最新医学67巻3月増刊号 
災害医療

要  旨



座談会 東日本大震災を振り返って

札幌医科大学      浅井 康史 
災害医療センター     小井土 雄一
東京臨海病院       山本 保博 (司会)

 座談会の内容
 ・東日本大震災:それぞれの振り返り
 ・津波と火災
 ・原発事故について など 

 小井土先生     山本先生      浅井先生


自然災害
地  震

甲斐 達朗**  伊藤 祐介*   大場 次郎*

*大阪府済生会千里病院千里救命救急センター **同センター長
要  旨
 環太平洋造山帯上に位置する日本は,地震・津波災害から逃れることはできない.毎年,M6.8 以上の直下型地震あるいは海溝型地震が発生している.地震災害では,一時に多くの外傷患者が発生するが,長引く避難生活やストレスのため,心筋梗塞などの地震関連疾患も増加する.地震災害では,医療ニーズが増加する一方,社会基盤が破壊され,日常の医療体制は機能低下を来たす.日頃から病院の地震災害準備が必須である.

キーワード
地震被害、地震長期評価、地震後疾病構造、地震関連疾患、病院災害準備

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自然災害
津  波

久志本 成 樹*1*2
*1東北大学大学院医学系研究科外科病態学講座救急医学分野 教授
*2東北大学病院高度救命救急センター センター長

要  旨
 我が国は世界でも有数の地震多発国であり,M7.5 以上の地震は数年に1度発生し,地震による被害とともに約 15 年に1回の割合で津波により多くの被害が発生してきている.津波被害を避けることは困難であり,いかに被害を最小限にとどめることができるかが求められている.東日本大震災における津波災害は,我が国,特に三陸沖を震源とする過去の災害規模を著しく超えたものではない.死者・行方不明者が負傷者を大きく上回る津波災害の典型であり,急性期におけるクラッシュ症候群への対応などはまれであった.長期にわたる内因性疾患に対しての医療支援を要した本震災の活動経験こそ,世界に活かされるべきものである.

キーワード
津波、自然災害、地震、低体温症、津波肺

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自然災害
火山噴火に対する災害対応

浅井 康文*1*2
*1札幌医科大学救急集中治療医学講座 教授
*2札幌医科大学附属病院高度救命救急センター 部長

要  旨
 過去 100 年に数回またはそれ以上の噴火があった火山活動度ランクAの火山は,有珠山,三宅島,雲仙岳など 13 ある.噴火活動を起すエネルギーは強大で,起きた場合には,火砕流などの被害を最小限にくい止めるために,火山情報に基づいて予知を行い,適確な警告に従って避難するしかない.その際,多数の重症熱傷患者,また重症外傷症例に対しては,広域航空医療搬送体制の構築が必要である.最近の代表的な火山噴火である,雲仙普賢岳,有珠山,三宅島を中心に述べた.

キーワード
普賢岳、有珠山、三宅島、火砕流、広域航空医療搬送体制

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自然災害
台  風

和藤 幸弘
金沢医科大学救急医学 教授

要  旨
 風水害とは強い風と雨が同時に発生してもたらされる災害で,我が国では主に台風によって引き起される.また,我が国では風による被害より,雨による被害のほうが大きいのが普通であるが,強い風を伴うために,高潮や高波による被害が発生することもある.
 最近では,2011 年9月に台風 12 号が,東紀州地域に死者・行方不明者 92 人の大きな被害をもたらしたのは記憶に新しい.
 しかし現代においては,気象観測技術,情報通信の発達によって,台風は現在の地震のように不意に襲来することはない.台風に関する知識のもとに警戒することで,被害は軽減できると思われる.

キーワード
台風、風水害、台風年表

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自然災害
旱魃と飢饉

國井  修*

*(元)長崎大学熱帯医学研究所 教授

要  旨
 日本および世界では多くの旱魃や飢饉が発生し,特に5歳未満児に多くの超過死亡をもたらした.旱魃は天災で飢饉は人災と言われ,旱魃などによる食料不安が発生しても,飢饉に至らぬよう,早期に食料,栄養,保健医療,水衛生対策を講じる必要がある.特に,重度栄養不良には適切な治療栄養,感染症の予防・治療が重要である.今後,日本また世界でも,旱魃・飢饉は想定外の災害ではない.過去から,途上国から学ぶ必要がある.

キーワード
旱魃、飢饉、栄養不良、感染症、緊急支援

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自然災害
豪雨・洪水災害


内藤 万砂文
長岡赤十字病院救命救急センター センター長

要  旨
 豪雨・洪水災害は予知が可能であり,早期避難やインフラ整備が功を奏する.今後想定される首都直下型地震でも,洪水被害は避けられない.長岡赤十字病院が新潟県での3回の救護活動から学んだ豪雨・洪水災害における救護活動の要点を以下に記す.@いち早く現地に足を運び医療ニーズを把握する.Aアウトリーチ型の救護活動を行う.B行政,医師会や保健師と連携し柔軟に対応する.Cこころのケアを念頭に置いた活動をする.

キーワード
洪水、自然災害、豪雨災害、救護活動、避難準備情報

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自然災害
新型インフルエンザ大流行

福家 伸夫
帝京大学ちば総合医療センター救急集中治療センター 教授

要  旨
 インフルエンザ,特にA型は遺伝子変異を繰り返すことで大流行を起しやすい.そうした新しい株が高い病原性を持っていると,人間社会に多数の罹患者と高い死亡率をもたらすことになる.伝播の形態は飛沫と飛沫核を介した接触感染であるため,感染の標準予防策を順守すべきである.肺炎を合併するなど呼吸不全の患者が多くなると,人工呼吸器の不足(現在,全国で 25,000 台程度)とその業務に従事するスタッフの不足が懸念される.

キーワード
新型インフルエンザ、パンデミック、呼吸不全、人工呼吸器、集中治療

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人為災害
化学災害1.製油所などを含む工場(爆発)事故

布施  明
日本医科大学大学院侵襲生体管理学 講師

要  旨
 東日本大震災でC社千葉製油所の火災爆発事故が発生した.危険物貯蔵タンク損傷による火災・爆発の社会的インパクトは強い.1984 年,インド・ボパール化学工場からイソシアン酸メチルが漏洩し,多くの死亡者を出した.工場事故などで問題となる有毒ガスとしては,ほかに塩素,硫化水素,有機溶剤などに留意する.昨今の事例からは,地震,津波,土石流に引き続いて工場(爆発)事故が起るケースが注目される.

キーワード
地震、津波、コンビナート火災・爆発、ボパール、有毒ガス

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人為災害
化学災害2.化学兵器テロ

山口 芳裕
杏林大学救急医学 教授

要  旨
 国際的なテロの脅威は,依然として深刻である.テログループの大量破壊兵器(WMD)への関心は高く,中でも開発や生産に高い技術や資金を必要としない化学兵器は“貧者の核兵器”とも言われて,その生産・使用が危惧されている.本稿では,化学兵器の基本事項とその対処法について概説した.専門家のみならず,広く化学剤の多様な危険性を認識しておく必要がある.

キーワード
化学剤、化学兵器、化学兵器テロ、トキシドローム

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人為災害
化学災害3.放射線被ばく事故

明石 真言**  後藤 孝也*   蜂谷 みさを*
*独立行政法人放射線医学総合研究所 **同理事

要  旨
 放射線による被ばく事故とは,不慮(unintentional)の被ばくであり,結果として有害(deleterious)な障害が現われるか,もしくはその可能性がある事象を言う.病院での診断および治療時の被ばくは,患者の利益のため計算された線量の範囲で意思を持って行うものであり,制御されている限りはこの被ばく事故の範疇ではない.現代社会では放射線の利用は不可欠であるが,放射線に関する知識というと,医療者でも不十分である.決して多くはないが,現実に事故は起っている.1954 年太平洋上ビキニ環礁で行われた米国の核実験による第五福竜丸の被ばく事件から,2011 年3月 11 日に起きた東日本大震災による福島第一原子力発電所事故まで概説するとともに,被ばく医療の特殊性にもふれたい.

キーワード
放射線、被ばく、汚染、東日本大震災

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人為災害
生物テロ(バイオテロ)

岡部 信彦
国立感染症研究所感染症情報センター センター長

要  旨
 天然痘,炭疸,ペスト,ボツリヌス症,野兎病などがバイオテロの可能性の高い感染症として例示される.これらの感染症が疑われたときの最初の窓口は,最寄りの保健所および地元の地方衛生研究所であり,国立感染症研究所がこれを支援する.しかし,事件性が疑われる場合には,警察への通報が最初となる.これらの初期症状は日常的感染症と同様であり,的確な早期診断は困難であろうが,早期検知とその情報共有は,拡大予防のために重要である.基本的に重要なことは,日常の感染症対策の向上につきる.

キーワード
生物テロ、バイオテロ、症候群サーベイランス、病原体管理、地方衛生研究所

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人為災害
大規模火災に対する集団災害医療アプローチ

冨岡 譲二
社会医療法人財団池友会福岡和白病院 副院長・救急センター長

要  旨
 大規模火災では広範囲熱傷,気道熱傷・有毒ガス吸引,多発外傷といった,高度な専門治療を必要とする傷病者が多数発生するため,医療資源を適切に配分することが重要になる.このためには,熱傷や気道熱傷の重症度判定についての知識を加味したトリアージが必要であり,普段から消防機関や行政機関,関係する医療機関が連携した訓練を行っておくことも大事である.

キーワード
大規模火災、集団災害、広範囲熱傷、トリアージ

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人為災害
鉄道事故

中山 伸一
兵庫県災害医療センター 副センター長

要  旨
 鉄道が発達している我が国だけに,鉄道事故はいつでもどこでも起りうる災害である.我が国の鉄道運転事故件数は減少傾向にあるものの,事故1件あたりの死傷者数は増加している.鉄道事故の現場医療対応の基本は,ほかの災害と同じく CSCATTT であり,線路を挟んで現場活動が2つに分断されることを想定した医療チームの配置と活動が求められる.消防との連携のもと,安全の確保と二次災害の防止を最優先する.救出救助作業が難航し,CSM による医療介入が必要な場合はなおさらである.消防と連携しつつ,現場情報を共有しながら関係機関相互での指揮命令系統を確立し,傷病者のヘリコプター搬送も加えた分散搬送につなげることが理想である.

キーワード
鉄道事故、JR福知山線脱線事故、瓦礫の下の医療、クラッシュ(圧挫)症候群、DMAT

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人為災害
わが国の空港内航空機事故災害対策

松本  尚
日本医科大学大学院侵襲生体管理学(救急医学) 准教授

要  旨
 わが国の空港内における航空機事故災害対策は,海外の空港と比較しても計画の具体性に欠け,権限と責任の所在が不明瞭であり,地震災害と同様の関心が払われているとは言えない.各空港は,近年の災害医療に対するニーズの変化や災害派遣医療チーム(DMAT)による災害医療対応に呼応して指揮命令系統の明確化や医療責任者の設置,関係機関間の“調整”における各機関の代表者への十分な権限の付与など,緊急活動計画の改定が必要である.

キーワード
空港、緊急活動計画、DMAT

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人為災害
海難事故

大友 康裕*1**2 加地 正人*2
*1東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科救急災害医学 教授
*2東京医科歯科大学医学部附属病院救命救急センター 講師 **2同教授

要  旨
 広域な海域で発生する海上事故は多様であるが,我が国における海難の4割は港内で発生し,9割以上が 12 海里未満で発生している.船舶の衝突や乗揚げ,油や有害液体物質の排出のほか,台風や津波による自然災害は,人的な被害はもとより,周辺の自然環境の破壊,ライフラインや物流機能の断絶などによる生活基盤の破綻など,ひとたび発生すれば甚大な被害をもたらす災害とも成りうる.

キーワード
海難事故、船舶事故、洋上救急体制、海上保安庁、メディカルコントロール

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人為災害
高速道路事故

原田 将太*   松田  潔**
*山梨県立中央病院救命救急センター救急科 **同センター長

要  旨
 高速道路では事故の発生率は低いが致死率は高い.また,爆発・火災・化学災害など特殊災害の発生を念頭に置く必要がある.千歳高速道路玉突き多重衝突事故など,過去の事例を紹介しながら今後の課題を挙げ,高速道路事故におけるドクターヘリの活用について述べる.ドクターヘリでの救助活動では,二次災害の観点から,現場における着陸場所が主に問題となるため,高速道路本線上の離着陸難易度ランク付け(A〜E)などが検討されている.

キーワード
高速道路、ドクターヘリ、着陸、多重衝突事故

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人為災害
群衆災害

中尾 博之*   石井  昇**
神戸大学医学部附属病院救急部 特命准教授 **同教授

要  旨
 群衆災害は,特定の目的のために特定の場所に集まったイベントである大きなデモ,コンサート,スポーツ,政治集会,宗教的集まり,花火大会などで起ることがある.大きな自然災害よりも群衆災害のほうが,発生頻度は高い.この災害医療対策は,イベントが計画されたときから参画すべきであるが,地域の日常救急医療体制のうえに構築がなされるものであることを,覚えておくべきである.

キーワード
殺到、観衆、観衆内ストレス、減災、防災

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人道的緊急事態
紛争と戦争

二宮 宣文*1*2
*1日本医科大学多摩永山病院病院 教授 *2同救命救急センター センター長

要  旨
 国際法では,国家以外の武装集団間での武力衝突を紛争と呼び,国家間の武力衝突を戦争と呼んでいる.戦争では,実際に戦争をしている軍隊の負傷兵に対する衛生隊による医療と,巻き込まれた民間人に対する赤十字や非軍事医療組織による医療がある.紛争では,赤十字やほかの非政府医療支援組織による災害医療が行われる.いずれにしても,紛争や戦争は救援者自らが巻き込まれるリスクが多く,安全対策を十分行って災害医療を行わなければならない.

キーワード
戦争、紛争、災害医療、難民医療、戦傷外傷

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人道的緊急事態
難民・国内避難民の医療

鵜飼  卓*1*2
*1兵庫県災害医療センター 顧問 *2NPO 災害人道医療支援会(HuMA)顧問

要  旨
 今日も 4,000 万人以上の人々が紛争や災害のために本来の居住地から移住を強いられ困難な生活を送っている.住居や水,食糧も不足し,低栄養に加えて下痢性疾患などのために,疾病罹患率と死亡率が高くなる.国際機関,保護国政府,国際赤十字と NGO とが協力して人道的支援を行うが,支援の需給アンバランスのために貴重な命が失われがちである.人道支援にかかわるものは,難民・国内避難民の人権を尊重し,国際的な支援の最低基準をよく理解し行動すべきである.

キーワード
難民、国内避難民、粗死亡率、低栄養、上腕周囲径

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災害に特徴的な症状と疾病
圧挫(クラッシュ)症候群

小井土 雄一
国立病院機構災害医療センター 臨床研究部長/救命救急センター長

要  旨
 圧挫(クラッシュ)症候群(crush syndrome)は,災害医療の中で最重要な疾患の1つである.その理由として,阪神・淡路大震災において,500 例の防ぎえる災害死(PDD)が発生した可能性があると報告1)されているが,その多くが圧挫症候群であったこと,また,東海地震に対する広域医療搬送計画では,24 時間以内に 600 例の搬送が必要と想定しているが,その半数が圧挫症候群であろうと予想されており2),災害医療においては極めて重要な疾患となる.圧挫症候群においては,早期発見・早期治療が重要である.阪神・淡路大震災で多くの圧挫症候群の PDD が生じたのは,圧挫症候群を目の前にして認識できなかったことが主な理由とされている.圧挫症候群は早期に診断することが重要であり,現場救出時からの医療介入が必要な疾患である.また,一見バイタルサインが安定していても,集中治療を要する疾患であることを肝に銘ずる必要がある.

キーワード
災害医療、圧挫症候群、防ぎえる災害死、広域医療搬送

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災害に特徴的な症状と疾病
エコノミークラス症候群

宮島  衛*   広瀬 保夫**
*新潟市民病院救急科 医長 **同救命救急・循環器病・脳卒中センター センター長

要  旨
 新潟県中越地震の発災後に多発した静脈血栓塞栓症(VTE)はエコノミークラス症候群として広く報道され,車中泊の禁止や弾性ストッキングの着用などの予防が重要視された.しかし,その後に発生した地震や 2011 年3月 11 日の東日本大震災においても,被災者に高率に発症していることが報告されている.深部静脈血栓症(DVT)は肺血栓塞栓症(PTE)の原因となるほか,慢性期の二次的健康被害の原因となるため,長期に及ぶ被災者のケアが必要である.

キーワード
地震、静脈血栓塞栓症、深部静脈血栓症、肺血管塞栓症、下肢静脈エコー

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災害に特徴的な症状と疾病
爆発損傷

奥村  徹    布施  明    徳野 慎一 齋藤 大蔵
日本爆傷研究会

要  旨
 世界中で起っているテロのほとんどが,爆弾テロである.日本では幸いに治安当局の御努力で,1974 年の三菱重工爆破事件以来,大きな爆弾テロは起ってない.それがゆえに,日本の医療界には爆傷治療のノウハウが蓄積していないことにもなっており,万が一,爆弾テロが起きた場合,いかに適切な対応がとれるかが問題となっている.読者諸君は,ぜひとも本稿の内容に目を通し,万が一に備え,爆傷サバイバルカード(本文参照)を準備されたい.

キーワード
爆傷、爆傷肺、テロ対策、国民保護

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災害に特徴的な症状と疾病
低体温症

小早川 義貴   近藤 久禎   小井土雄一
国立病院機構災害医療センター臨床研究部

要  旨
 東日本大震災では巨大津波により,多くの人が津波による溺水で死亡した.津波による被水や避難所の寒冷環境から,低体温症に陥った被災者も多いと考えられている.低体温症は深部体温に応じて,軽度,中等度,高度の3つに分類される.高度低体温症は死亡と区別が難しいことがあり,注意が必要である.東日本大震災における低体温症の実態調査を行い,それに基づいた大規模災害時の低体温症管理に関する包括的な研究と,指針策定が必要である.

キーワード
低体温症、東日本大震災、津波、溺死、多数傷病者

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災害に特徴的な症状と疾病
熱中症

三宅 康史*1*2
*1昭和大学医学部救急医学講座 准教授 *2昭和大学病院救命救急センター センター長

要  旨
 東日本大震災後の福島第一原発事故によって,図らずも熱中症の危険性が高まった.事故対応の作業員や災害救助の人たちにとっては労作性熱中症の,一時立ち入り,避難所・仮設住宅住まいの高齢者には古典的熱中症に対する備えが必要となった.日本救急医学会では,「福島原発事故緊急ワーキンググループ」を立ち上げ,被曝事故や熱中症を含めた当面の問題に対して,災害医療の専門集団として,その収束に向けて多岐にわたる支援にあたったのである.

キーワード
災害関連熱中症、福島第一原発事故、一時立ち入り、避難所、仮設住宅、災害援助

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災害に特徴的な症状と疾病
PTSDと悲嘆 −災害時のこころのケア−

村上 典子
神戸赤十字病院心療内科 部長

要  旨
 災害時のこころのケアとは単に“心”の問題だけではなく,身体的・社会的なケアも包括した“全人的なケア”である.災害時の心の問題として,トラウマ反応や悲嘆反応があるが,いずれも正常な反応として一過性に現れることがある.しかし,遺族の場合は心の傷が深く大きいこともあり,十分な配慮が必要である.災害医療にかかわるすべての人に,被災者の精神的苦痛に対する“プライマリーなこころのケア”の素養を身につけていただきたい.

キーワード
災害、PTSD、悲嘆、遺族、こころのケア

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災害に特徴的な症状と疾病
惨事ストレス

中田 敬司
東亜大学医療学部 准教授

要  旨
 惨事ストレス(CIS)は,地震などの自然災害,交通事故などの人為災害,さらに暴力・レイプなどの暴力的行為の惨事に直面した人および惨事の様子を見聞きした人に起るストレス反応である.これは直接的被災者のみならず,その救援にかかわった救援者にも影響を与えるものであることから,個人や組織として活動の目的を明確する,またミーティングの効果的活用など,その対策や予防について,しっかりとした理解が必要となる.

キーワード
急性ストレス障害、心的外傷後ストレス障害、救援者ストレス、精神保健、災害・事故

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災害医療活動
DMAT:災害派遣医療チーム

近藤 久禎
国立病院機構災害医療センター臨床研究部政策医療企画研究室 室長

要  旨
 阪神・淡路大震災や新潟県中越地震の教訓から,本邦には全国的に災害派遣医療チーム(DMAT)が整備されてきた.そして,その活動を支援するものとして,広域災害・救急医療情報システム(EMIS)も機能拡充してきた.東日本大震災において 47 全都道府県から,380 チームの DMAT が迅速に参集して活動した.災害急性期への対応システムの有効性が確認された.しかし,現在想定される大震災に対応するためには,さらなる体制の充実とその維持が重要である.

キーワード
DMAT、EMIS、広域医療搬送、SCU、災害医療

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災害医療活動
自衛隊災害医療

齋藤 大蔵
防衛医科大学校防衛医学研究センター外傷研究部門 教授

要  旨
 2011年3月11日に発災した東日本大震災は東北地方沿岸部を中心に未曾有の被害を及ぼした.防衛省・自衛隊は被災者の人命救助のために迅速な初動対応を行い,100,000 人態勢で臨んだ.偵察活動,捜索・救助,物資輸送,患者空輸,通信確保,応急医療,特殊災害対応,入浴支援,給水・給食支援,復旧活動など,充実した装備のもとに多岐にわたる災害活動を行い,自衛隊の衛生部門は医官を中心に被災地などで医療活動を実施した.

キーワード
東日本大震災、自衛隊、装備、災害医療活動、医官

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災害医療活動
ドクターヘリ

中村 光伸*   中野  実**
*前橋赤十字病院高度救命救急センター集中治療科・救急科 副部長 **同部長

要  旨
 阪神・淡路大震災をきっかけに,ドクターヘリは運航を開始し,全国に普及した.その後災害時に出動し,患者の搬送,人員や資機材の搬送を行った.東日本大震災では,22 機のヘリが被災地内外で活動し,災害時初動医療体制において有効であることを示した.しかし,運用の問題や法律上の問題,通信手段の確保,災害対応機関との情報共有体制の問題など,課題が多い.今後起りうる大震災への備え,早期解決を行わなければならない.

キーワード
ドクターヘリ、広域災害、DMAT

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災害医療活動
日本医師会の災害医療活動:JMATを中心に

石井 正三
日本医師会 常任理事

要  旨
 JMAT は,日本医師会が東日本大震災を受けて結成した災害医療チームであり,避難所や救護所などでの医療や被災医療機関の支援を役割とする.JMAT には,医師会員・非会員を問わず,また開業医か病院勤務医にかかわらず,多数の医師が参加した.
 日本医師会の活動は JMAT にとどまるものではなく,医薬品輸送,検案協力,医療復興,保健医療関係者の力の結集,国の防災対策への参画や医師の教育研修など多岐にわたる.

キーワード
JMAT、日本医師会、災害医療、地震、津波

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災害医療活動
災害ロジスティックス

千田  良
日本災害医療ロジスティック協会

要  旨
 災害医療ロジスティックスの要諦は,平時に自らの能力を評価したうえで,災害に備える計画の策定,備蓄,訓練の,いわゆる PDCA(plan−do−check−act)サイクルを実行することにある.災害が発生したときは,平時に立案,訓練をしている計画に基づき,行政や地元医師会などの関係機関との連携,および調整を行い,現地における医療救援活動に,必要な医薬品,資器材などの調達,保管,スタッフの安全,健康の管理を行っていかねばならない.

キーワード
災害医療、ロジスティックス

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