最新醫學 69巻3号 
特集 抗体によるがん分子標的療法


要  旨


座談会 座談会固形がん分子標的治療薬と抗体療法 ―抗体薬の領域別位置づけ,課題と今後の展望―

がん研究会有明病院   畠 清彦
京都大学           石黒 洋
東北大学          石岡 千加史 (司会)

 座談会の内容
 ・造血器腫瘍における抗体薬の進歩
 ・乳がん領域における抗体薬の進歩
 ・消化器がん領域における抗体薬の進歩
 ・免疫チェックポイントを抑制する抗体薬 など
 
  石黒先生       石岡先生       畠先生

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がん領域の抗体薬
抗 HER2 抗体薬

公平 誠*
* 国立がん研究センター中央病院乳腺・腫瘍内科

要  旨
 HER2 は乳がんや胃がんの細胞に発現するチロシンキナーゼ受容体であり,抗 HER2 薬の標的となるバイオマーカーである.乳がん領域では,抗体医薬であるトラスツズマブ,ペルツズマブ,トラスツズマブエムタンシンや小分子化合物のラパチニブなどが登場し,胃がん領域でもトラスツズマブが日常診療に導入されるようになった.HER2 を標的とした治療戦略が複雑化しており,バイオマーカーとしての HER2 や抗 HER2 療法への十分な理解が必要とされている.

キーワード
HER2、トラスツズマブ、ラパチニブ、ペルツズマブ、トラスツズマブエムタンシン

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がん領域の抗体薬
抗 CD20 抗体薬と抗 CD52 抗体薬

石澤賢一*
* 東北大学病院臨床研究推進センター/血液免疫科 特任教授

要  旨
  造血器腫瘍は,抗体療法が早期から臨床導入された分野で,抗 CD20 抗体薬,抗 CD52 抗体薬の開発が進行している.抗 CD20 抗体薬でキメラ型のリツキシマブは,現在B細胞リンパ腫に広く用いられている.またヒト化抗体・ヒト型抗体の開発,定常部分の糖鎖の修飾により,抗腫瘍効果増強が図られている.抗CD20抗体に放射性同位元素を標識した放射免疫療法も開発されており,その臨床的位置づけが今後の検討課題である.
 抗CD52抗体アレムツズマブは,高リスクの染色体異常を有する慢性リンパ性白血病に一定の治療効果が認められるが,多発性硬化症承認取得の関係で欧米の市場より引き上げられた.

キーワード
リツキシマブ、オファツムマブ、オビヌツズマブ、イブリツモマブチウキセタン、アレムツズマブ

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がん領域の抗体薬
抗 CD22 抗体薬と抗 CD30 抗体薬

棟方 理*
* 国立がん研究センター中央病院血液腫瘍科

要  旨
 CD22 および CD30 は,リンパ系腫瘍における有望な治療標的分子と考えられていた.当初開発が先行した非抱合型抗体の治療効果は限定的であったが,その後開発された抗体-薬物複合体であるイノツズマブオゾガマイシンおよびブレンツキシマブベドチンは,近年高い有効性が示されつつある.これらの薬剤は,今後リンパ系腫瘍に対する標準治療を変革する可能性のある注目される薬剤である.

キーワード
CD22、イノツズマブオゾガマイシン、CD30、ブレンツキシマブベドチン、抗体―薬物複合体

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がん領域の抗体薬
抗 EGFR 抗体薬
吉岡孝志*

* 山形大学医学部臨床腫瘍学講座 教授

要  旨
 抗 EGFR 抗体薬は,EGFR の細胞外領域に結合することでリガンドの受容体への結合を阻害し,下流のシグナル伝達系を直接阻止し,細胞の増殖と生存の抑制,抗アポトーシス作用,細胞成長の抑制を引き起こす.有効性を発揮するためには EGFR 下流のシグナル伝達が正常に働いていることが前提で,その下流の異常は抗 EGFR 抗体薬の効果予測の分子マーカーとなる.抗 EGFR 抗体薬は,大腸がんと頭頸部がんの治療薬として使用されている.

キーワード

上皮増殖因子受容体、セツキシマブ、パニツムマブ、KRAS遺伝子

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がん領域の抗体薬
抗 VEGF 経路抗体薬 ―ベバシズマブ,アフリベルセプト,ラムシルマブ―
加藤俊介**1*2 塩野雅俊*1

*1 東北大学加齢医学研究所臨床腫瘍学分野 **1 同准教授
*2 順天堂大学大学院医学研究科臨床腫瘍学 教授

要  旨
 VEGF 経路は腫瘍血管新生において重要な役割を果たしており,多くの抗体医薬,小分子化合物が開発されている.抗体医薬では,VEGFA の中和抗体であるベバシズマブ,VEGFA,BおよびPlGFと結合するアフリベルセプト,受容体VEGFR2を標的としてリガンドの結合を競合的に抑えるラムシルマブがある.これら薬剤のこれまでの成果と今後の開発動向について概説する.

キーワード
VEGF、ベバシズマブ、アフリベルセプト、ラムシルマブ

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がん領域の抗体薬
抗 CTLA-4 抗体薬 ―イピリムマブ―

下平秀樹*
* 東北大学加齢医学研究所臨床腫瘍学分野 准教授

要  旨
 細胞障害性T細胞の活性化を目的として開発された抗 CTLA-4 抗体イピリムマブが,悪性黒色腫の治療薬として欧米で承認された.これは,免疫療法における新しい時代の幕開けであり,長年,際立った進歩のなかった悪性黒色腫の治療を大きく変える画期的なことと言える.イピリムマブはさまざまな併用療法の有効性,術後補助療法としての有用性,他疾患での有用性などが検討されており,ますます発展が期待される薬剤である.

キーワード
イピリムマブ、抗CTLA-4抗体

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がん領域の抗体薬
抗 CCR4 抗体薬 ―モガムリズマブ―
伊藤 旭*   石田高司**

* 名古屋市立大学大学院医学研究科 腫瘍・免疫内科学 ** 同准教授

要  旨
  成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)は難治性のリンパ性悪性腫瘍であり,いまだ有効な標準治療が定まっていない.2012年に,再発または難治性のCCR4陽性ATLに対する抗CCR4モノクローナル抗体であるモガムリズマブが承認・発売となった.今回はモガムリズマブの機序,開発,基盤研究,臨床研究,発売とその後に至るまでの一連の流れを紹介する.

キーワード
成人T細胞白血病リンパ腫、CCR4、モガムリズマブ、皮疹

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臓器別がんに対する抗体療法
白血病に対する抗体療法
塚崎邦弘*

* 国立がん研究センター東病院血液腫瘍科 科長

要  旨
 種々の白血病に対して,いくつかのモノクローナル抗体医薬の開発が進行中である.対象疾患(AML/ALL ほか),標的抗原(CD33/CD20/CD22/CD19 ほか),抗体種類(非結合,毒素結合,2抗原特異的)などさまざまであるが,抗体の免疫原性,多抗原特異性などはさらに今後の改良が期待されている.単剤または化学療法など他の治療法との併用により,許容できる毒性で治癒率を高める新規治療法の開発を,対象疾患の選択を含めて適切な臨床試験によって進めることが求められている.

キーワード
ゲムツズマブオゾガマイシン、急性骨髄性白血病、CD33、急性リンパ性白血病、CD22、CD19

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臓器別がんに対する抗体療法
悪性リンパ腫に対する抗体療法
永井宏和*

* 国立病院機構名古屋医療センター血液・腫瘍研究部 部長

要  旨
 抗体療法薬であるリツキシマブの導入は,B細胞リンパ腫における予後の改善に大きく寄与した.また,CD30陽性のホジキンリンパ腫や未分化大細胞型リンパ腫では,ブレンツキシマブベドチンは単剤で極めて良好な効果が示された.新規の抗体薬の開発も急速に進んでおり,抗体療法は悪性リンパ腫の治療戦略においてますます重要な役割を占めるようになってきている.

キーワード
リツキシマブ、ブレンツキシマブベトチン、B細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫

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臓器別がんに対する抗体療法
肺がんに対する抗体療法
森山雅人*   西條康夫**

* 新潟大学大学院医歯学総合研究科腫瘍内科学分野 ** 同教授
要  旨
 肺がん治療の大きなマイルストーンの1つとして,抗体医薬の登場があげられる.現時点で承認されているのは進行・再発の非扁平上皮非小細胞肺がんに対するベバシズマブで,化学療法との併用による有効性が多数報告されている.さらに,免疫療法を含む新たな抗体医薬の解析が進み,今まで抗体医薬の恩恵を受けていなかった扁平上皮がんや小細胞がんに対する検討も行われ,さらなる発展が期待される領域である.

キーワード
抗VEGF抗体、抗EGFR抗体、抗IGF-1R抗体、抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体

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臓器別がんに対する抗体療法
乳がんに対する抗体療法
岡本奈津子*   河口浩介*   石黒 洋**

* 京都大学附属病院乳腺外科 ** 同外来がん診療部 特定講師
要  旨
 トラスツズマブやペルツズマブ,トラスツズマブに殺細胞性抗がん剤を結合したトラスツズマブエムタンシン(T-DM1)は HER2 のシグナル伝達を,ベバシズマブは腫瘍の血管新生を阻害する.デノスマブは破骨細胞の分化を阻害し骨吸収を抑制する.いずれも単剤や他の抗体薬・抗がん剤と併用で抗腫瘍効果を発揮する.今後は併用薬の選別や投与期間,薬剤感受性と耐性を示すバイオマーカーの同定,副作用のマネジメント,医療経済への対応などの解決が急がれる.

キーワード
乳がん、抗体療法

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臓器別がんに対する抗体療法
大腸がんに対する抗体療法
成田有季哉*   谷口浩也*
* 愛知県がんセンター中央病院薬物療法部

要  旨
 切除不能・再発進行大腸がんは,抗 VEGF 抗体薬のベバシズマブ,KRAS 野生型に対する抗 EGFR 抗体薬(セツキシマブ,パニツムマブ)の導入により,全生存期間中央値は24ヵ月以上に到達した.現在は両抗体薬の使う順序や使い分けについての議論が行われている.本稿では,分子標的薬を用いた最新の臨床試験結果を中心に,今後の大腸がん治療の展望も含めて解説する.

キーワード
切除不能・進行再発大腸がん、分子標的治療薬、KRAS遺伝子変異

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臓器別がんに対する抗体療法
胃がんに対する抗体療法
柴田義宏*1  草場仁志*2  馬場英司*3
* 産業医科大学医学部第一内科学講座 講師 ** 同教授

要  旨
 HER2 陽性胃がんに対するトラスツズマブ併用化学療法の有効性が示された.乳がんで用いられる抗 HER2 抗体トラスツズマブエムタンシンやペルツズマブが胃がんでも応用され,さらにEGFR,VEGFR2,cMETを介するシグナルを阻害する新規抗体薬の臨床試験も進んでいる.適切なバイオマーカーを同定し,治療効果が期待できる患者群を対象とすることが,治療開発上,重要と考えられる.

キーワード
HER2、トラスツズマブ、トラスツズマブエムタンシン、ペルツズマブ、ラムシルマブ

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連載
現代社会とうつ病

  現代社会において問題となっております「うつ病」について病気そのものの解説、法、サポート体制などを連載形式で詳しく紹介する目的で連載「現代社会とうつ病」を企画致しました。
 66巻5号から約3年間にわたり国内の診療・研究の最前線でご活躍されている先生方に「うつ病」について詳しくご解説をお願いしております。
 第35回は九州大学・川嵜 弘詔 先生による「DSM-5の抑うつ障害の診断基準について」です。

要  旨
 抑うつ障害におけるDSM-5の変更点についての概説を行った.DSM-Ⅳで規定されていた大うつ病エピソードの診断基準自体には大きな変更点はないが,大うつ病性障害が含まれていた気分障害のカテゴリーが抑うつ障害と双極性障害その他の関連障害の2つの章に分かれ,気分障害の大項目が削除された.そのほかは,①死別反応の除外基準の廃止,②混合性の特定項目,および不安による苦痛の特定項目の追加,③破壊性気分調節性障害,月経前不快気分障害,持続性うつ病性障害の新カテゴリーの追加,④閾値下の症候についての言及,などが主たる変更点である.
 これらは今後の診断および薬物療法を含む治療に大きな影響を与えると考えられ,抑うつ障害における診断および治療の課題についての考察を行った.

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連載
トップランナーに聞く(第39回)
甲状腺研究のブレークスルーを目指して

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
  第39回は甲状腺ホルモン不応症(RTH)モデルマウスの作成によりRTHの症状の分子機構や甲状腺ホルモンの新しい作用を発見された東京医科歯科大学の橋本 貢士 先生にお話を伺いました。

 橋本 貢士 先生

 甲状腺ホルモンは生体のホメオスタシスに不可欠で、甲状腺疾患は内分泌疾患の中で最多にもかかわらず、その研究は一見「古典的」な感を否めません。私は脂質代謝や中枢神経系における甲状腺ホルモンの知られざる作用を探索し、この「古くて新しい」ホルモンをターゲットトした新しい医療の可能性を模索しています。また、バセドウ病の再燃・再発予測の新たな分子マーカーの開発と合わせて、甲状腺研究にブレークスルーを起こすことを目指しています。

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連載
ノーベル賞と医学の進歩・発展

 68巻10号からノーベル賞の対象となった業績やその業績が現在どのような恩恵をもたらしているかについて、各領域の専門家の先生方に詳しいご解説をお願いしております。

第17回は医療法人神鋼会総合医学研究センターセンター長・熊谷 俊一 先生による「抗体研究の歴史と臨床への応用 ―ノーベル賞と免疫学―」です。
訂正 表1 

   1954 ポーリング    鋳型節の科学的検証 → 鋳型説、分子構造と化学結合
   1958 レーダーバーグ 鋳型節の科学的検証 → 微生物遺伝子の構造と機能
   1972  アンフィンゼン 鋳型節の科学的検証 → 酵素活性と高次構造決定因子

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トピックス
Hereditary Diffuse Leukoencephalopathy with Axonal Spheroids(HDLS)
吉田邦広*1  池田修一*2
*1 信州大学医学部神経難病学講座 教授 *2 同脳神経内科,リウマチ・膠原病内科 教授


要  旨
Hereditary diffuse leukoencephalopathy with axonal spheroids は,常染色体優性遺伝性の白質脳症である.神経病理学的に広範な軸索,髄鞘の変性・脱落と軸索腫大を特徴とする.臨床的には前頭葉症状を主体とする若年性認知症を呈する.本症の原因遺伝子として CSF1 受容体遺伝子が同定されたことにより,生前の確定診断例が増え,本症の臨床像,画像所見に関する知見が飛躍的に集積しつつある.

キーワード
白質脳症、軸索腫大(スフェロイド)、CSF1受容体、ミクログリア、Nasu-Hakola病

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トピックス
造血幹細胞移植後 GVHD と消化管傷害
早瀬英子*    橋本大吾*    豊嶋崇徳**
* 北海道大学大学院医学研究科血液内科学 ** 同教授


要  旨
消化管は急性 GVHD の代表的な標的臓器である.消化管 GVHD は,ドナーのアロ反応性T細胞が腸陰窩基底部に存在する腸幹細胞を傷害することにより上皮再生機能を損なわせ,また腸幹細胞のニッチである Paneth 細胞を破壊し腸内微小環境を変化させることによって発症する.腸内微小環境を保っている Paneth 細胞,腸管保護作用を持つ Innate lymphoid cell,そしてドナーリンパ球などの相互作用を理解することは,GVHD による消化管傷害の予防・治療を考えるうえで重要である.

キーワード
GVHD、腸内細菌叢、腸管細胞、Paneth細胞、Innate lymphoid cell

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