最新醫學 70巻6号 
特集 てんかん医療の多様な展開 -基礎から臨床まで-


要  旨


座談会
 21世紀のてんかん医療の多様な展開

社会福祉法人向陽会やまびこ医療福祉センター
                  田中 達也

福岡大学              廣瀨 伸一
京都大学              池田 昭夫(司会)

 座談会の内容
 ・21世紀のてんかん研究
 ・高齢者のてんかん
 ・自己免疫性てんかん
 ・移行期医療
 ・自動車運転
 ・てんかんの世界動向 など
 
   廣瀨先生  田中先生        池田先生

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基礎
アストロサイトによる空間的カリウム緩衝機構とてんかん病態
―新たなてんかん治療標的分子 Kir4.1 チャネルの機能に着目して―

金星匡人*1*2 向井崇浩*1  徳留健太郎*1 國澤直史*1  清水佐紀*1  芹川忠夫*1
伊東秀文**2  大野行弘**1

*1   大阪薬科大学薬品作用解析学   **1 同教授   
*2   和歌山県立医科大学大学院医学研究科神経内科学   **2 同教授

要  旨
 アストロサイトは神経細胞を保持し,脳内環境の恒常性を維持するとともに,「神経-グリア間のクロストーク」と呼ばれる相互作用を介して,神経活動の制御において重要な役割を果たしている.本稿では,てんかんの発症と深くかかわるアストロサイトの空間的カリウム緩衝機構について紹介し,これを仲介するアストロサイトKir4.1チャネルのてんかん発症および治療における役割について概説する.

キーワード
アステロサイト、てんかん、空間的カリウム緩衝機構、Kir4.1チャネル、EAST(SeSAME)症候群

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基礎
てんかん外科病理に関する最新の国際分類

柿田明美*
* 新潟大学脳研究所 教授

要  旨
 難治てんかん原性病巣には,脳形成障害,腫瘍性病変,瘢痕性病変など,病因論的に多彩な病理組織学的特徴が認められる.限局性皮質異形成は皮質構築の異常を示し,細胞形態の特徴と他の一次病変の有無により typeⅠ~Ⅲに分類される.一方,海馬硬化症は海馬体CA各領域における選択的神経細胞脱落のパターンから,typeⅠ~Ⅲの3亜型とこれらに該当しない群に分類される.てんかん外科病理診断は,正確な病態把握のために重要である.

キーワード
てんかん外科、限局性皮質異型性、海馬硬化、脳形成障害、病理

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基礎
てんかんの遺伝型と分子病態

加藤光広*
* 昭和大学医学部小児科学教室

要  旨
 てんかんと遺伝との関連性が正確に理解されるようになったのは,原因遺伝子が初めて同定された20年前からである.当初はチャネル病の1つとして理解されていたが,2002年にWest症候群で介在ニューロンの発生に関与するARXの変異が同定され,現在ではイオンチャネル以外の原因が数多く同定されている.てんかん診療においても遺伝型の知識が不可欠であり,分子病態に基づいた治療研究が必要である.

キーワード
イオンチャネル、介在ニューロン、けいれん、てんかん性脳症、乳児

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基礎
新しい抗てんかん薬の開発とてんかんの発病防止戦略
兼子 直**  茂木太一*   岩城弘隆*

* 湊病院北東北てんかんセンター ** 同センター長

要  旨
 現在のてんかんの薬物治療は対症療法であり,根治療法ではない.根治療法開発あるいは発病防止には,新たな治療薬と治療法の開発が必要である.新たな治療薬開発には,新たなスクリーニングテストツールとてんかんの分子病態に関するより多くの情報が必要であり,発病前に治療的に介入するという発想の転換も必要である.目的達成には,分子病態解析による標的タンパク質の同定,発達に伴うてんかん原性/発作原性確立にかかわる発病への過程を補正する薬剤の開発,at risk 児の同定方法,治療期間設定など,克服すべき課題は多い.

キーワード
てんかん、発病防止、新しい抗てんかん薬、発病前治療

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基礎
システム神経科学とてんかんの接点
松本理器*1  國枝武治*2  池田昭夫**1

*1 京都大学大学院医学研究科てんかん・運動異常生理学講座 特定准教授 **1 同 特定教授
*2 同脳神経外科 講師

要  旨
 てんかんの発作時症候は,正常の皮質機能および皮質間ネットワークと表裏一体であり,その観点からは臨床てんかん学の病態の評価・治療は臨床神経科学,なかんずくシステム神経科学と密接に関連する.両者の接点について,本稿では①ヒトのてんかん焦点活動を神経細胞とグリア細胞の視点から脳波活動を分析することによって病態を解明するアプローチと,②言語神経科学での最近の研究を例にとって概説した.基礎と臨床の相互のtranslatabilityとして,システム神経科学の知見がてんかん病態の理解やてんかん外科の術前脳機能評価に応用され,一方,疾患の病態の新知見が脳機能評価の個別化やシステム神経科学の理解に応用されている.

キーワード
臨床脳機能マッピング、高頻度皮質電気刺激、広域周波数帯域記録、発作時DC電位、高周波数律動、
皮質皮質間誘導電位

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臨床
高齢者のてんかんの特徴と治療

赤松直樹*1*2 田中章浩*3  山野光彦*4 辻 貞俊**1
*1 国際医療福祉大学福岡保健医療学部医学検査学科 教授 **1 同学部長・教授
*2 福岡山王病院脳・神経機能センター神経内科
*3 京都府立医科大学神経内科 *4 東海大学医学部内科学系神経内科学

要  旨
 高齢者はてんかんの好発年齢である.老年人口の急激な増加に伴い,高齢初発てんかん患者が増加している.高齢初発てんかんは,けいれんを来さない意識減損発作である複雑部分発作が多く,てんかんの診断が容易でない場合もあり,鑑別診断が重要である.高齢者ではてんかん発作が身体的および精神的に患者に与える影響が大きいが,一方,適切に診断・治療すれば抗てんかん薬による発作抑制率が高い.

キーワード
てんかん、てんかん発作、複雑部分発作、高齢者

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臨床
小児てんかんの特徴と治療
小国弘量*

* 東京女子医科大学小児科 教授

要  旨
 小児てんかんの特徴は,新生児期,乳児期,小児期,思春期と,発達年齢ごとに特異なてんかん型,もしくはてんかん症候群が存在することである.この「年齢依存性」てんかん症候群の臨床・脳波的特徴には,発達に伴う脳の成熟度の関与が想定されている.その中でも,予後良好で有病率の高い特発性部分てんかん症候群と,有病率は高くないがてんかん性脳症を合併する予後不良な難治てんかん症候群の存在が特徴的である.    

キーワード
年齢依存性、てんかん症候群、てんかん性脳症、特発性部分てんかん、Atypical evolution

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臨床
てんかん画像の進歩
稲次基希*   前原健寿**

* 東京医科歯科大学脳神経外科 講師 ** 同教授

要  旨
 近年の神経画像の進歩は著しく,MRI,PET,SPECT,MEGといった複数のモダリティを活用することで,てんかん患者における脳形態異常のみならず,多角的に質的異常を可視化することが可能となっている.てんかん焦点診断の基本はあくまで症候学と脳波であり,画像診断はあくまで補助的診断であることを念頭に置くべきであるが,これら神経画像を用いることで,個々の患者におけるてんかん焦点診断のみならず,てんかん病態の本質を探究することが可能と思われる.

キーワード
神経画像、MRI、SPECT、PET、MEG

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臨床
自己免疫性てんかん
田中惠子*1*2

*1 金沢医科大学総合医学研究所生命科学研究領域 *2 同神経内科学 特任教授

要  旨
 原因不明で抗けいれん薬に反応が不良である難治性てんかん患者の一部は,自己免疫的機序を基盤とし,ステロイドなどの免疫療法により発作の軽減・消失が得られる.このような例では,神経細胞・グリアの細胞表面に発現する受容体・チャネルタンパク質を標的とするさまざまな自己抗体が検出される.抗体陽性例の多くは脳炎・脳症の症候を呈するが,一部はてんかん発作を主徴とし,発作の軽減には免疫療法を早期に導入することが重要である.

キーワード
難治性てんかん、辺縁体系脳炎、自己抗体、免疫療法

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臨床
妊娠可能年齢の女性におけるてんかん診療戦略
梶川駿介*1*2 木下真幸子*1

*1 国立病院機構宇多野病院神経内科(発作科) *2 大阪赤十字病院神経内科
要  旨
 ほとんどのてんかん患者は,特に問題なく妊娠,出産を迎えることができる.しかし,妊娠中に大発作が起こった際のリスクは大きく,その一方で,すべての抗てんかん薬は胎児奇形率上昇の危険を伴う.そのため妊娠可能年齢におけるてんかん患者への治療は,患者の発作の状態と児への影響を常に考慮しながら行う必要がある.また,安全な妊娠,出産を達成するには,前もって投薬調整と妊娠計画を行い,協力体制についても十分な環境を整える必要がある.

キーワード
てんかん、妊娠、抗てんかん薬、胎児奇形、知能指数低下

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臨床
薬物療法の基本 ―新規と既存抗てんかん薬の使い方―
岡田元宏*

* 三重大学大学院医学系研究科精神神経科学分野 教授
要  旨
 本邦における新規抗てんかん薬は,国際的には第3世代抗てんかん薬に位置づけられる.新規抗てんかん薬の発作抑制効果は,単剤治療では既存抗てんかん薬を凌駕するものではないが,既存抗てんかん薬にはない作用機序を有するため,併用療法の治療成績向上に寄与している.さらに,副作用軽減を介した忍容性の向上も総合的なてんかん薬物療法の質的向上に寄与しているが,これは緩徐な漸増法の重要性の啓発が寄与している.

キーワード
抗てんかん薬、薬物療法、有効性、忍容性

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臨床
てんかん外科の現状と展望
江夏 怜*   三國信啓**

* 札幌医科大学脳神経外科 ** 同教授

要  旨
 てんかんの外科治療は,薬剤難治性てんかん症例が対象となり,QOLを著明に改善させる可能性があるが,術後の発作再発も認められ,正確なてんかん原性領域の同定・切除が術後発作消失の鍵となる.今後は,より正確なてんかん原性領域と脳機能領域の同定による安全で有効な切除術の発展とともに,合併症が少なく,より低侵襲な手術法の開発が求められる.

キーワード
てんかん外科、発作消失、切除術、緩和手術、てんかん原性領域

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臨床
新しい神経刺激療法 ―迷走神経刺激療法など―
加藤天美**  中野直樹*
* 近畿大学医学部脳神経外科講師 ** 同教授

要  旨
 難治性てんかんに対する新しい治療の1つとして,神経刺激療法がある.日本では迷走神経刺激療法が普及しつつあり,新規抗てんかん薬のアドオン治療とほぼ同等の発作抑制効果が得られている.さらに近年,国外では三叉神経刺激や脳深部刺激も臨床段階で試みられている.本稿では迷走神経刺激療法を中心に,これら神経刺激療法について解説する.

キーワード
迷走神経刺激療法、三叉神経刺激療法、脳深部刺激療法

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連載
肉眼解剖学者がみたヒト大脳の立体構造

 今号から金沢医科大学・篠原治道先生による新連載「肉眼解剖学者がみたヒト大脳の立体構造」が始まります。
 脳の肉眼解剖学に40年間携わってこられた金沢医科大学・篠原治道先生による誌面講義の第3回は「大脳の回と溝:大脳内側面・島葉」です。
 開業医、研修医、専門医の方々にもご興味やご関心をもって頂けるような内容となっています。


大脳内側面と島葉の回と溝 (本文より)

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連載
トップランナーに聞く(第52回)
疾患特異的遺伝子変異解析による前がん状態から発生する血液がんの研究

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
  第52回は血管免疫芽球性T細胞リンパ腫およびその特徴を持つ分類不能型末梢性T細胞リンパ腫において高頻度にRHOA遺伝子が変異していることを発見された筑波大学の坂田(柳元)麻実子先生にお話を伺いました。

 坂田(柳元)麻実子  先生

 私は血液学という領域の臨床医であり、これと研究内容はリンクしています。血液学では、血液のがんである白血病や悪性リンパ腫、このほか血液ができなくなる再生不良性貧血などの造血障害、などの病気を対象にしています。そこで研究としても、血液のがんを対象とする場合と血液がつくられる仕組みを対象にする場合があります。私の場合は血液のがんを対象に研究しています。

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連載
ノーベル賞と医学の進歩・発展

 68巻10号からノーベル賞の対象となった業績やその業績が現在どのような恩恵をもたらしているかについて、各領域の専門家の先生方に詳しいご解説をお願いしております。

第30回は京都大学大学院医学研究科教授・小西 郁生 先生による「子宮頸がんの原因であるヒトパピローマウイルスの発見」です。

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トピックス
心腎連関による心臓リモデリング機序
藤生克仁*

* 東京大学医学部附属病院循環器内科

要  旨
 心腎連関は心臓・腎臓間に相助的な関係が存在するとする概念であり,一方が悪くなるともう一方が悪くなるという現象を説明する基本概念を示す.心疾患が腎臓を悪化させる機序は血行動態や交感神経を介する古典的な経路で想像しやすいが,腎臓が悪くなった際になぜ心臓が悪くなるのかという「腎心」連関については不明な点が多い.本稿では「腎心」連関に焦点を絞り,現在までに明らかになっている知見を紹介する.

キーワード
心腎連関、心不全、腎不全、繊維化、炎症

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トピックス
乳がんにおけるセンチネルリンパ節生検の推奨
榎戸克年*1*2   中村清吾**1

*1 昭和大学医学部乳腺外科**1 同教授 *2 昭和大学江東豊州病院ブレストクリニック

要  旨
 乳がん患者の予後予測において,リンパ節転移の評価は重要である.以前は腋窩リンパ節郭清を行っていたが,リンパ浮腫などの術後後遺症の原因となっていた.現在はセンチネルリンパ節生検(SNB)が標準治療となり,術後後遺症の頻度が減ってきた.以前は適応外であった術前薬物療法症例に対する SNB が可能となり,またリンパ節転移陽性でも一定の条件のもとでリンパ節郭清を省略できることも示され,術後の QOL は大幅に向上した.

キーワード
乳がん、センチネルリンパ節生検、腋窩リンパ節廓清、DCIS、術前化学療法

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井村臨床研究奨励賞受賞
家族性突然死症候群における遺伝的背景の解明と治療への応用
大野聖子*

* 滋賀医科大学アジア疫学研究センター 特任講師

キーワード
家族性突然死症候群、遺伝子検索

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