最新醫學 70巻4号 
特集 「感染症研究国際ネットワーク推進プログラム(J-GRID)」10年のあゆみ


要  旨


座談会
 「国境なき感染症に備える知のネットワーク(J-GRID)」の 10 年を振り返る

東北大学            押谷 仁
長崎大学            
   平山 謙二

京都大学               光山 正雄
理化学研究所           永井 美之
(司会)

 座談会の内容
 ・免疫チェックポイントの現状
 ・抗CTL-4抗体イピリムマブ
 ・PD-L1
 ・免疫チェックポイント阻害薬の展望 など
 
 押谷先生 光山先生         永井先生 平山先生

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大阪大学タイ拠点 10 年のあゆみ

武田直和**1*2 浜田茂幸*1*2 木下タロウ **2
*1 タイ保健省医科学局日本・タイ新興・再興感染症共同研究センター 副センター長 **1 同センター長
   *2 大阪大学微生物病研究所特任教授 **2 同教授

要  旨
 大阪大学微生物病研究所は,2005年にタイ王国保健省医科学局に日本・タイ新興・再興感染症共同研究センターを開設し,2010年にはマヒドン大学熱帯医学部にマヒドン・大阪感染症センターを設置した.以来,これらのセンターでは総計10人近い日本人研究者が常駐し,ほぼ同数のタイ人研究者を採用して,タイ NIHおよびマヒドン大学の研究者とともに,コレラ,豚レンサ球菌感染症,デング熱,チクングニア熱,HIV-1 感染症,下痢症ウイルス感染症などの共同研究を実施している.

キーワード
日本・タイ振興・再興感染症共同研究センター(RCC-ERI)、マヒドン・大阪感染症センター(MOCID)、
大阪大学微生物病研究所

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動物衛生研究所 J-GRID 研究拠点 ZDCC のタイとベトナムでの活動記録

竹前喜洋*   西藤岳彦**
* 農業・食品産業技術総合研究機構動物衛生研究所インフルエンザ・プリオン病研究センター 主任研究員 ** 同センター長

要  旨
 動物衛生研究所は,2006年にタイ国バンコクにあるタイ家畜衛生研究所内に,翌2007年にマヒドン大学獣医学部内に研究拠点を立ち上げ,当時タイで発生していた高病原性鳥インフルエンザや豚インフルエンザの研究を開始した.2009年からはベトナム家畜衛生局の協力を得て,ベトナム北部と南部を拠点とした豚インフルエンザ調査を進めている.

キーワード
タイ、ベトナム、高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)、豚インフルエンザウイルス(SIV)

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長崎大学ベトナム拠点の活動 ―感染症の最前線で研究をするということ―

山城 哲*
* 長崎大学熱帯医学研究所ベトナム拠点

要  旨
 長崎大学ベトナム拠点(VRS)は,2006 年3月にベトナム国立衛生疫学研究所内に設立された.現在,下痢症研究班,蚊媒介性ウイルス感染症研究班,臨床疫学研究班,人獣感染症研究班の4つの研究班を中心に,合計15の研究が行われている.その他,日越両国の若手感染症研究者の教育,研究成果の社会への還元を積極的に実施している.将来的には,VRS が感染症分野の若手研究者の登竜門的な施設になればと願っている.

キーワード
熱帯医学研究所、ベトナム、感染症、J-GRID、熱帯医学

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ベトナム拠点 ―エイズ,結核,そして多剤耐性菌と戦う―
岡 慎一*1  大曲貴夫*2  慶長直人*3

*1 国立国際医療研究センターエイズ治療・研究開発センター長 *2 同国際感染症センター長
*3 結核予防会結核研究所生体防御部 部長

要  旨
 我々は,ハノイのバクマイ病院内に設置した Medical Collaboration Center をハブとして研究を行っている.現在,エイズ研究では,日本で得られた治療の安全性に関する成果をベトナムコホートで検証し,WHOとの情報共有に力を入れている.結核研究では,日本人では少ない多剤耐性結核の特性をベトナムで研究し,深刻な外国人結核の国内流入に備えている.また,医療関連感染症および抗菌薬耐性菌感染に関しても,耐性菌の検出頻度の高いベトナムで研究を行い,耐性機序の解明や迅速診断キットの開発などを行っている.

キーワード
エイズ、結核、多剤耐性菌、ハノイ研究拠点

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中国との感染症共同研究の構築と展開
岩本愛吉**** 松田善衛*** 石田尚臣** 井上純一郎**** 岩附研子*   河岡義裕****

* 東京大学医科学研究所 助教 ** 同特任准教授 *** 同特任教授 **** 同教授

要  旨
 東京大学医科学研究所は,北京にある中国科学院傘下の2研究所に日中連携研究室を設置し,日本人研究者を常駐させ,日中研究者間における密接な感染症共同研究を推進してきた.中国農業科学院傘下のハルビン獣医研究所では,日中の有力なインフルエンザウイルス研究グループによる共同研究を推進してきた.北京プロジェクトオフィスが中国における円滑な研究運営をサポートし,国内研究者による研究指導が定期的に行われている.

キーワード
中国、新興・再興感染症、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、インフルエンザ、肝炎

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ザンビア拠点における感染症対策への取り組み

小川寛人*1  喜田 宏*2
  *1 北海道大学人獣共通感染症リサーチセンターザンビア拠点 *2 同センター統括

要  旨
 感染症に国境はない.今もエボラ出血熱やデング熱,病原性大腸菌症などの新興・再興感染症が世界各地で発生している.これらは,自然界の野生動物に寄生する微生物が,家畜やヒトに侵入,伝播して被害をもたらす人獣共通感染症である.本稿では,北海道大学人獣共通感染症リサーチセンターが南部アフリカのザンビア共和国に設置した活動拠点(北大ザンビア拠点)の人獣共通感染症克服に向けた取り組みを紹介したい.

キーワード
新興・再興感染症、ズーノーシス

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インドにおける感染症研究の連携 ―岡山大学インド感染症共同研究センターとコレラおよび腸管感染症研究所(NICED)―
篠田純男***1 今村大輔**1  水野 環*1 三好伸一*2

*1  岡山大学インド感染症共同センター 特任助教 **1 同 特任講師 ***1 同特任教授
*2 岡山大学大学院医薬学総合研究科衛生微生物学 教授

要  旨
 岡山大学は,感染症共同研究センターをインド東部のコルカタにある国立コレラおよび腸管感染症研究所内に設置して共同研究を実施している.インドは古来よりコレラなどの下痢症の多発地帯であり,幼児ではいまだに高い下痢症死亡率を示しているが,患者の病原体同定も不十分であるので,プロジェクトでは確実な同定システムを確立し,感染症病院での下痢症動向調査を行ってきた.その他,赤痢ワクチンの開発,環境中でのコレラ菌の生息実態と考えられるVBNCコレラ菌,新型コレラ菌Variantなどの研究,さらに下痢症病原体として極めて多いロタウイルスの生化学的研究などを行っている.    

キーワード
下痢症、コレラ、VBNCコレラ菌、赤痢ワクチン、下痢症動向調査

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神戸大学インドネシア拠点のあゆみと実績
内海孝子*1*2   清水一史*1**2   小瀧将裕*1*2 亀岡正典**1   白川利朗***1  堀田 博***1 林 祥剛***1

*1 神戸大学大学院医学研究科附属感染症センター **1 同准教授   ***1 同教授   
*2 神戸大学―インドネシア新興・再興感染症国際共同研究拠点   **2 特務教授

要  旨
 神戸大学とインドネシアの医学共同研究の歴史は半世紀に及ぶ.その歴史を基盤に形成された相互の信頼関係と共同研究体制を柱に「感染症研究国際ネットワーク推進プログラム(J-GRID)」が始まり,5つの研究課題(インフルエンザ,ウイルス肝炎,デング熱,HIV/AIDS,感染性下痢症)で共同研究を実施してきた.本稿では,第1期の 2007 年から約8年間にわたる神戸大学インドネシア拠点のあゆみを紹介する.

キーワード
インフルエンザ、ウイルス性肝炎、デング熱、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、感染性下痢症

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東北大学とフィリピン熱帯医学研究所のパートナーシップ
齊藤麻理子*1*2

*1 東北大学大学院医学系研究科 *2 東北-RITM 新興・再興感染症共同研究センター

要  旨
 東北-RITM新興・再興感染症共同研究センターは2008年に設立され,フィリピン国立熱帯医学研究所(RITM)のリファレンスセンターとしての機能強化を目的とし,公衆衛生学的見地から感染症対策に寄与できるような実践的研究を実施している.さらに本拠点では,RITMとともに突然の感染症の流行に対する調査協力や若手研究者の育成も積極的に行っている.これらの活動を通し,フィリピンにおける感染症対策の向上および感染症研究の発展を目指す.

キーワード
フィリピン、感染症対策、公衆衛生、新興・再興感染症

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東京医科歯科大学ガーナ拠点 ―感染症流行前線拠点でのあゆみ―
太田伸生*

* 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際環境寄生虫病学分野 教授
要  旨
 東京医科歯科大学は2008年度から,ガーナの野口記念医学研究所を舞台に感染症研究の共同研究プロジェクトを進めてきた.アフリカはアジアとは異なった社会背景のもと,ユニークな疾病構造が見られる.西アフリカに特有の病原体,西アフリカに特有の流行要因などの解析を通じて,日本国内では得られない研究環境を活用した研究を進めている.その結果,HIVの薬剤耐性の監視,HIVの分子進化,西アフリカの寄生虫感染症の疫学情報の更新など,成果は着実に進めることができた.今日までのガーナ拠点のあゆみを総括し,その将来像について考察した.

キーワード
研究拠点、西アフリカ、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、薬剤耐性、アフリカトリパノソーマ症、人材育成

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長崎大学ケニア拠点の概要
一瀬休生*1*2

*1 長崎大学アフリカ拠点 *2 長崎大学熱帯医学研究所ケニア拠点
要  旨
 長崎大学熱帯医学研究所ケニア拠点は,2005年に文部科学省特別経費によって設立され,引き続き「熱帯病・新興感染症臨床・疫学研究プログラム-アフリカと日本を結ぶ教育研究体制の構築-」のために活動を継続している.現在,10分野の研究グループが公募研究者と協力して熱帯病・新興感染症の予防・治療の研究を行い,JICA草の根技術協力プロジェクトも実施している.2010年から学内他学部の参入が可能となり,熱帯感染症の研究だけではなく,歯学,工学,水産学の研究も展開されている.

キーワード
海外拠点、ケニア、熱帯病、新興感染症、Health and Demographic Surveillance System(HDSS)

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新潟大学ミャンマー拠点の概要 ―アジアのインフルエンザ循環を探る―
濱西潤三*1  万代昌紀*2  松村謙臣*1   安彦 郁*1  Peng Jin*1    
Kumuruz Murat*1   小西郁生**1
* 新潟大学大学院医歯学総合研究科 ** 同准教授 *** 同教授 **** 同名誉教授

要  旨
 新潟大学では,ミャンマーにてヒトインフルエンザの調査を10年以上にわたり行ってきた.これまで,ヤンゴン,ネピドー,ピンウールインの3つの都市に研究拠点を形成し,約 2,000 件のインフルエンザウイルスを分離し,ミャンマーでは雨季にインフルエンザが流行することが判明した.我々は若手の人材育成にも力を入れており,受け入れ研修や,現地に出向いて技術研修を行い,ミャンマーにおけるインフルエンザ研究のレベルアップを図ってきた.

キーワード
ミャンマー、インフルエンザ、サーベイランス、雨季、人材育成

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研究ネットワークの支援と推進
加藤茂孝*   岡本仁子*   神田忠仁* 栗原良樹*
*理化学研究所 新興・再興感染症研究ネットワーク推進センター

要  旨
 文部科学省の委託事業「新興・再興感染症研究拠点形成プログラム」(2005年度~)を支援するために,感染症研究ネットワーク推進センター(CRNID)が設置され,アジア・アフリカの8ヵ国に合計13研究拠点を設置した.続く「感染症研究国際ネットワーク推進プログラム」(2010年度~)では,新興・再興感染症研究ネットワーク推進センターとなり,拠点を結ぶ連携研究,他のネットワークとの連携などを推進した.

キーワード
感染症ネットワーク、J-GRID、海外研究拠点、新興・再興感染症、連携研究

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連載
肉眼解剖学者がみたヒト大脳の立体構造

 今号から金沢医科大学・篠原治道先生による新連載「肉眼解剖学者がみたヒト大脳の立体構造」が始まります。
 脳の肉眼解剖学に40年間携わってこられた金沢医科大学・篠原治道先生による誌面講義の記念すべき第1回は「肉眼解剖学的線維剖出法 Gross Anatomical Tractography(GAT)とその実際」です。
 開業医、研修医、専門医の方々にもご興味やご関心をもって頂けるような内容となっています。


解剖用具(本文より)

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連載
トップランナーに聞く(第48回)
病原性寄生虫「トキソプラズマ」の医学研究について

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
  第48回は分子遺伝学的手法で細胞内寄生性原虫感染症の宿主応答を解析されている大阪大学の山本 雅裕 先生にお話を伺いました。

 山本 雅裕 先生

 元々,「ノックアウト マウス」を使ってマクロファージの自然免疫研究をやっていましたが,「生きた」病原体は自然免疫応答を抑制することが段々と分かってきて,その過程で「トキソプラズマ」と出会いました.今は「ノックアウト トキソプラズマ」を使って,この病原体が ①どのようにして我々宿主の中で免疫系を抑制するのか?,さらに ②免疫系を操って病原性を発現するのか? についての寄生虫免疫学の研究を行っています.

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連載
ノーベル賞と医学の進歩・発展

 68巻10号からノーベル賞の対象となった業績やその業績が現在どのような恩恵をもたらしているかについて、各領域の専門家の先生方に詳しいご解説をお願いしております。

第28回は京都大学・岩井 一宏 先生による「タンパク質分解のメカニズム」です。

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トピックス
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の国際診療ガイドライン
田中雅夫*

* 九州大学大学院医学研究院臨床・腫瘍外科 教授

要  旨
 IPMN国際診療ガイドライン2012年版では,主膵管型とする主膵管径,分枝型とする■胞径の閾値を5mmとし,診断率の向上を図った.閉塞性黄疸,造影される充実性成分,主膵管径≧10mmのみを high-risk stigmata とし切除適応とした.7項目の worrisome features があれば EUS を勧める.経過観察の間隔はD胞のサイズに応じる方針としたが,併存膵がんを警戒して頻回の追跡も容認され,切除後膵の経過観察の必要性も盛り込まれた.

キーワード
膵腫瘍、IPMN、膵管内乳頭粘膜性腫瘍、膵がん

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トピックス
ヒト多能性幹細胞を用いた褐色脂肪細胞の生成と再生医療への試み
佐伯久美子*

* 国立国際医療研究センター研究所疾患制御研究部 室長

要  旨
 褐色脂肪組織は体熱産生を担う「燃える脂肪組織」であり,近年ではメタボリックシンドロームの治療標的としても注目されている.しかし量が少ないこと,部位の同定に高額設備が必要なこと,採取後の健康への影響が不明なことなどから,研究材料としてのヒト検体の入手は困難である.この問題に対して筆者らは,ヒト多能性幹細胞から褐色脂肪細胞を作製する技術を開発した.本技術により,今後のヒト褐色脂肪細胞の研究の展開が期待される.

キーワード
褐色脂肪細胞、ヒト多能性幹細胞、造血性サイトカイン、糖代謝改善

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井村臨床研究賞
コモンディジーズとしての原発性アルドステロン症 ―心血管合併症撲滅への挑戦―
西川哲男*

* 横浜労災病院内分泌糖尿病センター 院長

要  旨
 外科的処置で治癒が期待できる二次性高血圧で頻度が高い疾患は,原発性アルドステロン症(PA)である.Connが最初に本症を報告した際には高血圧の20%を占める極めて頻度の高い疾患であるとしたが,その後 PA の頻度は極めて低く,長年にわたり希少疾患とされてきた.しかし,血中カリウム値に関係なく,血漿レニン活性と血漿アルドステロン濃度の同時測定によるスクリーニングを行うと,高血圧の3~10%前後を占めるコモンディジーズであると,我々を含め多くの報告がなされてきた.また,アルドステロンは高血圧をもたらすばかりか,血管障害を進行させ,脳心腎の臓器病変の発症進展に直接関与することが最近明らかにされてきた.したがって,高血圧診療にてPAを的確にスクリーニングする必要があり,確定診断後は副腎静脈採血法でアルドステロン過剰分泌が片側性か両側性かを確認して手術適応を決めることになる.さらに最近,KCNJ5,ATPase,CACNA1D遺伝子異常も見いだされ,病態解明もなされている.今後,本疾患の撲滅を目指し,より簡便な診断法の確立と負担の少ない治療法の開発が望まれる.


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