最新医学67巻10号 
特集 急性骨髄性白血病  -分子異常と予後-
   


要  旨


座談会 急性骨髄性白血病(AML)
       
-病態解明と治療はいかに進歩したか-

近畿大学          松村 到 
名古屋大学         清井 仁
東京大学         黒川 峰夫(司会)

 座談会の内容
 ・AML治療の現状
 ・AMLの染色体異常・転座
 ・染色体異常と治療法選択
 ・AML研究・診療の将来像 など 

  清井先生        黒川先生     松村先生

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総論
AMLにおける染色体異常

三谷絹子*
* 獨協医科大学内科学(血液・腫瘍)教授

要  旨
 急性骨髄性白血病(AML)で観察される染色体転座の結果,キメラ遺伝子が形成される.キメラ遺伝子からは,がん遺伝子(EVI1)が異所性に発現したり,キメラ遺伝子産物(PML-RARA,CBF キメラ,MLL キメラなど)が発現したりする.これらの分子異常の多くは,遺伝子発現の制御を破綻させて白血病を発症させる.染色体異常の有無およびその種類に関する知見は,AML の予後予測および治療の層別化に極めて有用である.

キーワード
RUNX1-RUNX1T1、PML-RARA、CBFB-MYH11、11q23キメラ、EVI1

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総論
正常核型 AML の遺伝子変異

田中宏和*   松村 到**
* 近畿大学医学部血液・膠原病内科 講師 ** 同主任教授

要  旨
 急性骨髄性白血病(AML)の 40~50% は正常核型を有する.これまで AML は,細胞増殖・生存にかかわるクラスⅠ変異と細胞分化にかかわるクラスⅡ変異が同時に起こって発症すると考えられてきた.しかし近年,エピジェネティクスにかかわる分子の遺伝子変異が多数明らかにされ,クラスⅢ変異と呼ばれるようになった.これらの遺伝子異常によって正常核型 AML の予後を層別化し,至適な治療法を確立することが今後の課題である.

キーワード
クラスⅠ変異、クラスⅡ変異、FLT3-ITD、NPM1、DNMT3A

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総論
エピゲノム異常による造血器腫瘍の病態

坂田(柳元)麻実子*   千葉 滋**
* 筑波大学医学医療系血液内科 講師 ** 同教授

要  旨
 造血器腫瘍では,p15/INK4B 領域のメチル化に代表されるエピゲノム異常が病態を進行させることが以前より知られていたが,これらのエピゲノム異常は偶発的に生じ,自然選択的に残るものと考えられてきた. 近年のシークエンス技術の進歩により,DNA 修飾酵素,ヒストン修飾酵素に遺伝子異常が発見され,エピゲノム異常による白血病発症の仕組みが次第に明らかになりつつある.さらには,白血病の治療においては DNA メチル化阻害薬,ヒストン修飾酵素阻害薬が使用されるようになり,一定の効果が得られるようになっている. 本稿では,エピゲノム修飾の仕組みについて概説した後,エピゲノム異常による白血病発症の病態について,最近明らかにされたエピゲノム関連の遺伝子異常を中心に概説する.

キーワード
エピゲノム、ヒドロキシメチル化シトシン、メチル化シトシン、白血病

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総論
AMLのトランスクリプトームと予後


市川 仁*
* 国立がん研究センター研究所遺伝医学研究分野

要  旨
 急性骨髄性白血病(AML)の遺伝子発現はその遺伝子異常を反映しており,重要な予後マーカーである t(8;21),t(15;17),inv(16),C/EBPα変異,NPM1 変異,FLT3-ITD 変異などと関連した遺伝子発現シグナチャーが存在する.幹細胞性と関連した遺伝子発現シグナチャーも存在し,予後マーカーとなりうることが報告されている.これらの遺伝子発現情報に加えて,遺伝子異常も直接検出するトランスクリプトーム検査が,次世代シークエンサーを用いて可能となりつつある.


キーワード
マイクロアレイ、次世代シークエンサー、遺伝子発現シグネチャー、リスク分類

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総論
AML 幹細胞


島 隆宏*   赤司浩一**
* 九州大学大学院医学研究院病態修復内科学血液研究室 ** 同教授

要  旨
 ヒト急性骨髄性白血病(AML)では,白血病細胞内にごく少数存在する「白血病幹細胞」のみが自己複製を行いながら,白血病細胞集団全体を供給していると考えられている.正常造血幹細胞に複数の白血病関連遺伝子を強制発現・抑制することにより,白血病幹細胞への悪性化過程を再構築することが可能である.このことから,複数の遺伝子異常が主として造血幹細胞に集積した結果,白血病幹細胞へトランスフォームすると考えられる.また,免疫不全マウスを用いた異種移植実験の改良によってヒト白血病幹細胞の純化・同定が可能となり,白血病幹細胞の維持機構や機能の解析も進歩している.これらの成果により,白血病幹細胞を標的とした治療法の開発が期待されている.

キーワード

急性骨髄性白血病、白血病幹細胞

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各論
RUNX1 異常による AML

原田結花*1  原田浩徳*2

*1 広島大学原爆放射線医科学研究所被ばく資料調査解析部
*2 同血液・腫瘍内科 講師

要  旨
 RUNX1/AML1 異常は,白血病原性を持つ代表的な転写因子異常である.これまでに転座,変異,発現異常という3つの白血病化機構が解明されている.RUNX1 転写因子複合体の転座による CBF 白血病は予後良好であるが,RUNX1 遺伝子変異 AML は予後不良である.また短いアイソフォームの過剰発現など,RUNX1 発現制御逸脱による機序も明らかになりつつある.このように RUNX1 機能異常は白血病化の主要因であると言える.

キーワード
RUNX1/AML1、RUNX1-RUNX1T1、CBFB-MYH11、CBF白血病、RUNX1遺伝子変異

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各論
急性前骨髄球性白血病の分子病態


松下弘道*1  安藤 潔*2
*1 東海大学医学部臨床検査学 准教授 *2 同血液腫瘍内科 教授

要  旨
 急性前骨髄球性白血病(APL)の 95% 以上の症例で,PML-RARA キメラ遺伝子が同定されている.PML-RARα遺伝子産物は,RARαの転写を抑制するとともに野生型 PML の機能を阻害する.これに付加的な遺伝子異常が加わり,APL が発症する.全トランスレチノイン酸や亜ヒ酸は PML-RARαを分解するものであり,同時に投与することで APL 幹細胞が除去できる可能性がある.

キーワード
急性前骨髄球性白血病(APL)、PML-RARα、全トランスレチノイン酸(ATRA)、亜ヒ酸(ATO)、APL幹細胞

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各論
AML における FLT3 変異の病態と標的治療

清井 仁*
* 名古屋大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科学 准教授

要  旨
 FLT3 遺伝子変異は,急性骨髄性白血病(AML)に高頻度で認める活性型変異である.変異 FLT3 分子は恒常的に活性化を示し,主として細胞増殖促進をもたらすことによって白血病の発症・進展に関与している.FLT3 遺伝子変異は AML における予後不良因子であることから,変異 FLT3 分子を標的とした阻害薬の開発が進められている.しかし,現時点では臨床応用可能な薬剤開発には至らず,選択性,阻害活性,耐性,有害事象など多くの解決すべき問題が残されている.

キーワード
FLT3、急性骨髄性白血病、チロシンキナーゼ、標的療法、耐性

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各論
正常核型 AML で高頻度に見られる NPM1 変異

小川原陽子*   北林一生**
* 国立がん研究センター研究所造血器腫瘍研究分野 ** 同分野長

要  旨
 正常な核型を持つ急性骨髄性白血病(AML)では,高頻度に核小体タンパク質ヌクレオホスミン(NPM)の変異体 NPMc を伴う.NPMc 変異体を伴う AML は臨床レベルと遺伝子制御レベルでさまざまな特徴を持ち,AML の中で一大グループを形成している.その分子メカニズムはまだ不明な点が多いが,NPMc ノックインマウスやゲノムの解析などにより,NPMc-AML 発症メカニズム解明への手掛かりが徐々に得られつつある.

キーワード
ヌクレオホスミン、正常核型、急性骨髄性白血病

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各論
C/EBPα変異とAML

麻生範雄*

* 熊本大学大学院生命科学研究部血液内科学分野 准教授

要  旨
 転写因子 C/EBPαは急性骨髄性白血病(AML)の約8%,正常核型例の 12% に変異を認める.N端の変異により p30 のドミナントネガティブフォームが形成され,C端の変異により2量体形成が損なわれる不活化変異である.N端とC端の両変異を約6割に認める.ダブル変異例の治療反応性は良好で,染色体予後良好群に匹敵する.単一変異例は FLT3-ITD や NPM1 変異を合併しやすく,共存する遺伝子変異により予後が異なる.

キーワード
急性骨髄性白血病、転写因子、点突然変異、C/EBPα

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各論
難治性 AMLにおける遺伝子発現異常

吉見昭秀*
* 東京大学医学部附属病院 無菌治療部/血液・腫瘍内科

要  旨
 本稿では,急性骨髄性白血病(AML)において高発現が予後不良を規定する代表的な遺伝子について,その臨床的意義,分子メカニズムを概説する.最近 AML の治療成績の向上があまり見られていないが,AML は多様な病態を示す疾患の集合であり,治療成績改善のため,1つには本稿で取り上げるような難治性 AML の各サブタイプにおける予後不良の克服が必須であると考えられることから,今後取り組むべき課題について明らかにしたい.

キーワード
急性骨髄性白血病、予後不良、分子マーカー、遺伝子発現、分子標的療法

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特集トピックス
エピジェネティクスを標的としたAML/MDSの治療薬

小林幸夫*
* 国立がん研究センター中央病院血液腫瘍科 医長

要  旨
 エピジェネティックな変化を治療に応用しようとする試みは造血器腫瘍では骨髄異形成症候群で行われ,デシタビン,5-アザシチジン(アザシチジン)が有効であることが分かり,利用されている.従来から DNA に作用する脱メチル化薬と考えられてきたが,最近になって,アザシチジンはデシタビンと異なり代謝拮抗薬として働き,核酸プールの枯渇を導くとの仮説が提唱された.

キーワード
アザシチジン、デシタビン、リボヌクレオチドレダクターゼ

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特集トピックス
ゲノムワイド解析によるAMLのクローン進展の解明

荒井俊也*
* 東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科

要  旨
 ゲノムワイド解析技術の進展により,急性白血病細胞クローンの遺伝学的な多様性が明らかになってきた.各クローンは新しい変異を加えながら,生存や増殖に有利な異常を獲得したものが主要なクローンとしてウエートを占めていく.多様なクローンの中には,白血病発症前から存在する前白血病クローンや,再発の原因になるクローンが含まれている可能性があり,それらの特性を解析することで新しい治療標的を同定できる可能性がある.

キーワード
急性骨髄性白血病、エクソーム解析、コピー数異常、Pre-leukemicクローン、クローン進展

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連載
現代社会とうつ病

  現代社会において問題となっております「うつ病」について病気そのものの解説、法、サポート体制などを連載形式で詳しく紹介する目的で連載「現代社会とうつ病」を企画致しました。
 今号から約3年間にわたり国内の診療・研究の最前線でご活躍されている先生方に「うつ病」について詳しくご解説をお願いしております。

 第18回は本連載の企画者である九州大学・神庭重信先生に司会をお願いし、国立精神・神経医療研究センター・樋口輝彦先生,肥前精神医療センター・黒木俊秀先生,東京藝術大学・内海 健先生,慶應義塾大学・北中淳子先生をゲストに迎えた座談会「うつ病とは何か?どう対処すればよいのか?」を開催しました。
国立精神・神経医療研究センター  樋口 輝彦 
東京藝術大学大学          内海  健
肥前精神医療センター        黒木 俊秀
慶應義塾大学             北中 淳子
九州大学              神庭 重信(司会)

 座談会の内容
 ・うつ病概念の混乱
 ・ストレスとうつ病
 ・うつ病の診断
 ・新型うつ病 など 

  北中先生       神庭先生     内海先生

       黒木先生          樋口先生

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連載
臨床研究のススメ

 これまで我が国では臨床研究に対する評価はそれほど高いものではなく、諸外国に比べて大きな成果を上げるのが難しい状況でした。最近になってようやく臨床研究が評価されつつあるものの、日本以外のアジア諸国の台頭もあり、我が国の臨床試験の遅滞状況は危機的なものとなっております。
 そこで、この度、臨床研究とはどの様なもので、何に基づき、何をどの様にやらなければならないかをご紹介する目的で先端医療推進財団・理事長 井村 裕夫 先生にご監修頂き「臨床研究のススメ」を企画致しました。
 第18回は京都大学・川上 浩司 先生に「比較有効性研究」と題してご解説をお願いしました。

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連載
トップランナーに聞く(第22回)
心エコー図法を用いた心機能評価とEF保持型心不全の早期病態診断法の確立

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
 第22回はスペックルトラッキング法による心臓再同期療法の有用性を多施設間前向き研究で初めて明らかにされた筑波大学の瀬尾 由広 先生にお話を伺いました。

 瀬尾 由広 先生

 心エコー図法を用いた心不全、新機能評価を専門としています。新たな技術であるスペックルトラッキング法や3D心エコー図法について、臨床と基礎の融合を目指してリサーチをしています。臨床では、スペックルトラッキング法による心臓再同期療法の効果予測に関する多施設研究(START研究)を主催し、同法の有用性を多施設前向き研究では初めて明らかにしました。基礎研究では、3Dスペックルトラッキング法の実用化に向けた研究にいち早く取り組んでいます。最近はスペックルトラッキング法によるエコー所見を分子生物学レベルで検討し、EF保持型心不全の病態診断法の確立を目指しています。

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新連載
ノーベル賞と医学の進歩・発展

 今号からノーベル賞の対象となった業績やその業績が現在どのような恩恵をもたらしているかについて、各領域の専門家の先生方に詳しいご解説をお願いしております。

 第1回は京都大学・泉 孝英 先生による「ノーベル賞の業績はどのように医学の進歩・発展に貢献したか-連載にあたって-」です。


トピックス
光バイオイメージング技術が開く新たながん研究 ―蛍光 in vivo イメージング手法を用いた腫瘍組織解析―

井上博文*1*2*3 東山繁樹**2**3
*1 愛媛大学プロテオ医学研究センター愛媛-ニコンバイオイメージングコアラボラトリー
*2 同細胞増殖・腫瘍制御部門講師 **2 同教授
*3 愛媛大学大学院医学系研究科生化学・分子遺伝学分野 講師 **3 同教授

要  旨
 蛍光シグナルを用いたバイオイメージング技術は,さまざまな蛍光タンパク質・色素および検出器の開発によって飛躍的に進歩してきた.その結果,生体内での腫瘍組織の時空間的動態解析が可能となってきている.本稿では,病理学的および生化学的解析を中心とする従来のがん研究では困難であった多様ながん動態変化を,蛍光バイオイメージング技術によってとらえることのできた例を紹介するとともに,今後の可能性について述べたい.

キーワード
in vivoイメージング、蛍光、がん、光線力学診断

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トピックス
低ナトリウム血症補正に随伴する浸透圧性脱髄症候群の治療

椙村益久*
* 名古屋大学大学院医学系研究科糖尿病・内分泌内科学 講師

要  旨
 浸透圧性脱髄症候群(ODS)は,ヒトにおいては橋中心髄鞘崩壊に代表される中枢性の脱髄疾患であり,多くの場合低ナトリウム(Na)血症の治療時に血清 Na 濃度が急速に補正されることによって生じる重篤な合併症である.ODS はいったん発症すると治療法はなく,脱髄発症・進展の予防や髄鞘再生などの治療法が期待されている.我々は,ミノサイクリンがミクログリアの炎症性サイトカイン発現およびミクログリアの脱髄部への移動・集積を抑制することによって ODS の発症・進展を予防することを動物モデルで示した1).

キーワード
浸透圧性脱髄症候群、橋中心髄鞘崩壊、ミクログリア、ミノサイクリン

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