最新医学68巻11号 
特集 結核 -古くて新しい感染症-



要  旨


座談会 結核の現状・問題点と最新の知見

浜松医科大学         小出 幸夫
東京病院            小林 信之
近畿中央胸部疾患センター  岡田 全司 (司会)

 座談会の内容
 ・日本の結核の現状
 ・外国人結核
 ・超多剤耐性結核(XDR-TB)
 ・新しい診断法 など

 小林先生       岡田先生       小出先生

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新しい診断法
薬剤耐性結核菌迅速検出ラインプローブ法の開発

切替照雄*
* 国立国際医療研究センター研究所感染症制御研究部 部長

要  旨
 薬剤耐性結核菌の新興は深刻な問題であり,その伝播を阻止するためには迅速な薬剤耐性結核遺伝子診断法を開発することが必須である.結核菌は,ゲノム上の特定領域に変異を生じることによって薬剤耐性を獲得する.したがって,薬剤耐性遺伝子診断法ではこれらの変異を同定すれば良い.簡便で安価な遺伝子変異同定法として,ラインプローブ法がある.本稿では結核菌の薬剤耐性の機序を概説しながら,遺伝子診断法の必要性を考察する.


キーワード
多剤耐性結核、超多剤耐性結核、ピラジナミド耐性、イソニアジド耐性、遺伝子変異同定法

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新しい診断法
QFT 診断と ELISPOT 診断

原田登之*1*2
*1 免疫診断研究所 所長   *2 結核予防会結核研究所 技術顧問

要  旨
 約 10 年前に,ツベルクリン反応より高特異度,かつ高感度の新たな結核感染診断法が2種類開発された.その1つである QFT 検査は日本で 2005 年に承認され,現在ガイドラインなどで使用が推奨されている.他方の T-スポット.TB 検査は 2012 年 10 月に承認された.両検査とも IFNγ の産生を指標とし,結核感染を診断するが,原理は異なっている.本稿では,両検査法の原理・検査上の注意点などについて述べる.

キーワード
結核感染診断法、IGRA、QFT、T-スポット、結核菌特異抗原

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新しい診断法
HIV 合併結核と IGRA


永井英明*
* 国立病院機構東京病院呼吸器疾患センター 外来診療部長

要  旨
 結核感染の診断に用いられるインターフェロンγ遊離測定法は,細胞性免疫機能の低下が著しいHIV感染症においても感度が良いと言われているが,T-スポットのほうが QFT-3G よりも感度が良く,免疫機能低下の影響を受けにくいという報告が多い.特異度に関しては両者ともに的確なデータが報告されているとは言い難い.判定不可に関しては両者とも報告間のばらつきが多く,両者の比較については一定の結論は得られていない.

キーワード
結核、HIV感染症、インターフェロンγ遊離測定法、
クォンティフェロン®TBゴールド、T-スポッット®.TB

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新しい診断法
核酸増幅法を基礎とする結核の迅速診断


御手洗 聡*
* 結核予防会結核研究所抗酸菌部 部長

要  旨
 結核の確定診断には結核菌の分離を必要条件とする.しかし,結核菌は特に発育が緩徐であるため,培養検査では検出までに時間がかかりすぎ,迅速診断上の問題となる.これを感度・特異度の点でバランスを取りながら解決する方法が核酸増幅法であり,近年では結核菌の検出(同定)だけでなく,リファンピシンやピラジナミドの薬剤耐性変異を同時に検出できるキットが利用可能である.病態を考慮した効果的使用が重要である.

キーワード

GeneXpert®、ジェノスカラー、核酸増幅、結核

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結核ワクチン
ヒト結核感染に最も近いカニクイザルを用いた新規結核予防ワクチン開発および臨床応用に向けて

喜多洋子*   岡田全司**

* 国立病院機構近畿中央胸部疾患センター臨床研究センター ** 同センター長

要  旨
 BCG は成人結核予防ワクチンとして無効である.したがって,成人の結核に対して有効な新しい結核予防ワクチン HVJ-エンベロープ/HSP65 DNA+IL-12 DNA ワクチンを開発した.プライム-ブースト法を用い,このワクチンはマウスの系で BCG よりも1万倍強力な結核予防ワクチン効果を示した.さらに,ヒトの結核感染に最も近いカニクイザルでも強力な結核予防効果(生存率改善,赤沈,胸部X線,T細胞免疫増強)を発揮した.他の新結核ワクチンについても言及した.

キーワード
結核予防ワクチン、カニクイザル、HSP65DNA+IL-12DNAワクチン、生存率改善、細胞障害性T細胞

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結核ワクチン
多剤耐性結核治療ワクチンとT細胞免疫


橋元里実*   西松志保*   岡田全司**
* 国立病院機構近畿中央胸部疾患センター臨床研究センター ** 同センター長

要  旨
 多剤耐性結核(MDR-TB)は難治性で,有効な治療法はない.したがって多剤耐性結核に治療効果を発揮する HSP65 DNA+IL-12 DNA ワクチンを開発した.このワクチンは MDR-TB 感染マウスで MDR-TB 菌の減少,および超多剤耐性結核感染マウスで治療効果(生存率改善)を示した.さらに,ヒトの結核感染に最も近いカニクイザルで生存率改善などの結核治療効果を発揮した.したがって,臨床治験を計画している.このワクチンは細胞傷害性T細胞(CTL)分化増強を示した.ほかに,グラニュライシンや Ksp37 の CTL 分化因子活性を有するタンパク質を発見した.これらの結核治療ワクチン効果についても述べる.

キーワード
結核治療ワクチン、HSP65DNA+IL-12DNAワクチン、細胞障害性T細胞、グラニュライシン、Ksp37

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結核菌ゲノムの分子疫学と応用
結核菌の分子疫学の展開

松本智成*
* 大阪府結核予防会大阪病院診断検査部

要  旨
 結核菌分子疫学解析は,比較する結核菌同士のある特定の遺伝子配列部位に着目し,それに基づいて結核菌が同じ菌株か否かを判断する方法である.PCR を利用した VNTR 解析が報告され,結核菌分子疫学解析の標準法として広く使われ,また臨床応用も可能になった.現在,次世代シークエンサーが利用可能になり,全遺伝子配列全体の塩基配列を比較して同じか否かを判断することが可能になってきたが,コストが高く,現段階では実用的ではない.我々は VNTR 解析において簡便な汎用自動電気泳動システムである QIAxcel Advanced を用い,各ローカスの出現頻度の高いリピート数が判明している複数のPCR産物を VNTR ラダーマーカー(VNTR Ladder Marker)として用いることにより,VNTR PCR 産物をおのおののリピート数の判明しているPCR産物と直接比較し,リピート数を判定する解析法を開発した.VNTR Ladder Marker を用いた QIAxcel Advanced による VNTR 解析法は簡便でかつ正確であり,地方衛生研究所レベルの日常業務において有用であると判断する.

キーワード
結核菌分子疫学解析、VNTR、JATA12VNTR、15/24MIRU-VNTR、IS6110 RFLP

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結核菌ゲノムの分子疫学と応用
ゲノム配列に基づく結核菌群の発生と進化

前田伸司*   加藤誠也**
* 結核予防会結核研究所 ** 同副所長

要  旨
 結核菌を含めて現在のところ11種類の菌が結核菌群として分類されている.それら菌種間では核酸レベルで 99.9% 塩基配列が一致しているため,個別菌種の同定は難しい.しかし全ゲノム塩基配列分析により,ゲノム上に存在する region of difference(RD)領域や1塩基多型が多数同定された.そのため迅速・簡便な同定が可能となり,菌種の発生経路や各菌種内での進化系統も解明されつつある.

キーワード
Mycobacterium tuberculosis、結核菌群、系統進化、Large sequence polymorphism

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結核免疫
多剤耐性結核の宿主要因

土方美奈子*   慶長直人**

* 結核予防会結核研究所生体防御部 ** 同部長

要  旨
 多剤耐性結核の発生は,不適切な治療により結核菌ゲノムの中の薬剤効果に関連する遺伝子に変異が蓄積されていくことが最も重要なメカニズムであり,結核医療にかかわる人為的要因や制度上の問題が一義的と考えられている.しかし,その背景となる菌側のゲノム変異率や,宿主側の薬物代謝能・免疫応答にかかわる遺伝的背景なども,多剤耐性結核の発生に関与しているものと推測される.

キーワード
多剤耐性結核、宿主因子、遺伝的多型、薬物代謝能、免疫応答

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結核免疫
自然免疫細胞における結核菌認識機構

財賀大行*1  竹田 潔*2*3
*1 マックス・プランク研究所 *2 大阪大学大学院医学研究科免疫制御学講座 教授
*3 同免疫学フロンティア研究センター 教授

要  旨
 病原微生物から身を守るための免疫システムは,宿主細胞がパターン認識受容体を介して病原菌を異物として認識することからスタートする.とりわけ結核菌の認識には,自然免疫細胞のさまざまな場所に局在する TLR や CLR,NLR といった複数のパターン認識受容体がかかわっていることが知られている.また最近では,AIM2 という新たな受容体を介した感染防御機構も明らかになっており,いまなお結核菌認識機構の理解は発展し続けている.

キーワード
自然免疫、認識、受容体、マウス、AIM2

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結核免疫
結核に対する感染防御機構

河村伊久雄*
* 京都大学大学院医学研究科微生物感染症学 准教授

要  旨
 宿主に結核菌を感染させると強い防御免疫が発現し,菌の増殖を抑えることができる.しかし防御免疫が発現しても,抵抗性の強い結核菌を体内から排除することは容易ではない.その結果として,結核菌の持続的な感染が過剰な免疫応答を誘発し,結核に特徴的な肉芽腫内部の空洞化や感染局所周辺の重篤な組織傷害を招く.したがって,結核に対する感染防御を効果的に発揮するためには,防御免疫の発現を適切に調節する機序が重要となる.そこで本稿では,結核に対する感染防御の発現および制御機序に関する最近の知見についてまとめる.

キーワード
結核菌、T細胞、サイトカイン、樹状細胞、マクロファージ

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結核免疫
結核菌の細胞内寄生メカニズム

瀬戸真太郎*1  小出幸夫*1*2
*1 浜松医科大学医学部感染症学講座 *2 同理事・副学長

要  旨
 結核菌は細胞内寄生性細菌であり,マクロファージに貪食されても,そのマクロファージ内で増殖することができる.結核菌はファゴソーム成熟やオートファジー誘導を阻害することによって,細胞内増殖能を獲得している.筆者らはイメージ解析によって,結核菌感染マクロファージの細胞内小胞輸送機構を解析した.その結果,殺菌分解の場であるファゴソームが,結核菌の増殖に適したニッチへと変化していることが明らかになった.

キーワード
マクロファージ、細胞内寄生、小胞輸送、ファゴソーム成熟、オートファジー

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難治性結核治療
多剤耐性結核の感染対策

露口一成*
* 国立病院機構近畿中央胸部疾患センター臨床研究センター感染症研究部 部長

要  旨
 多剤耐性結核は,イソニアジド(INH)とリファンピシン(RFP)の両剤に耐性を示す結核と定義される.多剤耐性結核は感染したときの影響が大きく,通常の感受性結核よりも厳重な感染対策をとる必要がある.再感染を防ぐために入院時には陰圧個室に隔離すべきであり,そのために耐性遺伝子による迅速診断が有用である.多剤耐性結核では,有効性の証明された潜在性結核感染治療のレジメンは存在しない.

キーワード
多剤耐性結核、超多剤耐性結核、耐性遺伝子、潜在性結核感染治療

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難治性結核治療
新規抗結核薬開発の現状

土井教生** 結核予防会結核研究所生体防御部 主任研究員
新規抗結核薬/化学療法プロジェクトリーダー
* 国立病院機構近畿中央胸部疾患センター臨床研究センター感染症研究部 部長

要  旨
 現在世界では,臨床試験第Ⅲ相:4,第Ⅱ相:9,計13の臨床開発プロジェクト,前臨床段階のプロジェクト:8,リード化合物・最適化プロジェクト:9,リード化合物の探索・同定プロジェクト:14,合計44の新抗結核薬開発プロジェクトが進展中である.2000~2010年は「新規抗結核薬の研究開発の時代」,2011年以降は「次世代の短期併用化学療法のレジメン開発の時代」,これがこの分野の<歴史的現在>を理解する象徴的なキーワードである.

キーワード
抗結核薬、化学療法、併用治療、PK/PD、薬剤間相互作用

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連載
現代社会とうつ病

  現代社会において問題となっております「うつ病」について病気そのものの解説、法、サポート体制などを連載形式で詳しく紹介する目的で連載「現代社会とうつ病」を企画致しました。
 今号から約3年間にわたり国内の診療・研究の最前線でご活躍されている先生方に「うつ病」について詳しくご解説をお願いしております。
 第31回は上智大学・藤山 直樹 先生による「精神分析の立場でうつ病を扱うこと」です。

要  旨
 精神分析が一般的な精神科でのうつ病臨床に貢献できるポイントを,筆者なりにまとめた.精神分析はパーソナリティに注目し,人生のある意味必然的な過程として病気をとらえるが,うつ病患者が喪失を十分悲しめないこと,情緒的に自他別が曖昧になりやすいことを見いだした.反復傾向と難治傾向があり,内的変化への動機のある患者への分析的セラピーと,難しい治療関係の打開という2点で,精神分析はうつ病治療に役立つだろう.

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連載
トップランナーに聞く(第35回)
蛍光で見る動物の神秘

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
  第35回は生体分子イメージングを独自に開発され慢性炎症を背景とする生活習慣病の病態解明で多くの成果を上げておられる自治医科大学の西村 智 先生にお話を伺いました。

 西村 智 先生

 現在、慢性炎症を背景とした各種疾患(肥満、糖尿病、動脈硬化)において、過食・肥満・高血糖・加齢と いったストレスがいかに細胞ネットワーク・情報伝達の破綻と臓器機能異常、炎症病態を来すかを検討してい る。我々の開発した生体イメージングは、生体からアプローチして遺伝子に繋がる新たな研究のフレームワー クを提供すると考えている。

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連載
ノーベル賞と医学の進歩・発展

 68巻10号からノーベル賞の対象となった業績やその業績が現在どのような恩恵をもたらしているかについて、各領域の専門家の先生方に詳しいご解説をお願いしております。

第14回は神戸大学名誉教授・杉山 武敏 先生による「発がん性ウイルスの発見とその周辺-ペイトン・ラウスを中心に-」です。

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トピックス
自己炎症症候群

井田弘明*
* 久留米大学医学部呼吸器・神経・膠原病内科 教授

要  旨
 自己炎症症候群は全身性の炎症を来す症候群で,感染症や膠原病に類似しているが,病原体は検出されず,自己免疫反応にも乏しい.遺伝性周期熱症候群が代表で,遺伝子変異によりコードするタンパク質の異常で病気が生じる.獲得免疫が主体の自己免疫疾患と異なり,自然免疫が大きな役割を果たしていて,自然免疫が主体の疾患も広義に分類される.臨床の場では特に不明熱・周期熱の鑑別疾患として,自己炎症症候群は認知されてきた.

キーワード
自己炎症、自然免疫、不明熱、遺伝子、サイトカイン

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トピックス
EBV 関連 T/NK リンパ増殖性疾患

木村 宏*
* 名古屋大学大学院医学系研究科ウイルス学 教授

要  旨
 EBV 関連T/NKリンパ増殖性疾患は,免疫学的に正常で基礎疾患のない小児・若年成人に,EBV が感染したT細胞もしくはNK細胞が増殖・臓器浸潤し,多彩な症状を起こす疾患群である.近年行われた前向き調査により,本疾患の臨床像・病理像・ウイルス学的特徴が示された.今後,EBV 関連T/NKリンパ増殖性疾患の発症病理・臨床病態が明らかにされ,治療法が確立されることを期待する.

キーワード
Epstein-Barrウイルス(EBV)、小児全身性EBV陽性T細胞増殖症、種痘様水泡症様リンパ腫、
慢性活動性EBV感染症、EBV関連血球貪食性リンパ組織球症

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