最新医学67巻12号 
特集 新世代のがん分子標的治療


要  旨


座談会 がん分子標的治療の新展開
       

国立がん研究センター東病院    土井 俊彦 
静岡県立静岡がんセンター     山本 信之
国立がん研究センター東病院   大津 敦(司会)

 座談会の内容
 ・最近の分子標的治療薬の成功事例
 ・ALK,RET阻害薬の開発状況
 ・分子標的薬の耐性メカニズムとその克服薬
 ・我が国からの新薬開発に必要な体制整備
 など

 土井先生      大津先生        山本先生

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最近の分子標的治療薬の動向

土井俊彦*
* 国立がん研究センター東病院消化管内科 科長

要  旨
 近年,分子標的治療薬は,がんの生物学的特性に関連した遺伝子の検索(シーズ検索)により創薬される.分子標的治療薬は,その標的因子から①血管新生阻害薬,②増殖因子受容体・シグナル伝達阻害薬,③DNA 修復・転写制御因子阻害薬に分類される.がん細胞における遺伝子やタンパク質の発現解析に基づく開発も行われるため,分子標的療法の評価のためにヒトの体内で予想される標的に作用することを確認する POC/MOA 試験が重要になる.

キーワード
分子標的薬、バイオマーカー、個別化治療

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新しい融合遺伝子の発見と治療薬開発試験 1.EML4-ALK

鈴木健介*   釼持広知*   山本信之**
* 国立感染症研究所真菌症担当部署(生物活性物質部) 室長   ** 同部長

要  旨
 2007 年に EML4-ALK 融合遺伝子を持つ非小細胞肺がんの存在が発見されてから5年余の間に,最初の ALK 阻害薬であるクリゾチニブが臨床に供されるようになった.その間にもクリゾチニブに耐性となる機序が数多く報告され,すでに耐性克服のための新規化合物の臨床試験が数多く行われている.ALK 融合遺伝子の検出法など解決すべき問題も多いものの,その治療法は今後急速に発展することが期待されている.

キーワード
肺がん、分子標的療法、EML4-ALK、薬剤耐性

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新しい融合遺伝子の発見と治療薬開発試験 2.KIF5B-RET

葉 清隆*   後藤功一**
* 国立がん研究センター東病院呼吸器内科 ** 同医長

要  旨
 2012 年2月の『Nat Med』誌に日米の3つのグループから,2012 年3月の『Genome Res』誌に韓国のグループから,肺がんの新しい原因遺伝子として KIF5B-RET 融合遺伝子を発見したことが報告された.2007 年の非小細胞肺がんにおける ALK 融合遺伝子の発見とその後の ALK 阻害薬の臨床開発の成功により,固形がんにおける分子標的療法の新たな治療標的として融合遺伝子が注目されている.今後,RET 融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんに対する RET 阻害薬の治療開発が期待される.

キーワード
KIF5B-RET、融合遺伝子、肺がん、腺がん、バンデタニブ

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新しいシグナル伝達阻害薬,マルチキナーゼ阻害薬 1.mTOR 阻害薬


高橋俊二*
* 公益財団法人がん研究会有明病院化学療法部 部長

要  旨
 mTOR は PI3K-Akt-mTOR 経路に属し,種々の成長因子のシグナルや細胞の代謝状態を感知し,タンパク質合成,細胞の成長や増殖,血管新生などに重要な働きをしており,種々のがんの発生・進行・薬物療法耐性にかかわっている.腎細胞がんは血管新生が著明であり,また種々の機序で PI3K 経路シグナルが亢進していることから,mTOR 阻害薬の効果が期待される.mTOR 阻害薬エベロリムス,テムシロリムスは進行腎細胞がんにおけるエビデンスが確立し,日本でも 2010 年に承認された.続いてエベロリムスが膵神経内分泌腫瘍(PNET)に対して承認され,乳がんをはじめその他の腫瘍についてもエビデンスが出始めている.

キーワード
mTOR阻害薬、腎細胞がん、膵神経内分泌腫瘍、血管新生、PI3K-Akt-mTOR経路

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新しいシグナル伝達阻害薬,マルチキナーゼ阻害薬 2.BRAF 阻害薬


下方智也*   安藤雄一**
* 名古屋大学医学部附属病院化学療法部 ** 同教授

要  旨
 RAF は MAPK 経路に含まれるセリン/トレオニンキナーゼであるが,2002 年に BRAF 遺伝子変異が報告され,BRAF 阻害薬の開発が進められてきた.特に悪性黒色腫では BRAF 遺伝子変異の頻度が高く,BRAF 阻害薬の効果が期待されたが,BRAF 遺伝子変異陽性の悪性黒色腫に対する BRAF 阻害薬の優れた臨床効果が続けて報告され,2011 年8月にベムラフェニブが FDA により承認された.BRAF 遺伝子変異の発見,BRAF 阻害薬の作用機序,悪性黒色腫に対する臨床試験の結果を中心に概説する.

キーワード

BRAF阻害薬、BRAF遺伝子変異、悪性黒色腫、ベムラフェニブ

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新規血管新生阻害薬 アフリベルセプト,レゴラフェニブ

結城敏志*1  小松嘉人*2

*1 北海道大学病院消化器内科 *2 同腫瘍センター准教授

要  旨
 VEGF に対する抗体薬であるベバシズマブは,切除不能進行・再発結腸直腸がんの初回化学療法/二次化学療法例を対象とした複数の第Ⅲ相試験において有効性が報告され,すでに臨床導入されている.その後,セジラニブ,スニチニブ,バタラニブ,アキシチニブなどの新規血管新生阻害薬の開発が行われたが,いずれも有効性を示すことができなかった.しかし近年,消化器がん領域においてアフリベルセプト,レゴラフェニブが全生存期間の有意な延長が報告され,本邦における承認が待たれている.

キーワード
血管新生阻害薬、アフリベルセプト、レゴラフェニブ、結腸直腸がん、消化管間質腫瘍

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新しい抗体薬 1.新しい抗 HER2 抗体薬:ペルツズマブと T-DM1


野口瑛美*   田村研治**
* 国立がん研究センター中央病院乳腺・腫瘍内科 ** 同医長

要  旨
 HER2 陽性乳がんに対する抗 HER2 療法は分子標的治療の先駆けであり,最も成功している治療の1つである.モノクローナル抗体であるトラスツズマブとチロシンキナーゼ阻害薬であるラパチニブがすでに広く使用されているが,近年,新しい抗 HER2 療法薬であるペルツズマブや T-DM1 の成績が相次いで発表された.本稿ではこれらの薬剤について,第Ⅲ相臨床試験の結果を中心に概説する.

キーワード
乳がん、HER2、モノクローナル抗体、ペルツズマブ、T-DM1

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新しい抗体薬 2.抗 CCR4 抗体について

成田朋子*   石田高司**
* 名古屋市立大学大学院医学研究科腫瘍・免疫内科学 ** 同准教授

要  旨
 2012年5月29日,世界に先駆けて成人T細胞白血病/リンパ腫に対する新規薬剤として,抗 CCR4 抗体(モガムリズマブ,ポテリジオメ)が上市された.一方,本薬剤は抗腫瘍免疫賦活化作用によるさまざまながん種への応用の可能性をも有している.本稿では,T細胞リンパ腫に対する新規抗体薬剤としての抗 CCR4 抗体,抗 Treg 薬剤としての抗 CCR4 抗体,がん免疫応答制御にかかわる抗体薬について,現状そして今後の展望を解説する.

キーワード
CCR4、抗体依存性細胞障害、抗体療法、制御性T細胞、成人T細胞白血病/リンパ腫

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がん幹細胞を標的とした治療戦略

吉田 剛*   佐谷秀行**
* 慶應義塾大学医学部先端医科学研究所遺伝子制御研究部門 ** 同教授

要  旨
 腫瘍組織は均一ながん細胞によって構成されているわけではなく,多彩な性質を持つ不均一な腫瘍細胞で構築されている.自己複製能と多分化能を有するがん幹細胞が起源となって,その不均一性が形成される.がん幹細胞は他の細胞に比べてさまざまなストレスに対する抵抗性を有していることから,現行の治療では完全に破壊することが困難であると考えられている.本稿では,がんの治療抵抗性を克服するための手段として,がん幹細胞を標的にした戦略について,将来像を含めて概説したい.

キーワード
がん幹細胞、階層性モデル、微小残存病変、CD44バリアント、酸化ストレス抵抗性

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肺がんの分子標的薬耐性のメカニズムとその克服

矢野聖二*

* 金沢大学がん進展制御研究所腫瘍内科 教授

要  旨
 EGFR チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)や ALK-TKI は,それぞれ EGFR 変異および ALK 融合遺伝子を有する肺がんに著効する.しかし,奏効例もほぼ例外なく1~数年で耐性を獲得し再燃することが問題となっている.近年その獲得耐性メカニズムとして,標的自身の二次的変異や,側副経路の活性化などの機構が次々に明らかにされてきている.耐性を克服するための新しい薬剤の臨床開発も進んでおり,本研究領域は急速に展開している.

キーワード
獲得耐性、二次的遺伝子変異、側副経路活性化、EGFR-TKI、ALK-TKI

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ポストゲノム時代の個別化治療を目指した新しい取り組み
1.次世代シークエンス技術を応用した個別化医療は可能か?

土原一哉*
* 国立がん研究センター東病院臨床開発センタートランスレーショナルリサーチ分野 分野長

要  旨
 次世代シークエンサーがもたらしたがんゲノムの高精度な解析は,がん研究の方法論にも変化を起こした.同定された遺伝子変異をもとにがんの新たな生物学的特性が明らかになる一方,固形がんの変異の多様性も再認識され,がんゲノム像の再構築が求められている.一方,高速シークエンス技術のバイオマーカー診断への応用も現実的になりつつある.検出の技術的な改善に加え,遺伝子診断における倫理的・法的問題の解決を急ぐ必要がある.

キーワード
次世代シークエンサー、がんゲノム、バイオマーカー、分子標的薬

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ポストゲノム時代の個別化治療を目指した新しい取り組み
2.肺がんでの個別化治療への試み

岡本 勇*1  坂井和子*2  中川和彦**1 西尾和人**2
*1 近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門 准教授 **1 同教授
*2 同ゲノム生物学部門 **2 同教授

要  旨
 EGFR 遺伝子変異非小細胞肺がん症例や EML4-ALK 陽性症例におけるチロシンキナーゼ阻害薬の劇的な臨床効果を経験し,悪性形質の維持に大きく寄与している分子異常(driver oncogene)をとらえ,これらを標的とする分子標的治療薬を臨床開発していくことが予後不良の本疾患の治療開発戦略の重要な方向性であることが示されている.本稿では,進行非小細胞肺がんの個別化治療開発に向けた,西日本がん研究機構(WJOG)における取り組みを紹介する.

キーワード
非小細胞肺がん、MassARRAY、EGFR、ALK、LETS付随研究

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ポストゲノム時代の個別化治療を目指した新しい取り組み
3.乳がんでの個別化医療への取り組み

内藤陽一*
* 国立がん研究センター東病院乳腺・腫瘍内科

要  旨
 乳がんは,ホルモン受容体,HER2 タンパク質/遺伝子増幅により古くから個別化医療への取り組みが行われてきた疾患である.その後分子プロファイルによる intrinsic subtype 分類が試みられ,近年は網羅的変異解析の報告も相次いでいる.さらに,単一の標的バイオマーカーの異常ではなく,伝達経路のクロストークの理解が深まっており,これらの知見を個々の患者にいかに還元していくかが今後の課題である.

キーワード
乳がん、個別化医療、網羅的遺伝子解析、バイオマーカー、クロストーク

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連載
現代社会とうつ病

  現代社会において問題となっております「うつ病」について病気そのものの解説、法、サポート体制などを連載形式で詳しく紹介する目的で連載「現代社会とうつ病」を企画致しました。
 今号から約3年間にわたり国内の診療・研究の最前線でご活躍されている先生方に「うつ病」について詳しくご解説をお願いしております。
 第20回は慶應義塾大学・冨田 真幸 先生による「日本うつ病学会の治療ガイドライン:軽症うつ病」です。

要  旨
 2012年7月に日本うつ病学会から発表された大うつ病治療ガイドラインは,我が国初の学会によるうつ病治療ガイドラインである.従来汎用されたガイドラインと異なり,軽症うつ病を中等症・重症うつ病とは別個に取り扱い,我が国の臨床実態に適合した基礎的介入として,全例に笠原の「小精神療法」を行うことを推奨している.薬物療法や体系化された精神療法については安易には行わず,患者背景や病態への理解を深めたうえでの導入が望ましいとした.ガイドラインを通じてうつ病治療全体への理解を深め,個々の患者に適した治療を模索する姿勢が求められている.

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連載
臨床研究のススメ

 これまで我が国では臨床研究に対する評価はそれほど高いものではなく、諸外国に比べて大きな成果を上げるのが難しい状況でした。最近になってようやく臨床研究が評価されつつあるものの、日本以外のアジア諸国の台頭もあり、我が国の臨床試験の遅滞状況は危機的なものとなっております。
 そこで、この度、臨床研究とはどの様なもので、何に基づき、何をどの様にやらなければならないかをご紹介する目的で先端医療推進財団・理事長 井村 裕夫 先生にご監修頂き「臨床研究のススメ」を企画致しました。
 第20回は国立循環器病研究センター・山本 晴子 先生に「医療機器の開発と臨床試験」と題してご解説をお願いしました。

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連載
トップランナーに聞く(第24回)
発生工学的手法を用いたインスリン抵抗性・2型糖尿病の分子機構の解明

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
 第24回は発生工学的手法による遺伝子改変マウスを用いた糖尿病の発症機序について研究されている東京大学の窪田 直人 先生にお話を伺いました。

 窪田 直人 先生

 2型糖尿病は遺伝因子と環境因子(生活習慣)の相互作用によって発症する多因子疾患です。損ため病態の解明には、個々の遺伝因子が個体にどのような遺伝的感受性を形成し、どのような環境因子の負荷が加わって発症するかという全体像を明らかにすることが重要です。
 私は発生工学的手法を用いて遺伝子改変マウスを作成し、遺伝因子と環境因子による多因子疾患の病態を再構成し、特にインスリン抵抗性の分子機構を中心に2型糖尿病に発症過程や分子メカニズムの解明に取り組んでいます。

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新連載
ノーベル賞と医学の進歩・発展

 68巻10号からノーベル賞の対象となった業績やその業績が現在どのような恩恵をもたらしているかについて、各領域の専門家の先生方に詳しいご解説をお願いしております。

 第3回は長崎大学・金子 修 先生による「マラリア原虫発見の歴史と今日的課題」です。


トピックス
B型肝炎のユニバーサルワクチンとその問題点

武藤 純*1*2  調  憲**2   溝上雅史**1
*1 国立国際医療研究センター肝炎・免疫センター **1 同センター長
*2 九州大学大学院医学研究院消化器・総合外科 **2 同准教授

要  旨
 我が国のB型肝炎ウイルス(HBV)感染予防は,HBs 抗原陽性妊婦からの出生児のみにB型肝炎ウイルスワクチン(HB ワクチン)を投与するセレクティブワクチネーション方式であり,高力価抗 HBs 抗体含有ヒト免疫グロブリン(HBIG)との併用により,これまで母児感染予防に対し高い効果を上げてきた.一方,諸外国では全出生児に HB ワクチンを投与するユニバーサルワクチネーション方式が主である.しかし,現在本邦では成人の水平感染が増加していることもあり,水平感染予防も考慮したユニバーサルワクチネーション方式への移行の必要性が大きく取り上げられている.そのユニバーサルワクチネーション方式導入に関する問題点についてまとめた.

キーワード
HBV、ユニバーサルワクチン、セレクティブワクチン、母子感染、HBIG

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トピックス
自己免疫性筋炎研究の進歩 ―自己免疫疾患の Seed & Soil モデル―

上阪 等*
* 東京医科歯科大学大学院膠原病・リウマチ内科 准教授

要  旨
 沈滞していた自己免疫性筋炎研究を打開するため,筆者らは新たなマウス多発性筋炎モデルを開発した.このモデルにより,T細胞による筋組織傷害,炎症性サイトカインの関与などが明らかになった.さらに,自己免疫による筋組織破壊には,獲得免疫である自己反応性T細胞の活性化と筋組織の自然免疫活性化とが協調することが大切と分かった.筆者らは,これを自己免疫の Seed & Soil モデルと名づけた.

キーワード
多発性筋炎、皮膚筋炎、Seed&Soilモデル、Cタンパク質誘導性筋炎

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