最新医学68巻7号 
特集 致死性不整脈診療の最前線



要  旨


座談会 致死性不整脈診療の現況と今後の展望

滋賀医科大学         堀江  稔
東京医科歯科大学       田中 敏博
新潟大学           渡部  裕
日本医科大学        清水  渉 (司会)

 座談会の内容
 ・致死性遺伝性不整脈の定義・概念
 ・従来の原因遺伝子探索法
 ・エクソーム解析
 ・今後のアプローチ など

 田中先生   清水先生    堀江先生  渡部先生

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致死性不整脈疾患への新たなアプローチ法
ゲノム解析テクノロジー

田中敏博*
* 東京医科歯科大学疾患バイオリソースセンター 教授

要  旨
 解析技術の急速な進歩により,これまでの1塩基多型(SNP)を対象とした解析から,遺伝子領域すべてを解析するエクソーム解析,ひいてはヒトゲノムの30億塩基対すべてを調べる全ゲノムシークエンス解析へと,解析手法の幅が広がってきている.


キーワード
ゲノムワイド関連解析、エクソーム解析、全ゲノムシークエンス解析

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致死性不整脈疾患への新たなアプローチ法
iPS 細胞を用いた循環器疾患モデル構築

湯浅慎介*
* 慶應義塾大学医学部循環器内科 講師

要  旨
 ヒトiPS細胞は,患者から容易に作製することができる多能性幹細胞であり,ゲノムにコードされた遺伝情報をすべて引き継いでいる.臨床応用に向けて期待されている再生医療のほかに,遺伝性疾患の病態解明と新規治療方法の開発に向けた疾患モデル作製も盛んに行われている.未解決であった病因解明や,ドラッグスクリーニングを経て新規治療方法の開発が行われている.これらの研究をもとに革新的治療方法の開発が待たれている.

キーワード
iPS細胞、疾患モデリング、心筋細胞

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致死性不整脈疾患への新たなアプローチ法
コンピュータシミュレーション ―不整脈治療へ向けた新たなアプローチ―


芦原貴司*
* 滋賀医科大学呼吸循環器内科・不整脈センター 講師

要  旨
 近年,不整脈研究の分野において,コンピュータシミュレーションによる理論的アプローチが注目されるようになった.致死性不整脈の治療に対する社会的ニーズは高いが,その遺伝的背景も含めた発生メカニズムおよび最適な治療法については不明な点も多い.本稿では,システムバイオロジーに基づいて構築されたコンピュータモデルを用いることで広がる新たな不整脈治療の可能性について,幾つかの例を挙げながら概説する.

キーワード
コンピュータシミュレーション、スパイラルリエントリー、システムバイオテクノロジー、
電気的除細動、カテーテルアブレーション

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致死性不整脈疾患への新たなアプローチ法
致死性不整脈に対する非侵襲的検査指標を用いてのリスク層別化


池田隆徳*
* 東邦大学医学部内科学講座循環器内科学分野 教授

要  旨
 近年,非侵襲的検査指標を用いた致死性不整脈に対しての予知が盛んに行われるようになった.運動負荷中に評価するT波オルタナンスと,加算平均心電図で測定する心室レートポテンシャルがその中心にある.この2つは,平成24年度の診療報酬改正で新規の保険収載技術として承認された.ホルター心電図で測定する心拍変動指標と心拍タービュランスも,比較的活用度の高い検査指標である.本稿では,これら非侵襲的検査指標のリスク層別化における特徴について概説する.

キーワード

T波オルタナンス(TWA)、心室レートポテンシャル(LP)、加算平均心電図、
心拍変動指数(HRV)、心拍タービュランス(HRT)

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致死性不整脈疾患への新たなアプローチ法
侵襲的治療の現状と可能性

野上昭彦*

* 筑波大学医学医療系循環器不整脈学 教授

要  旨
 致死性心室性不整脈に対する治療の要は植え込み型除細動器(ICD)であるが,その限界やQOLのため心室頻拍/心室細動の予防治療を行うことは必須である.近年,心室頻拍のみならず心室細動においてもカテーテルアブレーションや交感神経修飾術をはじめとする侵襲的治療の有効性が報告されている.個々の症例に当たっては,薬物治療,ICD設定プログラムの工夫なども含め,総合的に治療戦略を立てることが重要である.

キーワード
植え込み型除細動器、カテーテルアブレーション、胸部硬膜外麻酔、
左心臓交感神経切切除、腎デナベーション

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致死性不整脈診療 各論
先天性 QT 延長症候群


伊藤英樹*
* 滋賀医科大学呼吸循環器内科

要  旨
 先天性QT延長症候群が報告されてから50年がたった.これまでに,分子遺伝学の分野である遺伝子変異の同定技術や変異タンパク質の機能変化を検討する電気生理学的な技術により,疾患の病態理解は着実に前進してきた.現在は次世代シークエンサーの登場や昨年のノーベル賞で話題となっているiPS細胞といった新技術などにより,新たな研究段階へと進もうとしている.今後,これらの新技術から得られた研究結果が臨床管理へ着実に応用されていくことが期待される.

キーワード
QT延長症候群、遺伝子、変異

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致死性不整脈診療 各論
後天性 QT 延長症候群

相庭武司*
* 国立循環器病研究センター心臓血管内科・不整脈科 医長

要  旨
 通常は正常なQT時間の心電図を示すが,薬剤,電解質異常,徐脈などの二次的要因を契機にQT延長や Torsades de Pointes といった不整脈を呈するものを,後天性QT延長症候群と言う.先天性QT延長症候群がイオンチャネルの異常によって説明されるように,後天性QT延長の一部にも何らかの遺伝子バリエーションや異常を持つことが明らかになった.また疾患特異的な遺伝子多型は通常はその機能異常が顕在化せず,薬剤などQTを延長させる要因があるときのみリスクとなることも分かってきた.今後はゲノムワイド集団相関解析などを用いた研究により,再分極修飾遺伝子がさらに明らかになっていくものと思われる.

キーワード
QT延長症候群、薬剤、心室頻拍、失神、遺伝子

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致死性不整脈診療 各論
Brugada 症候群

森田 宏*
* 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科先端循環器治療学 教授

要  旨
 1992年にBrugada症候群が報告されて以来さまざまな知見が報告され,遺伝子変異や病態,治療について相当な発展を遂げた.臨床病態ではさまざまな心電図変化が心室細動を予測するために重要であることが分かってきた.電気生理学的検査による心室細動誘発は予後予測に有用かどうかは議論が分かれるが,誘発法や不応期がリスク評価に重要である.しかし確実なリスク評価法が確立されていないため,さまざまな臨床像を考慮し,評価を行う必要がある.

キーワード
Brugada症候群、心室細動、ST上昇、J波症候群

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致死性不整脈診療 各論
遺伝性心臓伝導障害

蒔田直昌*

* 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科分子生理学 教授

要  旨
 遺伝性心臓伝導障害のうち,進行性心臓伝導障害(PCCD)は,明らかな基礎心疾患の存在なしに進行性の房室ブロック・脚ブロックなどの心臓伝導異常を来す.心筋Naチャネル,Ca2+ 活性化非選択性陽イオンチャネル,コネキシン40などに変異が報告されている.ラミン心筋症や副伝導路症候群や神経筋疾患にも心臓伝導障害を来すものがある.また,伝導系の発生に関与するさまざまな転写因子も疾患候補遺伝子として挙げられている.

キーワード
Naチャネル、Tボックス転写因子、ギャップジャンクション、ラミンA/C

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致死性不整脈診療 各論
カテコラミン誘発多形性心室頻拍

住友直方*
* 日本大学医学部小児科学系小児科学分野

要  旨
 カテコラミン誘発多形性心室頻拍(CPVT)は,運動や情動の変化などにより突然死を起こす致死的不整脈の1つである.遺伝子解析により,リアノジン受容体(RyR2),カルセクエストリン2(CASQ2),トリアジン(TRDN),カルモジュリン(CaM)などの異常が発見され,発症機序も徐々に明らかになってきている.フレカイニド,プロパフェノン,カルベジロールなどの有効性も報告されている.

キーワード
カテコラミン誘発多形性心室頻拍、心室細動、リアノジン受容体、
カルセクエストリン2、フレカイニド

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致死性不整脈診療 各論
QT 短縮症候群の遺伝的背景と臨床的特徴

渡部 裕*   南野 徹**
* 新潟大学医学部第一内科循環器部門 ** 同教授

要  旨
 QT 短縮症候群は,異常に短い QT 間隔と心室細動による突然死を特徴とする不整脈症候群である.QT 延長症候群や Brugada 症候群といった遺伝性不整脈症候群と同じように,QT 短縮症候群も遺伝性疾患であり,現在までに幾つかの原因遺伝子が同定されている.心室細動による突然死の予防のために植え込み型除細動器(ICD)が用いられる.疾患頻度が低い疾患であることから,薬物療法の効果は検討が不十分である.

キーワード
不整脈、遺伝子、心電図、心室細動、QT間隔

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致死性不整脈診療 各論
家族性徐脈症候群

牧山 武*
* 京都大学大学院医学研究科循環器内科学

要  旨
 洞不全症候群,房室ブロックなどの徐脈性不整脈疾患は,加齢性変化にて多く見られるが,若年や家族性に認められる場合には遺伝的素因の関与が強く示唆される.我々は,家族性ペースメーカー植え込み患者の約半数で,心臓Na+ チャネル遺伝子(SCN5A),またはラミン A/C 遺伝子(LMNA)異常を同定しており,背景疾患を考慮すると植え込み型除細動器や除細動機能付き両室ペーシング植え込みが望ましい例もあり,家族性徐脈症候群における遺伝子スクリーニングは非常に有用であると考える.

キーワード
徐脈、突然死、遺伝子、イオンチャネル病、心筋症

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致死性不整脈診療 各論
催不整脈性右室心筋症・異形成

大野聖子*
* 滋賀医科大学呼吸循環器内科

要  旨
 催不整脈性右室心筋症・異形成(ARVC/D)は,右心室を中心とした心筋変性による右心不全,右心室由来の心室性不整脈を特徴とし,突然死の原因となる遺伝性疾患である.2010年に診断基準が改訂され,病理所見や左心室の関与に対する基準が変更された.ARVC/D の主な原因はデスモソーム関連タンパク質をコードする遺伝子変異であることが解明され,新たな診断基準項目にも加えられている.突然死予防のため,運動制限や植え込み型除細動器(ICD)の植え込みを含めた不整脈のコントロールが重要である.

キーワード
心室頻拍、心臓突然死、デスモソーム、右心不全

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致死性不整脈診療 各論
家族性心房細動

林 研至*   津田豊暢*   川尻剛照** 山岸正和***
* 金沢大学医薬保健研究域医学系臓器機能制御学循環器内科 ** 同講師 *** 同教授

要  旨
 心房細動は,高血圧,僧帽弁膜症,虚血性心疾患,心筋症,甲状腺機能亢進症を背景として発症することが多い.一方,心房細動の5%,あるいは明らかな基礎疾患を有さない孤立性心房細動の15%は家族歴を有する.これまで家族性心房細動家系より心筋イオンチャネルを中心に遺伝子変異が同定され,機能解析により遺伝子変異による心房細動発症機序が明らかにされた.これらの遺伝子変異の発見は,心房細動の分子生物学的発症メカニズムの解明のために大きく寄与したと考えられる.

キーワード
家族性心房細動、遺伝子解析、機能解析、イオンチャネル

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連載
現代社会とうつ病

  現代社会において問題となっております「うつ病」について病気そのものの解説、法、サポート体制などを連載形式で詳しく紹介する目的で連載「現代社会とうつ病」を企画致しました。
 今号から約3年間にわたり国内の診療・研究の最前線でご活躍されている先生方に「うつ病」について詳しくご解説をお願いしております。
 第27回は福岡大学・西村 良二 先生による「支持と共感の技 ―自己愛の視点から見たうつ病へのアプローチ―」です。

要  旨
 うつ病者は自己愛があり,他人からの愛や承認が生きるうえで必須である.対象喪失とは,そのような愛や承認の中断である.共感や支持は重要なツールであり,治療目標の設定と治療契約は大切である.Here and now で接し,自己愛転移に気づき,待ち,干渉せず,より成熟した転移を育む.逆転移に注意するが,進展の中で治療者からの分離が始まり,同時に意味のある記憶が甦る.理想(の母親)を断念し限界を受容することで,治療の終結が近づく.

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連載
トップランナーに聞く(第31回)
家族性アミロイドポリニューロパチーの分子病態の解明および新規治療法の開発

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
 第31回は家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)の病態に基づく薬物治療を開発し、治験でも良い成績を上げておられる信州大学の関島 良樹 先生にお話を伺いました。

 関島 良樹 先生

 信州大学第三内科は、神経内科、リウマチ・膠原病、アミロイドーシスなどの代謝疾患が専門で、非常に幅広い患者さんの診療を行っています。アミロイドーシスに関しては、日本のセンター的な役割を果たしており、日本中から患者さんが訪れます。長野県には特に家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)の患者さんが多いことから、FAPの分子病態解明の必要性を感じ、研究を始めました。これまでの研究でTTR遺伝子変異に起因するTTRタンパク質4量体構造の不安定化がFAP発症の原因であることを明らかにすることができたので、TTR4量体を安定化する薬剤を用いた新規治療法の開発に取り組んでいます。

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連載
ノーベル賞と医学の進歩・発展

 68巻10号からノーベル賞の対象となった業績やその業績が現在どのような恩恵をもたらしているかについて、各領域の専門家の先生方に詳しいご解説をお願いしております。

第10回は京都大学名誉教授・本庄 巌 先生による「聴覚研究の進歩」です。


トピックス
抗 VGKC 複合体抗体関連症候群

渡邊 修*
* 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科神経内科・老年病学 講師

要  旨
 抗 VGKC 複合体抗体は,電位依存性カリウムチャネル(VGKC)と複合体を形成する各コンポーネントに対する自己抗体の総称である.筋痙攣を主徴とし,末梢神経の過剰興奮に起因する Isaacs 症候群や末梢神経系,自律神経系,中枢神経系の広範な症状を呈する Morvan 症候群では抗 Caspr-2 抗体が,そして高率に抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)を合併する亜急性の自己免疫性辺縁系脳炎では抗 LGI-1 抗体が関連すると理解されている.

キーワード
voltage gated potassium channel(VGKC)、
leucine rich glioma inactivated protein 1(LGI-1)、
contactin associated protein 2(Caspr-2)

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