最新醫學 70巻1号 
特集 サルコペニアの基礎と臨床


要  旨


座談会
 介護予防ならびにロコモティブシンドロームとサルコペニア

国立長寿医療研究センター     鈴木 隆雄
国立長寿医療研究センター     原田 敦
名古屋大学            葛谷 雅文 (司会)

 座談会の内容
 ・フレイルとサルコペニアの関連性
 ・介護予防、基本チェックリストとフレイルの関係
 ・フレイルと認知症の関係
 ・サルコペニアと転倒・骨折との関係 など
 
     原田先生    葛谷先生      鈴木先生

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サルコペニアの定義と診断

小川純人*   秋下雅弘**
* 東京大学大学院医学系研究科加齢医学講座 准教授 ** 同教授

要  旨
 高齢者においてフレイル(虚弱)の重要な要素としてサルコペニア(加齢性筋肉減少症)が知られているが,サルコペニアは進行性かつ全身性の筋量減少や筋力低下を特徴とし,身体機能障害,QOLや生活機能の低下などとも関連する.本稿では高齢者および加齢に伴って認められるサルコペニアの定義や概念について,最近アジアで発表されたコンセンサスレポートおよび同診断アルゴリズムを含めて概説する.

キーワード
サルコペニア、フレイル、二重エネルギーX線吸収法、生体インピーダンス法

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サルコペニアとフレイルとの関連を考える

荒井秀典*
* 国立長寿医療研究センター 副院長

要  旨
 サルコペニアは加齢に伴って筋肉が減少する病態であり,筋肉量の低下とともに握力や歩行速度の低下など機能的な側面を含む概念である.一方,フレイルは環境因子に対する脆弱性が高まった状態であり,その病態生理や定義・診断基準については明確となっていないが,身体的,精神・心理的,社会的な要因があり,身体的フレイルの原因としてサルコペニアが注目されている.本稿では,サルコペニアとフレイルとの関連についてまとめてみる.

キーワード
サルコペニア、フレイル、高齢者、Asian Working Group for Sarcopenia、CGA

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サルコペニアの疫学Ⅰ

谷本芳美*
* 大阪医科大学医学部衛生学・公衆衛生学教室 講師

要  旨
 まず,筋肉量の加齢による特徴を示し,the European Working Group on Sarcopenia in Older People(EWGSOP)1)が提唱した方法を参照したサルコペニアの分類方法について,地域高齢者におけるサルコペニアの分布とともに図示した.さらに,要介護移行の危険因子である生活機能の障害や転倒とサルコペニアとの関連について,地域高齢者を対象とした研究結果より示した.

キーワード
サルコペニア、筋肉量、生活機能、転倒、地域高齢者

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サルコペニアの疫学Ⅱ
幸 篤武*1  安藤富士子*2  下方浩史*3

*1 高知大学教育学部 *2 愛知淑徳大学健康医療科学部 教授 *3 名古屋学芸大学大学院栄養科学研究科 教授

要  旨
 無作為抽出された地域住民を対象とするコホート研究である「国立長寿医療研究センター老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」での調査から,日本人高齢者全体で筋量減少者は850万人,筋力低下者は1,000万人,身体機能低下者は350万人を超えると推計された.また Asian Working Group for Sarcopenia のサルコペニア判定のアルゴリズムを用いてサルコペニアの有病者数の推計を行った結果,男性が132万人,女性が139万人と推計された.

キーワード
地域住民、NILS-LSA、Asian WorkingGroup for Sarcopenia、有病率

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サルコペニア肥満
小原克彦*

* 愛媛大学大学院老年・神経・総合診療内科 特任教授

要  旨
 サルコペニア肥満は,加齢に伴う主要な身体組成変化であるサルコペニアに(内臓)肥満が合併した病態であり,インスリン抵抗性,炎症,酸化ストレスなどが両者を結びつける分子メカニズムである.サルコペニア肥満はフレイルに関連する身体機能障害を伴うだけではなく,代謝障害や動脈硬化が進展しており,心血管リスクが高いと考えられる.

キーワード
内臓肥満、サルコペニア、機能障害、代謝障害、動脈硬化

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サルコペニアの発症機構

佐久間邦弘*
* 豊橋技術科学大学総合教育院,健康支援センター 准教授

要  旨
 サルコペニアの専門学会が存在する欧州と比べると,日本では10年以上研究が遅れている.サルコペニアは急性に起こる筋萎縮ではなくて,緩やかに起こる現象である.急性筋萎縮のタンパク質分解で重要なユビキチン-プロテアソーム経路は,サルコペニア時の筋萎縮に関与していない可能性が高い.分子メカニズムにまだまだ不明な点があるものの,オートファジー経路の障害がサルコペニアに深く関与しているのではないかと思う.

キーワード
サルコペニア、オートファジー、ユビキチン-プロテアソーム、筋委縮、タンパク質分解

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骨・筋肉連携
梶 博史*

* 近畿大学医学部再生機能医学講座 教授

要  旨
 サルコペニアと骨粗鬆症は,高齢化社会の進展とともに注目が高まっているが,多くの臨床研究から筋と骨の相互関連(筋・骨連関)が示唆される.ビタミンD,成長ホルモン,テストステロンなどの内分泌因子,力学的因子,遺伝因子,加齢,炎症,栄養などが筋と骨に同時に影響を及ぼし,種々の病態を形成する.さらに,筋から骨,骨から筋への体液性あるいは神経を介した連携が存在することが想定される.    

キーワード
筋、骨粗鬆症、骨芽細胞、骨形成、内分泌

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サルコペニア病態における筋内脂肪沈着とマイオスタチンの役割
土田邦博*

* 藤田保健衛生大学総合医科学研究所難病治療学研究部門 教授

要  旨
 サルコペニア(加齢性筋肉減少症)は,加齢に伴う筋肉量減少と定義される.マイオスタチンの調節により筋量が制御可能である.また,サルコペニアで見逃してはならない病態に,筋線維間に沈着する筋内脂肪沈着がある.筋内には,筋衛星細胞とは異なる間葉系前駆・幹細胞が存在し,筋線維間の脂肪沈着に関与することが明らかとなっている.本稿では,サルコペニア病態における筋内脂肪沈着とマイオスタチンの役割について解説したい.

キーワード
加齢性筋肉減少症、筋内脂肪沈着、間葉系幹細胞、マイオスタチン

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サルコペニアと神経筋シナプス
重本和宏**  森 秀一*   本橋紀夫*

* 東京都健康長寿医療センター研究所老年病態研究チーム運動器医学 ** 同部長

要  旨
 神経筋シナプスは運動神経細胞と骨格筋の相互作用により維持されており,サルコペニアによる筋萎縮の早期段階からシナプスの形態異常が起きる.この初期段階を検出することができれば,サルコペニアの早期診断と治療が可能になるかもしれない.

キーワード
サルコペニア、神経筋シナプス、運動神経細胞

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サルコペニアとアミノ酸栄養
小林久峰*

* 味の素株式会社研究開発企画部
要  旨
 加齢に伴い,栄養などの筋タンパク質同化刺激に対する筋タンパク質合成反応が減弱するなどの原因により,サルコペニアが起こる.ロイシン高配合必須アミノ酸(Amino L40)は,効率良く筋タンパク質合成を引き起こし,運動との相乗的な効果により,高齢者の骨格筋量や筋力を増加し,歩行速度を改善する.Amino L40 の長期継続的な摂取は,有効なサルコペニア対策手段となり得る.

キーワード
サルコペニア、必須アミノ酸、ロイシン、筋タンパク質合成

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サルコペニアとリハビリテーション栄養
若林秀隆*

* 横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション科
要  旨
 サルコペニアの原因には,加齢,活動(廃用),疾患(侵襲,悪液質,神経筋疾患),栄養(飢餓)がある.リハビリテーションを行っている高齢者の40~46%にサルコペニアを認める.嚥下関連筋のサルコペニアで嚥下障害を認めることがある.サルコペニアの原因によって,筋トレを行うべき場合と禁忌の場合がある.サルコペニアの治療には,リハビリテーションと栄養管理を同時に行うリハビリテーション栄養の考え方が有用である.

キーワード
廃用、低栄養、悪液質、嚥下障害、リハビリテーション

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サルコペニアへの介入
金 憲経*
* 東京都健康長寿医療センター研究所研究 副部長

要  旨
 骨格筋量の減少に伴う筋力の衰えあるいは歩行機能の低下を指すサルコペニアを効率良く予防するためには,多様な危険因子の中で,可変的要因として注目されている骨格筋不使用の改善と栄養改善に焦点を当てた支援が有効である.運動,栄養による介入効果を検証したところ,サルコペニア予防には,運動単独あるいは栄養単独の介入よりも運動+栄養による複合介入がより効果的であることを示した.

キーワード
サルコペニア、運動介入、栄養介入、複合介入

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サルコペニアとビタミンD
伊藤定之*
* 国立長寿医療研究センター脊椎外科

要  旨
 サルコペニアは,筋量・筋力の減少によって身体能力(physical performance),QOLの低下や死をもたらす社会での大きな課題である.高齢者では血清25(OH)D濃度が低下していることが分かっている.ビタミンD欠乏・不足は筋力・転倒との関連を認めており,サルコペニアと密接に関連している.そのため,サルコペニアに関して多くの不確実な候補薬剤がある中で,活性型ビタミンD製剤はその効果が期待されている薬剤である.

キーワード
サルコペニア、ビタミンD、25(OH)D、活性型ビタミンD、アルファカルシドール

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連載
現代社会とうつ病

  現代社会において問題となっております「うつ病」について病気そのものの解説、法、サポート体制などを連載形式で詳しく紹介する目的で連載「現代社会とうつ病」を企画致しました。
 66巻5号から約3年間にわたり国内の診療・研究の最前線でご活躍されている先生方に「うつ病」について詳しくご解説をお願いしております。
 最終回は独立行政法人国立精神・神経医療研究センター理事長・樋口 輝彦 先生らによる「新しいうつ病治療の可能性」です。

要  旨
 うつ病の寛解率は6割程度と考えられている.うつ病の患者が社会生活を存分に行えるようになるには,症状の消失すなわち寛解は必要条件である.また,うつ病からの回復に時間がかかることも大きな問題である.今のところ,治療を開始して1週間,2週間で社会生活が十分できるケースはほとんどない.このような状況の中で,新しい治療法の開発に寄せる期待は大きい.ここでは新規薬物療法として興奮性アミノ酸関連の薬物を取り上げ,非薬物療法としてrTMSを取り上げた.いずれも期待の大きな治療法である.

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連載
トップランナーに聞く(第48回)
肺炎の原因微生物を探求して ―より迅速に,より安価に,より正確に―

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
  第48回は「ヒト細胞標準化半定量real-time PCRの開発と臨床応用」で平成23年に日本呼吸器学会奨励賞を受賞されたトロント大学の平間 崇 先生にお話を伺いました。

 平間  崇 先生

 研究では,分子生物学を応用した呼吸器感染症の原因微生物の検索,院内感染対策をはじめとした結核の感染メカニズム,そして細胞生物学を応用したヒト―病原体の相互関係を中心に活動しています.臨床では,呼吸器疾患全般に携わっていますが,特に肺炎を中心とした呼吸器感染症,ならびに抗酸菌感染症に力を入れています.呼吸器専門医,感染症専門医,抗菌化学療法指導医,結核・抗酸菌症指導医です.

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連載
ノーベル賞と医学の進歩・発展

 68巻10号からノーベル賞の対象となった業績やその業績が現在どのような恩恵をもたらしているかについて、各領域の専門家の先生方に詳しいご解説をお願いしております。

第27回は京都大学・光山 正雄 先生による「自然免疫機構の解明」です。

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トピックス
慢性閉塞性肺疾患の呼吸困難に対する鍼治療の臨床効果について
鈴木雅雄*1*2 三潴忠道**1  福井基成**2

*1 福島県立医科大学会津医療センター漢方医学講座准教授 **1 同教授
*2 田附興風会医学研究所北野病院呼吸器センター第 12 研究部客員研究員 **2 同センター長

要  旨
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,病態の特性から労作時呼吸困難(DOE)が認められる.近年,COPDのDOEに伝統医療である鍼治療が有効であると報告されている.鍼治療は疼痛疾患に有効であり,そのメカニズムに中枢性鎮痛が挙げられる.呼吸困難も中枢で感じている感覚であり,疼痛と類似するところがある.したがって,鍼治療で呼吸困難が改善する可能性が示唆されている.今回はCOPDのDOEに対する鍼治療の臨床効果を踏まえて解説する.

キーワード
慢性閉塞性肺疾患(COPD)、鍼治療、労作時呼吸困難、Borg Scale、6分間歩行試験

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第51回 2014年度ベルツ賞受賞論文
幹細胞を用いた脊髄損傷の再生医療
中村雅也*1  岡野栄之*2

*1 慶應義塾大学医学部整形外科 准教授 *2 同生理学教授

要  旨
 The central nervous system, including brain and spinal cord, has been considered a representative example of organs in which regeneration is difficult. However, this commonly accepted theory is being disproved by recent progress in the field of stem cell biology. In spinal cord injury (SCI) research, in particular, we demonstrated the safety and effectiveness of human fetal neural stem/progenitor cell (NS/PC) transplantation for a non-human primate (common marmoset) SCI model in preclinical studies, aiming at clinical application. However, clinical application has not yet been realized in Japan due to ethical issues with the use of NS/PCs derived from aborted fetal tissues. Under such circumstances, Yamanaka et al. have successfully generated induced pluripotent stem (iPS) cells with ES cell-like pluripotency and proliferative capacity by the gene transfer of several reprogramming transcription factors into adult somatic cells. If adult somatic cells, such as blood cells or skin fibroblasts, can be differentiated into NS/PCs via iPS cells (iPS-NS/PC) and transplanted into injured spinal cord, the ethical issues and immune rejection in transplantation, could be circumvented. In the recent studies, we demonstrated that transplantation of appropriate murine and human iPS-NS/PCs promoted long-term functional recovery without tumor formation when transplanted into the injured spinal cords of both rodents and non-human primates. To demonstrate the safety of transplantation of human iPS-NS/PCs into injured spinal cords before the first human trials, we are intensively assessing the quality of iPS-NS/PCs in terms of genetic and epigenetic status, and their differentiation, proliferation, and tumorigenicity in vivo. As a result of addressing safety issues, in around 2017-2018 we aim to start the first human clinical trial of iPS-NS/PCs for the treatment of subacute phase SCI. Furthermore, to develop new therapies to supplement and improve the effects of cell transplantation therapy for SCI, we have demonstrated the therapeutic potential of hepatocyte growth factor (HGF) as a treatment for acute SCI in both rodents and non-human primates, and of chondroitinase-ABC and semaphorin 3A inhibitor for chronic SCI in rodents. We have just started clinical trials (Phase I-Ⅱa) of HGF for the treatment of acute phase SCI patients. We are currently investigating the effects of combination therapy consisting of iPS-NS/PC transplantation, chondroitinase-ABC, semaphorin 3A inhibitor, and rehabilitation on models of chronic SCI with curing chronic SCI patients as our ultimate goal.

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