最新醫學 69巻1号 
特集 糖尿病 -診断・治療Update-


要  旨


座談会 糖尿病の診断,病態解明と治療の Update

東京大学        門脇 孝
川崎医科大学      加来 浩平
熊本大学        荒木 栄一 (司会)

 座談会の内容
 ・熊本宣言2013
 ・糖尿病成因研究の進歩
 ・糖尿病治療薬の進歩
 ・将来の糖尿病治療 など
 
  門脇先生       荒木先生       加来先生

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基礎研究
2型糖尿病の成因における最近の話題 ―過栄養・肥満と慢性炎症―

井上 啓*1  春日雅人*2
*1 金沢大学脳・肝インターフェースメディシン研究センター 教授
*2 国立国際医療研究センター 総長

要  旨
 過栄養・肥満がインスリン抵抗性・β細胞障害を惹起する病因として,慢性炎症の重要性が指摘されている.近年,肥満・過栄養で発生する細胞内ストレスや腸内細菌叢変化と慢性炎症を繋ぐ機序として,TLR4/NLRP3 などパターン認識受容体(PRR)の役割が解明されてきた.過栄養・肥満で増加する,遊離脂肪酸やセラミドなどの代謝物・腸内細菌叢由来の LPS が,PRR を介して炎症を増強し,インスリン抵抗性を誘導する.

キーワード
パターン認識受容体(PRR)、TLR、NLR、インフラマソーム

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基礎研究
糖尿病関連遺伝子研究

安田和基*
*1 国立国際医療研究センター研究所糖尿病研究センター代謝疾患研究部 部長

要  旨
 2型糖尿病の遺伝因子は,「ゲノムワイド関連(相関)解析(GWAS)」により急速に解明が進み,現在までに70前後報告されているが,単独での効果は弱く,すべて併せても疾患発症の予測力は不十分である.今後は,次世代シークエンサーを用いたいわゆる rare variant の探索や,エピゲノム制御を含めた環境因子との相互作用の解明などにより,臨床応用の実現へ向けての発展が期待される.

キーワード
ゲノムワイド関連(相関)解析(GWAS)、TCF7L2、KCNQ11、rare variant、エピゲノム

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基礎研究
膵β細胞・膵島の再生研究

坂野大介*   粂 昭苑**
* 熊本大学発生医学研究所多能性幹細胞分野 ** 同教授

要  旨
 1型糖尿病では,主に自己免疫による破壊でb細胞量が減少する.一方2型糖尿病でも,インスリン抵抗性による膵β細胞への負担の増加や酸化ストレスによりβ細胞量が減少する.これらの膵β細胞量の減少に対し,生体内でその数を一定に保つための仕組みが存在している.このメカニズムを解明することで,糖尿病治療に向けた膵島移植が可能になるかもしれない.本稿ではβ細胞新生とβ細胞の複製制御について,最近の研究を紹介する.

キーワード
膵β細胞、組織幹細胞、複製、分化転換、多臓器相関

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臨床研究
糖尿病の診断基準と治療目標
高本偉碩*   植木浩二郎**
* 東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科 ** 同准教授

要  旨
 日本糖尿病学会は,2010年に糖尿病の診断基準を改訂した.HbA1cを糖尿病型の判定基準に取り入れ,HbA1c(NGSP)≧6.5%であれば糖尿病型と判定し,血糖値と HbA1c の双方が糖尿病型であれば1回の検査で糖尿病と診断できる.HbA1c の国際標準化も推進され,日常臨床においては2012年4月よりNGSP値の使用が開始され,特定健診においては2013年4月からNGSP値に移行済みである.2013年6月より血糖コントロールの目標が改訂され,多くの糖尿病患者における合併症予防のための目標としてHbA1c(NGSP)<7.0%が掲げられた.

キーワード

HbA1c、NGSP値、糖尿病型、血糖コントロール、熊本宣言

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臨床研究
糖尿病網膜症の診断・治療
本間 慶*   山下英俊**

* 山形大学医学部眼科学教室 ** 同教授

要  旨
 糖尿病網膜症は三大細小血管合併症の1つであり,有病者数は年々増加している.糖尿病網膜症は,現在主に国際重症度分類で分類されることが多く,そのステージにより治療法が異なる.すべての病期において血糖コントロールは非常に重要であり,糖尿病の重症度は網膜症の進展に寄与するため,内科と眼科のさらなる相互協力が今後必要である.

キーワード
国際重症度分類、汎網膜光凝固術、硝子体手術、血糖コントロール

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臨床研究
糖尿病性腎症の診断・治療

羽田勝計*
* 旭川医科大学内科学講座病態代謝内科学分野 教授

要  旨
糖尿病症例に「微量アルブミン尿」が出現した時点で,糖尿病性腎症と診断する.「微量アルブミン尿」は,心血管イベントの危険因子でもある.「微量アルブミン尿」を呈する症例を積極的に治療することにより,腎症の進行阻止のみならず,心血管イベント・総死亡の減少が示されている.また,正常アルブミン尿への寛解(remission)も可能である.腎症の治療には,血糖コントロールと糸球体高血圧の是正が必須である.

キーワード
微量アルブミン尿、血糖コントロール、糸球体高血圧、レニン・アンジオテンシン系阻害薬、血圧コントロール

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臨床研究
糖尿病性神経障害の診断・治療
中村二郎**  神谷英紀*
* 愛知医科大学医学部内科学講座糖尿病内科 准教授 ** 同教授

要  旨
 糖尿病性神経障害の診断基準として,我が国においては「糖尿病性多発神経障害の簡易診断基準案」が,国際的には Michigan Neuropathy Screening Instrument が用いられている.神経障害の発症・進展阻止および治療の基本は厳格な血糖コントロールの維持にあり,加えて成因に則った治療薬であるアルドース還元酵素阻害薬による介入が有用である.自覚症状の強い場合には,対症療法薬により QOL の改善が期待される.

キーワード
簡易診断基準、血糖コントロール、アルドース還元酵素阻害薬、プレガバリン、デュロキセチン

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臨床研究
高齢者糖尿病の診断と治療
横野浩一*
* 北播磨総合医療センター病院長

要  旨
 超高齢社会が進行するとともに,高齢者糖尿病の頻度が増加している.高齢者糖尿病における特有の診断基準はないが,高齢発症の場合はその基準を高めに設定することも検討されている.高齢者糖尿病治療の骨子は,各高齢者の背景を包括的高齢者機能評価で吟味し,各個々人に応じた食事・運動・薬物療法を選択する.その治療目標は,我が国で行われたJ-EDITを含めたコンセンサスにより,青壮年者よりやや高めに設定することが推奨されている.

キーワード
高齢者糖尿病、サルコペニア、J-EDIT、認知症、包括的高齢者機能評価(CGA)

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治療薬
DPP-4 阻害薬による治療
細葉美穂子*   山田祐一郎**

* 秋田大学大学院医学系研究科内分泌・代謝・老年内科学 ** 同教授

要  旨
 DPP-4 阻害薬は,血中の活性型インクレチン濃度を上昇させ,インスリン分泌を促進するとともに,グルカゴンを抑制することで血糖を改善する.また,低血糖を起こしにくく,体重増加を来しにくいという利点があり,他の経口血糖降下薬との併用でも相加・相乗的な効果が報告されており有効である.
 近年は,抗動脈硬化作用や心臓や腎臓に対する多面的な作用も報告されてきており,今後の臨床研究の蓄積が期待されている.

キーワード
DPP-4阻害薬、インクレチン、GLP-1,GIP

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治療薬
新規糖尿病薬としての SGLT2 阻害薬
楠 知里*   前川 聡**

* 滋賀医科大学内科学講座糖尿病・腎臓・神経内科 ** 同教授
要  旨
 近年,新しい糖尿病治療薬の Na+/グルコース共役輸送担体(SGLT)阻害薬が開発され,実臨床でも使用可能となる.SGLT2 は腎近位尿細管でグルコース再吸収に寄与しており,その阻害薬は,尿中にグルコースを排泄し,高血糖改善,体重減少など有益な薬効作用を発揮する.一方,尿路感染症などの副作用報告もあり,長期の安全性についてさらなる検討が必要である.

キーワード
SGLT-2阻害薬、腎性糖尿、体重減少

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治療薬
GPR40 作動薬による治療
高井舞子*1  加来浩平**1*2

*1 川崎医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科学 **1 同教授 *2 同総合内科学1 教授

要  旨
 ・GPR40は膵β細胞に選択的かつ高度に発現し,その活性化はグルコース濃度依存性のインスリン分泌促進作用を示す.ゲノム創薬研究から生まれた GPR40 作動薬は,新規作用機序を有する経口血糖降下薬として注目されている.
 ・現在,国内外で fasiglifam(TAK-875)が第Ⅲ相臨床試験中であり,優れた血糖改善効果とともに低血糖の頻度が少ないことから,質の高い血糖コントロールに寄与するものと期待されている.

キーワード
Gタンパク質共役型受容体(GPCR)、GPR40作動薬、fasiglifam、インスリン分泌、血糖依存性

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治療薬
GLP-1 受容体作動薬による治療
原田範雄*   稲垣暢也**
* 京都大学大学院医学研究科糖尿病・内分泌・栄養内科学 ** 同教授

要  旨
 GLP-1 受容体作動薬は,DPP-4 によって分解されにくい構造を有し,GLP-1 の薬理学的効果で血糖と体重低下に強く作用する.本邦では GLP-1 アナログであるリラグルチドと,exendin-4 骨格を有するエキセナチドとリキシセナチドが臨床で使用可能である.またエキセナチドをポリ乳酸・グリコール酸共重合体のマイクロフェア内に包埋することにより,週1回投与で可能な徐放化製剤も上市されている.

キーワード
GLP-1、GLP-1受容体作動薬、血糖値、体重

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治療薬
インスリン治療
遅野井雄介*   綿田裕孝**
* 順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学 ** 同教授

要  旨
 1921 年にバンティングとベストが膵臓からの抽出物で血糖が下がることを発見したことから,インスリン治療の歴史は始まった.近年,糖尿病の治療方法はインクレチン関連薬の出現で劇的に変化しつつあるが,1型糖尿病患者,糖尿病ケトアシドーシスなどの緊急症例,血糖コンロール不良な手術待機患者の治療など,インスリンを必要とする状況は枚挙に暇がなく,適切なタイミングに適切なインスリンを選び治療していくことは,糖尿病専門医にとっては腕の見せところであり,非専門医と専門医の分かれ目でもあると考える.
 本稿では,インスリン治療全般に関して俯瞰することができるよう概説していく.

キーワード
インスリン、適応、製剤の種類、入院・外来での使い方

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連載
現代社会とうつ病

  現代社会において問題となっております「うつ病」について病気そのものの解説、法、サポート体制などを連載形式で詳しく紹介する目的で連載「現代社会とうつ病」を企画致しました。
 今号から約3年間にわたり国内の診療・研究の最前線でご活躍されている先生方に「うつ病」について詳しくご解説をお願いしております。
 第33回は京都文教大学・森崎 美奈子 先生による「企業のうつ病等メンタルヘルス不調対策の現状」です。

要  旨
 企業は労働者の安全と健康の確保などを目的とした労働安全衛生法をはじめとする法令や諸規定を遵守し,絶えずリスクを予見し,改善に努めることが求められる.経済・社会状況の変化に伴い,業務内容や就労形態なども大きく変化し,職場生活の不安やストレスからうつ病などのメンタルヘルス不調や自殺に至る労働者が増えている.
 心身の健康確保は,使用者の責任・安全配慮義務という観点はもとより,職場のモラールや生産性の向上の観点からも非常に重要な課題である(表1,2).

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連載
トップランナーに聞く(第35回)
安全で高精度な脳血流 MRI 検査法の実現を目指して

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
  第36回は腫瘍ホーミングペプチドや口腔・頭頸部扁平上皮がんの増殖に関するメカニズムの研究で多くの成果を上げておられる北海道大学の工藤 與亮 先生にお話を伺いました。

 工藤 與亮 先生

 分子生物学を専門とし、がん細胞の増殖、浸潤、転移メカニズムから得られた基盤的知見を活かし、がん治療や診断を支える新しいバイオツールの開発に日々努力しています。現在、口腔・頭頸部扁平上皮がんや非小細胞肺がんの持つ課題(増殖や薬剤耐性)についての基礎研究からの情報をもとにした、がん細胞透過性ペプチドや抗腫瘍効果ペプチドといった「ペプチド」による従来にない新しい分子診断・治療技術の開発を進めています。これからも医療に携わる多くの方々と協力し、基礎と応用を併せた研究を展開していきたいと考えています。

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連載
ノーベル賞と医学の進歩・発展

 68巻10号からノーベル賞の対象となった業績やその業績が現在どのような恩恵をもたらしているかについて、各領域の専門家の先生方に詳しいご解説をお願いしております。

第16回は医仁会武田病院・森下 玲児 先生による「ビタミン B12 の発見と臨床」です。

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トピックス
急性期脊髄損傷患者に対する培養自家骨髄間質細胞の髄液内投与
齊藤福樹*1 津田雅庸**1 岩瀬正顕*2 中谷壽男***1 鈴木義久*3 福島雅典*4 井出千束*5
*1 関西医科大学滝井病院救命救急センター救急医学科 **1 同講師 ***1 同教授 *2 同脳神経外科 教授
*3 田附興風会医学研究所北野病院形成外科 主任部長 *4 先端医療振興財団臨床研究情報センター センター長
*5 藍野大学医療保健学部再生医療研究所 教授

要  旨
 脊髄損傷患者は世界中で年々増加している.本邦では10万人存在し,新たに年間5千人発生している.車椅子や寝たきりの患者が普通の生活を送れるようになれば,その貢献度は想像を絶する.我々は,骨髄間質細胞を用いての新たな治療法の開発を試み,基礎的研究にて有効性を認め臨床試験に移行した.現在のところ有害事象の発生がないことを確認した.一定の有効性は得られたが,今後症例数を増やし,さらに検討を加える.

キーワード
骨髄間質細胞、脊髄損傷、細胞移植

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第50回 2013年度ベルツ賞受賞論文特報 1等賞
インクレチン ―生理学,病態生理学,そして臨床医学への展開―

清野 裕*1 山田祐一郎*2 稲垣暢也*3 清野 進*4
*1 関西電力病院 病院長 *2 秋田大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝・老年内科学 教授
*3 京都大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学 教授
*4 神戸大学大学院医学研究科 分子代謝内科学 特命教授

要  旨
Incretins are hormones released by enteroendocrine cells to stimulate insulin secretion. Currently, gastric inhibitory polypeptide (GIP) and glucagon-like peptide-1 (GLP-1) are the known incretins. We have extensively investigated the physiology and pathophysiology of the pancreatic and extra-pancreatic actions of these incretins. In 1970’s, we first reported that GIP directly stimulates insulin and glucagon secretion in a glucose-dependent manner in vitro and that Japanese type 2 diabetic (T2DM) patients show an impaired GIP-insulin axis. Using a molecular biological approach, we cloned human GIP cDNA and determined the structures of both the human GIP gene and the human GIP receptor gene. By examining GIP receptor knockout mice and GIP/GLP-1 receptor double knockout mice, we found that both GIP and GLP-1 are required for the early insulin secretory response to glucose ingestion, demonstrating that incretins are critical for controlling postprandial glycemia in vivo. We later showed that incretin/cAMP signaling stimulates insulin secretion in vitro through protein kinase (PKA)-independent as well as PKA-dependent mechanisms, the former involving the newly identified cAMP sensor Epac2. This revealed a novel mechanism of incretin-induced insulin secretion. We also found that ablation of the GIP receptor in high-fat-fed mice almost completely eliminated the obesity phenotype and that GIP increases nutrient uptake into adipocytes. This was the first demonstration of physiological extra-pancreatic action of incretin. Various extra-pancreatic effects of incretins in many tissues were later found, including bone, peripheral nerve and heart. We have found in clinical studies that incretin-related anti-diabetic drugs such as dipeptidyl peptidase-4 inhibitors and GLP-1 receptor agonists are effective in Japanese T2DM patients. Incretin-related drugs are increasingly being used in clinical practice worldwide. Our studies in the past four decades have provided the basis of incretin-based diabetes therapies as well as the physiology and pathophysiology of actions of incretins in normal and altered metabolic states.

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