最新醫學 70巻2号 
特集 炎症性腸疾患 -病態研究から標的治療への展開-


要  旨


座談会
 新しい時代に入った炎症性腸疾患を考え直す

大阪市立総合医療センター    渡辺 憲治
慶應義塾大学            久松 理一
東京医科歯科大学         渡辺 守 (司会)

 座談会の内容
 ・炎症性腸疾患の病態はどこまで分かったのか
 ・抗TNF-α抗体製剤による治療
 ・クローン病にけおる手術回避への挑戦
 ・新しい炎症性腸疾患治療 など
 
   久松先生      渡辺(守)先生    渡辺(憲)先生

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病態研究から標的治療へ
発症に関与するリスク因子解明

大藤さとこ*
* 大阪市立大学大学院医学研究科公衆衛生学 講師

要  旨
 炎症性腸疾患(IBD)のリスク因子解明において,症例対照研究は中心的な役割を担っている.しかし,研究デザイン上の限界や,報告数が少ないといった難病特有の問題のために,必ずしも明確な結論に至っていない要因も多い.これまでの研究からリスク因子として結論づけられているものは,IBD の家族歴,虫垂切除歴,喫煙習慣のみである.IBD の新たな発症者を可能な限り予防するため,リスク因子の解明が急務である.

キーワード
潰瘍性大腸炎、クローン病、リスク因子、症例対照研究

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病態研究から標的治療へ
GWAS から明らかになった新しい治療標的

角田洋一*1  木内喜孝*2  志賀永嗣*1 遠藤克哉*1  下瀬川 徹**1
*1 東北大学病院消化器内科 **1 同教授 *2 東北大学高度教養教育・学生支援機構臨床医学開発室 教授

要  旨
 炎症性腸疾患(IBD)のゲノムワイド関連解析(GWAS)によって,その病因に関与する複数の経路が明らかになった.しかし,これらをターゲットとした新規治療薬が続々と開発されているものの,実際に臨床応用されたものはまだ少ない.GWAS は一方で IBD が多種多様な要因からなる疾患の集合体であることも示しており,患者のゲノムなどから治療薬を選択する個別化医療が必要となるが,その実現には新規薬剤の治験システムの改革が必要となるだろう.

キーワード
炎症性腸疾患、ゲノムワイド関連解析(GWAS)、感受性遺伝子、個別化医療

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病態研究から標的治療へ
新しく解析された免疫病態と標的治療

穂苅量太**1  好川謙一*1  三浦総一郎*2
*1 防衛医科大学校内科学講座 **1 同教授 *2 同校長

要  旨
 炎症性腸疾患の病態解明は,ゲノムワイド関連解析(GWAS)などの分子生物学的手法により解析が進んでいる.一方で,現在実用化されたのはTNFαを標的としたものだけである.しかし,ようやく次の標的治療が世の中に出てくると言われている.それは大きく分けて,①サイトカイン産生にかかわる細胞内のシグナル伝達分子を標的とした低分子性分子標的薬,②TNFa以外のサイトカインに対する抗体製剤,③リンパ球が腸管粘膜にマイグレーションすることを標的とした薬剤である.本稿ではそれらの病態の解説をはじめに概説し,次いで現在の開発状況について説明する.

キーワード
接着因子、ケモカイン、サイトカイン、低分子性分子標的薬、抗体製剤

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病態研究から標的治療へ
腸上皮幹細胞研究の新展開と粘膜再生療法への挑戦
岡本隆一*1  渡辺 守*2

*1 東京医科歯科大学再生医療研究センター 教授 *2 東京医科歯科大学大学院消化器病態学 教授

要  旨
 陰窩底部に存在する腸上皮幹細胞は,腸上皮恒常性の維持に重要な役割を担っている.近年の研究により,腸上皮幹細胞を特徴づけるマーカー遺伝子やその機能,幹細胞を維持する微小環境(幹細胞ニッチ)が明らかになっている.さらに腸上皮幹細胞を体外で培養し移植する技術が開発され,腸上皮幹細胞移植を治療に用いることが可能となってきている.本稿ではこれら最新の知見について概説したい.

キーワード
腸上皮幹細胞、LGR5、ニッチ、オルガノイド、腸上皮幹細胞移植

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病態研究から標的治療へ
炎症性腸疾患における腸内細菌の病態への関与と標的治療への応用
長沼 誠*1  林 篤史*2  竹下 梢*2 金井隆典**2

*1 慶應義塾大学医学部内視鏡センター 専任講師 *2 同消化器内科 **2 同教授

要  旨
 炎症性腸疾患の原因はいまだ不明な点が多いが,遺伝学的因子,環境因子,免疫学的な因子などの複合的な因子が関与していると考えられている.特に腸内細菌との関係については,腸内細菌叢解析の進歩によりプロバイオティクスを中心とした腸内細菌をターゲットとした治療法が注目されてきている.Bacteroides fragilis,Clostridium butyricum,Fusicatenibacter saccharivorans などの腸内細菌は,IL-10 を介して腸炎抑制効果を有することより,治療応用や疾患活動性評価に有用である可能性が期待されている.

キーワード
炎症性腸疾患、プロバイオティクス、IL-10、マクロファージ

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病態研究から標的治療へ
炎症性腸疾患のがんサーベイランスと炎症に由来する発がん機構解明

安西紘幸*   畑 啓介*   風間伸介* 岸川純子*   石井博章*   山口博紀** 石原聡一郎**  須並英二**  北山丈二*** 渡邉聡明****
* 東京大学医学部附属病院 大腸肛門外科 ** 同講師 *** 同准教授 **** 同教授

要  旨
 潰瘍性大腸炎とクローン病の長期罹患は大腸がんの危険因子と考えられており,dysplasiaをマーカーとしたサーベイランス内視鏡が推奨されている.近年,炎症に由来する発がん機構が解明されつつあり,また新しい内視鏡技術のサーベイランスへの応用も検討されている.本稿では炎症性腸疾患合併がんの疫学や特徴,炎症に由来する発がん機構,そしてサーベイランスについて概説する.

キーワード
炎症性腸疾患、クローン病、サーベイランス、dysplasia、発がん

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診療に必要な知識
治療指針・ガイドラインの実臨床への用い方
中村志郎**** 樋田信幸**  飯室正樹* 宮嵜孝子*   横山陽子*  高川哲也*
上小鶴孝二*   中村美咲*   奥 順介* 河合幹夫*   佐藤寿行*   堀 和敏***

* 兵庫医科大学炎症性腸疾患内科 ** 同講師 *** 同准教授 **** 同教授

要  旨
 炎症性腸疾患は本邦でも年々増加の一途をたどり,消化器診療の中で日常的に遭遇する疾患となりつつある.このような背景から,本症に対する的確な診断と治療は,消化器のプライマリーケアとしても必要性が高まっている.潰瘍性大腸炎とクローン病の内科治療は近年急速な進歩を遂げ,その治療成績も大きく改善されてきている.本稿では,難病研究班が示す最新の治療指針に基づいた治療戦略について概説した.    

キーワード
炎症性大腸炎、クローン病、炎症性腸疾患、内科治療、治療指針

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診療に必要な知識
カプセル内視鏡の実臨床への応用
江﨑幹宏*1  松本主之*2

*1 九州大学大学院医学研究院病態機能内科学 講師 *2 岩手医科大学内科学講座消化器内科消化管分野 教授

要  旨
 2012年のパテンシーカプセルの保険認可に伴い,本邦クローン病(CD)診療における小腸カプセル内視鏡(SBCE)の使用機会が増加している.SBCEの適用は腸管開通性が確認された場合に限定されるものの,CD確診例では病変範囲や重症度の判定,内科治療の効果判定,あるいは術後再発評価における有用性が示唆されている.一方,CD疑診例におけるSBCEの有用性も示唆されているが,有用性に関する判定基準はまちまちである.SBCEの有用性を明確にするためにも,CD診断に結びつくSBCE所見の抽出が望まれる.2014年には大腸カプセル内視鏡(CCE)も臨床応用が可能となった.炎症性腸疾患診療におけるカプセル内視鏡の役割はさらに増すものと推測されるが,適正な臨床応用が望まれる.

キーワード
カプセル内視鏡、クローン病、潰瘍性大腸炎

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診療に必要な知識
治療に必要なバイオマーカーの開発状況
飯島英樹*

* 大阪大学大学院医学系研究科消化器内科学 講師

要  旨
 炎症性腸疾患の治療は,生物学的製剤をはじめとする新しい薬剤の登場により目覚ましい発展を遂げているが,それらを有効に使用するためには,早期診断,適切な治療法の選択,治療効果予測を行うことが必要である.そのためにはバイオマーカーが有用であり,p-ANCA,ASCAなどの自己あるいは菌体成分に対する抗体,CRP,便中カルプロテクチン,生物学的製剤の血中濃度などの有用性が報告されている.

キーワード
炎症性腸疾患、バイオマーカー、カルプロテクチン、CRP、生物学的製剤

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診療に必要な知識
腸管感染症が及ぼす炎症性腸疾患病態への影響
仲瀬裕志*

* 京都大学医学部附属病院内視鏡部 講師
要  旨
 炎症性腸疾患(IBD)の発症に関与する特異的な病原体は,いまだに同定されていない.しかしながら,感染症の合併症はIBD患者の死亡率に大きく関与している.一般に,IBD患者における感染のリスクはIBDそれ自体の腸管炎症に起因する場合と,薬物療法による免疫抑制状態に関連する.特に潰瘍性大腸炎再燃に関連する腸管感染症としてはクロストリジウム,サイトメガロウイルス感染症の報告が多く,増悪時には常にその合併を念頭に置くべきである.

キーワード
炎症性腸疾患、クロストリジウム感染症、サイトメガロウイルス感染症

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診療に必要な知識
クローン病小腸粘膜治癒と臨床寛解の意義
別府孝浩*   松井敏幸**

* 福岡大学筑紫病院消化器内科 ** 同教授
要  旨
 クローン病(CD)小腸粘膜治癒について,自施設での経験を解説する.すなわち,インフリキシマブ治療後に回腸潰瘍スコアの改善を認め,大腸粘膜治癒のみならず小腸粘膜治癒も得られることが分かった.小腸に病変を有するCDでは,インフリキシマブ開始1~2年後の完全粘膜治癒は4年後の長期臨床寛解と腹部手術回避の予測因子である.これまで欧米で言われてきた大腸粘膜治癒のみならず,内視鏡での小腸粘膜治癒の観察には意義がある.

キーワード
クローン病、粘膜治癒、小腸病変、インフリキシマブ、臨床寛解

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診療に必要な知識
抗 TNFα抗体製剤の適切な使用法
鈴木康夫*
* 東邦大学医療センター佐倉病院内科

要  旨
 抗TNFα抗体製剤インフリキシマブとアダリムマブが,炎症性腸疾患に対し画期的治療成果を発揮している.クローン病では,従来治療で改善困難な難治症例に対しても高率な寛解導入と長期寛解維持の実現可能が示されている.潰瘍性大腸炎における治療効果はクローン病と異なる可能性があり,今後の詳細な解析結果が待たれる.投与に際しては,各種感染症合併や副作用発現に対する対処法,そして各種病態に対応した適切な投与法を理解することが望まれる.

キーワード
インフリキシマブ、アダリムマブ、クローン病、潰瘍性大腸炎、Loss of response

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日本発,世界へ
ダブルバルーン内視鏡による診断・治療への応用
永山 学*   山本博徳**
* 自治医科大学消化器内科 ** 同教授

要  旨
 ダブルバルーン内視鏡(DBE)の登場により,これまで到達困難であった深部小腸へのアプローチが可能となった.クローン病(CD)における初回精査では小腸病変の内視鏡観察や組織生検による確定・鑑別診断が可能となり,経過観察では粘膜治癒の評価や腸管狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術が可能となった.これらにより薬物療法の最適化や手術回避が図られ,CD の長期予後の改善を期待できると考えられる.

キーワード
ダブルバルーン内視鏡、クローン病、粘膜治癒、小腸狭窄、内視鏡的バルーン拡張術

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日本発,世界へ
日本から世界に発信する新しい診断・治療
日比紀文**  小林 拓*   中野 雅* 渡辺憲明*
* 北里大学北里研究所病院炎症性腸疾患先進治療センター ** 同センター長

要  旨
 炎症性腸疾患の診断分野では,消化管内視鏡が世界に誇るべき医用機器と言える.一方,治療に関して遅れがあったが,最近日本独特の治療法も出てきた.血球成分除去療法,タクロリムスが日本から発信されている.経口摂取可能な接着分子阻害薬 AJM300,抗フラクタルカイン抗体,S1P 受容体調節薬 MT-1303 などの治験が始まっている.今後,新規の薬剤に対して速やかな治験対応ができ,臨床応用されることを期待する.

キーワード
炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、サイトカイン、接着分子

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トップランナーに聞く(第49回)
がん治療抵抗性をもたらすシグナル伝達経路の解明と新規がん治療法・診断法の開発研究

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
  第49回は  「 ヒト細胞標準化半定量real-time PCRの開発と臨床応用」で平成23年に日本呼吸器学会奨励賞を受賞された北海道大学の津田 真寿美 先生にお話を伺いました。

 津田 真寿美 先生

 がんのシグナル伝達研究からがんの縮小・根治を目指した治療法の開発を目指す.学生の頃,初めて足を踏み入れたがんの研究室で,細胞のあらゆる機能が多数のタンパク質のシグナル伝達によって制御されている事実を知り,ある意味ショックを受ける.それ以降,がんの悪性化機構の解明や新規がん治療法・診断法の開発研究に従事、最近ではがん治療(放射線療法、化学療法、分子標的治療)に抵抗性をもたらすシグナル伝達経路の解明とその解除に重点を置いた研究を展開.対象がんは,肺がん,大腸がん,脳腫瘍,卵巣がん,肉腫,白血病,口腔癌など多数.

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トピックス
バセドウ病と妊娠:Update
荒田尚子*

* 国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター母性内科 医長

要  旨
 バセドウ病は妊娠可能年齢の女性に好発する病気であることから,その診療には妊娠を前提とした管理に精通しておく必要がある.未治療やコントロール不良の甲状腺機能亢進症は妊娠の転帰に悪影響を及ぼすので,妊娠中のみならず妊娠前からの適切な管理が必要である.妊娠中のバセドウ病の治療は薬物療法が中心となることから,バセドウ病が妊娠に与える影響とともに,薬物療法の児への影響を理解して治療を行う.

キーワード
バセドウ病、妊娠、催奇形性、新生児バセドウ病

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第51回 2014年度ベルツ賞受賞論文
iPS 由来器官原基移植による機能的なヒト肝臓の創出
谷口英樹**1**2 武部貴則*1*2*3

*1 横浜市立大学大学院医学研究科臓器再生医学准教授 **1 同教授
*2 横浜市立大学先端医科学研究センター研究開発部門 **2 同部門長 *3 科学技術振興機構さきがけ

要  旨
 Critical shortage of donor organs for treating end-stage organ failure highlights the urgent need for generating organs from induced pluripotent stem cells (hiPSCs). Despite many reports describing functional cell differentiation, no studies have succeeded in generating a three-dimensional vascularised organ such as liver. Here, we show the generation of vascularised and functional human liver from hiPSCs by transplantation of liver buds created in vitro (hiPSC-LBs). Specified hepatic cells self-organised into three-dimensional hiPSC-LBs by recapitulating organogenetic interactions between endothelial and mesenchymal cells. Immunostaining and gene expression analyses revealed resemblance between in vitro grown hiPSC-LBs and in vivo liver buds. Human vasculatures in hiPSC-LB transplants became functional by connecting to the host vessels within 48 hours. The formation of functional vasculatures stimulated the maturation of hiPSC-LBs into tissue resembling the adult liver. Highly metabolic hiPSC-derived tissue performed liver-specific functions such as protein production and human-specific drug metabolism without recipient liver replacement. Furthermore, mesenteric transplantation of hiPSC-LBs rescued the drug-induced lethal liver failure model. To our knowledge, this is the first report demonstrating the generation of functional human organ from pluripotent stem cells. Although efforts must ensue to translate these techniques to patients, our proof-of-concept, i.e. organ bud transplantation, provides a promising new approach towards regenerative medicine.

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