最新醫學 70巻3号 
特集 免疫チェックポイントの基礎と臨床


要  旨


座談会
 免疫チェックポイント阻害薬治療の問題点と展望

国立がん研究センター      山﨑 直也
山口大学               玉田 耕治
大阪大学              西川 博嘉(司会)

 座談会の内容
 ・免疫チェックポイントの現状
 ・抗CTL-4抗体イピリムマブ
 ・PD-L1
 ・免疫チェックポイント阻害薬の展望 など
 
   西川先生       山﨑先生     玉田先生

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基礎
腫瘍局所の免疫抑制機構

加藤真吾*   寺部正記*
* Vaccine Branch, National Cancer Institute, NIH

要  旨
 腫瘍局所では,制御性T細胞,骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC),タイプⅡナチュラルキラーT(NKT)細胞など,多彩な細胞が腫瘍免疫抑制に関与している.これらの免疫抑制性細胞群は,腫瘍免疫を促進する細胞群を含めて巨大なネットワークを構築し,互いに影響を及ぼしている.効果的ながん免疫療法の開発には,これらの細胞群の個々の機能と相互作用を包括的に解析・理解する必要があると考えられる.

キーワード
制御性T細胞(Treg)、骨髄由来免疫制御細胞(MDSC)、typeⅡナチュラルキラーT(NKT)細胞、TGFβ

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基礎
CTLA-4 分子の基礎と抗 CTLA-4 抗体の作用メカニズム

北野滋久*
* 国立がん研究センター早期・探索臨床研究センター中央病院先端医療科

要  旨
 1987 年に CTLA-4 のクローニングが報告され,その後,T細胞上に発現する抑制分子であることや,CTLA-4 経路の遮断による抗腫瘍免疫応答について示された.2000 年代に抗 CTLA-4 抗体による臨床試験が開始され,2011 年に同療法が大規模臨床試験の試練を経て,切除不能悪性黒色腫に対して米国 FDA の承認を受けた.本稿では CTLA-4 分子の基礎と抗 CTLA-4 抗体の作用メカニズムを中心に概説する.

キーワード
CTLA-4、免疫チェックポイント、腫瘍免疫、がん免疫療法

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基礎
PD-1 分子の基礎と抗 PD-1 抗体の作用メカニズム

玉田耕治*
* 山口大学大学院医学系研究科免疫学分野 教授

要  旨
 PD-1分子は,抑制性共シグナルを伝達することで免疫抑制機能を発揮する免疫チェックポイント分子である.がん微小環境ではPD-1分子を介した免疫抑制機構が作用していることに基づき,抗PD-1阻害抗体により免疫抑制を解除し,がん免疫応答の誘導を目指す「免疫チェックポイント阻害療法」が開発され,がん治療薬として承認された.本稿では,PD-1分子の免疫学的機能や抗PD-1抗体の治療効果メカニズム,将来展望などについて解説する.

キーワード
抑制性共シグナル、がん免疫逃避機構、疲弊T細胞、腫瘍微小環境

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基礎
LAG-3 分子の基礎と臨床応用
松崎順子*

* Cancer for Immunotherapy, Roswell Park Cancer Institute

要  旨
 LAG-3は細胞膜貫通型タンパク質で,CD4に類似した構造をしており,T細胞が活性化した際に細胞表面に発現する分子である.そのシグナル伝達はいまだ不明であるが,T細胞の増殖や活性化を抑制する分子として働き,腫瘍浸潤性T細胞(TIL),慢性感染により疲弊したT細胞(exhausted T cell)や制御性T細胞(Treg)にも発現が見られることから,がん免疫,感染免疫または自己免疫疾患において,PD-1やCTLA-4などの免疫チェックポイント分子と同様に免疫抑制因子として重要な役割を担うと考えられている.抗体によるLAG-3分子の単独阻害は効果が見られないが,PD-1/PD-L1分子経路を同時に遮断すると相乗的に慢性感染の改善や抗がん効果がマウスモデルで示されている.今後の分子メカニズムの解明と抗 LAG-3 抗体を用いたがん治療の臨床応用が期待されている.

キーワード
LAG-3、T細胞、免疫抑制、溶解性LAG-3-Ig融合タンパク質、抗LAG-3抗体

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基礎
TIM-3 分子の基礎と臨床応用
地主将久*

* 慶應義塾大学医学部先端医科学研究所 特任准教授

要  旨
 TIM-3は慢性ウイルス感染や発がんなどでT細胞に誘導され,PD-1とともに抗腫瘍エフェクター応答の免疫チェックポイント機構として作用する.また,ミエロイド系細胞やがん細胞に発現するTIM-3による発がん制御機能が明らかとなり,多彩な機能を有することが注目されつつある.以上より,TIM-3を標的とする薬剤は免疫チェックポイント阻害薬とした位置づけにとどまらず,より広範な発がん制御機能を発揮することが期待される.

キーワード
TIM-3、Galectin-9、HMGB-1、T細胞、ミエロイド細胞

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基礎
OX40 の基礎と臨床応用

前田優香*
* Ludwig Collaborative Laboratory(Dr. Jedd D. Wolchok Lab), Memorial Sloan Kettering Cancer Center

要  旨
 がんに対しては外科的治療,化学療法,放射線療法が主な治療法として行われてきたが,十分な効果が得られる治療法はいまだ確立しておらず,新たな分子を標的とした治療法の確立が希求されている.近年,免疫チェックポイントと呼ばれる免疫抑制分子のシグナルをブロッキング抗体により阻害するがん免疫療法が,悪性黒色腫において有望な治療効果を示し注目を集めている.しかし,依然として治療効果は強力な併用療法によっても50%に満たず,新たな免疫調節分子を標的とした治療法の開発が求められている.OX40は活性化したT細胞に発現する免疫共刺激分子であり,メモリーT細胞の維持に重要な働きをしている.また,免疫系の恒常性を維持している制御性T細胞にも発現している.マウスモデルを用いた研究により,抗OX40アゴニスティック抗体を投与することで十分に確立された腫瘍を拒絶できることが報告されている.本稿ではOX40ががん免疫療法の新たな標的分子として可能性を秘めているのか,今後の展望を述べたい.

キーワード
抗OX40アンタゴニステック抗体、免疫共刺激分枝、免疫チェックポイント阻害薬

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基礎
新規免疫チェックポイントの可能性
猪爪隆史*

* 山梨大学医学部皮膚科学教室 講師

要  旨
 最近の研究により,腫瘍環境では腫瘍特異的T細胞が幾重もの免疫チェックポイントによって抑制されており,抑制を解除すると強い抗腫瘍活性を取り戻すことが明らかにされた.しかし未解明の免疫チェックポイントの存在も示唆されている.本稿では新規免疫チェックポイントを標的としたがん治療の可能性について,最近のがん免疫療法の成功例とそれに関連した研究の観点から述べる.    

キーワード
悪性黒色腫、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、PD-1、CD155

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基礎
T細胞の免疫疲弊と免疫チェックポイント分子
榮川伸吾*   鵜殿平一郎**

* 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科病態制御科学専攻腫瘍制御学講座免疫学分野 ** 同教授

要  旨
 T細胞疲弊とは,抗原特異的な細胞傷害性T細胞(CTL)における段階的な機能低下の過程である.疲弊過程においてCTL上には免疫チェックポイント分子(疲弊分子)が発現される.疲弊による抗原特異的なCTLの機能喪失の制御は,感染症やがんの治療に非常に重要である.2013年,進行性悪性黒色腫患者において抗PD-1抗体,抗CTLA-4抗体(免疫チェックポイント分子阻害抗体)による抗体療法により劇的な腫瘍縮小効果があると報告された.近年ではT細胞疲弊のさらなる理解として,疲弊の分子メカニズムについて記憶細胞の分化や免疫代謝(immune metabolism)の観点からも研究が盛んに行われている.細胞レベルの代謝調節は,新たな疲弊制御法の確立に直結する可能性を秘めている.

キーワード
CD8T細胞、免疫疲弊、免疫代謝、がん

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基礎
抗 CCR4 抗体の制御性T細胞への影響と臨床応用の可能性
黒瀬浩史*1  岡 三喜男**1  中山睿一*2

*1 川崎医科大学呼吸器内科 **1 主任教授 *2 川崎医療福祉大学医療福祉学部 教授

要  旨
 制御性T細胞(Treg)は,自己抗原に対する免疫反応,および外来抗原に対する過剰反応を制御している.一方,CCケモカイン受容体4(CCR4)はCD4T細胞分画のうち Th2,Th17 に発現を認めるほか,特に Treg に高発現し,抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性を高めたヒト化抗 CCR4モノクローナル抗体(モガムリズマブ,ポテリジオ■)によりCCR4陽性細胞を除去することが可能である.幾つかのがん腫において Treg は,抗腫瘍免疫を抑制し予後不良となる可能性が指摘され,この Treg 細胞表面にCCR4分子が発現していることが明らかとなった.その結果に基づき,現在,これらCCR4陽性Tregをモガムリズマブで除去し,抗腫瘍免疫の抑制を解除することを目的としたがん免疫療法の治験が行われている.本稿では,モガムリズマブによるTregへの影響と臨床応用の可能性について述べる.

キーワード
CCR4、制御性T細胞、CCL22、ヒト化抗CCR4抗体

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臨床
抗 CTLA-4 抗体と抗 PD-1 抗体による悪性黒色腫の治療開発
山﨑直也*

* 国立がん研究センター中央病院皮膚腫瘍科 科長
要  旨
 悪性黒色腫は抗原性の強い腫瘍として知られており,近年新しい免疫療法薬の開発が盛んに行われている.中でも抗CTLA-4抗体イピリムマブや抗PD-1抗体ニボルマブ,ペンブロリズマブに代表される免疫チェックポイント阻害薬の治療効果には目をみはるものがある.悪性黒色腫に対し,これらの「過剰な免疫反応を制御する分子に対する抗体」を用いることで免疫反応が誘導・増強されることが明らかとなり,がん免疫療法は急速に進歩している.

キーワード
悪性黒色腫、免疫チェックポイント阻害薬、抗PD-1抗体、抗CTLA-4抗体

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臨床
悪性腫瘍に対する養子免疫療法と免疫チェックポイント機構制御の併用療法
籠谷勇紀*   平野直人**

* Princess Margaret Cancer Centre, University of Toronto ** 同准教授
要  旨
 がんに対する養子免疫療法(adoptive immunotherapy)は,進行期悪性腫瘍の治癒を目指せる有望な治療法の1つであるが,治療後長期間にわたり奏効を示す症例は現在のところ限定的である.持続的な治療反応性が得られない原因の1つとして免疫チェックポイント機構の関与が考えられており,その阻害薬との併用療法が注目されている.本稿では養子免疫療法の概要,現状の問題点について整理した後,免疫チェックポイント阻害が同治療にどのように応用され得るかについて,具体的な臨床データも交えて議論する.

キーワード
養子免疫療法、免疫チェックポイント、制御性T細胞、抗原提示細胞、腫瘍浸潤リンパ球

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臨床
抗 PD-1 抗体の婦人科がんへの応用
濱西潤三*1  万代昌紀*2  松村謙臣*1   安彦 郁*1  Peng Jin*1    
Kumuruz Murat*1   小西郁生**1
*1 京都大学大学院医学研究科器官外科学婦人科学産科学 **1 同教授   
*2 近畿大学医学部産婦人科 教授

要  旨
 婦人科がんでは,子宮頸がん,子宮体がん,卵巣がんの順に罹患数が多く,外陰がんや腟がんなどは比較的まれである.特に卵巣がんは婦人科がんの中で最も予後が悪く,新たな治療開発が求められている.当科では卵巣がんに対し,腫瘍免疫学的視点に基づいた新しい治療として抗PD-1抗体を用いた医師主導第Ⅱ相治験を行い,有効性と安全性を評価した.その実現に向けた過程および今後の展望,さらに他の婦人科がんへの治療応用の有用性について概説する.

キーワード
免疫チェックポイント、PD-1、PD-L1、がん免疫療法、卵巣がん

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臨床
抗 PD-1 抗体の泌尿器科疾患,消化器疾患への応用
和田 尚*
* 大阪大学大学院医学研究科臨床腫瘍免疫学 教授

要  旨
 抗PD-1抗体の抗腫瘍効果は,悪性黒色腫や肺がんに続いて腎がん,そして胃がんにおいても有効性が観察されるようになり,これらがん種を主要標的臓器とした多くの臨床試験が世界各地で実施されている.世界で先行するニボルマブ(MDX-1106,ONO-4538)と,ペンブロリズマブ(MK-3475)や ピジリズマブ(CT-011)の開発競争が行われている.

キーワード
胃がん、腎がん、免疫染色、チロシンキナーゼ阻害薬、mTOR阻害薬

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臨床
PD-1 阻害薬の呼吸器疾患への応用
竹内美子*1*2 杉山大介*2  木島貴志**1
*1 大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫アレルギー内科学 **1 同講師 *2 大阪大学免疫学フロンティア研究センター実験免疫学講座

要  旨
 がん免疫療法は,外科的療法,放射線療法,化学療法に加わるがん治療の第4の柱となりつつある.抗PD-1/PD-L1抗体といったPD-1阻害薬は,持続的な臨床効果と安全性が報告され,がん免疫療法で最も開発が著しく,非小細胞肺がんにおいても数年以内に承認される見込みである.作用機序,効果判定法,バイオマーカーなどまだまだ検討課題も多いが,予後不良な患者の恩恵となるよう期待したい.

キーワード
PD-1、PD-L1、非小細胞肺がん、ニボルマブ、ペンブロリズマブ

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トピックス
新世代のC型慢性肝炎治療薬
今村道雄*    茶山一彰**

* 広島大学病院消化器・代謝内科 診療講師 ** 同教授

要  旨
 難治性であるgenotype1型C型慢性肝炎において,インターフェロン(IFN)を用いた抗ウイルス療法が無効であった症例あるいは IFN が使用できない症例に対し,IFNを使用しないダクラタスビル(NS5A 阻害薬)+アスナプレビル(NS3/4Aプロテアーゼ阻害薬)併用療法が使用可能になった.本治療のウイルス排除率は80%以上であり,IFN抵抗性の遺伝子型を有する症例や高齢者に対しても高い有効性を示している.

キーワード
C型慢性肝炎、Direct acting antiviral、ダクラタスビル、アスナプレビル、耐性変異

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トピックス
パーキンソン病におけるαシヌクレイン病変のプリオン様伝播
長谷川成人*

* 東京都精神医学総合研究所分子神経生物学研究チーム

要  旨
 パーキンソン病の特徴的病理構造物レビー小体の主要成分であるαシヌクレイン(αS)は,140アミノ酸からなる比較的小さな細胞内タンパク質である.シナプスに豊富に存在することが示されているが,その生理的機能は十分には明らかでない.正常状態では明瞭な構造を持たない natively unfolded protein とされているが,患者脳ではβシート構造に富むアミロイド線維構造をとり,リン酸化やユビキチン化などの修飾を受けて神経細胞,突起内に蓄積する.その病変の広がりと症状には密接な関係が示されており,遺伝学的にも,神経病理学的にも,また臨床的にも病理的意義が明らかな分子である.近年,このαSをはじめ,神経変性疾患の病態を形成する細胞内の異常タンパク質が,プリオンと同じような機序によって増殖し,細胞間を伝わり,病変が脳内に広がることで病気が進行することが動物実験によって実証され,大きな注目を集めている.本稿ではその実証実験を中心に,異常αSのプリオン様性質とその脳内伝播について紹介したい.

キーワード
αシヌクレイン、プリオン、タウ、TDP-43、伝播

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