最新医学67巻9号 
特集 厚生労働省難治疾患研究から得られた日本の難病の現状    -内分泌系4領域の研究成果-
   


要  旨


座談会 内分泌系4難治性疾患研究班の研究成果とその展望

群馬大学           森 昌朋 
福岡大学           柳瀬 敏彦
東京医科歯科大学      小川 佳宏
名古屋大学         大磯 ユタカ(司会)

 座談会の内容
 ・日本の難病対策の経緯と体制
 ・ホルモン受容機構異常
 ・副腎ホルモン産生異常
 ・中枢性摂食異常症
 ・間脳下垂体機能障害 など 

 小川先生 大磯先生    森先生     柳瀬先生

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間脳下垂体機能障害
クッシング病診断と治療の手引き作成について

須田俊宏*
* 青森労災病院 院長

要  旨
 クッシング病診療の現状は,まず診断の手引きが発表され,現在はそれが専門医,非専門医を含めた医療の現場での有用性が試されている時期と思われる.また,血中コルチゾール測定の標準化が世界に先駆けてなされている.一方治療の手引きに関しては,手術以外の特異的な治療法が見つからず,下垂体腫瘍部の定位放射線照射療法かステロイド合成阻害薬の使用が行われてきたが,治験中のソマトスタチンアナログの有効性が期待されている.

キーワード
クッシング病、クッシング症候群、ACTH、コルチゾール、CRH

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間脳下垂体機能障害
成長ホルモン分泌異常症 ―先端巨大症と成人成長ホルモン分泌不全症―

肥塚直美*
* 東京女子医科大学第二内科 教授

要  旨
 成長ホルモン(GH)の測定キット間の較差があると診断,治療効果判定上問題となるが,我が国では世界に先駆けて標準化を行い,測定キット間較差がなくなった.また最近,小児から成人へ連続した1歳刻みの年齢ごと男女別の SD スコア表示が可能な IGF-I 基準値が策定された.GH 分泌異常症の先端巨大症と成人 GH 分泌不全症について,我が国の最新の診断と治療の手引きと注意点について概説し,最近の知見を紹介した.

キーワード
成長ホルモン(GH)、IGF-1、先端巨人症、GH分泌不全、NAFLD/NASH

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間脳下垂体機能障害
プロラクチン分泌異常症の診断と治療

島津 章*
* 国立病院機構京都医療センター臨床研究センター センター長

要  旨
 プロラクチン分泌異常症には,下垂体プロラクチン(PRL)の分泌過剰症と分泌低下症とがある.PRL 分泌過剰の女性では無月経や乳汁漏出を伴うことが多く,無月経・乳汁漏出症候群と呼ばれるが,高 PRL 血症とほぼ同義である.原因は薬剤性,プロラクチノーマ,視床下部下垂体茎病変など多様であるが,自己抗体と結合したマクロプロラクチンも注目される.プロラクチノーマ治療の第1選択はドパミン作動薬による薬物治療であり,PRL 値の正常化と腫瘍縮小を認め,臨床的寛解が得られる.研究班により診断と治療の手引きが定期的に改訂されている.

キーワード
高プロラクチン血症、プロラクチン産生下垂体腺腫(プロラクチノーマ)、ドパミン作動薬抵抗性、マクロプロラクチン

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間脳下垂体機能障害
バゾプレシン分泌異常症に関する研究の進歩


大磯ユタカ*** 椙村益久*   有馬 寛**
* 名古屋大学大学院医学系研究科病態内科学講座糖尿病・内分泌内科学
** 同准教授 *** 同教授

要  旨
 抗利尿ホルモンであるバゾプレシンは,体液量調節の最も基本となるホルモンであり,その機能異常により種々の病態が形成される.代表的疾患にはバゾプレシン分泌低下状態(中枢性尿崩症)と,バゾプレシン分泌亢進状態(SIADH)があるが,本研究班の研究活動を通じて病態発生機構の詳細が明らかになるとともに,新規治療法の開発が進んでいる.本稿ではそれらの中から代表的な2つの研究成果について紹介する.


キーワード
バゾプレシン、家族性中枢性尿崩症、小胞体ストレス、浸透圧性脱髄症候群、ミクログリア

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副腎ホルモン産生異常
厚生労働省「副腎ホルモン産生異常に関する調査研究班」の研究概要紹介 ―疫学研究を中心に―


柳瀬敏彦*
* 福岡大学医学部内分泌・糖尿病内科 教授

要  旨
 「副腎ホルモン産生異常に関する調査研究班」は,副腎ホルモン産生・作用異常症の実態把握,病因・病態の解明,適切な診断・治療法の提示を目的として活動している.先天性ステロイド産生異常症のような希少・難病疾患の研究と同時に,比較的疾患頻度が高く,その診断・治療法の提示や整備が社会的ニーズとして強く望まれている疾患群(原発性アルドステロン症,サブクリニカルクッシング症候群など)に関しても研究を行っている.本稿では,平成 22 年度にまとめられた全国疫学調査の結果を踏まえ,我が国の副腎疾患の診療実態,問題点を解説した.

キーワード

厚生労働省研究、副腎ホルモン、副腎疾患、全国疫学調査

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副腎ホルモン産生異常
先天性副腎ステロイド産生異常症の最近の話題

長谷川奉延*

* 慶應義塾大学医学部小児科学教室 准教授

要  旨
 先天性副腎ステロイド産生異常症に関する研究の最近の進歩は以下のとおりである.①古典型 21-水酸化酵素欠損症と P450 オキシドレダクターゼ欠損症を生化学的に鑑別診断することが可能となった.②次世代シークエンサーを用いた先天性副腎ステロイド産生異常症の包括的高速同時遺伝子解析が可能となった.③先天性副腎低形成症の新規責任遺伝子として,CDKN1C,MCM4,NNT,GPX1 が同定された.

キーワード
古典型21-水酸化酵素欠損症、P450オキシドレダクターゼ欠損症、IMAGe症候群、ACTH不応症

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副腎ホルモン産生異常
原発性アルドステロン症診断治療の最近の進歩


西川哲男**** 大村昌夫*** 齋藤 淳** 松澤陽子*
* 横浜労災病院内分泌糖尿病センター ** 同部長 *** 同センター長 **** 同院長

要  旨
 原発性アルドステロン症(PA)は,外科的処置で治癒が期待できる二次性高血圧である.PA の高血圧に占める頻度は極めて低く,希少疾患とされてきた.しかし,血中K値に関係なく,血漿アルドステロン濃度と血漿レニン活性の同時測定によるスクリーニングを行うと,3~10%前後を占める common disease であるとされている.一方,アルドステロンは高血圧をもたらし,血管障害を進行させ,脳,心,腎の臓器病変の発症進展に直接関与している.したがって,高血圧診療にて PA を的確にスクリーニングする必要があり,確定診断後は副腎静脈採血法でアルドステロン過剰分泌が片側性か両側性かを確認して手術適応を決める.これらの診断の一助として,最近 PA の診療ガイドラインが副腎班を中心に策定された.PA 診断治療ガイドラインにより,PA が見逃されることなく早期診断治療がなされることを期待する.

キーワード
高血圧、アルドステロン産生腺腫、特発性アルドステロン症、副腎静脈サンプリング、ガイドライン

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ホルモン受容機構異常
甲状腺クリーゼの診断基準

赤水尚史**1  佐藤哲郎*2  磯崎 収*3 鈴木敦詞*4   脇野 修*5  飯降直男*6
坪井久美子*7   古川安志*1  金本巨哲*8 大谷 肇*9   手良向 聡*10

*1 和歌山県立医科大学内科学第一講座 **1 同教授 *2   群馬大学病態制御内科
*3 東京女子医科大学内科学2 准教授 *4   藤田保健衛生大学内分泌代謝内科 准教授
*5 慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科 講師 *6   天理よろづ相談所病院
*7 東邦大学大森病院糖尿病代謝内分泌科 *8   京都大学内分泌代謝内科
*9 関西医科大学第二内科 *10   京都大学探索医療センター

要  旨
 生命を脅かすような甲状腺中毒状態は甲状腺クリーゼと呼ばれ,内分泌疾患の代表的な救急疾患の1つである.甲状腺機能検査では通常の甲状腺中毒症と区別できず,臨床的症状・徴候に基づいて診断される.まれな病態であるが,見過ごされる場合も多々あり,放置すれば死に至る.緊急治療開始を要し,現在でも致死率は 10% 以上に達する.早期の診断と治療が重要であるが,エビデンスに基づいた診断基準が我が国で初めて作成された.

キーワード
甲状腺中毒症、バセドウ病、多臓器不全、意識障害、全国疫学調査

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ホルモン受容機構異常
粘液水腫性昏睡の診断基準と治療方針

白石美絵乃*   山本頼綱*   盛田幸司* 田中祐司**
* 防衛医科大学校総合臨床部・内分泌代謝内科 ** 同教授

要  旨
 粘液水腫性昏睡は,甲状腺機能低下症が基礎にあるところに,直接あるいは誘因が重層することで中枢神経に障害が及ぶ救急疾患である.死亡率が高く,甲状腺ホルモンを開始するとともに集学的治療の必要があるが,最適な甲状腺ホルモンの種類・投与経路・用量には議論が残り,市販静注薬がないという本邦特有の問題もある.日本甲状腺学会の診断基準案・治療指針暫定案(公表予定)とともに,静注薬自家調製に関する我々の予備検討をご紹介する.

キーワード
粘液水腫性昏睡、甲状腺機能低下症、意識障害

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ホルモン受容機構異常
FGF23 関連低リン血症性疾患の診断

福本誠二*

* 東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科 講師

要  旨
 FGF23 は,腎尿細管リン再吸収と血中1,25-水酸化ビタミンD濃度の低下を介する腸管リン吸収の抑制から,血中リン濃度を低下させるホルモンである.過剰な FGF23 活性により低リン血症性くる病・骨軟化症が,逆に FGF23 作用障害により高リン血症性家族性腫瘍状石灰沈着症が惹起される.この FGF23 関連低リン血症性くる病・骨軟化症の診断には,血中 FGF23 濃度の測定が有用である.

キーワード
くる病、骨軟化症、ビタミンD

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中枢性摂食異常症
飢餓応答の分子機構と中枢性摂食異常症

亀井康富*1  田中 都*2  菅波孝祥*3 小川佳宏**2
*1 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科臓器代謝ネットワーク講座 特任教授
*2 同分子内分泌代謝学分野(糖尿病・内分泌・代謝内科)**2 同教授
*3 東京医科歯科大学難治疾患研究所分子代謝医学研究室 准教授

要  旨
 中枢性摂食異常症における極端なダイエットによる飢餓状態は,著しい骨格筋萎縮と QOL の低下をもたらす.一方,飢餓時には免疫機能が低下することが知られる.本稿では,中枢性摂食異常症において認められる全身の飢餓応答として,①飢餓における骨格筋代謝と骨格筋萎縮に関連する遺伝子発現制御,②飢餓における免疫機能障害として骨髄B細胞分化異常の分子機構について概説し,我々の研究成果を紹介する.

キーワード
飢餓、神経性食欲不振症、骨格筋、レプチン

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中枢性摂食異常症
摂食障害の内科的治療 ―合併症と慢性化への対策―

鈴木(堀田)眞理**
* 政策研究大学院大学保健管理センター 教授

要  旨
 中枢性摂食異常症の中で死亡率の高い神経性食欲不振症について,臨床的アプローチで研究を行ってきた.
 本稿では,全国調査に先立つ東京都の高校生を対象にした疫学調査,2007 年に作成したプライマリケアのためのガイドラインの普及,低栄養による慢性化を阻止するための栄養療法と摂食刺激物質であるグレリンの応用,主要な合併症・後遺症である骨粗鬆症の病態,予防と治療,家族心理教育とそのツールについて紹介する.

キーワード
神経性食欲不振症、プライマリケア、慢性化、グレリン、骨粗鬆症

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中枢性摂食異常症
小児思春期発症摂食障害の現状と予後 ―内分泌学的問題点を中心に―

堀川玲子*
* 国立成育医療研究センター内分泌代謝科 医長

要  旨
 日本人小児思春期の摂食障害は近年増加傾向にあり,低年齢化が懸念されている.中枢性摂食異常症研究班では,本邦における小児思春期での神経性食欲不振症(AN)発病率・有病率を首都圏において調査した.いずれも,医療機関を対象とした 2000 年の疫学調査の約 10 倍以上と高率であった.特に女子において,中学1年,3年で発病率が急激に増加していた.また,男子でも一定の割合で AN 症例が存在することが示された.合併症として,成長障害,性腺機能障害,若年での骨粗鬆症が高率に認められた.小児期発症 AN の長期予後は必ずしも良好でなく,次世代への影響も懸念されるため,発病予防と早期発見・早期治療の体制確立が急務である.

キーワード
摂食障害、性腺機能低下症、成長障害、小児思春期

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連載
現代社会とうつ病

  現代社会において問題となっております「うつ病」について病気そのものの解説、法、サポート体制などを連載形式で詳しく紹介する目的で連載「現代社会とうつ病」を企画致しました。
 今号から約3年間にわたり国内の診療・研究の最前線でご活躍されている先生方に「うつ病」について詳しくご解説をお願いしております。

 第16回は早稲田大学・渡部 幹 先生による「社会心理学から見た現代日本社会のうつ」です。

要  旨
 社会心理学および文化心理学の観点から,近年のうつ増加について2つの仮説を提示する.1つは,長期的関係の崩壊に伴う心理的ストレスの増加とそのサポート機会の減少が原因とする説,もう1つは,必要なサポートの種類が従来の日本的なものとは異なっているという説である.これらの仮説は相互排他的なものではなく,個人によって該当する仮説が異なると考えられる.したがって,それぞれの仮説に対応する取り組みが必要となる.

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連載
臨床研究のススメ

 これまで我が国では臨床研究に対する評価はそれほど高いものではなく、諸外国に比べて大きな成果を上げるのが難しい状況でした。最近になってようやく臨床研究が評価されつつあるものの、日本以外のアジア諸国の台頭もあり、我が国の臨床試験の遅滞状況は危機的なものとなっております。
 そこで、この度、臨床研究とはどの様なもので、何に基づき、何をどの様にやらなければならないかをご紹介する目的で先端医療推進財団・理事長 井村 裕夫 先生にご監修頂き「臨床研究のススメ」を企画致しました。
 第17回は慶應義塾大学・黒川 達夫 先生に「医薬品の安全性評価とレギュラトリーサイエンス」と題してご解説をお願いしました。

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連載
トップランナーに聞く(第21回)
がん抑制遺伝子p53によるマイクロRNAプロセシング制御の解明

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
 第21回はp53のマイクロRNAプロセシングへの関与を発見された東京大学の鈴木 洋 先生にお話を伺いました。

 鈴木 洋 先生

 もともと臨床と基礎研究の両面から患者さんや社会に貢献できるようになれたらと、夢を描いてきました。基礎研究の深い世界を知って、そして実際に患者さんと向き合う臨床を経験して、現在は、まず非常に純粋でかつ濃度の濃い研究をすること、そして臨床経験を役立ててより臨床に還元できるような、そういうあり方の研究をすること、の2つを目指しています。これまでに、オートファジー、ES細胞、miRNAなどいろいろ研究してきましたが、今は主にmiRNAを中心としたRNAネットワークについて様々なアプローチで研究を進めています。

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トピックス
血小板増加薬としてのトロンボポエチン受容体作動薬とその使い方

冨山佳昭*
* 大阪大学医学部附属病院輸血部 病院教授

要  旨
 新規薬剤としてトロンボポエチン(TPO)受容体作動薬が,特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の実地診療において使用されている.臨床試験のみならず実地診療においても,難治性 ITP に対してその有効性が明らかにされつつあるが,一方では血栓症などの有害事象も散見される.TPO 受容体作動薬は ITP を治癒させる薬剤ではないため,長期の使用が必要となってくる.本稿では,ITP 治療における TPO 受容体作動薬使用の位置づけについて考察する.

キーワード
特発性血小板減少性紫斑病、トロンボポエチン、エルトロンボパグ、ロミプロスチム

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トピックス
メタゲノム解析を応用した網羅的病原体検出法

中村昇太*1   中屋隆明*2   飯田哲也**1
*1 大阪大学微生物病研究所助教 **1 同特任教授
*2 京都府立医科大学 教授

要  旨
 感染症は多種多様な病原性微生物によって引き起こされるが,それらの検出法も微生物の種類に合わせてさまざまな方法が存在している.近年急速に発達している次世代 DNA シークエンス技術は,短時間で膨大な遺伝情報を生み出すことが可能であり,環境中や臨床検体中の微生物探索「メタゲノム解析」に使われ始めた.この次世代シークエンスによるメタゲノム解析を応用した微生物探索法は,臨床検体からの網羅的病原体検出を可能とする.

キーワード
感染症、病原体検出、メタゲノム解析、次世代シークエンサー

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