最新医学68巻5号 
特集 脳血管障害 -予防・診断・治療法の進歩-



要  旨


座談会 脳卒中診療の課題と展望

三重大学           冨本 秀和
北里大学            西山 和利
広島大学           松本 昌泰(司会)

 座談会の内容
 ・超急性期の治療
 ・救急との連携
 ・高リスク患者
 ・血管性認知症 など

  西山先生       松本先生       冨本先生

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脳血管障害の疫学

清原 裕*
* 九州大学大学院医学研究院環境医学分野 教授

要  旨
 久山町では,時代とともに高血圧治療の普及や喫煙率の低下に伴って脳卒中,特に脳梗塞の死亡率・発症率が着実に減少したが,近年その発症率の低下が鈍化した.その要因として,時代とともに肥満,糖代謝異常,脂質異常症など代謝性疾患が急増し,高血圧治療や禁煙の予防効果を相殺していることが挙げられる.久山町の追跡調査では,高血圧とともに糖尿病などの代謝性疾患が脳梗塞や血管性認知症の有意な危険因子であった.

キーワード
脳卒中、血管性認知症、高血圧、糖尿病、メタボリックシンドローム

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無症候性脳血管障害

小黒浩明*   山口修平**
* 島根大学医学部内科学第三神経内科 講師 ** 同教授

要  旨
 (1)無症候性脳血管障害には,MRI画像所見によって無症候性脳梗塞,大脳白質病変(深部皮質下白質病変および脳室周囲高信号域)および無症候性微小出血が分類,定義される.
 (2)無症候性脳梗塞の大半はラクナ梗塞であり,脳卒中発症の高危険因子である.治療は降圧治療が最優先され,カルシウム拮抗薬やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)などが用いられる.無症候性脳梗塞に対する抗血小板薬投与の十分なエビデンスはまだない.
 (3)アテローム性の頸動脈硬化病変にはスタチン系内服薬がプラーク退縮に効果があり,無症候性脳血管障害に心房細動を合併する例では抗凝固薬投与を考慮する.
 (4)日本人の未破裂脳動脈瘤の4年間の大規模追跡調査(UCASJapan)では,脳動脈瘤サイズの増大に伴い破裂率が増加する.また中大脳動脈の未破裂脳動脈瘤に比して,後交通動脈瘤,前交通動脈瘤で破裂の頻度が高いことが報告された.


キーワード
無症候性脳血管障害、無症候性脳梗塞、脳室周囲高信号域、深部皮質下白質病変、
抗血小板薬、アパシー

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一過性脳虚血発作 ―その今日的意義―

尾原知行*1  峰松一夫*2
*1 国立循環器病研究センター脳血管内科 医長 *2 同副院長

要  旨
 今日,一過性脳虚血発作(TIA)を早期に脳梗塞を発症するリスクの高い救急疾患として,迅速に検査,治療を行うというコンセプトが急速に広まってきている.我が国においても,日本の TIA の特徴に合わせた初期対応指針の作成とともに,TIA 患者の脳卒中専門施設への早期受診のために,一般開業医との診療連携体制の整備,市民への啓発強化が不可欠である.

キーワード
一過性脳虚血発作(TIA)、TIAクリニック、脳梗塞、ABCD2スコア

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超急性期治療体制整備の意義


平野照之*
* 大分大学医学部神経内科学講座 准教授

要  旨
 脳卒中の超急性期治療体制の構築には,急性期病院の24時間体制,救急隊との前方連携に加え,市民教育で「脳卒中は救急疾患である(time is brain)」ことを啓発する必要がある.救急隊とはPSLSのアルゴリズムの中で,地域の実情に合った病院前脳卒中スケールを用いトリアージを行う.市民には顔・腕・言葉の異常を判断する FAST を用いて迅速な受療行動に繋がるメッセージを発信する.

キーワード
rt-PA静注療法、脳卒中病院前救護(PSLS)、Telestroke、市民啓発、ActFAST

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急性期における神経症状・症候の見方
(NIHSS,思わぬピットフォールほか)


星野晴彦*1*2*3
*1 東京都済生会中央病院内科 部長 *2 同神経内科部長
*3 同脳卒中センター センター長

要  旨
 急性期脳卒中の神経症候の診方として,NIH Stroke Scale(NIHSS)を基本とする.しかし,NIHSS に含まれない神経学的所見も重要であり,NIHSS では点数とはならないわずかな神経症候にも気づくことが脳卒中の診断に結びつく.また,急性期では刻々と所見が変化することから,診療録に頻回に客観的に記載すること,診察に協力の得られない意識障害症例の診方にも習熟する必要がある.

キーワード

NIH Stroke Scale、Japan Coma Scale、Glasgow Coma Scale、Finger rolling

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超音波検査法の臨床的有用性

坂井健一郎*   木村和美**

* 川崎医科大学脳卒中医学教室 ** 同教授

要  旨
 脳血管障害の病態を把握するために,脳血管や血栓の状態を把握することは非常に重要である.超音波検査は非侵襲的に繰り返し施行可能な検査であり,脳血管障害の日常診療において幅広く用いられている検査である.本稿では,特に重要な頸部血管エコー,経頭蓋超音波ドプラ,経食道心エコー図検査,下肢静脈エコーについて,検査所見の基本事項や実際の臨床での用い方についてそれぞれ解説した.

キーワード
頸部血管エコー、経頭蓋超音波ドプラ、経食道心エコー図検査、下肢静脈エコー

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各種画像診断の進歩


山内 浩*1  福山秀直*2
*1 滋賀県立成人病センター研究所 副所長
*2 京都大学大学院医学研究科附属脳機能総合研究センター センター長・教授

要  旨
 CT,MRI,および PET を中心とした診断機器とそれに付随する撮像法の発展は,脳卒中の画像診断,特に診断精度の向上に進歩をもたらし続けている.脳梗塞急性期症例に対する血栓溶解療法を中心とした脳卒中治療の進歩に伴い,治療の適応決定や効果判定の道具として,画像診断に期待が高まっている.画像診断が,脳卒中患者の治療と予後改善に必須であるとするエビデンスを得るための努力が続けられている.

キーワード
脳卒中、CT、MRI、PET

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急性期における内科治療の進歩

吉村壮平*1  北園孝成*2
*1 福岡赤十字病院脳血管内科
*2 九州大学大学院医学研究院病態機能内科学 教授

要  旨
 脳梗塞発症後4.5時間以内の rt-PA 静注療法が可能となり,適正治療指針が改訂された.画像検査や新たな rt-PA 製剤を用いての治療適応拡大,血管内治療や超音波血栓溶解療法を併用した治療効果向上が期待される.新規抗凝固薬は心原性脳塞栓症急性期治療の選択肢をも広げた.脳出血急性期の血圧治療目標について,進行中の臨床試験結果に注目したい.くも膜下出血の管理ガイドラインで幾つかの実務的推奨がなされた.

キーワード
rt‐PA静注療法、新規抗凝固薬、降圧療法、抗血小板薬併用

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脳卒中の急性期外科治療

濱野栄佳*   飯原弘二**
* 国立循環器病研究センター脳神経外科 ** 同部長

要  旨
 脳卒中は死亡原因の10%を占める重篤な疾患である.本稿では,最近の大規模臨床試験の結果をもとに,脳卒中急性期における外科治療とその適応の最近の知見を概説した.くも膜下出血では,コイル塞栓術とクリッピング術の適応,脳内出血では開頭血腫除去術および定位的血腫溶解吸引術と内科治療との成績の比較,虚血性脳卒中では急性期再開通療法の適応と内頸動脈狭窄症に対する血行再建術の時期について,現在も注目すべき結果が次々と発表されている.

キーワード
脳血管障害、くも膜下出血、脳出血、急性期血行債権、頚動脈狭窄症

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慢性期における内科的治療

北川一夫*

* 大阪大学大学院医学系研究科神経内科学脳卒中センター 准教授

要  旨
 脳卒中慢性期における再発予防のための内科的管理は,危険因子管理と抗血栓療法に要約される.危険因子の中では,特に高血圧管理が脳卒中すべての病型において重要であり,脳梗塞においては糖尿病,脂質異常の管理も必要とされる.さらに禁煙,節酒,定期的な運動,肥満の是正など生活習慣を管理する必要がある.一方脳梗塞では抗血栓療法が行われ,心原性脳塞栓症では抗凝固薬,その他の脳梗塞では抗血小板薬が選択される.

キーワード
高血圧、脂質異常、糖尿病、抗凝固薬、抗血小板薬

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慢性期における外科的治療(血管内治療を含む)

林 健太郎*   永田 泉**
* 長崎大学医学部脳神経外科 講師 ** 同教授

要  旨
 脳血管障害に対する慢性期の外科的治療としては,内頸動脈起始部狭窄に対する頸動脈内膜剥離術,内頸動脈遠位部から中大脳動脈近位部の狭窄や閉塞に対する頭蓋外内バイパス術が挙げられる.また血管内治療としては,前者に対する頸動脈ステント留置術,後者に対する経皮的血管形成術が挙げられる.慢性期の外科的治療においては,病変の性状や脳血流を十分に評価して手術適応を判断する必要がある.

キーワード
経動脈内膜剥離術、頚動脈ステント留置術、頭蓋外内バイパス術、経皮的血管形成術

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ニューロリハビリテーションの現状と未来

藤原俊之*   里宇明元**
* 慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室 講師 ** 同教授

要  旨
 成人損傷脳においても可塑性が認められ,機能代償のみならず,機能障害の回復,神経機能の回復を目指すいわゆるニューロリハビリテーションが近年注目されている.特に脳卒中片麻痺のリハビリにおいて,上肢機能回復を目指す新しい治療法がトピックとなっている.本稿では,この脳卒中片麻痺上肢機能障害に対する新しいアプローチについて概説する.

キーワード
脳卒中、片麻痺、リハビリテーション

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日本脳卒中協会の活動と展望

中山博文*
* 公益社団法人日本脳卒中協会 専務理事

要  旨
 日本脳卒中協会は,脳卒中に関する知識の普及,脳卒中患者の自立と社会参加を支援する事業,啓発資材の監修・制作,調査研究事業を行っている.脳卒中啓発活動を長期的・組織的に全国展開するには,資金,マンパワー,マスコミ・行政・関連団体などの協力が必要で,その実現には法律の壁がある.これらの根本的解決には脳卒中対策基本法の立法が必要である.

キーワード
啓発、支援、ブレイン・アタックキャンペーン、脳卒中対策基本法

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連載
現代社会とうつ病

  現代社会において問題となっております「うつ病」について病気そのものの解説、法、サポート体制などを連載形式で詳しく紹介する目的で連載「現代社会とうつ病」を企画致しました。
 今号から約3年間にわたり国内の診療・研究の最前線でご活躍されている先生方に「うつ病」について詳しくご解説をお願いしております。
 第25回は品川駅前メンタルクリニック・有馬 秀晃 先生による「治療について-うつ病のリワーク-」です。

要  旨
 近年「リワーク」という言葉が社会に,中でも職場で産業保健や人事労務に携わる人々に浸透してきている.その背景には,メンタルヘルス不調社員が医師の治療を受けても復職後にすぐ再発・再休業してしまうという問題があり,実際,企業側は「主治医の復職可能診断書をどこまで信用していいのか?」と懐疑的にとらえる傾向もある.こうした点を解決するために,2008年3月29日にうつ病リワーク研究会が設立された.

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連載
トップランナーに聞く(第29回)
自然免疫反応と消化器疾患とのかかわり

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
 第29回はNOD-1やToll-like receptorなどの免疫と消化器疾患の研究で多くの成果を上げておられる京都大学の渡邊 智裕 先生にお話を伺いました。

 渡邉 智裕 先生

 我々の体内に存在する腸内細菌に対する免疫異常が様々な疾患の発症にかかわることが明らかになってきました。中でも、消化器疾患は腸内細菌とのかかわりが強く示唆されています。腸内細菌は自然免疫反応受容体を活性化し、免疫反応を引き起こします。
 私は消化器疾患の発症機序を腸内細菌に対する自然免疫システムの活性化という観点から解析を進めており、消化器疾患の発症機序の解明と新たな創薬ターゲットの同定を目指しています。

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連載
ノーベル賞と医学の進歩・発展

 68巻10号からノーベル賞の対象となった業績やその業績が現在どのような恩恵をもたらしているかについて、各領域の専門家の先生方に詳しいご解説をお願いしております。

 第8回は帝京大学・風祭 元 先生による「精神科領域におけるノーベル賞 ―ワグナー・ヤウレッグとエガス・モニス―」です。


トピックス
Wntシグナルと老化関連疾患

塩島一朗*
* 関西医科大学第二内科 教授

要  旨
 老化と慢性炎症は相互に関連しており,生活習慣病や悪性腫瘍など,加齢に伴ってその発症頻度が増加する老化関連疾患の発症に寄与するとされている.最近,炎症性分子であるC1qがWntシグナルを活性化することにより老化関連疾患の発症に寄与しており,これが老化関連疾患発症メカニズムの1つであることが明らかにされた.C1q-Wnt 経路の選択的阻害法が,老化関連疾患の新しい治療法開発に繋がることが期待される.

キーワード
Wnt、C1q、補体、骨格筋再生

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トピックス
早期慢性膵炎の診断基準

下瀬川 徹*
* 東北大学大学院医学系研究科消化器病態学 教授

要  旨
 日本膵臓学会,日本消化器病学会,厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班は,合同で慢性膵炎臨床診断基準の改訂を行い,2009年に公表した.慢性膵炎臨床診断基準2009は,従来の診断基準を大きく改訂した内容となった.特筆すべきは,慢性膵炎患者の予後改善を目的に,世界で初めて早期慢性膵炎の診断基準を盛り込んだことであろう.この診断基準により,今後,慢性膵炎の早期病態が明らかになることが期待される.

キーワード
早期慢性髄炎、慢性膵炎臨床診断基準、遺伝性膵炎、超音波内視鏡

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