最新医学68巻9号 
特集 甲状腺がん -病態と治療のUpdate-



要  旨


座談会 甲状腺がん -診療における最近の変化と福島でのリスクのとらえ方-

東京女子医科大学      岡本 高宏
福島県立医科大学       鈴木 眞一
金沢大学          絹谷 清剛 (司会)

 座談会の内容
 ・分化がん診療における最近の変化
 ・甲状腺がん治療における国内外の違い
 ・福島第一原発事故による甲状腺疾患リスク
 ・甲状腺検診の現況 など

 鈴木先生      絹谷先生        岡本先生

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分子機構の解明
甲状腺がん分子機構

光武範吏*
* 長崎大学原爆後障害医療研究所放射線災害医療研究分野

要  旨
 甲状腺がんも他のがん同様,基本的には遺伝子の異常から引き起こされる遺伝子病とされる.甲状腺分化がんにおいては,乳頭がんでは主に MAPK 経路,濾胞がんでは PI3K-AKT 経路の活性化が主たるシグナル伝達経路の異常であり,それらを引き起こすさまざまな遺伝子変異が同定・研究されてきた.これに対し,低分化・未分化がんではβ-カテニンシグナル経路の異常,p53 変異の頻度が急増し,さらには上記 MAPK 経路,PI3K-AKT 経路の一部の変異も高度悪性化に従って蓄積してくる.本稿では,このように遺伝子変異と細胞内シグナル伝達経路の異常に焦点を絞って解説する.


キーワード
甲状腺がん、遺伝子、遺伝子変異、分子機構

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診療における方向性
甲状腺腫瘍診療ガイドライン ―現状と今後の方向性―

岡本高宏*
* 東京女子医科大学内分泌外科 教授

要  旨
 我が国独自の管理方針を掲げた『甲状腺腫瘍診療ガイドライン2010年版』は,一定の評価を受け,活用されている.診療環境の変化や新たな臨床研究の成果のみならず,利用者からの要望,さらにはエビデンスの評価と統合といった作成手順の進歩に呼応して,ガイドラインは改訂されるべきである.

キーワード
甲状腺腫瘍、診療ガイドライン、エビデンス

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診療における方向性
分化がん ―診療ストラテジー―


原 尚人*
* 筑波大学医学医療系乳腺甲状腺内分泌外科 教授

要  旨
 本邦と欧米とでは分化がん,特に乳頭がんに関しては,疾患の概念およびそれに伴う治療方針が大きく異なっていた.分化がんに関する欧米においての前向き研究も少ないが,我が国ではほとんど皆無である.日本の現状に合わせた診療ガイドラインが2010年に完成し,少しずつではあるが方針が整理されつつある.ここでは分化がんの診療方針を乳頭がんと濾胞がんに分けて解説する.

キーワード
甲状腺乳頭がん、甲状腺濾胞がん、アブレーション、微小浸潤型濾胞がん、広汎浸潤型濾胞がん

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診療における方向性
甲状腺未分化がんの生物学的特性と治療戦略


田中克浩*1*2
*1 川崎医科大学乳腺甲状腺外科 講師
*2 甲状腺未分化癌研究コンソーシアム

要  旨
 甲状腺未分化がんは,甲状腺悪性腫瘍の約2%を占めるにすぎないが,悪性度は極めて高く,生存期間中央値は5ヵ月で,1年生存率は20%と報告されている.2009年1月に本邦で未分化癌研究コンソーシアムが設立され,解析結果では生存期間中央値はステージⅣA,ⅣB,ⅣCそれぞれが236日,147日,81日と,ステージⅣAが有意に良好であった.生存期間に影響を与える有意な治療法は,ステージⅣAでは根治手術,40Gy以上の外照射,ステージⅣB,ⅣCでは根治手術,40Gy以上の外照射,化学療法であった.

キーワード

甲状腺未分化がん、臨床的特徴、治療方法、予後、甲状腺未分化癌研究コンソーシアム

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診療における方向性
小児遺伝性髄様がんの発症前診断と甲状腺全摘の時期

内野眞也*

* 医療法人野口記念会野口病院 外科部長

要  旨
 遺伝性髄様がんは,臨床的に多発性内分泌腫瘍症2型あるいは家族性甲状腺髄様がんに分けられ,原因遺伝子は RET がん遺伝子である.すでに遺伝性と判明している家系の小児に対しては,遺伝学的検査を行って遺伝しているかどうかを判別できる.遺伝している場合は小児期に予防的甲状腺全摘を行うことが可能となる.変異コドン別に髄様がんのリスク分類が提唱されており,欧米では比較的早期に予防的甲状腺全摘が行われている.しかし日本では,遺伝学的検査の施行や予防的甲状腺全摘はまだ積極的に行われていないのが現状であり,これまでにもほとんどデータは報告されていない.今後は日本でもより積極的にこの問題に取り組んでデータを集積していき,日本の医療制度に則した治療方針を見いだしていかなければならない.

キーワード
甲状腺髄様がん、多発性内分泌腫瘍症2型、RETがん遺伝子、予防的甲状腺全摘、MENコンソーシアム

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診断の進歩
甲状腺濾胞がんの術前分子診断法の開発状況


高野 徹*
* 大阪大学大学院医学系研究科臨床検査診断学 講師

要  旨
 甲状腺濾胞がんの病理組織診断は,しばしば腫瘍の生物学的性質と乖離するため,分子マーカー診断と完全に一致することはない.最有力の分子マーカーは TFF3 mRNA であるが,病理組織診断との一致率は80%程度である.穿刺検体の解析では,同時に吸引される血球細胞の干渉を避けるため,それを除去する前処理が必要である.現在,フィルター濾過法を使用した穿刺吸引核酸診断法が開発され,実際の患者を対象としたトライアルが進行中である.

キーワード
甲状腺濾胞がん、TFF3、穿刺吸引核酸診断法、15%問題、フィルター濾過法

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診断の進歩
低分化がんの明らかな点,曖昧な点 ―病理医の立場から―

亀山香織*
* 慶應義塾大学医学部病理診断部 准教授

要  旨
 甲状腺低分化がんは世界で初めてSakamotoらが提唱して以来,広く臨床現場で用いられる疾患概念となった.その後,低分化がんの定義には幾つかの変化があったが,2007年に構造異型に加え細胞異型の所見も考慮した Turin proposal が発表された.これにより,長らく我が国で続いていた低分化がんの病理診断上の混乱が解消されることが期待される.今後はこの定義が広まっていくものと思われるが,いまだ曖昧な点も幾つか残されている.

キーワード
甲状腺、低分化がん、甲状腺癌取り扱い規約、WHO分類、Turin proposal

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診断の進歩
診療方針に繋がる画像診断 ―FDG-PET を中心に―

中駄邦博*
* 北光記念病院放射線科 科長

要  旨
 FDGを用いたPETは,甲状腺腫瘍の鑑別診断や甲状腺分化がんの術前病期診断において超音波検査を上回る有用性はなく,局所進行がんや悪性度の高い腫瘍において転移検索の目的で実施すると良い.穿刺吸引細胞診で判定困難とされた腫瘍の手術適応判定において,PETは陰性的中率が高いが陽性的中率は低い.一方,術後甲状腺分化がんの再発・転移の検索,特に血清サイログロブリンが高値を示すが131I シンチグラフィーで集積を認めない症例においてPETは有用で,予後推定にも利用できる可能性があるが,生理的集積のvariation,偽陽性,偽陰性に関する理解が重要である.PETで認められる集積は,次のステップに進む前に可能な限り病理所見の裏づけを得るのが望ましい.

キーワード
甲状腺がん、FDG-PET、シンチグラフィー、アイソトープ治療、サイログロブリン

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転移・進行例への方策
甲状腺分化癌における131I 内照射療法の意義と限界

内山眞幸*

* 東京慈恵会医科大学放射線医学講座 准教授

要  旨
 甲状腺疾患に対する放射性ヨウ素[131I]内照射療法は分子標的治療の先駆である.方法は 131Iカプセル内服であり,侵襲性の低い,小児にも可能な治療である.残存癌,遠隔転移への治療の有用性と限界,および再発,生命予後の改善目的と,残存甲状腺を完全に焼灼することによりサイログロブリンを鋭敏な腫瘍マーカーとして使用可能とする術後補充療法としての thyroid remnant ablation の実際に関し述べる.

キーワード
腹腔神経叢、腹腔神経節、腹腔神経叢ブロック、腹腔神経節ブロック、がん性疼痛

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転移・進行例への方策
分子標的薬の展望

下方智也*   安藤雄一**
* 名古屋大学医学部附属病院化学療法部 ** 同教授

要  旨
 甲状腺がんは殺細胞性抗がん剤に対し抵抗性であり,今まで標準的な薬物療法は存在しなかった.近年,甲状腺がんの分子メカニズムの解明が進み,細胞内シグナル伝達経路として MAPK 経路および PI3K-AKT 経路の活性化が重要であることが分かってきた.現在,血管新生を標的とした分子標的薬を中心に臨床試験が進められており,欧米では一部承認された薬剤もある.本稿では,甲状腺がんに対する最近の分子標的薬の展望を概説する.

キーワード
甲状腺がん、分子標的薬、MAPK経路、PI3K-AKT経路、血管新生

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小児甲状腺がんと放射線被ばく
小児甲状腺がんについて

杉野公則*
* 伊藤病院 副院長

要  旨
 小児に発生する甲状腺がんはほぼ分化がんであり,そのうち乳頭がんが大半を占める.小児甲状腺がんは発生がまれなこと,初診時に遠隔転移など進行例が多いこと,その一方で,治療にはよく反応し予後は必ずしも悲観的ではないことなどが知られている.しかし,多数例の治療報告が少ないため治療方針には一定の見解がないが,小児甲状腺がんの特性を熟知したうえで,成人例と同様に病状にあった治療が望まれる.

キーワード
甲状腺がん、小児、手術療法、予後因子

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小児甲状腺がんと放射線被ばく
福島第一原発事故による甲状腺被ばく

大野和子*
* 京都医療科学大学 教授

要  旨
 東日本大震災に伴う福島第一原発事故は,一般市民の放射線被ばくを引き起こした.しかし放射性ヨウ素による甲状腺の被ばく線量は,これまでの推計では甲状腺がん発生の危険性を上げる線量には及ばなかった.臨床医がこの結果に対する正確な情報を認知し,患者に正確な知識を伝えていくことが,市民の潜在的な不安の解消に大きく貢献する.

キーワード
甲状腺被ばく、福島第一原発事故、放射性ヨウ素

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小児甲状腺がんと放射線被ばく
福島県小児甲状腺超音波検診の現状

鈴木眞一*1*2
*1 福島県立医科大学医学部甲状腺内分泌学講座 主任教授
*2 同放射線科学県民健康管理センター甲状腺検査部門 部門長

要  旨
 2011年3月11日の震災後の福島県では,震災時0~18歳の子どもたちに生涯にわたり甲状腺超音波検査を行うこととした.現在は先行調査のうち36万人の対象者中17万強の実施状況である.二次検査が0.5~0.7%に実施され,その中で細胞診にて悪性および悪性疑いが28例あり,うち13例はすでに外科手術が施行され,1例が良性結節,12 例は甲状腺乳頭がんと確定している.

キーワード
甲状腺がん、放射線被ばく、原発事故、小児、超音波検査

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連載
現代社会とうつ病

  現代社会において問題となっております「うつ病」について病気そのものの解説、法、サポート体制などを連載形式で詳しく紹介する目的で連載「現代社会とうつ病」を企画致しました。
 今号から約3年間にわたり国内の診療・研究の最前線でご活躍されている先生方に「うつ病」について詳しくご解説をお願いしております。
 第29回は水島広子こころの健康クリニック・水島 広子 先生による「特別な精神療法 (2)対人関係療法(IPT)の応用」です。

要  旨
 対人関係療法(IPT)は,認知行動療法とならび,うつ病に対するエビデンス・ベイストな精神療法として双璧をなしている.発症には何らかの対人関係的文脈があり,症状と社会的役割が双方向で関連することから,現在進行中の対人関係に焦点を当てて戦略的な治療を進める.医学モデルを採用し,患者に「病者の役割」を与えることもIPTの特徴であり,薬物療法との併用も容易である.

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連載
トップランナーに聞く(第33回)
セマフォリンの免疫制御応答機構の研究

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
  第33回はこれまで発生学の研究対象とされてきたセマフォリンが免疫系でも重要な分子であることを初めて発見された大阪大学の熊ノ郷 淳 先生にお話を伺いました。

 熊ノ郷 淳 先生

 免疫不全症の疾患関連遺伝子を探索する過程で、セマフォリンファミリーに属するSema4Dを2000年に単離したのを端緒に、その後免疫系で機能する一群のセマフォリン分子群を同定(「免疫セマフォリン」Immune semaphorins)しました。近年になってセマフォリンがさまざまな疾患の病態に関与することが国内外から次々と報告され、セマフォリンはヒト疾患の「鍵分子」として注目を集めています。現在は、臨床教室の利点を生かし、基礎と臨床の双方向を意識した研究を目指しています。

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連載
ノーベル賞と医学の進歩・発展

 68巻10号からノーベル賞の対象となった業績やその業績が現在どのような恩恵をもたらしているかについて、各領域の専門家の先生方に詳しいご解説をお願いしております。

第12回は京都大学名誉教授・森 崇英 先生による「不妊治療としての体外受精技術の開発―生殖医学の進歩におけるロバート・G・エドワーズの歴史的功績―」です。

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トピックス
プリオン病の髄液診断の可能性

佐藤克也*    新 竜一郎**   西田教行***
* 長崎大学医歯薬学総合研究科感染分子解析学分野 講師 ** 同准教授 *** 同教授

要  旨
 プリオン病を含めた急速進行性認知症は,一般的な認知症とは異なり,認知機能障害が約1~2年以内に急速に進行する.Geschwindらは急速進行性認知症の曖昧な概念を整理し,一定した概念を定義づけた.急速進行性認知症の半数を占めるプリオン病における髄液診断は,1998年WHO診断基準の補助項目の1つとなり,髄液検査が重要視されてきた.さらに現在,髄液中の異常プリオンタンパクの検出法を開発・成功して以降,さらに検査の意義が高まっている.

キーワード
14-3-3タンパク、総タウタンパク、RT-QuK法、プリオン病

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トピックス
シェーグレン症候群における抗 M3R 抗体の解析

坪井洋人**   浅島弘充*    住田孝之***
* 筑波大学医学医療系内科(膠原病・リウマチ・アレルギー) ** 同講師 *** 同教授

要  旨
 M3ムスカリン作働性アセチルコリン受容体(M3R)は,外分泌腺や平滑筋に発現し,腺分泌や筋収縮に重要な役割を果たす.シェーグレン症候群は唾液腺炎・涙腺炎を主体とした自己免疫疾患であり,標的臓器には M3R の発現が認められる.我々のグループでは,シェーグレン症候群における抗 M3R 抗体の存在とエピトープを明らかにし,さらに抗 M3R 抗体は唾液腺細胞のCa濃度上昇に影響する機能的抗体であることを明らかにした.抗 M3R 抗体はシェーグレン症候群における病態的意義に加えて,新たな診断マーカーや治療ターゲットの可能性から注目されている.

キーワード
M3ムスカリン作動性アセチルコリン受容体、自己抗体、シェーグレン症候群

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