最新医学68巻1号 
特集 肥満症 -病態・診断・治療-


要  旨


座談会 肥満症 -現状と将来展望-
       

大阪大学            下村 伊一郎 
宮崎大学            中里 雅光
東京医科歯科大学       小川 佳宏(司会)

 座談会の内容
 ・肥満症診断基準2011の概要
 ・肥満症とメタボリックシンドローム
 ・肥満症の人種差
 ・肥満症の薬物療法
 など

   下村先生        小川先生       中里先生

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病態:基礎と臨床
肥満症と慢性炎症

真鍋一郎*
* 東京大学大学院医学系研究科循環器内科 講師

要  旨
 肥満はさまざまな慢性疾患の重要なリスク要因である.肥満は内臓脂肪組織で炎症を惹起する.脂肪組織の炎症はアディポカインの産生変化や遊離脂肪酸の放出増加を介して,膵臓や血管などの遠隔組織へ影響を与える.例えば,遊離脂肪酸は膵島炎症を惹起し,β細胞の機能障害を引き起こす.このように,肥満内臓脂肪を起点とした炎症の波及・拡大が,生活習慣病の背景病態となっている可能性がある.

キーワード
慢性炎症、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、マクロファージ

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病態:基礎と臨床
アディポサイトカイン

山内敏正*   門脇 孝**
* 東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科 講師 ** 同教授

要  旨
 肥満して脂肪細胞肥大化が起こると,悪玉アディポサイトカインが多く分泌され,アディポネクチンが低下して肥満症が惹起される.アディポネクチンは,肝臓では AdipoR1 を介して AMPK を活性化し,糖新生・脂肪合成抑制と脂肪酸燃焼促進を,AdipoR2 を介して PPARα を活性化し,脂肪酸燃焼・エネルギー消費促進,抗炎症作用,酸化ストレス低減作用を発揮し,骨格筋では AdipoR1 を介して AMPK/SIRT1/PGC-1 を活性化し,ミトコンドリア生合成促進や酸化ストレスを低減するなどして,インスリン抵抗性を改善させる.

キーワード
アディポネクチン、炎症、酸化ストレス、AMPキナーゼ、ミトコンドリア

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病態:基礎と臨床
エピジェネティクスと肥満・メタボリックシンドローム

酒井寿郎**  稲垣 毅*
* 東京大学先端科学技術研究センター代謝医学分野 特任准教授 ** 同教授

要  旨
 2012 年2月の『Nat Med』誌に日米の3つのグループから,2012 年3月の『Genome Res』誌に韓国のグループから,肺がんの新しい原因遺伝子として KIF5B-RET 融合遺伝子を発見したことが報告された.2007 年の非小細胞肺がんにおける ALK 融合遺伝子の発見とその後の ALK 阻害薬の臨床開発の成功により,固形がんにおける分子標的療法の新たな治療標的として融合遺伝子が注目されている.今後,RET 融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんに対する RET 阻害薬の治療開発が期待される.

キーワード
メタボリックシンドローム、環境因子、遺伝素因、PPARγ、Jmjdla、Setdb1、PR-Set7/Setd8

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病態:基礎と臨床
肥満症と臓器間ネットワーク


山田哲也*1*2  片桐秀樹**1*2
*1 東北大学大学院医学系研究科代謝疾患医学コアセンター代謝疾患学分野 准教授
**1 同教授   *2 東北大学病院糖尿病代謝科

要  旨
 肥満は摂取エネルギーと消費エネルギーの差の増加によって生じるが,日々の食事量や活動量の変動がそのまま直接に体重の変化に反映されるわけではない.近年,多くの臓器間相互作用が体重の恒常性維持機構に寄与していることが明らかとなり,また恒常性維持機構の破綻がもたらす肥満発症メカニズムの解明も進んできている.一方,非恒常性維持的に作用し肥満の形成の要因となっているシステムとして,「報酬系」が注目されている.本稿では,体重制御にかかわる臓器間ネットワークの最近の進歩を概説したい.

キーワード
脂肪組織、肝臓、視床下部、自律神経系、報酬系

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病態:基礎と臨床
褐色脂肪組織の基礎と臨床


斉藤昌之*
* 天使大学看護栄養学部栄養学科 教授

要  旨
 褐色脂肪は,熱産生機能によってエネルギーを消費する特殊な脂肪組織である.FDG-PET を利用してヒト褐色脂肪を同定・評価したところ,肥満者や中高年者では活性が低下しているが,高い活性を保持していれば加齢に伴う体脂肪蓄積が抑制されることが判明した.これを踏まえて,不活性になった褐色脂肪を再活性化して肥満を軽減・予防する試みを紹介する.

キーワード

褐色細胞組織、エネルギー消費、肥満、ベージュ細胞

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病態:基礎と臨床
肥満症と異所性脂肪

田村好史*1*2

*1 順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌学 准教授 *2 同スポートロジーセンター

要  旨
 インスリン標的臓器に蓄積する肝細胞内脂質や骨格筋細胞内脂質は異所性脂肪の1つであり,インスリン抵抗性の原因の一部であると考えられている.現在までに行われた研究により,肥満があったとしても,異所性脂肪量が正常であれば代謝的に正常に近くなることが明らかになりつつある.東アジア人に多く見られるような,肥満の程度が軽くても代謝的に肥満している原因として,異所性脂肪蓄積の重要性が指摘されており,今後の検討が待たれる.

キーワード
居所性脂肪、骨格筋細胞内脂質、肝内脂質、インスリン抵抗性

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病態:基礎と臨床
脂肪萎縮症に関する最近の進歩


海老原 健*1  日下部 徹*2  中尾一和**2
*1 京都大学医学部附属病院探索医療センター 准教授
*2 京都大学大学院医学研究科内分泌代謝内科 **2 同教授

要  旨
 脂肪萎縮症は,生体の恒常性維持における脂肪組織の役割を考えるうえで重要な疾患である.脂肪萎縮症では高頻度にインスリン抵抗性糖尿病や脂質異常症,脂肪肝などの代謝異常を合併する.最近の研究により,脂肪組織の欠損,中でも脂肪組織由来ホルモンであるレプチンの欠乏が,代謝異常発症に重要な役割を有していることが証明されている.これらの知見は,脂肪萎縮症に対する治療のみならず,肥満症において脂肪細胞機能の破綻による各種病態への新しい治療法の開発に結びつくものと期待される.

キーワード
脂肪委縮症、脂肪組織、レプチン、アディポサイトカイン、A-ZIP/F-1マウス

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診断・疫学・治療
肥満症の診断基準

横手幸太郎*
* 千葉大学大学院医学研究院細胞治療内科学 教授

要  旨
 脂肪組織が過剰に蓄積した状態である「肥満」に対し,肥満に起因ないしは関連する健康障害を合併するか,その合併が予測される場合で,医学的な見地から減量を必要とする病態を「肥満症」と称する.近年の研究から,健康障害の合併は内臓脂肪の蓄積と密接にかかわることが明らかにされ,「体重を減らすことにメリットがある,つまりやせるべき人」を的確に選び出すことの重要性が求められている.そのような視点から作成された日本肥満学会の肥満症診断基準について概説する.

キーワード
肥満、肥満症、健康障害、内臓脂肪、高度肥満

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診断・疫学・治療
小児肥満の現状と今後の対策

大関武彦*
* 共立女子短期大学看護学科 教授

要  旨
 小児の肥満は,小児期のみならず成人期の健康,特に生活習慣病やそれに伴う動脈硬化性疾患の予防の視点から,ますます注目されるようになってきた.疫学的には世界的に小児肥満の増加が指摘されている.発症要因としての生活習慣について,成人期にも増して小児期ではより広範に生活全般についての視点が必要とされる.検査法の進歩により,すでに小児期においても,動脈硬化の初期と考えられる病変が確認されるようになってきた.小児の生活習慣に対する包括的な対策が必要である.

キーワード
肥満症、生活習慣病、メタボリックシンドローム、動脈硬化、学校保健

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診断・疫学・治療
メタボリックシンドローム ―特定健診・特定保健指導―

津下一代*

* あいち健康の森健康科学総合センター センター長

要  旨
 平成 20 年度から,メタボリックシンドロームに着目した特定健診・特定保健指導が全国の医療保険者によって開始され,年間 50 万人以上の対象者に保健指導を実施している.積極的支援実施群では,行動変容を促す生活習慣改善指導の結果,体重減量がもたらされ,3%程度の軽度な減量によって,血圧,脂質,糖代謝などの検査値改善に結びつくことが判明した.受診率の向上策,効果的な保健指導のあり方,長期的な評価について,検討と改革が進められているところである.

キーワード
メタボリックシンドローム、特定検診、保健指導、減量目標、行動変容

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診断・疫学・治療
沖縄クライシスの現状と新たなチャレンジ

益崎裕章*1  島袋充生*2
*1 琉球大学大学院医学研究科内分泌代謝・血液・膠原病内科学講座(第二内科) 教授
*2 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部心臓血管病態医学分野 特任教授

要  旨
 かつて世界に冠たる長寿の島として知られた沖縄が,日本屈指の肥満県,糖尿病県に転じ,平均寿命の凋落が続いている(沖縄クライシス).子ども時代から米国型の高脂肪・大量消費型の食文化の洗礼を受けてきた壮年世代,還暦世代を中心に,特に成人男性におけるメタボリックシンドローム,2型糖尿病,高血圧症が急増し,人工透析の導入率や心血管・脳血管イベントの発生率は日本屈指のレベルに達している.

キーワード
メタボリックシンドローム、2型糖尿病、肥満症、食欲調節、高脂肪食

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診断・疫学・治療
DOHaD 仮説とメタボリックメモリー

伊東宏晃*1*2
*1 浜松医科大学附属病院 病院教授 *2 同周産母子センター長

要  旨
 近年,種々の疫学研究から,胎生期や乳児期などの臓器やその制御機構が発達する期間における栄養環境が成人期・老年期に至るまで長期的な影響を及ぼして,肥満症やメタボリックシンドローム発症の危険因子形成に寄与する可能性が明らかになりつつある.本稿では,代表的な疫学研究を紹介するとともに,諸家により提唱されているメカニズムに関する仮説を紹介する.

キーワード
低出生体重、Barker仮説、メタボリックシンドローム、肥満症、糖尿病、妊娠、胎児

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診断・疫学・治療
肥満症の治療 ―メタボリックサージェリーと腸管ホルモン―

入江潤一郎*   伊藤 裕**
* 慶應義塾大学医学部 ** 同教授

要  旨
 肥満症治療として減量は必須であるが,生活習慣の修正による内科的治療では十分な減量を得ることは困難である.肥満症に対し消化管を操作する外科手術,肥満外科手術が世界中で行われ良好な成績を収めている.さらに,手術後に減量効果に加え糖尿病や脂質異常症などの改善も伴うことが多く,「メタボリックサージェリー」とも称される.その機序は明らかではないが,腸管環境の変化が大きく影響していると考えられている.

キーワード
肥満外科手術、bariatric surgery、インクレチン、腸管環境

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診断・疫学・治療
抗肥満症薬の現状と展望

宮崎 滋*
* 結核予防会新山手病院生活習慣病センター センター長

要  旨
 肥満症の治療は脂肪組織の減少,特に内臓脂肪の減少により,肥満に起因する健康障害(合併症)を予防,改善することが目的である.現在は主に食事,運動という生活習慣改善療法が行われているが,体重減少や減少した体重の維持は困難なので,抗肥満症薬には体重減少効果を高める働きが求められる.抗肥満症薬として適切な薬物はなかったが,新規抗肥満症薬が米国で最近承認され,日本でも開発が進行しているので,今後の肥満症診療への活用が期待されている.

キーワード
抗肥満症薬、体重減少、内臓脂肪蓄積、食欲抑制薬、リパーゼ阻害薬

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連載
現代社会とうつ病

  現代社会において問題となっております「うつ病」について病気そのものの解説、法、サポート体制などを連載形式で詳しく紹介する目的で連載「現代社会とうつ病」を企画致しました。
 今号から約3年間にわたり国内の診療・研究の最前線でご活躍されている先生方に「うつ病」について詳しくご解説をお願いしております。
 第21回は名古屋大学・岩本 邦弘 先生による「うつ病の治療ガイドライン:中等症~重症」です。

要  旨
 日本うつ病学会による「うつ病治療ガイドライン」から,中等症から重症うつ病(精神病性の特徴は伴わないもの)の治療について,臨床状況に即して概説した.ガイドラインは標準的治療を行ううえで有用であるが,ガイドラインが依拠するエビデンスには限界もあり,実臨床で参考にする際には留意すべき点がある.すなわち,ガイドラインのみを金科玉条とするのではなく,臨床医の経験や工夫により治療方針を決定し,さらに患者のニーズと合致する治療を実践することが重要である.

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連載
臨床研究のススメ

 これまで我が国では臨床研究に対する評価はそれほど高いものではなく、諸外国に比べて大きな成果を上げるのが難しい状況でした。最近になってようやく臨床研究が評価されつつあるものの、日本以外のアジア諸国の台頭もあり、我が国の臨床試験の遅滞状況は危機的なものとなっております。
 そこで、この度、臨床研究とはどの様なもので、何に基づき、何をどの様にやらなければならないかをご紹介する目的で先端医療推進財団・理事長 井村 裕夫 先生にご監修頂き「臨床研究のススメ」を企画致しました。
 第21回は千葉大学・齋藤  康 先生に「我が国の臨床研究の将来 ―今何をなすべきか―」と題してご解説をお願いしました。

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連載
トップランナーに聞く(第25回)
放射線医学分野における先進医療機器開発 -現場で役立つ研究開発を目指して-

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
 第25回は分子イメージング誘導放射線治療システムによるリアルタイムでの腫瘍追跡法を研究されている北海道大学の石川 正純 先生にお話を伺いました。

 石川 正純 先生

 専門は放射線計測、特に放射線医学における物理工学的な開発が主な研究テーマです。これまでに、光ファイバーを利用した体内に挿入可能な放射線線量計の開発及び放射線治療時の放射線障害予防などの臨床応用、診断X腺測定のための線量計の開発などに加え、次世代型動態追跡放射線治療装置の開発、分子イメージング画像誘導放射線治療装置のための対向型PET装置の開発などを手掛けています。。

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連載
ノーベル賞と医学の進歩・発展

 68巻10号からノーベル賞の対象となった業績やその業績が現在どのような恩恵をもたらしているかについて、各領域の専門家の先生方に詳しいご解説をお願いしております。

 第4回は京都大学・光山 正雄 先生による「病原細菌発見の歴史と今日的課題 ―ロベルト・コッホの業績―」です。


トピックス
ヒト ES/iPS 細胞から肝細胞への高効率分化誘導法の開発とその創薬応用

高山和雄*1*2  川端健二**2  水口裕之**1***2*3
*1大阪大学大学院医薬学研究科分子生物学分野 **1同教授
*2独立行政法人医薬基盤研究所肝細胞制御プロジェクト 
**2同プロジェクトリーダー ***2同チーフプロジェクトリーダー
***3大阪大学臨床医工学融合研究教育センター 教授

要  旨
 薬物誘発性肝障害は,医薬品候補化合物の開発中止や医薬品の市場撤退の主要な原因であり,医薬品開発研究の初期に肝毒性を精度高く予測することができれば,医薬品開発の効率化やコスト削減に繋がる.ヒト ES 細胞やヒト iPS 細胞からヒト初代培養肝細胞に類似した機能を有した肝細胞を作製できれば,in vitro での毒性評価において,ヒト初代培養肝細胞の代替ソースとなりうる.本稿では,ヒト ES/iPS 細胞から肝細胞への分化誘導技術と,毒性評価系への応用に関する現状と課題について概説する.

キーワード
ヒトES細胞、ヒトiPS細胞、肝細胞、毒性評価、遺伝子導入

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トピックス
全身性エリテマトーデスにおける感受性遺伝子

山田 亮*
* 京都大学大学院医学系研究科 教授

要  旨
 全身性エリテマトーデス(SLE)は多彩な病像をとる自己免疫疾患である.過去数年間に大規模ケースコントロール関連解析が実施され,数多くの感受性遺伝子が同定されてきている.その成果の多さは他の疾患に比べて目覚ましいものがある.本稿では,SLE の遺伝因子について説明し,最近の感受性遺伝子解析の成果を概説する.

キーワード
全身性エリテマトーデス、ゲノム、感受性遺伝子、自己免疫疾患、ゲノムワイド関連解析

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