最新醫學 69巻11号 
特集 がん分子診断のパラダイムシフト


要  旨


座談会
 がん分子診断のパラダイムシフト

金沢大学             矢野 聖二
がん研究会有明病院     竹内 賢吾
埼玉医科大学         萩原 弘一 (司会)

 座談会の内容
 ・遺伝子異常の振り返り
 ・体細胞の遺伝子変異
 ・生殖細胞系列の遺伝子変異・多型
 ・Druggableな遺伝子異常 など
 
     竹内先生      萩原先生     矢野先生

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がんと遺伝子変異

間野博行*
* 東京大学大学院医学系研究科細胞情報学分野 教授

要  旨
 がん細胞のゲノム解析を網羅的に行うことにより,直接的な発がんの原因遺伝子が同定されるだけでなく,浸潤・転移などがんのさまざまな異常形質の分子基盤も明らかにされると期待される.これらのゲノム・エピゲノム情報は,有効な分子標的治療薬の開発あるいは精度の良い分子診断法の実用化につながると予想され,実際,発がん原因キナーゼを特異的に阻害する薬剤が全く新しいがんの治療法になることが証明された.

キーワード
がん遺伝子、がん抑制遺伝子、がんゲノム、ドライバー遺伝子

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がんゲノム解析技術

油谷浩幸*
* 東京大学先端科学技術研究センター 教授

要  旨
 次世代シークエンシングによるがんゲノム解析に関する最初の論文報告が行われた2008年以来,大規模ながんゲノム解析が世界中で進行し,解析データはすでに1万症例を超える.新たなドライバー遺伝子の同定に加えて,がん細胞集団の不均一性が治療上の課題として改めて認識されつつある.血中遊離DNAの解析は,再発あるいは抵抗性獲得のモニタリングに有用である.

キーワード
次世代シークエンサー、クリニカルシークエンシング、血中遊離DNA、ターゲット解析

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肺がんの予後予測と遺伝子シグナチャー

山田哲司**  野呂林太郎*   本田一文***
* 国立がん研究センター研究所創薬臨床研究分野 ** 同主任分野長,*** 同ユニット長

要  旨
 標準的な外科切除を行っても,非小細胞肺がんのすべての症例を根治することはできず,一部の症例は再発する.そのような予後不良症例を特定し,術後補助化学療法を行うことで,治療成績が改善することが期待される.マイクロアレイによってゲノム網羅的な遺伝子発現解析が可能になり,患者の層別化に応用が期待されている.しかし,多遺伝子マーカーを実臨床に応用するには,再現性やコストの面で克服せねばならない点も多い.

キーワード
非小細胞肺がん、予後マーカー、遺伝子シグナチャー、マイクロアレイ、Actinin-4

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血液系悪性腫瘍の遺伝子変異と臨床的インパクト
小川誠司*

* 京都大学大学院医学研究科腫瘍生物学 教授

要  旨
 近年,大量並列シークエンス技術の開発によって,がんゲノムに生じた異常を高速かつ安価に解析できるようになった結果,ますます加速するシークエンス技術に立脚したがんの遺伝学的基盤の研究は,今や国際的な潮流となっている.造血器腫瘍についても,白血病やリンパ腫など,主要な疾患の発症にかかわる重要なドライバー変異の全容の解明が急速に進んだことにより,今後その診断・治療に大きな展開がもたらされると期待される.

キーワード
次世代シークエンサー、大量並列シークエンサー、造血器腫瘍、遺伝子変異、ゲノムシークエンス

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乳がん HER2 異常診断と臨床へのインパクト
渡邉純一郎*

* 静岡県立静岡がんセンター女性内科 医長

要  旨
 乳がんにおけるHER2異常は,診断および治療のターゲットとして高い価値を有しており,HER2陽性乳がんは最も予後良好なサブタイプと言える.近年,分子標的治療の選択肢が豊富になり,HER2陽性乳がんの治療は飽和したかに見えたが,治療抵抗性がクローズアップされている.分子生物学的プロファイリングと実地臨床のさらなる連携により,HER2陽性乳がんの予後はより明るいものとなろう.

キーワード
HER2陽性乳がん、トラスツズマブ、ラパチニブ、ペルツズマブ、耐性

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肺がんの EGFR 変異診断と臨床へのインパクト

井上 彰*
* 東北大学病院 特任准教授

要  旨
 肺がん初の分子標的薬として登場したEGFR-TKIは,効果予測因子であるEGFR変異に基づく個別化治療によって初めて実臨床での有用性が示された.日本を中心として感度の高いEGFR変異診断法の開発が進み,同変異陽性例を対象とした複数の臨床試験によるエビデンスが発信されたことで,現在EGFR変異陽性肺がんに対する標準療法は世界的にEGFR-TKIとなっている.今後はEGFR変異別の治療戦略や耐性変異に基づく個別化治療などの展開も期待される.

キーワード
ドライバー変異、個別化治療

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肺がんの融合遺伝子診断 ―新たな課題―
谷田部 恭*

* 愛知県がんセンター遺伝子病理診断部 部長

要  旨
 染色体転座をはじめとする融合遺伝子の形成は,血液系腫瘍や軟部腫瘍に特有と考えられていた時代もあったが,いまや固形腫瘍においても重要な役割を果たすことが明らかになっている.その少なからずが分子標的薬の対象となり,実際の臨床に応用されているものもある.本稿では肺がんにおける融合遺伝子について概説し,その検出法について触れる.    

キーワード
肺がん、融合遺伝子、ALK、ROS1、RET、NTRK1、NRG1

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悪性黒色腫の BRAF 変異診断と臨床へのインパクト
和田 誠*1*2 酒井敏行**1

*1 京都府立医科大学大学院医学研究科分子標的癌予防医学 **1 同教授 *2 同皮膚科学教室

要  旨
 悪性黒色腫は極めて予後の悪い疾患であるが,その治療薬は1970年代にダカルバジンの使用が開始されてから約40年間,新薬の登場がなかった.しかし 2002年に遺伝子変異が網羅的に解析され,がん遺伝子変異を標的とする分子標的薬の開発が加速した.2011年,米国食品医薬品局(FDA)はRAF阻害薬ベムラフェニブを悪性黒色腫の治療薬として認可した.その後RAF阻害薬ダブラフェニブ,MEK阻害薬トラメチニブも認可されたことにより,悪性黒色腫の化学療法による治療効果は劇的に改善されることとなった.

キーワード
BRAF変異、RAF阻害薬、MEK阻害薬、分子標的薬

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分子標的薬の臨床効果の特徴について
―殺細胞性抗がん剤との比較および併用療法の試み―
大泉聡史*

* 北海道大学大学院医学研究科呼吸器内科学分野 准教授

要  旨
 がん薬物療法は,殺細胞性抗がん剤のみではなく,分子標的薬が使用されるようになり大きく変貌を遂げている.特にドライバー遺伝子異常を持つがんには,分子標的薬にて劇的な効果がもたらされる.分子標的薬と殺細胞性抗がん剤では,治療効果やその機序,有害事象,耐性機序などの臨床効果の特徴が異なり,それをよく理解して日常診療に臨むことが重要である.また,両者の併用療法などの新たな治療戦略も期待されている.

キーワード
分子標的薬、殺細胞性抗がん剤、臨床効果、薬剤耐性、併用療法

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分子標的薬の臨床試験の進め方 ―何を比較し,何に注意するか―
赤松弘朗*   山本信之**

* 和歌山県立医科大学内科学第3講座 ** 同教授
要  旨
 Oncogenic driver の発見とその特異的阻害薬の開発は,さまざまながん腫において標準治療を塗り替えてきた.治療成績を効率良く臨床導入するために,早期臨床試験ではスクリーニングとして短期に評価可能なエンドポイントが,第Ⅲ相試験においては薬剤の特性を踏まえたエンドポイントが要求される.また近年,統計学的な有意差のみならず,効果の絶対値についても再評価する向きがあることも重要である.

キーワード
エンドポイント、クロスオーバー、奏効割合、無増悪生存期間

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コンパニオン診断薬 ―高品質診断薬開発への課題と展望―
萩原弘一*

* 埼玉医科大学呼吸器内科 教授
要  旨
 分子標的薬と1対1で対応する遺伝子変異検査薬を,コンパニオン診断薬と呼ぶ機会が増えてきた.開発手順も整備されてきている.しかし,コンパニオン診断薬という考え方は,少数の分子標的薬,標的遺伝子のみが臨床応用されている分子標的治療黎明期特有のものと思われる.分子標的薬,標的遺伝子数が増加するにつれ,薬剤と結びつくのはあくまでバイオマーカーであり,診断薬は薬剤とは独立したものと位置づけられていくだろう.

キーワード
コンパニオン診断薬、分子標的薬、遺伝子変異検査、医薬品医療機器総合機構

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がん分子診断開発に関する課題や展望
米盛 勧*1*2 藤原康弘*1**2*3
*1 国立がん研究センター中央病院乳腺・腫瘍内科 *2 国立がん研究センター先進医療評価室 **2 同室長
*3 同企画戦略局局長

要  旨
 がん分子診断(効果予測)と治療の連動は,バイオマーカー診断に基づく予測医療(Precision medicine)と言われ,将来のがん個別化医療(Personalized medicine)における中心的な位置づけとなると考えられている.がん分子診断の開発には,複雑な特許の調整,診断薬は医薬品が承認されなければ使用されないという開発リスク,国民皆保険制度下での収益リスクなどが伴う.さらに,研究段階から検査の品質管理・保証にも特段の注意が必要である.これらに加え,BRCA遺伝子特許を巡る米国最高裁判決や,米国で実施されているLung-MAP試験(SWOG1400)とNCIMATCH試験を紹介し,がん分子診断の臨床への展開の課題と展望を解説する.

キーワード
個別化医療、コンパニオン診断薬、BRCA遺伝子、

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連載
現代社会とうつ病

  現代社会において問題となっております「うつ病」について病気そのものの解説、法、サポート体制などを連載形式で詳しく紹介する目的で連載「現代社会とうつ病」を企画致しました。
 66巻5号から約3年間にわたり国内の診療・研究の最前線でご活躍されている先生方に「うつ病」について詳しくご解説をお願いしております。
 第43回は日本大学・内山 真 先生らによる「うつ病と睡眠」です。

要  旨
 うつ病において不眠や過眠など睡眠の問題は頻度が高く,診断を行ううえで最も重要な身体症状の1つである.それだけでなく,不眠がうつ病のリスクになることも近年明らかになってきた.うつ病における不眠治療について研究が行われるようになり,不眠への積極的治療がうつ病改善に役立つことが明らかになってきた.こうした知見を背景に,睡眠への介入でうつ病発症を低下させようという試みが現在考えられている.ここでは,これらについて臨床的観点から紹介した.

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連載
トップランナーに聞く(第47回)
ゲノム病理学分野教授社会を変革する新しいゲノム科学

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
  第47回はびまん性胃がんのゲノム解析などゲノム科学の分野を担う若手リーダーのおひとりである東京医科歯科大学難治疾患研究所の石川 俊平 先生にお話を伺いました。

 石川 俊平 先生

 自分はこれまで人体病理学・病理診断学およびゲノム科学を勉強してきました。ゲノム科学は多くの分野に応用可能な技術で、これまでにもヒトゲノムの多型、薬剤感受性、微生物集団の解析を行ってきました。最近は腫瘍の体細胞変異や環境によってダイナミックに変化する免疫ゲノムの解析のほか、疾患への効果的な介入のポイントを探るための機能ゲノミクスも行っています。サステナブル(持続可能)な社会に資するようなゲノム科学を推進できればと思っています。

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連載
ノーベル賞と医学の進歩・発展

 68巻10号からノーベル賞の対象となった業績やその業績が現在どのような恩恵をもたらしているかについて、各領域の専門家の先生方に詳しいご解説をお願いしております。

第26回は東京医科歯科大学・手塚 大介 先生らによる「心臓カテーテル法の開発」です。

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トピックス
大動脈解離の生化学診断
鈴木 亨*

* 東京大学大学院医学系研究科循環器内科・ユビキタス予防医学講座 准教授

要  旨
 大動脈解離は致命的な合併症を併発する可能性があり,的確な早期診断と治療が必要な循環器の急性疾患である.本疾患は,虚血性心疾患に次いで多く見られる急死の原因となる循環器疾患であるうえに,年々増加している.大動脈解離は心臓血管領域の臨床,研究ともにおける最重要課題の1つである.画像診断の進歩とともに早期診断法の開発が注目されており,バイオマーカーの開発も急務となっている.

キーワード
人工多能性幹細胞、難病、創薬、再生治療

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トピックス
がん幹細胞マーカー CD44v9 の臨床応用
鈴木秀和**1   平田賢郎*1   佐谷秀行*2

*1 慶應義塾大学医学部内科学(消化器) **1 同准教授 *2 同先端医科学研究所遺伝子制御部門 教授

要  旨
 がん幹細胞は,がん組織内で多分化能,自己複製能を持つ幹細胞様の細胞で,CD44 陽性細胞の中に多く含まれるため,CD44 はがん幹細胞のマーカーと称されることが多い.CD44のスプライシングバリアントであるCD44v9は,細胞膜上のシスチントランスポーターの安定化・グルタチオンの蓄積により,酸化ストレス抵抗性を保持し治療抵抗性を獲得する.我々は,早期胃がんの内視鏡的切除組織でCD44v9発現を評価することで異時性再発を予測できることを報告し,内視鏡治療後の経過観察計画の策定において重要なマーカーになることを示した.他のがんでもCD44v9陽性細胞はがん幹細胞としての性質を持つことが示されており,がん幹細胞マーカーというだけでなく,革新的バイオ医薬による,がん幹細胞のニッチの治療標的としての有用性も期待されている.

キーワード
ω-3系脂肪製剤、抗炎症効果、エイコサノイド、脂質メディエーター、Gタンパク質共役型受容体

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