最新医学68巻10号 
特集 リンパ系腫瘍 -最新の病態解析と治療-



要  旨


座談会リンパ系腫瘍 ―最新の病態解析と治療―

名古屋市立大学      飯田 真介
虎の門病院         伊豆津宏二
埼玉医科大学       木崎 昌弘 (司会)

 座談会の内容
 ・DBCLの病態解析研究
 ・DLBCLの治療
 ・低悪性度リンパ腫(FL, MCL)
 ・多発性骨髄腫 など

 伊豆津先生      木崎先生        飯田先生

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濾胞性リンパ腫の分子病態

岸本 渉*   錦織桃子*
* 京都大学大学院医学研究科血液・腫瘍内科学

要  旨
 濾胞性リンパ腫では t(14;18)転座を高頻度に認め,本転座による BCL2 の高発現が疾患形成に深くかかわることが従来より認識されてきた.しかし,t(14;18)陽性のB細胞は健常人にも少数存在し,濾胞性リンパ腫の発症に至る過程にはさらに付加的遺伝子異常や生物学的背景が関与することが知られるようになってきている.本稿ではそうした知見を中心に,濾胞性リンパ腫の分子病態について概説する.


キーワード
濾胞性リンパ腫、クローン進展、微小環境

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B細胞リンパ腫におけるゲノム・遺伝子解析研究の進歩

百瀬修二*   Andreas Rosenwald*
* ヴュルツブルグ大学

要  旨
 2003年のヒトゲノムプロジェクトの完了によって,我々はヒトゲノムの基本的な配列情報を手にした.その後の10年間はこの配列をもとに,各種のがんを含め,さらに多くの疾患において遺伝子異常が同定された.特に次世代シークエンサーの登場は,ゲノム・遺伝子異常の解析環境を一変させ,多検体を短時間に解析することを可能にした.本稿では,次世代シークエンサーによって明らかとなったB細胞リンパ腫における遺伝子異常を中心に解説したい.

キーワード
次世代シークエンサー、全ゲノムシークエンス、エクソームシークエンス、B細胞リンパ腫

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ホジキンリンパ腫の分子病態と境界病変 ―古典から現代へ―


東 守洋*   田丸淳一**
* 埼玉医科大学総合医療センター病理部 講師 ** 同教授

要  旨
 ホジキンリンパ腫(HL)は,少数の腫瘍細胞と多様な背景の細胞からなる特異な組織像を有する.1832 年に Thomas Hodgkin により疾患が認識されて以来,真の腫瘍あるいは炎症なのか,その腫瘍起源は,といったさまざまな疑問を生じてきた.これまでにその腫瘍化メカニズムも明らかにされつつある.HLの分子メカニズム,微小環境との相互作用を含めて,本腫瘍をめぐる「古くて新しい問題」について概説する.

キーワード
ホジキンリンパ腫、分子メカニズム、微小環境

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成人T細胞白血病/リンパ腫の分子病態解析と治療の進歩


渡邉俊樹*
* 東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカルゲノム専攻病態医療科学分野 教授

要  旨
 成人T細胞白血病(ATL)細胞の染色体コピー数異常と遺伝子変異の包括的解析,mRNA および miRNA 発現の包括的解析が進められ,エピジェネティック異常の解析情報も集積されている.しかし,ATL の多段階発がんにかかわる5つの遺伝子異常の実態はいまだに不明である.治療については多剤併用化学療法と造血幹細胞移植の組み合わせが標準的であるが,予後の改善は限定的であり,抗CCR4抗体の導入によって予後の改善が期待される.

キーワード

包括的データベース、クローン性増殖、抗体療法

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EBV 陽性リンパ腫の発症機構

新井文子*

* 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科血液内科学 講師

要  旨
 Epstein-Barr ウイルス(EBV)は,ひとたびヒトに感染すると一生体内に潜み,感染細胞の腫瘍化の原因になることがある.EBV 陽性リンパ腫は複数の異なった組織型があり,このことは発症メカニズムの複雑さを物語っている.ウイルスの宿主細胞は主にB細胞であり,感染によって不死化したB細胞はT細胞機能の低下や環境などの発症因子の存在のもと,増殖し腫瘍化する.さらに,EBVはT,NK細胞の腫瘍化の原因にもなる可能性が指摘されている.EBV 陽性リンパ腫は治療抵抗性のものが多い.発症機構の解明は今後新規治療法の開発に結びつくことが期待される.

キーワード
Epstein-Barrウイルス、リンパ腫、潜伏感染、形質転換

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多発性骨髄腫におけるゲノム研究の進展


谷脇雅史*** 名越久朗*   黒田純也**
* 京都府立医科大学大学院医学研究科血液・腫瘍内科学 ** 同講師 *** 同教授

要  旨
 多発性骨髄腫における腫瘍化の初期変化は,IGH 転座と高2倍体である.二次的変化は-13/13q-,1p-,1q21+,17p-,8q24転座などである.1q21+には CKS1B,ANP32E,BCL9,PDZK1,1p-には CDKN2C,FAF1,FAM46C が関与している.8q24 転座では PVT1-NBEA と PVT1-WWOX のキメラが同定された.次世代シークエンサーによる解析では,FAM46C(13%)と DIS3(11%),RAS(24%),KRAS(27%),BRAF(4%)などに変異が認められる.

キーワード
IGH転座、高2倍体、PVT1キメラ、NF-κB、ERK

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骨髄腫幹細胞とそのニッチ研究の進歩

田久保圭誉*1*2
*1 慶應義塾大学医学部発生分化生物学
*2 慶應義塾坂口講座テニュアトラックプログラム

要  旨
 哺乳類の骨髄の微小環境(ニッチ)は,正常の造血幹細胞を維持するためにニッチ細胞からさまざまなサイトカインや細胞外基質を提供し,生涯にわたって造血を維持している.造血器腫瘍の幹細胞もこうした骨髄ニッチの構成要素をうまく利用して自己複製し,増殖を行っていると考えられている.本稿では,骨髄腫幹細胞の探索と骨髄腫ニッチ研究の試みについて紹介したい.

キーワード
骨髄腫幹細胞、ニッチ、骨髄腫モデル

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リンパ腫診療における interim PET の意義

伊豆津宏二*
* 虎の門病院血液内科 部長

要  旨
 ABVD療法を受ける進行期ホジキンリンパ腫(HL)の患者では,2コース後の interim PET が陽性の場合,予後不良である.このため,interim PET 陽性例で途中から強化治療に変更する層別化治療を行う前向き臨床試験が複数進行中である.HLにおける interim PET では,肝よりも強い集積(Deauvilleスコア4点以上)が陽性と定義されている.びまん性大細胞型B細胞リンパ腫でも interim PET による予後層別化に関する同様の報告があるが,HLより陽性的中率が低い.また,陽性の定義についてコンセンサスが形成されていない.

キーワード
lymphoma、interim PET、positron emission tomography

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ベンダムスチンのリンパ系腫瘍に対する導入と今後の展望

棟方 理*   飛内賢正**

* 国立がん研究センター中央病院血液腫瘍科 ** 同科長

要  旨
 ベンダムスチンは,約50年前に旧東ドイツで開発された薬剤であり,濾胞性リンパ腫をはじめとする低悪性度B細胞リンパ腫の再発・再燃患者に対して高い有効性が示されている.さらに,未治療低悪性度B細胞リンパ腫に対し,リツキシマブとの併用で従来の標準的治療法である R-CHOP 療法を上回る有効性が示唆されている.抗腫瘍薬として分子標的薬の開発が注目を浴びる現在,分子標的薬にも劣らない高い有効性を発揮する古くて新しいユニークな薬剤である. thyroid remnant ablation の実際に関し述べる.

キーワード
ベンダムスチン、BR療法、低悪性度B細胞リンパ腫、慢性リンパ性白血病

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Rituximab era におけるB細胞リンパ腫に対する治療

木下朝博*
* 愛知県がんセンター中央病院血液・細胞療法部 部長

要  旨
 B細胞リンパ腫の主な病型としては,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫,濾胞性リンパ腫,MALTリンパ腫,マントル細胞リンパ腫などがある.治療方針は,病型,病期,リスク因子,年齢,腫瘍量,臓器機能などを考慮する.B細胞リンパ腫の治療は,抗 CD20 モノクローナル抗体リツキシマブによって大きく成績が向上した.近年,リツキシマブと至適併用化学療法の検討やリツキシマブ維持療法の有用性についての検討が進んでいる.

キーワード
B細胞リンパ腫、リツキシマブ、モノクローナル抗体

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T細胞リンパ腫に対する治療展開

鈴宮淳司**  池尻文良*
* 島根大学医学部附属病院腫瘍センター腫瘍・血液内科 ** 同教授

要  旨
 T細胞リンパ腫は前駆型と末梢型に大別され,前駆型は急性白血病と同様に扱われる.末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)はCHOP療法が実施されることが多いが,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に比較して予後が不良である.標準治療は ALK 陽性未分化大細胞型リンパ腫は CHOP 療法であるが,それ以外の病型では未確立である.造血幹細胞移植の効果が期待されるが,結論は出ていない.新規薬剤が開発され,治療成績の向上が期待される.

キーワード
T細胞リンパ腫、末梢性T細胞リンパ腫、PTCL、未分化大細胞型リンパ腫、治療

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ホジキンリンパ腫に対する標準治療と新薬開発の現状

小椋美知則*
* 名古屋第二赤十字病院血液・腫瘍内科 部長

要  旨
 初発限局期ホジキンリンパ腫(HL)に対しては,ABVD 療法2~4コース後の病変領域に対する区域照射(IFRT),初発進行期に対しては ABVD 療法6もしくは8コースが標準的治療法である.若年,初回再発 HL に対しては,救援療法に奏効後に連続する自家末梢血幹細胞移植併用の大量化学療法が標準的治療法である.再発・難治 HL に対して,キメラ型抗 CD30 モノクローナル抗体ブレンツキシマブ・ベドチンが米国で開発・承認され,我が国でも開発治験が終了し,早期承認が待たれる.

キーワード
ホジキンリンパ腫、標準治療、IFRT、ブレンツキシマブ・ベドチン、ABVD(ABVd)療法

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新規薬剤を用いた多発性骨髄腫治療の現状と展望

飯田真介*
* 名古屋市立大学大学院医学研究科腫瘍・免疫内科学分野 准教授

要  旨
 多発性骨髄腫は,治癒の困難な形質細胞腫瘍である.1960年代に開発された MP(メルファラン,プレドニゾロン)療法が30年以上標準治療であり,生存期間中央値は約3年であった.サリドマイド,レナリドミドなどの免疫調節薬やプロテアソーム阻害薬であるボルテゾミブが登場し,1~2年間の生存期間延長が期待できる時代になった.さらに,抗体療法を含む有効な分子標的療法の開発も進んでいる.しかし,予後不良病型に対する分子標的薬の開発や,新規薬剤の効果と毒性を予測するバイオマーカーの同定による個別化治療など,効率的で QOL を重視した治療戦略を確立していく必要がある.

キーワード
多発性骨髄腫、新規薬剤、個別化治療

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連載
現代社会とうつ病

  現代社会において問題となっております「うつ病」について病気そのものの解説、法、サポート体制などを連載形式で詳しく紹介する目的で連載「現代社会とうつ病」を企画致しました。
 今号から約3年間にわたり国内の診療・研究の最前線でご活躍されている先生方に「うつ病」について詳しくご解説をお願いしております。
 第30回は東京慈恵会医科大学・中村 敬 先生による「特別な精神療法 (3)うつ病の森田療法」です。

要  旨
 従来のうつ病,ことに遷延例を対象に,「あるがまま」を立脚点にした森田療法的な養生法を示し,うつ病の時期に応じた指導のポイントを紹介した.また青年期に好発する現代的な「うつ病」には,徐々に行動を増やしていくこと,生活リズムを整えること,グループを活用すること,薬だけで解決を図らないこと,当面仕事や職業的役割とどう折り合いをつけていくかを患者自ら選択できるように援助することを提唱した.

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連載
トップランナーに聞く(第33回)
臨床現場に還元できる 臨床研究・translational research を目指して

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
 第34回は肺がん治療の中でもEGFR-TKIの奏効因子の解明などについて著名な成果を上げておられる順天堂大学の宿谷 威仁 先生にお話を伺いました。

 宿谷 威仁 先生

 全身・気道・呼吸管理ができる医師になりたいという思いと、多彩な呼吸器疾患の診断と治療に興味を持ち、呼吸器内科の道を選びました。呼吸器内科の道を選んだ後、肺がん患者さんを多く担当し、自分自身の診療技能を上げることを目的に、静岡がんセンターで研修を行いました。以後、がんの実地診療に加え、がんの臨床研究、translational researchに興味を持ち、静岡がんセンター、順天堂大学で活動してきました。

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連載
ノーベル賞と医学の進歩・発展

 68巻10号からノーベル賞の対象となった業績やその業績が現在どのような恩恵をもたらしているかについて、各領域の専門家の先生方に詳しいご解説をお願いしております。

第13回は康生会武田病院病院長・葛谷 英嗣 先生による「インスリンの発見」です。

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トピックス
下垂体偶発腫の診断と治療

寺本 明*1*2
*1 東京労災病院 院長 *2 日本医科大学 名誉教授

要  旨
 頭痛や頭部外傷に際して行われた画像診断,あるいは脳ドックで偶然発見された下垂体病変を臨床的に下垂体偶発腫と総称するが,大半は非機能性下垂体腺腫とラトケ嚢胞である.実質性病変で視神経交叉に接触・圧迫する程度の病変は経蝶形骨手術が勧められるが,より小さな病変や嚢胞性病変は基本的に経過観察で良い.ただし,ラトケ嚢胞の中には下垂体機能不全を来すものがあるので,その予防的手術については議論のあるところである.

キーワード
下垂体偶発腫、下垂体腺腫、ラトケ嚢胞、インシデンタローマ

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トピックス
抗 EGFR 抗体医薬とマグネシウム異常

鳩貝 健*    設楽紘平*
* 国立がん研究センター東病院消化管内科

要  旨
 低マグネシウム血症は抗 EGFR 抗体に特徴的な副作用の1つであり,抗 EGFR 抗体による腎尿細管でのマグネシウムの再吸収障害がその本態と考えられている.発現頻度は報告により異なるが,全グレードが30~50%,グレード3/4が3~5%である.初期症状は非特異的であるが,高度低下例では神経筋症状や心毒性を呈するために,投与中は血清中電解質モニタリングが推奨される.補充は硫酸マグネシウム補正液を経静脈的に投与する.

キーワード
セツキシマブ、パニツムマブ、血清中電解質モニタリング、硫酸マグネシウム

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