最新医学67巻7号 
特集 心不全 -変貌する病態と治療-
   


要  旨


座談会 心不全治療の現状と課題

大阪大学          澤 芳樹 
鳥取大学           山本 一博
大阪大学          小室 一成(司会)

 座談会の内容
 ・拡張心不全
 ・診断法
 ・治療法
 ・心不全治療の今後の期待 など 

 山本先生      小室先生        澤先生

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我が国の心不全の現状心不全の実態を探る
急性心不全レジストリーから

佐藤直樹*
* 日本医科大学武蔵小杉病院内科・循環器科・集中治療室 教授

要  旨
 心不全患者は年々増加傾向で,疫学研究によりその実態を知ることは大切である.急性心不全疫学調査(ATTEND registry)による日本の特徴は,新規発症が多く,長期入院で,7割の患者が急性期にカルペリチドで,慢性期は多くがアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬で治療されている点である.これらは必ずしもエビデンスに基づいておらず,今後の日本の心不全診療の質を向上する意味からも,検討すべき重要な点である.

キーワード
疫学研究、薬物療法、短期予後、慢性期治療、ガイドライン

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進歩を続ける心不全の診断法
診断・治療に有用なバイオマーカー

豊田 茂*   井上晃男**
* 獨協医科大学心臓・血管内科 准教授 ** 同教授


要  旨
 バイオマーカー測定は,簡便かつ経時的に施行でき,診断・治療において客観的な評価が可能である.慢性心不全ガイドラインでは,BNP,NT-proBNP,心筋トロポニンが推奨されているバイオマーカーである.しかしながらバイオマーカーのみでは心不全の診断・治療に不十分であり,症状や他の検査所見との組み合わせで総合的に判断することが大切である.

キーワード
バイオマーカー、心不全、BNP、NT-proBNP、心筋トロポニン

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進歩を続ける心不全の診断法
心エコー図法による心機能評価の進歩

尾長谷喜久子*   吉田 清**
* 川崎医科大学循環器内科 ** 同教授

要  旨
 心エコー図法は,心臓の形態や大きさといった解剖学的な情報ばかりでなく,心筋の運動や血流の情報からさまざまなパラメーターを抽出し,心機能を評価することが可能であり,心不全の診断,治療判定,経過観察に欠かすことのできない手法である.心エコー図法ではMモードおよび断層心エコー図法,パルスおよび連続波ドプラ法,組織ドプラ法といった手法が用いられてきたが,近年スペックルトラッキング法や三次元心エコー図法といった新しい手法も紹介されている.

キーワード
心不全、拡張能、スペックルトラッキング法、三次元心エコー図法

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進歩を続ける心不全の診断法
CT,MRI で心臓の性状を知る


船橋伸禎*
* 千葉大学大学院医学研究院循環器内科 講師

要  旨
 MRI,CT 両者により,さまざまな疾患で左室遅延造影を明瞭に描出することができ,同部位の心筋に線維化や炎症による浮腫の存在が推測される.CT による遅延造影描出の検出能は MRI と比較しても良好で,両者の左室遅延造影総容積の計測値の相関も良好であるが,CT は MRI より左室遅延造影容積を過小評価する傾向にある.しかし,MRI,CT で左室遅延造影が観察される肥大型心筋症群は両者とも予後が不良であり,CT による心筋性状評価は冠動脈評価と合わせ,心筋疾患の予後評価に有用であると考えられる.
1.CT でも MRI と同様,間質の存在を示唆する左室遅延造影を検出することができる.
2.CT で左室遅延造影を示す心筋疾患には,肥大型心筋症,各種浸潤病,貯蔵病,炎症性心筋疾患,心筋梗塞症が挙げられる.
3.CT の遅延造影の描出能を MRI と比較したところ,感度,特異度,陽性,陰性的中率はそれぞれ 65%,87%,63%,88% であった.
4.CT,MRI 両者で左室遅延造影が検出された症例で,CT,MRI の左室遅延造影総容積の計測値の相関は良好であったが,CT は濃度分解能に優れる MRI より左室遅延造影容積を過小評価する傾向にあった.
5.肥大型心筋症では,MRI もしくは CT で左室遅延造影が観察された場合,主要有害心事象に関して予後が悪い傾向にあった.


キーワード
左室遅延造影、間質、線維化、炎症による浮腫、肥大型心筋症、拡張型心筋症、浸潤病、沈着病、炎症性疾患、予後評価

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利尿薬を再考する ―hANP,バソプレシン受容体拮抗薬―


堀井 学*1  斎藤能彦*2
*1 市立奈良病院循環器科 部長
*2 奈良県立医科大学第一内科学 教授

要  旨
 本稿では,心不全治療に必要不可欠な利尿薬,とりわけナトリウム利尿ペプチドおよびバソプレシン受容体拮抗薬について概説する.前者は,利尿作用により心前負荷を軽減し,血管拡張作用により左心後負荷を軽減し,さらにレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の阻害作用も有する薬剤で,その予後改善効果を示す報告もある.一方バソプレシン受容体拮抗薬は,腎集合尿細管における水の再吸収を阻害して水利尿を促進する新しい水利尿薬であるが,エビデンスの蓄積が少なく,今後の評価が待たれるところである.

キーワード

心不全、利尿薬、ANP、BNP、トルバプタン

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治療法の進歩
慢性心不全患者におけるβ遮断薬の有用性とイバブラジンの効果

安村良男*
* 独立行政法人国立病院機構大阪医療センター循環器内科 科長

要  旨
 慢性心不全は,神経体液性因子の亢進と左室リモデリングがその病態の中心的役割をなし,β遮断薬は慢性心不全治療の基礎薬としての地位を確立している.β遮断薬がなぜ有効か,そのメカニズムについては完全に解明されているわけではない.最近,特異的に心拍数を減少させるイバブラジンの臨床効果が報告されたが,β遮断薬の有効性のメカニズムは,従来示唆されていたように交感神経活性の抑制による心筋細胞の質的変化が基本と思われる.

キーワード
慢性心不全、β遮断薬、リモデリング、心拍数

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治療法の進歩
生命予後を改善する CRT-D



山崎 浩*   青沼和隆**
* 筑波大学大学院人間総合科学研究科医学系専攻循環器病態学分野 ** 同教授

要  旨
 薬剤抵抗性心不全患者を対象とした複数の無作為大規模試験において,洞調律で左脚ブロックを呈する左室機能低下例(左室駆出率<35%)に対する心臓再同期療法の有効性が示されて以降,心臓再同期療法は,心房細動症例,非左脚ブロック症例,ペーシング依存例などさまざまな病態に対しても広く施行されるようになった.本稿では,心不全に対する内科的集学治療として多く行われるようになった心臓再同期療法の効果に関して概説する.

キーワード
薬剤抵抗性心不全、NYHA、心臓再同期療法、同期不全、左室リード

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治療法の進歩
植込み型補助人工心臓治療の進歩とDestination Therapy

小野 稔*
* 東京大学大学院医学系研究科心臓外科 教授

要  旨
 植込み型補助人工心臓(VAD)は,連続流ポンプの導入によって小型化が急速に進んできた.我が国においては,EVAHEART と DuraHeart が bridge to transplant(BTT)目的で 2011 年春より保険償還を受け,重症心不全治療の幅が大きく広がった.2012 年中には HeartMateⅡや Jarvik 2000 が承認され,治療の選択肢がさらに広がる.2010 年に HeartMateⅡが destination therapy(DT)適応を受けてから,世界では DT 目的の装着が急速に増加している.今後,さらに信頼性の高い VAD が開発されることによって DT 目的の装着は増加すると考えられ,我が国においても早急に DT 適応導入の議論が必要である.

キーワード
補助人工心臓、Bridge to transplant、Destination therapy、INTERMACS、J-MACS

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分子機序とトピックス
慢性心不全の分子機構

塩島一朗*
* 関西医科大学第二内科 教授

要  旨
 心不全の主要な病態は,機能心筋の喪失と心筋細胞そのものの収縮不全であり,これらの病態を引き起こすメカニズムは心不全の基礎疾患によって異なる.本稿では心不全の主要な分子機構として,心筋細胞死,心筋 Ca 調節異常,心筋虚血,慢性炎症の4つについて解説する.これら複数の要素の相互作用を解明していくことが,心不全の病態の全体像を明らかにし,有効な治療法を開発することに繋がっていくものと期待される.

キーワード
心筋細胞死、心筋Ca調節異常、心筋虚血、慢性炎症

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分子機序とトピックス
拡張不全の機序と治療

杜 徳尚*   伊藤 浩**

* 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科循環器内科 ** 同教授

要  旨
 近年,人口の高齢化と動脈硬化性疾患の増加に伴い,左室駆出率が正常の心不全,いわゆる拡張不全が増加してきている.拡張不全については現時点で確立された治療法はなく,少なくとも予後良好の症候群ではなさそうであるが,その一方で,これまでの報告の解釈を含め不明な点が多い.その原因の1つとして,曖昧な疾患概念ゆえに診断基準が統一されていなかったことが挙げられる.本稿では,現時点で判明している拡張不全治療のエビデンスについて述べたい.

キーワード
心不全、拡張不全、治療

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分子機序とトピックス
Structural Heart Disease を内科的に治す

溝手 勇*
* 大阪大学大学医学系研究科先進心血管治療学

要  旨
 循環器領域におけるカテーテル治療の代表が冠動脈形成術である.近年,冠動脈疾患以外の心疾患に対するカテーテル治療法が開発され,臨床応用されている.このようなカテーテル治療の対象となる疾患は,構造的心疾患(structural heart disease:SHD)と総称されている.具体的な疾患は,弁膜疾患(AS/MS/MR など),および成人先天性心疾患(ASD/PDA など)である.本稿においては,弁膜疾患に対するカテーテル治療の最近のトピックである,重症大動脈弁狭窄症に対するカテーテル治療 TAVR(TAVI)について概説する.

キーワード
Structural heart disease(SHD)、Transcatheter aortic valve replacement(TAVR)、Transcatheter aortic valve implantation(TAVI)

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分子機序とトピックス
睡眠呼吸障害を診断し治療する方法と意義

百村伸一*
* 自治医科大学附属さいたま医療センター循環器科 教授

要  旨
 心不全には睡眠呼吸障害(SDB)が高率に合併することが分かってきた.心不全に合併する SDB としては閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)とチェーンストークス呼吸を伴う中枢性睡眠時無呼吸(CSR-CSA)があり,前者は心不全の発症・進展に関与し,後者は心不全の結果起こる病態である.いずれも心不全の予後悪化の要因となるが,一方これらを治療することにより心不全自体を改善できる可能性がある.

キーワード
睡眠呼吸障害(SDB)、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)、チェーンストーク呼吸を伴う中枢性睡眠時無呼吸(CSR-CSA)、非侵襲的陽圧呼吸(NPPV)、在宅酸素療法(HOT)

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分子機序とトピックス
成人先天性心疾患心不全の課題と展望

八尾厚史*
* 東京大学保健・健康推進本部 講師

要  旨
 先天性心疾患(CHD)患者の多くが長期生存し成人化が確実視できるようになったのがここ 15 年のことであり,しかも病態生理は多彩なため,成人先天性心疾患(ACHD)の心不全に対する治療エビデンスは全くと言っていいほど確立していない.したがって現状では,一般の心不全のガイドラインを参考にして治療方針を決定していくしかない.今後,早急なガイドライン作成のためのエビデンス構築が必要である.そのためには,小児科中心であった ACHD 患者管理への循環器内科医師の参入が急務と考えられ,日本においてもその動きが出てきたところである.

キーワード
成人先天性心疾患、心不全、右室体心室、Eisenmenger症候群、単心室

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連載
現代社会とうつ病

  現代社会において問題となっております「うつ病」について病気そのものの解説、法、サポート体制などを連載形式で詳しく紹介する目的で連載「現代社会とうつ病」を企画致しました。
 今号から約3年間にわたり国内の診療・研究の最前線でご活躍されている先生方に「うつ病」について詳しくご解説をお願いしております。

 第15回は東京女子医科大学 山田 和男 先生による「疾病について-双極性うつ病-」です。

要  旨
 双極性障害(DSM-Ⅳ-TR)の大うつ病エピソードや双極性感情障害(ICD-10)のうつ病エピソードを,双極性うつ病と呼ぶ.双極性うつ病は,特に双極Ⅱ型障害では診断に難渋することがある.双極性うつ病に対して有効な薬剤は,クエチアピン,リチウム,オランザピン,ラモトリギンなどである.抗うつ薬(特に三環系抗うつ薬)を単独または気分安定薬との併用で,双極性うつ病の治療に用いることは推奨されない.

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連載
臨床研究のススメ

 これまで我が国では臨床研究に対する評価はそれほど高いものではなく、諸外国に比べて大きな成果を上げるのが難しい状況でした。最近になってようやく臨床研究が評価されつつあるものの、日本以外のアジア諸国の台頭もあり、我が国の臨床試験の遅滞状況は危機的なものとなっております。
 そこで、この度、臨床研究とはどの様なもので、何に基づき、何をどの様にやらなければならないかをご紹介する目的で先端医療推進財団・理事長 井村 裕夫 先生にご監修頂き「臨床研究のススメ」を企画致しました。
 第15回は京都大学・上嶋 健治 先生に「大規模な市販後臨床試験の意義」と題してご解説をお願いしました。

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連載
トップランナーに聞く(第18回)
間質性肺炎・肺線維症の病態解明と新たな治療法の開発を目指して

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
 第19回はびまん性肺疾患における血管内皮成長因子(VEGF)とHMGB1(High Mobility Group Box 1)の役割に関する研究で多くの成果を上げられている九州大学の濵田 直樹 先生にお話を伺いました。

 濵田 直樹 先生

  九州大学病院呼吸器科にて呼吸器疾患の診療を行っています。専門分野はびまん性肺疾患です。びまん性肺疾患の中でも、特に間質性肺炎・肺線維症について、病態解明と新たな治療法の開発を目的とした研究を行っています。びまん性肺疾患は多種多様にわたっており、かつ非常に難治性で予後が悪く、病因も病態も良く分かっていない疾患が数多くあります。微力ながら少しでも役に立てるよう頑張りたいと思います。

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トピックス
網膜と下垂体の自己組織化 ―次々世代再生医療への新アプローチ―

笹井芳樹*
* 理化学研究所発生・再生科学総合研究センター グループディレクター


要  旨
 最近,幹細胞から個々の細胞分化の制御を越えて,複合的な組織の形成を行う新しい流れが始まりつつある.本稿では,ES 細胞の立体培養系を用いて,網膜などの層構造を持った組織の自己組織化現象について紹介し,複雑な臓器の形成の基盤となる原理について議論する.さらに自己組織化技術の発展系として,従来,分化自体が難しかった下垂体組織の立体形成についても紹介し,その医学応用の可能性についても討論したい.

キーワード
器官形成、幹細胞、立体培養、自己組織化、ES細胞

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トピックス
甲状腺分化がんアイソトープ内用療法

絹谷清剛*
* 金沢大学医学部附属病院核医学診療科 教授


要  旨
 2010 年に甲状腺腫瘍ガイドライン(日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会編集)が発行され,さらに全摘術後の外来アブレーションが施行可能となった.これらにより,甲状腺分化がん診療に全国の標準化への道が開けたと考える.しかし,転移例などに対する入院加療可能な施設不足が解消されたわけではなく,依然として国内の 131I内用療法環境は十分なものとは言えない.本稿では,若干の基礎的事柄と現状を踏まえて総括し,将来のために我々が考えるべきことを論じる.

キーワード
甲状腺分化がん、131I、内用療法

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