最新医学68巻4号 
特集 認知症 -鑑別診断を中心に-



要  旨


座談会 認知症疾患の精度の高い早期診断を目指して

筑波大学           朝田 隆
東京大学            岩坪 威
金沢大学           山田 正仁(司会)

 座談会の内容
 ・認知症の疫学研究
 ・アルツハイマー病(AD)
 ・レビー小体型認知症(DLB)
 ・血管性認知症 など

  岩坪先生     山田先生         朝田先生

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総論
病理学から見た認知症の原因疾患と疫学 ―久山町研究から―

本田裕之*   岩城 徹**
* 九州大学医学研究院神経病理学分野 ** 同教授

要  旨
 日本人の認知症は65歳以上人口における約1割に達しており,顕著な増加傾向にある.久山町疫学研究では1985年から65歳以上の住民を対象に認知症調査を開始し,剖検による病理学的診断によって病型分類の精度を高めてきた.その結果,アルツハイマー病の増加が際立っていることが明らかとなった.耐糖能異常がアルツハイマー病の老人斑の形成および発症の危険因子となり,その増加傾向に関与している.

キーワード
病理疫学、認知症、アルツハイマー病、脳血管性認知症、生活習慣病

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総論
症候学から見た認知症疾患の鑑別診断

松田 実*
* 滋賀県立成人病センター老年内科 主任部長

要  旨
 日本人の認知症は65歳以上人口における約1割に達しており,顕著な増加傾向にある.久山町疫学研究では1985年から65歳以上の住民を対象に認知症調査を開始し,剖検による病理学的診断によって病型分類の精度を高めてきた.その結果,アルツハイマー病の増加が際立っていることが明らかとなった.耐糖能異常がアルツハイマー病の老人斑の形成および発症の危険因子となり,その増加傾向に関与している.

キーワード
認知症、症候学、鑑別診断

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総論
画像検査から見た認知症疾患の鑑別診断

石井賢二*
* 東京都健康長寿医療センター研究所PET画像診断

要  旨
 認知症は脳の持続的機能障害が原因であり,正確な鑑別診断を行ううえで画像診断は欠かすことができない.初期評価の段階で治療可能な疾患を鑑別するために,頭部X線CTまたはMRIを必ず施行すべきである.MRIによる萎縮の分布,脳血流SPECTやFDG-PETによる神経機能障害の分布は,早期診断や鑑別診断に有用である.123IミMIBG心筋シンチグラフィー,アミロイドPET,ドパミントランスポーター画像の役割についても述べる.

キーワード
認知症、MRI、SPECT、PET

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総論
生化学マーカーから見た認知症疾患の鑑別診断


東海林幹夫*
* 弘前大学大学院医学研究科脳神経内科学講座 教授

要  旨
 アルツハイマー病(AD)では,脳脊髄液(CSF)Aβ42 の低下,タウ,リン酸化タウが増加し,これらのバイオマーカーを組み合わせれば診断とADの発症予測が可能である.これらのマーカーは発症20数年前からすでに変化し始めることも示されている.しかし,非AD型認知症との鑑別にはいまだに解決すべき問題が残されており,CSFα-シヌクレインや 14-3-3 タンパク質などの非 AD 型認知症の病態に基づいた新たなバイオマーカーのエビデンスの確立が急がれている.

キーワード
認知症、鑑別診断、バイオマーカー、アルツハイマー病(AD)、非AD型認知症

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総論
軽度認知障害の多様性と鑑別診断


荒井啓行*1*2
*1 東北大学加齢医学研究所脳科学研究部門老年医学分野 教授
*2 東北大学病院老年科 教授

要  旨
 軽度認知障害(MCI)とは,正常でもなくかつ認知症でもない,その中間のグレーゾーンに位置するもので,認知機能の低下はあるが,日常生活機能はおおむね自立した状態を指す.MCIは臨床的にも病因論的にも多様性を示し,認知症へと進行するリスクが高い.鑑別診断として,脳脊髄液中の総タウ/リン酸化タウ/Ab42 やアミロイド PET などのバイオマーカーが有望視されている.

キーワード

軽度認知障害、多様性、鑑別診断、アルツハイマー病、バイオマーカー

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各論
アルツハイマー病による認知症の新しい診断基準と鑑別診断

中島健二**  和田健二*

* 鳥取大学医学部脳神経医科学講座脳神経内科学分野 講師 ** 同教授

要  旨
 最近の研究成果をもとに,2011年に新たにアルツハイマー病の診断基準が National Institute on Aging と Alzheimerユs Association から報告され,バイオマーカーを含めた研究用診断基準と臨床的な使用を目的とした診断基準が示された.臨床的には,まず認知症であることを確認し,次にその臨床的特徴や諸検査に基づいて診断を進めていく.

キーワード
アルツハイマー病、認知症、診断基準、診断、バイオマーカー

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各論
混合型認知症の診断


羽生春夫*
* 東京医科大学老年病科 教授

要  旨
 単独では認知症の発現に寄与しない脳血管障害(CVD)がアルツハイマー病(AD)に合併した場合を AD with CVD とし,認知症を引き起こすだけのCVDがADと共存する場合に「狭義」の混合型認知症(MD)と定義される.これらは対極に位置する AD と血管性認知症(VaD)の間の連続した臨床スペクトラムを形成している.AD や VaD に特徴的な臨床症候や経過,脳画像などをもとに,どちらの所見が優位となるかによって,AD 優位か VaD 優位か,あるいは同等であれば MD と診断するのが現実的と言える.

キーワード
血管性認知症、混合型認知症、アルツハイマー病、脳血管障害、脳画像

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各論
レビー小体型認知症の鑑別診断

吉田光宏*
* 独立行政法人国立病院機構北陸病院 統括診療部長

要  旨
 レビー小体型認知症の臨床診断の基本は,他の認知症疾患と同様に,詳細な臨床経過,神経精神症候の把握であり,問診,一般身体所見,神経学的所見,認知機能および精神状態の診察を行うことから始まる.臨床経過,症候を把握したうえで,血液検査,頭部 MRI,MIBG 心筋シンチグラフィー,脳血流 SPECT,糖代謝 PET,脳波,脳脊髄液検査,神経心理学的検査,嗅覚同定検査などの補助検査を併用し,鑑別診断を行うことによって診断精度は高まる.

キーワード
レビー小体型認知症、パーキンソン病、MIBG、うつ、嗅覚障害

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各論
前頭側頭葉変性症の鑑別診断

尾籠晃司**  飯田仁志*
* 福岡大学医学部精神医学教室 ** 同准教授

要  旨
 前頭側頭葉変性症は古典的なピック病を中核とした概念であり,前頭・側頭葉に限局して進行性の変性を呈し,行動障害や言語障害を主徴とする非アルツハイマー型変性性認知症である.最近の前頭側頭葉変性症(FTLD)に関する神経病理学的,分子遺伝学的進展は著しいが,臨床診断には症候学的診断が重要であり,画像やバイオマーカーは補助的なものである.FTLD の臨床症状を代表する前頭側頭型認知症(bvFTD)の診断基準が国際研究グループにより2011年に改訂され,その内容を紹介した.bvFTD では脳の前方部の障害から来る性格変化と社会的行動の問題が主たる症状であり,脳の後方部が主に障害されるアルツハイマー病とは対照的である.早期にアルツハイマー病や他の疾患と鑑別診断することが治療上重要である.

キーワード
前頭側頭葉変性症、先頭側頭型認知症、進行生失語、意味性認知症、bvFTD

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各論
嗜銀顆粒性認知症の鑑別診断

齊藤祐子*1  村山繁雄*2

*1 国立精神・神経医療研究センター病院臨床検査部 医長
*2 東京都健康長寿医療センター 神経病理研究リーダー

要  旨
 嗜銀顆粒性認知症(AGD)は,Braak が命名した嗜銀顆粒の出現を特徴とする,病理学的に定義された疾患であり,大陸欧州での認知度は高い.高齢者連続剖検例において確定診断された症例からは,アルツハイマー病(AD)と比べて以下の特徴が抽出される.①高齢発症群に多い.②遂行機能が比較的保たれるため,進行は緩徐と評価される.③易怒性,頑固,自発性低下など,前頭側頭型認知症と共通の症状を示すが軽い.④画像的に,左右差を持った,迂回回を含む側頭葉内側前方の萎縮,機能・血流低下を示す,⑤髄液バイオマーカー,アミロイド PET は原則として正常である.⑥塩酸ドネペジルには不応である.鑑別が AD より困難なのは神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT)で,AGD との合併も多く,我々は両者を高齢者タウオパチーとして一括することを提唱している.

キーワード
精神症状、左右差、迂回回、バイオマーカー、VSRAD

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各論
神経原線維変化型老年期認知症の鑑別診断

山田正仁*
* 金沢大学大学院医薬保健学総合研究科脳老化・神経病態学(神経内科学) 教授

要  旨
 神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT)は,海馬領域を中心とする多数の神経原線維変化によって特徴づけられる高齢発症の認知症である.認知症高齢者の約5%を占める.記憶障害が非常に緩徐に進行し,軽度認知障害から認知症の段階に至る.アルツハイマー病(AD)や他の非 AD 型変性認知症(嗜銀顆粒性認知症など)との鑑別を要する.

キーワード
神経原線維変化型老年期認知症、神経原線維変化、海馬領域、タウオパチー、アルツハイマー病

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各論
特発性正常圧水頭症様の画像所見を示す認知症の鑑別診断

森 悦朗*
* 東北大学大学院医学系研究科高次機能障害学 教授

要  旨
 特発性正常圧水頭症は,歩行障害,認知障害,尿失禁を来す病態で,適切なシャント術によって症状の改善が得られるという点で,他の認知症疾患とは大きく異なる.診療ガイドラインが出版されてその重要性が再認識され,臨床や研究が進みつつある.その診断においては,他の認知症疾患以上にとりわけ画像診断の果たす役割が大きい.脳室拡大は脳萎縮でも生じ,多くの認知症疾患に見られるので,それらとの鑑別は特に重要である.ここでは,類似した画像所見を示す認知症との鑑別診断の要点について述べる.

キーワード
特発性正常圧水頭症、画像診断、脳室拡大、くも膜下腔、DESH

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各論
急速進行性認知症の鑑別診断

浜口 毅*   山田正仁**
* 金沢大学大学院医薬保健学総合研究科脳老化・神経病態学(神経内科学) ** 同教授

要  旨
 急速進行性認知症には,プリオン病,前頭側頭型認知症,アルツハイマー病といった神経変性疾患,傍腫瘍症候群などの自己免疫疾患,プリオン病以外の中枢神経感染症,腫瘍性疾患,中毒・代謝性疾患などがある.それぞれの疾患の診断技術の進歩によって,正確な臨床診断が可能となってきている.特に,自己免疫疾患や中枢神経感染症,腫瘍性疾患,中毒・代謝性疾患には治療可能な疾患が含まれており,その鑑別診断は非常に重要である.

キーワード
急速進行型認知症、プリオン病、神経変性疾患、傍腫瘍症候群、神経感染症

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連載
現代社会とうつ病

  現代社会において問題となっております「うつ病」について病気そのものの解説、法、サポート体制などを連載形式で詳しく紹介する目的で連載「現代社会とうつ病」を企画致しました。
 今号から約3年間にわたり国内の診療・研究の最前線でご活躍されている先生方に「うつ病」について詳しくご解説をお願いしております。
 第24回は東京厚生年金病院・大坪 天平 先生による「治療について-うつ病のゴール-」です。

要  旨
 うつ病は患者の QOL や社会適応能力障害を来し,さまざまな身体疾患の予後を悪化させる.しかし,現時点の抗うつ薬治療は決して満足できる状況とは言えない.反応率・寛解率がもっと高く,再燃・再発予防に有効で,かつ,副作用の少ない安全な抗うつ薬が希求される.うつ病の治療過程でたとえ反応が見られても,患者の QOL や社会適応能力が元の状態に戻っているわけではない.QOL や社会適応能力は寛解を維持し,残遺症状をなくすことによって,初めて元の状態に戻る.最も再燃・再発予防に有効な手段は抗うつ薬の継続であるが,患者は常に服薬継続に不安を抱いているので,治療者は注意を払う必要がある.

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連載
トップランナーに聞く(第28回)
内分泌における新しい領域開拓を目指して ―転がってきた幸運を,ものにする一例―

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
 第28回はATL(成人T細胞白血病・リンパ腫)に対する抗CCR4抗体による新たな治療法の開発・実用化された名古屋市立大学の石田 高司 先生にお話を伺いました。

 石田 高司 先生

 血液内科医で、普段は貧血、血小板減少症などの良性疾患から急性白血病などの悪性腫瘍まで幅広く診療しています。基礎研究では『免疫学』を基盤領域として、主に成熟T細胞腫瘍を対象に新規治療法開発、病態解析研究を行っています。
 悪性リンパ腫を対象とした新薬の臨床開発(治験)および多施設共同臨床試験にも積極的に取り組んでいます。

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連載
ノーベル賞と医学の進歩・発展

 68巻10号からノーベル賞の対象となった業績やその業績が現在どのような恩恵をもたらしているかについて、各領域の専門家の先生方に詳しいご解説をお願いしております。

 第7回は愛知医科大学・山口 悦郎 先生による「塩基配列決定法 -サンガ―法を中心に-」です。


トピックス
漢方薬のワクチンアジュバント効果

小泉桂一**1   犬嶌明子*1   大江未来広*1 柴原直利***1  済木育夫*2
*1 富山大学和漢医薬学総合研究所漢方診断学分野 **1 同准教授 ***1 同教授
*2 同病態生化学分野 教授

要  旨
 種々のワクチンが医療現場で使用されている現在,さらなる効果増強のためのワクチンアジュバントが強く求められている.一方,漢方薬は,免疫の活性化を介して薬効が発揮されることが数多く報告されている.したがって,医療現場で用いられている漢方薬は,安全性の高い経口ワクチンアジュバントとしての速やかな応用が期待される.本稿ではその可能性を論じたい.

キーワード
漢方薬、ワクチン、アジュバント、免疫

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トピックス
特発性肺線維症の分子メカニズム

原 弘道*    荒屋 潤**   桑野和善***
* 東京慈恵会医科大学内科学講座呼吸器内科 ** 同講師 *** 同教授

要  旨
 特発性肺線維症(IPF)は,慢性かつ進行性に肺線維化を来す予後不良の呼吸器疾患である.上皮細胞の損傷と,引き続く修復,治癒機転の異常が主要な病態と考えられている.化生上皮細胞と筋線維芽細胞の増生が IPF 病態に関与する特徴的な病理学的所見であるが,分子生物学的機序はいまだ解明されていない.本稿では,IPF の病態形成,特に損傷からの異常な修復過程における細胞老化とオートファジーの役割について解説する.

キーワード
特発性肺線維症、オートファジー、細胞老化、筋線維芽細胞

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