最新医学67巻11号 
特集 感染症医薬品開発の現況
   


要  旨


座談会 感染症医薬品開発の現況と今後の展望)
       

東北大学          渡辺 彰 
川崎医科大学        尾内 一信
長崎大学         河野 茂(司会)

 座談会の内容
 ・感染症薬開発の歴史
 ・新規感染症診断法
 ・多剤耐性菌に対する新薬
 ・新規インフルエンザ薬 など 

  尾内先生        河野先生     渡辺先生

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診断用試薬・機器分野でのイノベーション
微生物迅速診断法の開発

森永芳智*   栁原克紀**
* 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
  展開医療科学講座病態解析・診断学分野 ** 同准教授

要  旨
 感染症の迅速診断に応用できる新しい技術が開発されてきた.質量分析装置は迅速性と経済性を兼ね備えた微生物同定機器で,ルーチンワークとしての利用も期待されている.また遺伝子検査も汎用性に優れた方法で,微生物の検出以外にも工夫次第で薬剤耐性遺伝子や病原遺伝子の検出が可能である.診断方法の選択肢が広がる一方で,我々はその特徴をよく理解し,結果を正確に解釈して利用しなければならない.

キーワード
質量分析装置、MALDI-TOF MS、遺伝子検査、パイロシークエンス法

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診断用試薬・機器分野でのイノベーション
真菌症に関する診断法の現状と展望

宮崎義継**  大野秀明*
* 国立感染症研究所真菌症担当部署(生物活性物質部) 室長   ** 同部長

要  旨
 従来の形態学的な菌種同定から,真菌種や属に特異的な微生物由来の物質や遺伝子を検出する方向にある.遺伝子検査法は病原体の同定に関しては中心的役割を果たすようになっており,検体から直接的に検出する方法も期待される.また,質量分析法を取り入れた同定機器も現在開発中である.現行の血清診断法は簡便かつ迅速で有用性が高いため,さらに多くの真菌症を対象とすべく,さまざまな真菌を対象とした検討がなされている.

キーワード
真菌、遺伝子診断、質量分析、病理組織学的診断

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診断用試薬・機器分野でのイノベーション
プリオン病診断法の開発

新 竜一郎*   西田教行**
* 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
  感染分子免疫学講座感染分子解析学分野 准教授   ** 同教授

要  旨
 ヒトプリオン病,特にクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)は,急速進行性の致死性の神経変性疾患である.伝達性であることから発症早期の診断が求められており,その確立が望まれてきた.最近我々は,CJD 患者由来の髄液中の異常型プリオンタンパク質を増幅し検出する新規アッセイ法(Real-time QUIC 法)を開発し,脳生検を行わずに CJD 確定診断する可能性を示した.現在,CJD 診断への有用性を検証している.

キーワード
クロイツフェルト・ヤコブ病、プリオンタンパク質、脳脊髄液

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感染症医薬品開発の現況と今後の展望
抗菌薬開発の現況と今後の展望


藤村 茂*1*2 渡辺 彰**1
*1 東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発研究部門 **1 同教授
*2 東北薬科大学臨床感染症学教室 教授

要  旨
 我が国における抗菌薬の開発は停滞してきており,同分野の新薬開発から撤退もしくは縮小する製薬企業が相次いでいる.しかも近年では,PK-PD 理論の活用により高用量化するなど既存の抗菌薬の改善・改良に開発がシフトしており,新薬の開発は危機的状況とも言える.現時点で発売が予定されている新規抗菌薬は,多剤耐性グラム陰性桿菌による各種感染症に対する静注用のチゲサイクリンとコリスチンである.いずれも海外ですでに使用されている薬剤を早期に導入するもので,我が国で開発された薬剤ではない.本邦ではこれ以降の新規抗菌薬の発売はしばらく予定されていないが,海外では新規抗 MRSA 薬や Clostridium difficile 感染症に対する薬剤の開発が始まりつつある.


キーワード
抗菌薬、抗菌薬開発、多剤耐性菌、チゲサイクリン

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感染症医薬品開発の現況と今後の展望
日本における未承認薬の現状と展望


三鴨廣繁*1**2 山岸由佳*2
*1 愛知医科大学大学院医学研究科感染制御学 教授
*2 愛知医科大学病院感染制御部 講師   **2 同教授

要  旨
 抗感染症薬に関しても,未承認薬の問題,すなわち「ドラッグラグ」の問題が存在し,感染症治療のグローバル化の障壁となってきた.未承認薬とは,すでに海外では有効性が証明され,承認・市販されているにもかかわらず,国情の違いから日本では未承認となっている薬剤のことである.最近では,産官学共同でこの未承認薬の問題解決に向けた努力が続けられており,今後の見通しは明るい.

キーワード

未承認薬、ドラッグラグ

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感染症医薬品開発の現況と今後の展望
HIV 感染症治療の現状と将来像

青木孝弘*   岡 慎一**

* 独立行政法人国立国際医療研究センター病院
  エイズ治療・研究開発センター   ** 同センター長

要  旨
 治療法のない死に至る病であった HIV 感染症が,抗 HIV 薬の進歩に伴い治療可能な慢性疾患へと変化した.2012 版の米国ガイドラインでは,CD4 値によらず全 HIV 患者へ抗 HIV 療法の導入を推奨するに至った.また7月には米国食品医薬品局(FDA)が,ツルバダを性行為での HIV 感染のリスクを下げるための薬として認可した.2012 年は,慢性疾患となった HIV 感染症への戦略が「予防としての治療」へと転換された節目の年である.

キーワード
HIV感染症、Antiretroviral therapy、予防としての治療、曝露前予防

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感染症医薬品開発の現況と今後の展望
多剤耐性結核に対する今後の展望


土井教生*
* 公益財団法人結核予防会結核研究所抗酸菌レファレンス部 主任研究員

要  旨
 多剤耐性結核(MDR-TB)の治療は,効果の乏しい既存の第二次抗結核薬4~6剤を組み合わせた 18~20ヵ月間の長期治療が基本である.現在世界では,臨床試験第Ⅲ相:5,第Ⅱ相:8,第Ⅰ相:1,計 14 の臨床開発プロジェクトを含む 45 の新規抗結核薬開発プロジェクトが進行中である.このうち6剤が MDR-TB に有効な新薬として1~5年以内に臨床導入が見込まれており,結核と MDR-TB の化学療法は歴史的な変換点を迎えようとしている.

キーワード
多剤耐性結核、第二次抗結核薬、併用療法、PK/PD、薬剤間相互作用

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感染症医薬品開発の現況と今後の展望
肺非結核性抗酸菌症に対する新規診断法と治療戦略の開発

鈴木克洋*
* 国立病院機構近畿中央胸部疾患センター 統括診療部長

要  旨
 肺非結核性抗酸菌(NTM)症の診断は,画像所見と喀痰検査で行う.しかし軽症例では菌が検出できないこともあり,その場合キャピリアMACTM などの血清診断が有益なことがある.NTM 症に対する新規薬剤の開発は乏しいのが現状である.しかし我が国では 2008 年以降,正式に健康保険適応となる既存の薬剤が増加しており,学会として「化学療法の見解」を発表できるようになった.

キーワード
肺非結核性抗酸菌症、新規診断法、治療戦略、化学療法に関する見解

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感染症医薬品開発の現況と今後の展望
薬剤耐性マラリアに対する新規治療薬開発の現況

金 惠淑**  佐藤 聡*   森田将之* 綿矢有佑***
* 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(薬学系)国際感染症制御学分野
** 同准教授   ***同特命教授

要  旨
 私たちは薬剤耐性マラリアに有効な抗マラリア薬の探索を試み,環状過酸化構造に焦点を当て,500 種の有機合成化合物を合成し,この中から優れた抗マラリア活性と低い細胞毒性を示す新規環状過酸化化合物(1,2,6,7-tetraoxaspiro[7.11]nonadecane:N-89,および1,2,6,7-tetraoxaspiro[7.11]nonadecane-4-hexanol:N-251)を見いだした.これら化合物は in vitro および in vivo のマウスを用いた実験系で優れた抗マラリア活性と単剤でマラリアを完治させる能力を有しており,動物を用いた安全性試験においても極めて毒性が低いことから,次世代の新規抗マラリア薬として期待できる.

キーワード
薬剤耐性マラリア、新薬開発、Artemsinin-based combination therapy(ACT)、
環状過酸化化合物、標的分子

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感染症医薬品開発の現況と今後の展望
抗菌薬開発の現状と未来 ―行政の立場から―

佐藤淳子*

* 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)

要  旨
 従前,日本から新規性の高い抗菌薬が次々と創製されてきたが,今日では抗菌薬の開発から撤退した企業も多く,医薬品開発は慢性疾患や悪性腫瘍等志向にあると言われている.感染症領域においても,Unmet Medical Needs はいまだ存在し続けている.感染症領域における世界の試験実施状況を踏まえ,Unmet Medical Needs の解消に向けて,関係者一丸となって問題解決に臨むべきである.

キーワード
抗菌薬開発、臨床試験、耐性菌

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感染症医薬品開発の現況と今後の展望
小児科領域における感染症治療薬開発の現状と展望

尾内一信*
* 川崎医科大学小児科学講座 教授

要  旨
 近年の薬剤耐性微生物の耐性化とこれに対抗する新規抗微生物薬不足のアンバランスは,非常に憂慮される状態にある.小児科領域は特に新規抗微生物薬が乏しい事態が今後も続くことが予想される.子どもの生命を守るために皆が協力して耐性菌対策を行い,新規抗微生物薬の開発を加速する必要がある.抗菌薬開発で世界をリードした日本は,Major player として貢献できることが多いと考える.

キーワード
小児、感染症治療薬、抗微生物薬、新薬、適正使用

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感染症医薬品開発の現況と今後の展望
周術期感染症の対策と展望

大毛宏喜*1  末田泰二郎*2
*1 広島大学病院感染症科 教授
*2 広島大学医歯薬保健学研究院外科学 教授

要  旨
 予防抗菌薬においては,腸内グラム陰性桿菌に占める ESBL 産生菌の分離頻度が上昇傾向にある.また,嫌気性菌であるバクテロイデス属の耐性化が non-fragilis group を中心に進行しており,予防抗菌薬として下部消化管手術で一般的に使用されているセフメタゾールへの耐性率は Bacteroides thetaiotaomicron では 85% に達している.このような腸内細菌属の耐性化が今後の予防抗菌薬の選択に影響を与えないか,薬剤感受性の推移と手術部位感染発症率のサーベイランスデータとの比較を注視すべきである.

キーワード
手術部位感染、汚染、予防抗菌薬

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感染症医薬品開発の現況と今後の展望
ワクチン開発の現況と今後の展望

森内昌子*   森内浩幸**
* 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科感染病態制御学 ** 同教授

要  旨
 我が国は元来世界最先端のワクチン開発技術と実績を有していたにもかかわらず,ワクチン禍に伴う国民意識の低下とワクチン行政の不備から「ワクチンギャップ」に陥っていた.近年その遅れを取り返すように多くのワクチンが導入され,DaPT-IPV(不活化ポリオを含めた4種混合ワクチン)や 13 価肺炎球菌コンジュゲートワクチンも導入間近である.その他,新たな手法でのインフルエンザワクチン,先天性サイトメガロウイルス感染症を防ぐためのワクチン,そして HIV ワクチンなどの開発が期待されている.

キーワード
ワクチンギャップ、アジュバント、Quality Adjusted Life Years(QALYs)、
不活化ポリオワクチン、13価肺炎球菌コンジュゲートワクチン

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連載
現代社会とうつ病

  現代社会において問題となっております「うつ病」について病気そのものの解説、法、サポート体制などを連載形式で詳しく紹介する目的で連載「現代社会とうつ病」を企画致しました。
 今号から約3年間にわたり国内の診療・研究の最前線でご活躍されている先生方に「うつ病」について詳しくご解説をお願いしております。
 第19回は国際医療福祉大学・上島 国利 先生による「治療総論」です。

要  旨
 うつ病の治療に際して最も重要なことは,正確な診断である.DSM-Ⅳ-TR などに準拠して診断されることが多いが,これらの診断基準は操作的なものであり,病因に関しては一切考慮されていない.治療者は,このような診断基準の限界を知り,自ら立ち位置を定めて治療法を選択する.どのような治療法を選択するにしろ,治療が効果的かつ安全に行われるためには,アドヒアランスの確保が何より望まれる.

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連載
臨床研究のススメ

 これまで我が国では臨床研究に対する評価はそれほど高いものではなく、諸外国に比べて大きな成果を上げるのが難しい状況でした。最近になってようやく臨床研究が評価されつつあるものの、日本以外のアジア諸国の台頭もあり、我が国の臨床試験の遅滞状況は危機的なものとなっております。
 そこで、この度、臨床研究とはどの様なもので、何に基づき、何をどの様にやらなければならないかをご紹介する目的で先端医療推進財団・理事長 井村 裕夫 先生にご監修頂き「臨床研究のススメ」を企画致しました。
 第19回は先端医療振興財団・松山 晃文 先生に「再生医療における臨床試験のあり方」と題してご解説をお願いしました。

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連載
トップランナーに聞く(第23回)
新しいアレルギー抑制分子の発見とその臨床応用を目指して

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
 第23回はアレルギー抑制分子Allergin-1を発見され、アレルギー疾患の新しい治療戦略を研究されている筑波大学の田原 聡子 先生にお話を伺いました。

 田原 聡子 先生

 自然免疫反応が専門で、主にアレルギーや炎症反応の制御機構を明らかにして臨床応用に繋げることを目指して研究しています。制御機構の解明については、膜受容体からアプローチする手法をとっています。新しい分子を同定して遺伝子欠損マウスの解析から生体や疾患での役割を明らかにし、抗体療法などを確立することを目指しています。今までは、NK細胞の活性化受容体であるDNAM-1リガンドがCD155であることを明らかにし、炎症反応や発がんに伴って発現更新するCD155が、がん免疫に重要であることを示しました。その後、主に骨髄系細胞に発現するCD300分子群が炎症の惹起あるいは抑制に働き、敗血症や自己免疫疾患の発症にかかわることを報告しました。現在は、新しく同定したⅠ型アレルギーを抑制する分子、Allergen-1のアレルギーや自己免疫疾患における役割について研究しています。

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新連載
ノーベル賞と医学の進歩・発展

 今号からノーベル賞の対象となった業績やその業績が現在どのような恩恵をもたらしているかについて、各領域の専門家の先生方に詳しいご解説をお願いしております。

 第2回は京都大学・久保 武 先生による「画像診断の進歩」です。


トピックス
血管内皮インスリンシグナルの骨格筋糖取り込み調節機構の発見

窪田哲也*   窪田直人*   門脇 孝**
* 東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科 ** 同教授

要  旨
 インスリンによる骨格筋の糖取り込みが起こるためには,インスリンが毛細血管に到達し,血管内皮細胞を介して間質に移行しなければならない.我々は最近,血管内皮細胞のインスリンシグナルによる eNOS の活性化が毛細血管を拡張させ,インスリンを骨格筋間質に移行して糖取り込みが起こること,肥満ではインスリンシグナルによる eNOS の活性化の低下によりこれらが障害されることを明らかにした.今後,この発見が新たな薬剤開発に繋がることを期待したい.

キーワード
インスリン受容体基質、血管内皮細胞、骨格筋インスリン抵抗性

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トピックス
線維芽細胞から心筋細胞への分化誘導

山川裕之*    家田真樹**
* 慶應義塾大学医学部臨床分子循環器病学講座・循環器内科 ** 同講師

要  旨
 再生医療では ES/iPS 細胞が期待されるが,分化誘導効率の低さ,腫瘍形成能などの問題を抱えている.線維芽細胞から心筋細胞への作製法は iPS 細胞を経由することが定説であるが,2010 年に我々が報告したダイレクト・リプログラミングによる心筋分化誘導以降,さまざまなリプログラミングの経路が存在することが判明した.本稿では心筋誘導に関する最新の知見をまとめ,また生体内の心筋誘導についても言及し,再生医療への応用展開を模索したい.

キーワード
心筋再生医療、心筋分化誘導、ダイレクト・リプログラミング、iCM細胞、ES/iPS細胞

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