を標的とする抗体トラスツズマブによる生存率改善効果が証明され,実臨床に使用され始めた.一方で,トラスツズマブの適応となる胃がんは病理学的に HER2 陽性であることが確認されたものに限定されており,臨床においてもその判定基準に対する理解が必要である.

キーワード
胃がん、分子標的、HER2

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肺がん -1.EGFR-

谷田部 恭*
* 愛知県がんセンター遺伝子病理診断部 部長

要  旨
 2004 年に2つのグループが,EGFR 遺伝子のチロシンキナーゼ領域に変異が存在し,その変異の有無とゲフィチニブの反応性との関連を指摘して以来,EGFR 遺伝子変異の有無は肺がん患者において治療方法を選択するのに欠かせない情報になっている.本稿では,EGFR 遺伝子変異と,その分子標的薬による治療効果と関連のある項目について概説を試みている.

キーワード
EGFR、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬、肺がん、分子病理診断、分子標的薬

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肺がん -2.ALK-


竹内賢吾*
* 公益財団法人がん研究会がん研究所分子標的病理プロジェクト

要  旨
 2007 年の肺がんにおける EML4-ALK の公表により anaplastic lymphoma kinase(ALK)阻害薬の開発が推進された.分子標的判定法はさまざまであるが,固形がんの場合,病理切片を用いる方法が簡便である.融合遺伝子やその産物の比較的簡便な検出法として,RT-PCR,ISH,および免疫染色が挙げられる.ALK 肺がんの診断に関しては,各検索法の原理と特性,実行性と限界を正しく理解し,実践していくことが肝要である.

キーワード
ALK、肺がん、腎がん、リンパ腫、分子標的

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大腸がん


関根茂樹*1  谷口浩和*2  九嶋亮治**2
*1 国立がん研究センター研究所分子病理分野 ユニット長
*2 同中央病院病理科 **2 同医長

要  旨
 現在,大腸がんにおいて保険適応となっている分子病理学的検査として,①EGFR 抗体製剤の適応決定における EGFR 発現および KRAS 遺伝子変異解析,②リンチ症候群スクリーニングにおけるマイクロサテライト不安定性検査,の2つが挙げられる.本稿ではこれらについて概説する.

キーワード

EGFR、KRAS、マイクロサテライト不安定性、リンチ症候群

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肝細胞がんと分子病理

辻川華子*   坂元亨宇**
* 慶應義塾大学医学部病理学教室 ** 同教授

要  旨
 肝細胞がんの多くでは多段階発がんの過程を示すことが示され,各段階の分子発現異常が研究されてきた.分子発現異常をターゲットとする免疫染色は,一般に異型が弱い早期肝細胞がんの補助診断として,あるいは進行肝細胞がんの予後予測,悪性度判定に応用されてきている.本稿では,中でも早期肝細胞がんの診断に広く応用されている HSP70,GS,GPC3 と,肝幹細胞マーカーであり進行肝細胞がんの悪性度と関連する CK19 を中心に述べる.

キーワード
肝細胞がん、早期、悪性度、肝幹細胞マーカー、CK19

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胆・膵腫瘍の分子病理診断



佐々木素子*   中沼安二**
* 金沢大学医薬保健研究域医学系形態機能病理学 准教授 ** 同教授

要  旨
 解剖学的にも発生学的にも,膵と肝門部-肝外胆管系は近似しており,膵癌(導管癌)と胆管癌,胆・膵の乳頭状と平坦な前癌病変もよく似ている.胆・膵腫瘍の発癌過程では,p53,p16,EZH2,KRAS,DPC4,Hedgehog 系,MUC ムチンなどが重要な役割を持ち,発現様式をはじめダイナミックな変動を示す.これらは胆・膵腫瘍の分子病理診断の代表的なマーカーであり,また分子標的治療の面でも鍵を握る分子と考えられる.

キーワード
肝道癌、膵癌、K-ras、p53、p16、EZH2、MUC

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泌尿器腫瘍

小西 登**  島田啓司*
* 奈良県立医科大学病理病態学講座 講師 ** 同教授

要  旨
 泌尿器腫瘍として,腎細胞がん,膀胱がん(尿路上皮がん),前立腺がんを取り上げた.これらの腫瘍は,2010 年 12 月から 2011 年4月にかけて相次いで「癌取扱い規約」が改訂され,WHO 分類と最新の臨床病理学的知見をもとに新たな組織分類となった.その病理診断にかかわる免疫組織染色について簡潔に解説するとともに,診断や治療にかかわる標的分子について紹介する.

キーワード
腎細胞がん、尿路上皮がん、前立腺がん、免疫組織化学、分子病理診断

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甲状腺癌の遺伝子異常と分子病理診断

近藤哲夫*   加藤良平**
* 山梨大学医学部人体病理学 准教授 ** 同教授

要  旨
 甲状腺癌には,高分化癌(濾胞癌,乳頭癌)から侵襲性が極めて高く致死的な未分化癌まで,多様な組織型が存在する.近年の分子生物学的研究の発展によって,甲状腺腫瘍の発生とプログレッションには甲状腺ホルモン産生にかかわる機能分子の発現変化,遺伝子変異の蓄積,エピジェネティクス異常が深く関与していることが分かってきた.本稿では,甲状腺癌の遺伝子異常と遺伝子診断,免疫組織化学を応用した分子病理診断を概説する.

キーワード
甲状腺癌、遺伝子異常、エピジェネティクス、免疫組織化学

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消化管間質腫瘍(GIST)

廣田誠一*
* 兵庫医科大学病院病理 教授

要  旨
 手術不能な消化管間質腫瘍(GIST)患者へのイマチニブ投与は生存率を著明に改善し,また完全切除後の再発高リスク群 GIST に対するイマチニブ術後補助療法も生存率を改善する.これらの事実を背景に,正確な GIST の診断と的確な術後補助療法対象患者の選択が,GIST の診療において極めて重要となっている.GIST の正確な病理診断には KIT を中心とした免疫染色が必須で,c-kit 遺伝子または PDGFRA 遺伝子の変異検索も有用となる.また,イマチニブ術後補助療法の患者選択には遺伝子型の特定も重要な情報を与える.

キーワード
消化管間質腫瘍(GIST)、KIT、c-kit遺伝子変異、PDGFR遺伝子変異、チロシンキナーゼ阻害薬

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骨軟部腫瘍

孝橋賢一*   小田義直**
* 九州大学大学院医学研究院形態機能病理 ** 同教授

要  旨
 骨軟部腫瘍領域では,分子生物学の発展により,多くの腫瘍特異的遺伝子異常が発見された.特にキメラ遺伝子解析は,診断において欠かすことのできない存在である.そのほかにも,線維性骨異形成の GNAS1 遺伝子異常,悪性ラブドイド腫瘍の SMARCB1/INI1 遺伝子異常が鑑別診断に有用である可能性が示唆されている.しかし,分子生物学的手法にはリスクが存在するのも事実であり,結果の解釈には慎重である必要がある.

キーワード
骨軟部腫瘍、キメラ遺伝子、線維性骨異型性、悪性ラブドイド腫瘍

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悪性リンパ腫

中村直哉*
* 東海大学医学部基盤診療学系病理診断学 教授

要  旨
 リンパ腫は,形態学的診断を基本的な軸としながらも,免疫学的・分子生物学的マーカーを駆使して診断する時代になった.リンパ腫診断に用いられるマーカーは,細胞系列特異マーカー,分化抗原マーカー,遺伝子異常に関連したマーカーの3種類に分けられる.また,疾患特異的な遺伝子異常も容易に検索できるようになった.しかし,リンパ腫の診断に唯一絶対のマーカー(gold marker)は存在しないので,総合的な病理診断が求められる.

キーワード
免疫組織化学、染色体異常、遺伝子診断、リンパ腫

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脳腫瘍の分子病理診断

柴原純二*
* 東京大学大学院医学系研究科人体病理学・病理診断学

要  旨
 現行の脳腫瘍分類は形態分類を基本としているが,腫瘍の分子生物学的特徴が近年相次いで明らかとされ,びまん性膠腫における IDH1 変異,低悪性度膠腫における BRAF 遺伝子異常など,新たなバイオマーカーが診断の場に導入されつつある.また,先進技術を用いた統合的ゲノム解析により,臨床病理像と相関性の高い分子生物学的亜型が髄芽腫などで明らかとされている.脳腫瘍の診断において,腫瘍の分子生物学的側面は今後より重要視されると考えられる.

キーワード
膠腫、髄芽腫、IDH1、BRAF、MGMT

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小児腫瘍

中澤温子*
* 国立成育医療研究センター病理診断部 部長

要  旨
 小児腫瘍における分子病理診断と治療の層別化について,神経芽腫,横紋筋肉腫を例に挙げて概説した.神経芽腫では腫瘍の生物学的特性を鑑みた国際神経芽腫病理分類(INPC),MYCN 遺伝子増幅に加えて,11qLOH や ALK タンパク質発現が予後因子として重要視されてきている.横紋筋肉腫は,従来病理組織学的分類をもとに embryonal histology,alveolar histology の2つのリスクグループに分類されてきた.近年,網羅的遺伝子解析を用いた予後予測因子の検討により,PAX3-FKHR または PAX7-FKHR キメラ遺伝子を有する群とキメラ遺伝子が検出されない群に分けられることが判明し,日本の臨床研究グループの中央病理診断症例の解析では,免疫組織学的な HMGA2 の発現とこれらキメラ遺伝子の有無が関連していることが証明された.

キーワード
小児腫瘍、神経芽腫、横紋筋肉腫、予後因子、遺伝子異常

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連載
現代社会とうつ病

  現代社会において問題となっております「うつ病」について病気そのものの解説、法、サポート体制などを連載形式で詳しく紹介する目的で連載「現代社会とうつ病」を企画致しました。
 今号から約3年間にわたり国内の診療・研究の最前線でご活躍されている先生方に「うつ病」について詳しくご解説をお願いしております。

 第11回は獨協医科大学・井原 裕 先生による「「こころの風邪」はうつ病ではない」です。

要  旨
 うつ病啓発キャンペーンのキャッチフレーズ「こころの風邪」は,「青春のしおり」(作詞:松本隆,作曲:佐藤健,歌:太田裕美,1975)の歌詞に由来すると思われる.この曲では,若い女性の失恋とそれによる幻滅の味気なさが歌われている.この例は,別れというストレス因子により,青年期心性の影響下に予測を超えた苦痛がもたらされたものであり,精神医学的にみて「うつ病」ではなく,「適応障害」と思われる.

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連載
臨床研究のススメ

 これまで我が国では臨床研究に対する評価はそれほど高いものではなく、諸外国に比べて大きな成果を上げるのが難しい状況でした。最近になってようやく臨床研究が評価されつつあるものの、日本以外のアジア諸国の台頭もあり、我が国の臨床試験の遅滞状況は危機的なものとなっております。
 そこで、この度、臨床研究とはどの様なもので、何に基づき、何をどの様にやらなければならないかをご紹介する目的で先端医療推進財団・理事長 井村 裕夫 先生にご監修頂き「臨床研究のススメ」を企画致しました。
 第11回は東京医科歯科大学・田中 博 先生に「薬剤開発とオミックス -先制医療,個別化医療,システム分子医学での薬剤開発-」と題してご解説をお願いしました。

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連載
トップランナーに聞く(第15回)
細胞運動を制御する新たなシグナル伝達機構の解明を目指す

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
 第15回はシグナル伝達機構におけるGardinとそのファミリータンパクの機能について研究されている名古屋大学の榎本 篤先生にお話を伺いました。

 榎本 篤 先生

 AktやWntのシグナル伝達に関連するGirdinファミリー分子群の研究を行っています。これらは細胞の運動能の制御にかかわる分子群であり、生後の神経新生や血管新生、さらにはがんの浸潤にとって重要な分子群であることがわかってきました。現在は、がんの進行においてがん細胞が集団的に浸潤する現象(集団的移動・浸潤)に興味を持ち、新たな研究を始めています。今まで期待とは全く異なる結果によって研究が進展してきたことがほとんどですから、今後もどのような方向に進展していくか楽しみです。

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トピックス
肺がんと炎症

埴淵昌毅*    西岡安彦**
* 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部呼吸器・膠原病内科学分野准教授 ** 同教授


要  旨
 腫瘍局所における炎症は,がんの増殖に適した微小環境の構築,低酸素状態の現出,血管新生の亢進,microRNA の発現変化やがん幹細胞形質の獲得などを誘導することにより,がんの悪性化を促進する.これらの過程には,炎症に伴うEカドヘリンの機能喪失による上皮間葉転換が中心的な役割を担っている.肺微小環境における炎症制御が,肺がんの悪性化阻止に繋がる有望な治療戦略となることが期待される.

キーワード
肺がん、慢性炎症、腫瘍微小環境、上皮間葉転換

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トピックス
潰瘍性大腸炎・クローン病からのがん化

三好 潤*    松岡克善*    日比紀文**
* 慶應義塾大学医学部消化器内科 ** 同教授


要  旨
 潰瘍性大腸炎,クローン病の予後に影響する重要な合併症として,炎症に関連するがん化の問題がある.潰瘍性大腸炎では長期の罹病期間,罹患範囲が広範囲であることが大腸がん発がんの高危険因子として知られている.また近年では,クローン病の大腸病変と大腸がん合併の危険性も報告されている.さらにクローン病ではまれではあるが,小腸がん,痔瘻がんの発生も見られる.両疾患の診療に当たっては,これらがん化の可能性を念頭に置く必要がある.

キーワード
潰瘍性大腸炎、クローン病、大腸がん、小腸がん、痔瘻がん

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