最新醫學 69巻7号 
特集 急性呼吸不全の病態と治療


要  旨


座談会
 急性呼吸不全の病態と治療を考える

埼玉医科大学                金澤 實
東京女子医科大学              小谷 透
地方独立行政法人長野県立病院機構  久保 惠嗣 (司会)

 座談会の内容
 ・心不全との鑑別
 ・慢性呼吸疾患の急性増悪との鑑別
 ・ベルリン定義
 ・ARDSの内科的治療 など
 
   金澤先生        久保先生    小谷先生

目次へ戻る


病態とその対応
病  態

仲村秀俊*   金澤 實**
* 埼玉医科大学呼吸器内科 准教授 ** 同教授

要  旨
 呼吸不全とは,呼吸機能障害のために動脈血ガスが異常値を示し,正常な機能を営むことができない状態と定義される.室内気吸入時のPaO2 が60mmHg以下の場合に診断される.PaCO2 が45mmHg未満をⅠ型,45mmHg以上をⅡ型呼吸不全と分類する.呼吸不全は中枢・末梢神経,胸郭,上・下気道,肺胞領域のいずれの障害でも発症し得る.ガス交換障害の病態は,通常,換気血流比不均等,シャント,拡散障害,肺胞低換気の4つの機序により説明される.

キーワード
換気血流比不均等、シャント、拡散、肺胞低換気

目次へ戻る


病態とその対応
呼吸管理の現況と展望

長友香苗*   山田芳嗣**
* 東京大学医学部附属病院麻酔科・痛みセンター ** 同教授

要  旨
 重症急性呼吸窮迫症候群は今なお死亡率が高く,肺保護戦略に従った呼吸療法が望まれる.特殊な機械的人工呼吸療法として気道圧開放換気(APRV)や高頻度振動換気(HFOV),体外式呼吸補助として extracorporeal membrane oxygenation(ECMO)などが用いられており,有用性について検討が重ねられている.同時に,鎮静や栄養管理・リハビリテーションなどの支持療法も重要視され,呼吸ケアサポートチーム(RST)による包括的呼吸管理への期待が高まっている.

キーワード
重症急性呼吸窮迫症候群、気道圧開放換気(APRV)、高頻度振動換気(HFOV)、
Extracorporeal membrane oxygenation(ECMO)、呼吸ケアサポートチーム(RST)

目次へ戻る


病態とその対応
非侵襲的陽圧換気(NPPV)の適応と実際

立川 良*1  陳 和夫*2
*1 京都大学大学院医学研究科呼吸器内科 *2 同呼吸管理睡眠制御学講座 教授

要  旨
 急性呼吸不全における非侵襲的陽圧換気(NPPV)は,慢性閉塞性肺疾患(COPD)増悪や心原性肺水腫をはじめとして,さまざまな急性期病態に対する有用性を示すエビデンスが蓄積されつつあり,近年その普及は著しい.NPPVの成否は施設・チームの習熟度に依存する面も大きく,現在の急性期NPPVのエビデンスとその有用性・限界を踏まえたうえで,挿管人工呼吸管理と相補的な人工呼吸管理手段として,各施設の体制に応じた柔軟な運用を行う必要がある.

キーワード
急性呼吸不全、非侵襲的陽圧換気(NPPV)

目次へ戻る


主な疾患の診断・治療
急性呼吸促迫症候群(ARDS)の病態と診断
藤島清太郎*

* 慶應義塾大学医学部総合診療教育センター 准教授

要  旨
 急性呼吸促迫症候群(ARDS)は,血管透過性亢進により肺水腫を生じ,急性呼吸不全を呈する病態である.2012年に公表されたベルリン定義では,①基礎傷病と発症時期の重視,②陰影の詳細な評価,③静水圧性肺水腫の臨床的除外,④PEEP/CPAP負荷下での低酸素血症評価とこれに基づく3段階重症度分類,などの点が改訂された.本稿では,日本呼吸器学会ガイドラインと新定義を踏まえて,ARDSの病態と診断について解説する.

キーワード
ベルリン定義、血管透過性、パターン認識受容体、サイトカイン

目次へ戻る


主な疾患の診断・治療
ARDSの治療 ―呼吸療法―
佐藤庸子*   小谷 透**

* 東京女子医科大学麻酔科・中央集中治療部 ** 同准教授

要  旨
 2011年に新しい急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の定義(ベルリン定義)が発表され,酸素化の程度により重症度を区分けし,重症度に応じた治療強度調整が提唱された.低容量換気は治療の基盤であり,重症化に従い高いPEEP,腹臥位療法,さらに膜型人工肺による体外循環(ECMO)が選択される.重症度を酸素化だけで判定することに疑念もあり,ARDSの背景の多様性に応じた治療戦略確立が今後の課題である.

キーワード
急性呼吸窮迫症候群、人工呼吸器関連肺障害、肺保護換気戦略、ベルリン定義、PaO2/FiO2

目次へ戻る


主な疾患の診断・治療
ARDS の治療 ―薬物療法―

久保裕司*
* 東北大学大学院医学系研究科先進感染症予防学講座 准教授

要  旨
 大規模臨床試験においてARDSの死亡率を改善した薬剤は1つもない.そのため,ARDSに対して一律に使用が推奨される薬物療法はない.ステロイドは最も多くの大規模臨床試験が行われた薬剤である.しかし,投与法によってはかえって死亡率の増加が報告されている.他の薬剤においても同様である.ARDS に対する薬物療法は,これらの知識をもとに慎重に適応を考える必要がある.

キーワード
薬物療法、大規模臨床試験、ARDS診断基準、ステロイド

目次へ戻る


主な疾患の診断・治療
重症肺炎 ―診断と治療―
田代将人*1*2 松瀬厚人*3

*1 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科感染免疫学講座臨床感染症学分野
*2 長崎大学病院感染制御教育センター *3 東邦大学医療センター大橋病院呼吸器内科 教授

要  旨
 一般細菌および非定型菌による肺炎は,発症時点の生活状況によって,市中肺炎(CAP),医療・介護関連肺炎(NHCAP),院内肺炎(HAP)に分類される.一般的に生活の場が後者になるにつれ,緑膿菌やMRSAといった薬剤耐性菌の分離頻度が増加し,かつ宿主の免疫能も低いことからより重症であることが多い.いずれの場合でも,治療の内容を決定するうえで重要な因子は,「重症度」,「耐性菌の関与」,「患者自身と家族の意向」の3点である.

キーワード
市中肺炎、医療・介護関連肺炎、院内肺炎、重症度、耐性菌

目次へ戻る


主な疾患の診断・治療
重症喘息発作
長倉秀幸*   西川正憲**  青木絢子* 渡邊弘樹*   草野暢子*

* 藤沢市民病院呼吸器科 ** 同診療部長兼呼吸器科 部長

要  旨
 喘息発作では,第一印象,初期評価,病歴聴取および身体診察で重症度を判定し,発作治療ステップに応じて初期治療を行い,他疾患の合併と鑑別も行う.中等度症状より重症では,酸素吸入,短時間作用性β2 刺激薬(SABA)および副腎皮質ステロイドの点滴静注で治療を開始する.治療効果が不十分,効果がない場合には,薬物の反復投与とアドレナリン皮下注などを考慮する.呼吸停止切迫では気管挿管や人工呼吸管理を必要とする.帰宅時の適切な治療計画と患者教育は,その後の喘息のコントロールに有用である.

キーワード
重症度(発作強度)、発作治療ステップ、短時間作用性β2刺激薬、副腎皮質ステロイド、
患者支援・教育

目次へ戻る


主な疾患の診断・治療
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の増悪 ―病態と対応―
岩永知秋**  榎津愛美*   金子靖子* 古森雅志*   吉田 誠*   下田照文*

* 国立病院機構福岡病院 ** 同院長

要  旨
 COPDの増悪は,生命予後,自覚症状,呼吸機能,QOLなどに大きな影響を与える.呼吸器感染症が最大の原因であり,早期に増悪を把握することが肝要である.増悪時の薬物治療はABCアプローチとして,抗菌薬,短時間作用性吸入気管支拡張薬,全身性ステロイドが基本であり,必要に応じて酸素療法,換気補助療法を加える.ワクチン接種や薬物療法による増悪の予防とともに,増悪出現時に迅速な対応がとれるようふだんの病診連携が重要である.

キーワード
慢性閉塞性肺疾患(COPD)、増悪、ABCアプローチ、非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)、病診連携

目次へ戻る


主な疾患の診断・治療
特発性間質性肺炎の増悪
田口善夫*

* 公益財団法人天理よろづ相談所病院呼吸器内科
要  旨
 特発性間質性肺炎,中でも特発性肺線維症は,慢性経過中に病状の急速な悪化を来し,臨床的に急性増悪と呼んでいる.急性増悪は国際的にも知られた病態であり,特発性非特異的間質性肺炎でも生じる.病理像は既存肺病変に加え,びまん性肺胞傷害とされるが,臨床的に確認することは困難な場合が多く,感染症や心不全などの除外診断が重要である.また,確立された治療法がないのが現状である.

キーワード
特発性間質性肺炎、特発性肺線維症、急性増悪、びまん性肺胞障害、ステロイドパルス療法

目次へ戻る


主な疾患の診断・治療
急性左心不全
卜部洋司*   木原康樹**

* 広島大学大学院医歯薬保健学研究科循環器内科学 ** 同教授
要  旨
 高齢化や生活習慣病の増加に伴い,心不全の頻度は増加している.また近年は,左室収縮不全のみではなく,収縮能が保たれた心不全も注目されており,心不全の動向も変わりつつある.本稿では,急性呼吸不全を来す病態の1つである急性左心不全について,複雑な病態の把握の手助けとなるクリニカルシナリオや Nohria-Stevenson 分類について説明し,またガイドラインに基づいた初期治療の概略について述べる. <

キーワード
急性左心不全、クリニカルシナリオ、Nohria-Stevenson分類、急性左心不全の治療

目次へ戻る


主な疾患の診断・治療
急性右心不全 ―主として呼吸器疾患に随伴する―
辻野 一三
* 北海道大学病院内科I 講師

要  旨
 急性右心不全は,急速な右室ポンプ機能の悪化により右室拡張末期圧の上昇や主要臓器への灌流不全が生じ,それに基づく症状や徴候が出現・悪化した病態である.呼吸器領域では急性呼吸促迫症候群,急性肺血栓塞栓症,肺高血圧症などが原疾患として重要である.本稿では,呼吸器疾患による急性右心不全に関する基本的事項に加え,異なる病態に基づく病態,治療について概説する.

キーワード
急性右心不全、急性呼吸促迫症候群、肺高血圧症、急性肺血栓塞栓症、治療

目次へ戻る


連載
トップランナーに聞く(第43回)
より効果的な肺がん薬物療法の発見を目指して ―肺がんにおける分子標的治療薬の耐性機構の研究―

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
  第43回はALK肺がんを中心に、がんの分子標的治療薬の薬剤耐性機構の研究について多くの成果を上げておられるがん研究会がん研究所の片山 量平 先生にお話を伺いました。

 片山 量平 先生

 血を見るのが怖く医学の道に進めないと思いながらも、がんの克服に貢献したい、この思いからがん研究の道に入りました。手術不可能な進行肺がんでは、今なお多くの方が1年程度で亡くなるという厳しい現実があります。種々のDriver oncogene(がん遺伝子)と分子標的治療薬の発見からより効果的な治療が見いだされてきましたが、それでもなお獲得耐性が大きな問題です。耐性機構の解明と耐性を克服できる治療法を発見し、より効果的な治療法を発見したいとの思いを胸に日々研究に邁進しています。

目次へ戻る


連載
ノーベル賞と医学の進歩・発展

 68巻10号からノーベル賞の対象となった業績やその業績が現在どのような恩恵をもたらしているかについて、各領域の専門家の先生方に詳しいご解説をお願いしております。

第21回は関西医科大学・田代  裕  先生による「細胞生物学の創学と3人のノーベル賞受賞者 ―クロード,パラーデ,ド・デューブ―」です。

目次へ戻る


トピックス
本邦における消化器神経内分泌腫瘍診療の現状とガイドライン
今村正之*1*2

*1 京都大学名誉教授 *2 関西電力病院神経内分泌腫瘍センター長

要  旨
 消化器神経内分泌腫瘍(NET)は,2010年のWHOの病理分類の改定で患者の予後と相関するKi67指数を用いるグレード分類が採用され,臨床研究の基盤が定まった.希少疾患であるが,経年的増加が認められ,特に肝転移の治療に難渋することが多い.ホルモン薬と分子標的薬が承認されて治療選択肢が増えたが,EUで発達した診療技術の早期導入が期待され,2012年に設立された日本神経内分泌腫瘍研究会がNET診療の発展に寄与することが期待されている.

キーワード
神経内分泌腫瘍(NET)、ソマトスタチン受容体シンチグラフィー(SRS)、エベロリムス、スニチニブ、
選択的動脈内刺激薬注入法(SASIテスト)


目次へ戻る



トピックス
肺動脈性肺高血圧症の治療 ―肺動脈平滑筋細胞を制御できるか?―
中村一文**  更科俊洋*   赤木 達*

* 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科循環器内科学 ** 同准教授

要  旨
 肺動脈性肺高血圧症に対する3系統の薬物(ホスホジエステラーゼ5阻害薬,プロスタサイクリン,エンドセリン受容体拮抗薬)は,肺動脈平滑筋細胞に作用して血管を拡張させる.さらにその増殖を抑制して肺高血圧を改善する.高用量のプロスタサイクリンはアポトーシス誘導作用も有する.

キーワード
ホスホジエステラーセ5阻害薬、プロスタサイクリン、エンドセリン受容体拮抗薬

目次へ戻る