最新醫學 69巻11号 
特集 難治性貧血 -診断と病態・治療の進歩-


要  旨


座談会
 貧 血 ―診療最前線―

長崎大学          宮﨑 泰司
金沢大学          山﨑 宏人
大阪大学<         金倉 譲 (司会)

 座談会の内容
 ・再生不良性貧血
 ・骨髄異形成症候群(MDS)
 ・慢性炎症に伴う貧血
 ・発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH) など
 
     山﨑先生      金倉先生     宮﨑先生

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鉄欠乏性貧血の病態と診断,治療法の進歩

川端 浩*
* 京都大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科 講師

要  旨
 我が国においては食事からの鉄の摂取量が戦後一貫して減り続けており,特に若年女性で鉄欠乏性貧血の頻度が高い.これは QOL を低下させるだけでなく,胎児や小児の発達障害を引き起こす可能性もあり,栄養や健康に関する啓蒙が必要である.一般内科医が原因不明の鉄欠乏性貧血患者に遭遇した場合には,Helicobacter pylori 菌感染症,自己免疫性萎縮性胃炎,および遺伝的素因もその原因になりうることを認識しておく必要がある.

キーワード
自己免疫性萎縮性胃炎、Helicobacter pylori、フェリチン、むずむず足症候群、氷食症

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輸血後鉄過剰症の病態と除鉄治療

鈴木隆浩*
* 自治医科大学医学部内科学講座血液学部門 講師

要  旨
 難治性貧血疾患では,頻回の赤血球輸血のために鉄過剰症を来すことが多い.過剰鉄は活性酸素種の産生を介して臓器障害を引き起こすとされており,低リスクMDSでは予後に悪影響を与えることが示唆されている.
 輸血後鉄過剰症では鉄キレート剤による治療が行われるが,十分な除鉄は単なる臓器障害の改善にとどまらず,低リスクMDS患者において生存期間を延長することが分かってきた.そして興味深いことに,鉄キレート剤の投与後に血球数の改善が認められる症例があることも分かり,注目を集めている.

キーワード
輸血後鉄過剰症、活性酸素、鉄キレート療法、診療ガイド

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自己免疫性溶血性貧血の診断と病態・治療の進歩

亀崎豊実*
* 自治医科大学地域医療学センター 教授

要  旨
 自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の診断は,貧血と黄疸があり,直接クームス試験が陽性であると比較的容易であるが,クームス陰性AIHAや低力価寒冷凝集素症などの特殊病型では診断に苦慮することが多い.特発性温式AIHA治療において,ステロイド不応例への治療としてリツキシマブが注目されている.特発性慢性寒冷凝集素症の多くにB細胞性非ホジキンリンパ腫が認められ,リツキシマブとフルダラビン併用の有用性が報告されているが,副作用も多く,適応には患者ごとのリスクに配慮した慎重な判断が必要である.

キーワード
自己免疫西洋血性貧血(AIHA)、寒冷凝集素症、発作性寒冷ヘモグロビン尿症、診断、治療

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発作性夜間ヘモグロビン尿症の診断と病態・治療の進歩
西村純一*

* 大阪大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科学 講師

要  旨
 発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の平成25年度改訂診断基準において,PNH タイプ赤血球(Ⅲ型)が1%以上で,血清LDH値が正常上限の1.5倍以上であれば,臨床的PNHと診断して良いと具体的目安が明示された.一方治療面では,ヒト化抗 C5 モノクローナル抗体エクリズマブ(ソリリスメ)が全く溶血抑制効果を示さない不応例が本邦において報告され,新規治療薬開発の必要性が認識され,開発に向けた動きも加速しつつあるようである.

キーワード
発作性夜間ヘモグロビン尿症、PIGA遺伝子、補体介在性溶血、エクリズマブ、遺伝子多型

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再生不良性貧血の診断と治療 ―最近の話題―
中尾眞二*

* 金沢大学医薬保健研究域医学系細胞移植学(血液・呼吸器内科)教授

要  旨
 再生不良性貧血や骨髄異形成症候群などの骨髄不全症は,各疾患が病態ではなく形態や検査所見によって定義される症候群であるため,病態に応じた適切な治療が行われていないことが非常に多い.免疫病態の存在を示唆する臨床所見やマーカーが陽性の場合には,診断名にこだわることなく自己免疫性造血不全(狭義の再生不良性貧血)として速やかに免疫抑制療法を開始することが重要である.従来の治療が奏効しない難治例に対しては,トロンボポエチン受容体アゴニストであるエルトロンボパグの治療効果が期待されている.

キーワード
再生不良性貧血、自己免疫性造血不全、免疫抑制療法、エルトロンボパグ

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赤芽球癆の診断と病態・治療の進歩

廣川 誠*
* 秋田大学大学院医学系研究科総合診療・検査診断学講座 教授

要  旨
 赤芽球癆は,網赤血球の減少と骨髄赤芽球の著減を特徴とする貧血である.赤芽球癆の原因は多様で,大きく先天性と後天性に,後天性は急性と慢性に分類され,急性型の多くは感染症および薬剤による.本邦で多い慢性赤芽球癆の病因は特発性,胸腺腫およびリンパ増殖性疾患である.病因により治療方針が異なるため,被疑薬があれば中止した後に病因診断を行う.自然軽快しない場合や基礎疾患の治療により貧血が改善しない場合には,免疫抑制療法を考慮する.

キーワード
特発性、胸腺腫、大顆粒リンパ球性白血病、ヒトパルボウイルスB19、ABO major不適合同種造血幹細胞移植、シクロスポリン、シクロホスファミド

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悪性貧血とビタミン B12 欠乏
大西 康*

* 東北大学大学院医学系研究科血液免疫病学分野 院内講師

要  旨
 巨赤芽球性貧血は,ビタミンB12 欠乏や葉酸欠乏によるDNA合成障害が原因で生じる.ビタミンB12 欠乏を来す代表的な疾患が悪性貧血であり,自己免疫性の萎縮性胃炎による内因子分泌低下からビタミンB12 吸収障害を起こす.抗内因子抗体の存在下では,血清ビタミンB12 値の低下がなくとも悪性貧血は否定できない.標準治療はビタミンB12 の非経口投与であるが,神経障害の合併がなく重篤でない場合は高用量のビタミンB12 内服でも有効なケースがある.

キーワード
巨赤芽球貧血、内因子、メチルマロン酸、ホモシステイン、萎縮性胃炎

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骨髄異形成症候群の病態解明と診断の進歩
通山 薫*

* 川崎医科大学検査診断学 教授

要  旨
 骨髄異形成症候群(MDS)は,不応性貧血と前白血病状態という元来異なる概念が統合された後天性骨髄障害としてFAB分類で提唱され,WHO分類に引き継がれている.血球減少と血球異形成所見,骨髄染色体核型の評価が診断上重要であるが,近年では病因・病態の分子基盤の解明が急速に進展し,分子診断の開発研究や新規治療薬の開拓など,本疾患を取り巻く状況に新たな展開が期待される.

キーワード
不応性貧血、前白血病、FAB分類、WHO分類、ゲノム変異

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骨髄異形成症候群の治療の進歩
松田 晃*

* 埼玉医科大学国際医療センター造血器腫瘍科 教授

要  旨
 骨髄異形成症候群(MDS)には決め手となる薬物療法がない時代が長く続いていた.しかし,アザシチジンとレナリドミドの登場により,薬物療法による治療戦略は大きく変貌した.米国NCCNのMDS診療ガイドライン(Version 1,2015)では,予後予測システムによりMDSを低リスク群と高リスク群に層別化した治療戦略が示されている.我が国でもこの治療戦略は浸透してきた.

キーワード
骨髄異形成症候群、予後予測システム、治療、アザシチジン、レナリドミド

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骨髄線維症の病態と治療の進歩
久冨木庸子*   下田和哉**

* 宮崎大学輸血・細胞治療部,消化器血液内科(第二内科) 講師 ** 同教授
要  旨
 原発性骨髄線維症,あるいは真性多血症,本態性血小板血症を基礎疾患とする二次性骨髄線維症は,サイトカインのシグナル伝達経路をつかさどるJAK2変異により,あるいはJAK2変異とエピゲノム制御分子であるTET2変異などとの協調作用により発症する.JAK 阻害薬であるルキソリチニブは,骨髄線維症に伴う脾腫,全身症状の改善効果に優れている.

キーワード
JAK2TET2、JAK阻害薬

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難治性貧血に対する造血幹細胞移植の進歩
笠原秀範*   岡本真一郎**

* 慶應義塾大学医学部内科学教室血液内科 ** 同教授
要  旨
 同種造血幹細胞移植は,再生不良性貧血,骨髄異形成症候群,骨髄線維症といった難治性貧血に対する唯一の根治療法である.移植後の治癒の拡大とその質の向上を達成するためには,拒絶や移植片対宿主病に伴う移植後早期の死亡と移植後後期の合併症の制御が克服すべき課題であるが,至適な移植施行時期の検討に加えて骨髄非破壊的移植前処置の普及により,移植成績および移植後 QOL がさらに向上することが期待される.

キーワード
同種造血幹細胞移植、生活の質(QOL)、骨髄異形成症候群、骨髄線維症、重症再生不良性貧血

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小児再生不良性貧血の診断と治療の進歩
小島勢二*
* 名古屋大学大学院医学系研究科小児科学 教授

要  旨
 造血器に対する新WHO分類では,小児不応性血球減少症(RCC)が小児骨髄異形成症候群(MDS)の一型として取り上げられたが,再生不良性貧血との鑑別が困難である.我が国の骨髄不全症に対する中央診断の結果では,従来,再生不良性貧血と診断されてきた症例の70%はRCCと診断されており,両疾患の異同について免疫学的あるいは分子生物学的手法を用いての検討が必要であると思われる.

キーワード
再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、小児、ウサギ胸腺細胞グロブリン、同種骨髄移植

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小児科領域貧血の診断と病態・治療の進歩 ―先天性疾患―
真部 淳*
* 聖路加国際病院小児科 医長

要  旨
 小児の先天性骨髄不全は,頻度はまれながら多くの疾患がある.先天性骨髄不全症候群は臨床症状や通常の臨床検査では診断が困難であり,遺伝子の検索が重要であるが,近年多くの疾患で責任遺伝子が同定されてきた.小児の先天性骨髄不全症候群は再生不良性貧血あるいは骨髄異形成症候群とのオーバーラップも多く,中央診断を通じた丁寧な診断と多施設共同治療研究が必須である.

キーワード
骨髄不全、小児、骨髄異形成症候群、中央診断

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連載
現代社会とうつ病

  現代社会において問題となっております「うつ病」について病気そのものの解説、法、サポート体制などを連載形式で詳しく紹介する目的で連載「現代社会とうつ病」を企画致しました。
 66巻5号から約3年間にわたり国内の診療・研究の最前線でご活躍されている先生方に「うつ病」について詳しくご解説をお願いしております。
 第42回は名古屋大学・宮田 明美 先生らによる「うつ病,抗うつ薬と自動車運転」です。

要  旨
 薬物療法はうつ病治療に不可欠であり,再発予防上も服薬継続が必須である.しかし,添付文書上,服薬中の運転中止が明記され,薬剤や疾患の影響下にある交通事故の厳罰化も法制化されるなど,患者の社会生活に大きな支障が生じ得る状況にある.疾患や治療薬と運転に関する実証的データは乏しく,十分な証左がないまま議論されている.本稿は,うつ病や抗うつ薬と自動車運転に関する知見を概説し,議論を進めるうえでの方向性を示す.

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連載
ノーベル賞と医学の進歩・発展

 68巻10号からノーベル賞の対象となった業績やその業績が現在どのような恩恵をもたらしているかについて、各領域の専門家の先生方に詳しいご解説をお願いしております。

第25回は東京大学・東原 和成 先生による「におい受容体の発見で解けた嗅覚の謎 ―リチャード・アクセルとリンダ・バック―」です。

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トピックス
iPS 細胞研究と難病治療戦略
大津 真*

* 東京大学医科学研究所幹細胞治療研究センター 准教授

要  旨
 人工多能性幹細胞(iPS細胞)を利用した難病治療戦略は,大きく①直接的アプローチ,②間接的アプローチに分けられる.前者は狭義には再生治療を指しており注目度が高いが,後者もまた治療法の改良,開発へとつながるiPS細胞の特徴を生かした有用な活用法である.それぞれに課題は多く残されており,iPS細胞への理解が深まり研究の裾野が広がることが期待される.

キーワード
人工多能性幹細胞、難病、創薬、再生治療

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トピックス
ω-3 系脂肪製剤の抗炎症作用
竹本 稔*    横手幸太郎**

* 千葉大学大学院医学研究院細胞治療内科学講座 准教授 ** 同教授

要  旨
 動脈硬化をはじめとして,さまざまな疾患の共通病態に「慢性炎症」がかかわっている.魚油に含まれるω-3系脂肪酸は抗動脈硬化作用や抗炎症作用を有しており,その作用に脂質メディエーターであるレゾルビンやプロテクチンが関与することや,炎症細胞膜表面上のGタンパク質共役型受容体を介していることが明らかとなってきた.本稿では,ω-3系脂肪酸の抗炎症作用に関する最近の知見を中心に概説する.

キーワード
ω-3系脂肪製剤、抗炎症効果、エイコサノイド、脂質メディエーター、Gタンパク質共役型受容体

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