最新医学67巻5号 
特集 脊髄小脳変性症(SCD)のUp-To-Date
   


要  旨


座談会 脊髄小脳変性症の克服を目指して
       ―脊髄小脳変性症をいかに克服するか―

新潟大学         西澤 正豊 
北海道大学        佐々木 秀直
東京医科歯科大学    水澤 英洋 (司会)

 座談会の内容
 ・SCDの疫学的実態
 ・SCDの病態解明の現状
 ・SCDの治療法開発はどうすべきか など 

 佐々木先生     水澤先生       西澤先生

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孤発性 SCD
多系統萎縮症(MSA)

伊藤瑞規*   渡辺宏久**  祖父江 元***
* 名古屋大学大学院医学系研究科神経内科 ** 同講師 *** 同教授

要  旨
 多系統萎縮症(MSA)は,小脳失調,パーキンソニズム,自律神経障害がさまざまな程度で出現する孤発性神経変性疾患である.1999 年の合意声明により,パーキンソニズムが主体の MSA-P,小脳失調が主体の MSAミC に分類された.2008 年には病初期の感度の改善された第二版が作成され,臨床指標としては UMSARS が広く用いられている.また,診断に有用な新しい頭部 MRI や PET の指標が開発され,突然死にかかわる気道閉塞の病態理解も重要である.

キーワード
多系統萎縮症、UMSARS、頭部MRI、PET、気道閉塞

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孤発性 SCD
皮質性小脳萎縮症(CCA)

吉田邦広*
* 信州大学医学部神経難病学講座 教授


要  旨
 皮質性小脳萎縮症(CCA)は,孤発性の脊髄小脳変性症(SCD)の一型である.臨床的には緩徐進行性の小脳失調を主徴とするが,錐体路徴候や末梢神経障害などの小脳外徴候をしばしば併発する.診断において最も重要な点は,遺伝性 SCD,既知の原因・外因による小脳失調症,多系統萎縮症を除外することである.現時点で CCA は臨床・病理学的に単一の疾患単位ではない可能性があり,今後,病因・病態の解明が待たれる.

キーワード
皮質性小脳委縮症、孤発性、純粋小脳型、オリーブ橋小脳萎縮症

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常染色体優性遺伝性 SCD
Machado-Joseph 病(MJD)

金井数明*
* 千葉大学大学院医学研究院神経内科学

要  旨
 Machado-Joseph 病(MJD)は,常染色体優性遺伝形式の遺伝性脊髄小脳変性症(SCD)の一型であり,本邦で最も頻度の高いものであると考えられている.MJD は多彩な臨床病型をとることが知られている.MJD における最近の分子生物学的研究の進歩,治療法開発の最近の動向および臨床マネジメントについてレビューする.

キーワード
脊髄小脳変性症、Machado-Joseph病、臨床的マネージメント

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常染色体優性遺伝性 SCD
脊髄小脳失調症6型(SCA6)


渡瀬 啓*1  水澤英洋**1*2
*1 東京医科歯科大学脳統合機能研究センター准教授 **1 同教授
*2 同大学院医歯学総合研究科脳神経病態学 教授

要  旨
 脊髄小脳失調症6型(SCA6)は,CACNA1A 遺伝子のエキソン 47 に存在する CAG リピートの異常伸長による常染色体優性遺伝性変性疾患で,選択的プルキンエ細胞脱落とプルキンエ細胞内の凝集体形成が特徴的である.近年,SCA6 の発症機構に関して,病態を再現するモデルマウスの解析や患者小脳組織の分子病理学的・生化学的解析から多くの知見が得られており,病態生理に基づいた治療法の開発に大きな展開が期待される.

キーワード
ポリグルタミン病、電位依存性カルシウムチャネル、プルキンエ細胞、ノックインマウス、選択的スプライシング

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常染色体優性遺伝性 SCD
脊髄小脳失調症 31 型(SCA31)


石川欽也**1  佐藤 望*1  新美祐介*1 網野猛志*2  
融 衆太*3  水澤英洋***1

*1 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科脳神経病態学(神経内科)
**1 同講師 ***1 同教授   *2 武蔵野赤十字病院神経内科 副部長
*3 中野総合病院神経内科 主任医長

要  旨
 脊髄小脳失調症 31 型(SCA31)は,我が国で頻度が高く,諸外国にはほとんど見いだされない日本人特有の SCA である.その原因は非翻訳領域に存在する5塩基繰り返し配列の挿入伸長であり,内部に(TGGAA)n リピートが存在することが必須である.本稿ではその臨床的・神経病理学的特徴を記し,人種によってリピートの配列が異なるというユニークな特徴を概説する.

キーワード

SCA31、プルキンエ細胞、非翻訳型リピート、神経病理、神経遺伝

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常染色体優性遺伝性 SCD
歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)

鈴木一詩*
* 東京大学神経内科

要  旨
 歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)は,DRPLA 遺伝子(atrophin-1)中の CAG リピートの異常伸長が原因のポリグルタミン病の一種で,日本での有病率が高く顕著な表現促進現象を認める点,リピート長に依存した多彩な神経症状を示す点が特徴的である.変異タンパク質の核内蓄積による「神経細胞死を伴わない神経細胞の機能障害」が有力な病態仮説であり,転写活性化に主眼を置いた治療に期待が寄せられている.

キーワード
歯状赤核淡蒼球ルイ体委縮症、ポリグルタミン病、変異タンパク質蓄積、遺伝子転写障害、DRPLA、トランスジェニックマウス

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常染色体優性遺伝性 SCD
その他のポリグルタミン病 (SCA1,SCA2,SCA7,SCA17)



安井建一*1  足立芳樹*2  中島健二**1
*1 鳥取大学医学部脳神経医科学講座脳神経内科学分野 **1 同教授
*2 国立病院機構松江医療センター臨床研究部 部長

要  旨
 原因遺伝子翻訳領域内の CAG リピートが異常伸長することで発症するポリグルタミン病は,1990 年代から 2000 年代初めに原因遺伝子が同定され,多くの遺伝性神経疾患,特に常染色体優性遺伝性小脳失調症(ADCA)の病態解明研究に繋がった.脊髄小脳失調症(SCA)は遺伝的背景や創始者効果から人種,国,地域により頻度が異なり,本邦では Machado-Joseph 病(MJD)/SCA3,SCA6,歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)の頻度が高い.本稿では,これら3疾患以外の4つのポリグルタミン病(SCA1,SCA2,SCA7,SCA17)について,頻度,病理所見,原因遺伝子,臨床的特徴について概説した.

キーワード
Harding分類、表現促進現象、創始者効果、1C2抗体、神経細胞核内封入体

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常染色体優性遺伝性 SCD
通常の変異による脊髄小脳失調症 (SCA11,SCA14,SCA15,SCA35)

佐藤和則*1  佐々木秀直*2
*1 JA 厚生連帯広厚生病院神経内科
*2 北海道大学大学院医学研究科神経内科学分野 教授

要  旨
 常染色体優性遺伝性脊髄小脳失調症の多くは,原因遺伝子上に存在する CAG などの3塩基の繰り返し配列の異常伸長をその原因とするが,翻訳領域における点変異や欠失などを認める例もまれではない.その例として,SCA11,SCA14,SCA15 および SCA35 をとりあげ,原因遺伝子発見までの歴史的経緯,臨床的特徴,分子生物学的背景の概略を示す.

キーワード
遺伝性脊髄小脳失調症、SCA11、SCA14、SCA15、SCA35

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常染色体優性遺伝性 SCD
非翻訳リピート異常伸長による脊髄小脳失調症 (SCA8,SCA10,SCA12,SCA36)

松浦 徹**  池田佳生*   阿部康二***
* 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科脳神経内科学 講師
** 同准教授 *** 同教授

要  旨
 SCA8,SCA10,SCA12,SCA36 は,非翻訳領域リピート伸長を責任遺伝子変異とする.筋強直性ジストロフィー,脆弱X関連振戦・失調症候群などを含めて,優性遺伝性非翻訳領域リピート病または RNA リピート病と総称されてきた.RNA 機能獲得(RNA gain-of-function)という新たな疾患発症概念が提唱され,伸長 RNA リピートに結合する核内 RNA 結合タンパク質の制御異常が共通する主な病態機序と考えられているが,疾患特異的なメカニズムも存在する.今後の詳細な病態解析と,それに基づく合理的な分子標的療法の開発が望まれる.

キーワード
脊髄小脳失調症、非翻訳リピート異常伸長、RNA病態

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常染色体劣性遺伝性 SCD
眼球運動失行を伴う失調症1型,2型 (AOA1,AOA2)

西澤正豊*

* 新潟大学脳研究所神経内科 教授

要  旨
 眼球運動失行(OMA)は衝動性眼球運動の開始障害である.Friedreich 運動失調症に類似する早発性運動失調症の一群は,OMA と低アルブミン血症を特徴とすることから EAOH/AOA1 と呼ばれ,原因遺伝子として aprataxin が同定された.同じく OMA を特徴とする早発性失調症で,アルブミンは正常で α-フェトプロテインが高値となる一群は AOA2 と呼ばれ,セナタキシンに変異が認められる.いずれも DNA 損傷修復機構の異常が想定されている.

キーワード
眼球運動失行、EAOH/AOA1、AOA2、アプラタキシン、セナタキシン

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常染色体劣性遺伝性 SCD
Friedreich 病とビタミンE単独欠損性失調症

内原俊記*
* 東京都医学総合研究所脳病理形態研究室

要  旨
 Friedreich 病とビタミンE単独欠損性失調症は,脊髄後索型の進行性失調を呈する常染色体劣性遺伝の疾患で,同定された遺伝子異常も酸化ストレスに関連する点で共通する.しかし多様な臨床・病理像の詳細は異なる点もあり,「酸化ストレス」という概念で病態や部位特異性を説明できるわけではない.関連分子フラタキシンやα-トコフェロール転移タンパク質の機能は酸化ストレスを越えて多様であることを踏まえて,治療戦略を構築する必要がある.

キーワード
α-トコフェロール転移タンパク質、後索型失調、酸化ストレス

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常染色体劣性遺伝性 SCD
シャルルヴォア・サグネ型痙性失調症(ARSACS)

瀧山嘉久*
* 山梨大学大学院医学工学総合研究部神経内科学講座 教授

要  旨
 シャルルヴォア・サグネ型痙性失調症は,カナダ,ケベック州の患者で初めて報告されたが,現在では本邦をはじめ世界各地でその存在が知られている.ケベック例の臨床像はほぼ均一であるが,本邦を含む非ケベック例では多様性があり,本疾患に特徴的な網膜有髄線維の増生や下肢痙縮を欠く例,知能低下を認める例があることに注意する必要がある.今後,SACS 遺伝子変異が次々に同定されるにつれて,「サクシノパチー」の臨床スペクトラムは広がる可能性がある.

キーワード
シャルルヴォア・サグネ型痙性失調症、痙性失調症、MRI、SACS遺伝子、sacsin

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SCD の治療
脊髄小脳変性症治療の現状と展望

松本英之*1  宇川義一*2
*1 日本赤十字社医療センター神経内科 部長
*2 福島県立医科大学附属病院神経内科 教授

要  旨
 脊髄小脳変性症(SCD)の小脳症状に対する治療薬は,プロチレリン酒石酸塩とタルチレリンのみである.実際には,小脳失調,小脳失調以外の付随する症状に対して,適切な対症療法を行うことが重要となる.研究面では,二重盲検比較試験にて,イデベノン(idebenone),リルゾール,反復経頭蓋磁気刺激療法の有効性が示されており,臨床応用が期待されている.本稿では臨床面と研究面から,SCD 治療の現状と展望について概説する.

キーワード
プロチレリン酒石酸塩、タルチレリン、イデベノン、リルゾール、反復経頭蓋磁気刺激療法

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SCD の治療
脊髄小脳変性症のリハビリテーション

畠中めぐみ*   服部憲明*   三原雅史*    宮井一郎**
* 社会医療法人大道会森之宮病院神経リハビリテーション研究部 ** 同院長代理

要  旨
 脊髄小脳変性症(SCD)のリハビリテーションに対する有効性の検証には,自然史の把握や妥当な評価スケールの使用が必要である.本邦の包括的な介入研究では,4週間の集中リハビリテーションが小脳性運動失調に効果あり,約3ヵ月間持続した.一方,感覚入力強化など特異的なリハビリテーション介入手法に対する検証は乏しい.進行性の変性疾患において,活動性を維持向上できるような病初期からの環境設定が望ましい.

キーワード
脊髄小脳変性症、小脳性運動失調、リハビリテーション、運動学習

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連載
現代社会とうつ病

  現代社会において問題となっております「うつ病」について病気そのものの解説、法、サポート体制などを連載形式で詳しく紹介する目的で連載「現代社会とうつ病」を企画致しました。
 今号から約3年間にわたり国内の診療・研究の最前線でご活躍されている先生方に「うつ病」について詳しくご解説をお願いしております。

 第13回は東京女子医科大学・坂本 薫 先生による「若年者の非定型的なうつ病」です。

要  旨
 勤勉・他者のための奉仕というメランコリー親和型的な倫理観に根差した典型的なうつ病とは異なり,近年の診療場面では,若年層を中心に,自責感に乏しく他責傾向が目立つ「現代型うつ病」患者が増加している.「現代型うつ病」の臨床的特徴とその治療的対応のポイントを示したい.

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連載
臨床研究のススメ

 これまで我が国では臨床研究に対する評価はそれほど高いものではなく、諸外国に比べて大きな成果を上げるのが難しい状況でした。最近になってようやく臨床研究が評価されつつあるものの、日本以外のアジア諸国の台頭もあり、我が国の臨床試験の遅滞状況は危機的なものとなっております。
 そこで、この度、臨床研究とはどの様なもので、何に基づき、何をどの様にやらなければならないかをご紹介する目的で先端医療推進財団・理事長 井村 裕夫 先生にご監修頂き「臨床研究のススメ」を企画致しました。
 第13回は北里大学・熊谷 雄治 先生に「国際共同治験,我が国の課題」と題してご解説をお願いしました。

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連載
トップランナーに聞く(第16回)
細胞運動を制御する新たなシグナル伝達機構の解明を目指す

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
 第17回は免疫系ヒト化マウスモデルを駆使した生体防御メカニズムの解明で先進的な成果を上げられている理化学研究所の石川 文彦 先生にお話を伺いました。

 石川 文彦 先生

 ヒト造血幹細胞・免疫・白血病を中心に研究しています。特に、免疫不全マウスに正常造血幹細胞を移植することでヒトの血液・免疫系を再構築する免疫系ヒト化マウスや、白血病幹細胞を移植することで患者病態を再現する白血病ヒト化マウスを開発しています。ヒト化マウスを用いて、in vivoでヒト細胞の動態・分化・機能を解析するシステム構築を目指すとともに、疾病克服のトランスレーショナルリサーチを実現したいと考えています。

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トピックス
関節炎におけるマイクロ RNA の機能

浅原弘嗣*1*2
*1 東京医科歯科大学医歯学総合研究科システム発生再生医学分野
*2 国立成育医療センター研究所


要  旨
 新しい遺伝子群として,タンパク質に翻訳されずに働くノンコーディング RNA のグループの1つであるマイクロ RNA(microRNA,miRNA)が注目されている.miRNA の働きは複数のターゲット遺伝子発現の抑制にあり,それら制御の総和として強力な生物学的活性を持つことが明らかになってきている.関節炎における病態解明においても,慢性炎症の病態への関与と破壊される軟骨の保護,再生の両面から,解析,解明が進んでいる.

キーワード
マイクロRNA、関節リウマチ、変形性関節症、ノンコーディングRNA、関節炎

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トピックス
心不全のトランスクリプトーム

塩井哲雄**   棚田洋平*
* 京都大学大学院医学研究科循環器内科学 ** 同講師


要  旨
 新しく心不全と診断された患者の予後は患者ごとに著しく異なる.既存の予後予測因子に加え,さまざまな基礎疾患により異なる病期にある個々の患者の治療を最適化するには,新たな指標が必要である.トランスクリプトーム解析により,病態によって変化する特定の遺伝子や遺伝子セットの変化を見いだすことにより,新しい心不全の診断と治療の開発に繋がるものと期待されている.

キーワード
心不全、トランスクリプトーム、個別化医療、分子署名、マイクロアレイ

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