最新醫學 70巻7号 
特集 災害・大気汚染と呼吸器障害


要  旨


座談会
 災害・大気汚染と呼吸器障害

神戸市立医療センター西市民病院  石原 享介
石巻赤十字病院             矢内 勝
杏林大学                 滝澤 始
福島県立医科大学            棟方 充 (司会)

 座談会の内容
 ・災害時の呼吸器疾患
 ・在宅医療者のケア
 ・大気汚染と呼吸器疾患
 ・呼吸器疾患の新たな脅威
 
   矢内先生   棟方先生    石原先生 滝澤先生

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地震・津波
ア東日本大震災と呼吸器疾患

矢内 勝*
* 石巻赤十字病院 副院長

要  旨
 東日本大地震後の広域巨大津波が引き起こしたインフラストラクチャーの破壊と家屋倒壊による被災者の避難所への集中,海底汚泥や倒壊建造物による粉塵吸入,再喫煙者の増加などにより,津波被災地では呼吸器疾患,とりわけ肺炎,慢性閉塞性肺疾患(COPD)増悪,喘息増悪による入院が増加した.酸素供給が断たれた在宅酸素療法患者は,自発的に医療機関などに来院した.幸いにも避難所でのインフルエンザ大流行は起こらず,肺結核発症も散発にとどまった.慢性期には応急仮設住宅での大量の浮遊真菌による喘息や過敏性肺臓炎の発症,将来的にはアスベスト曝露などによる呼吸器疾患の発症が危惧される.

キーワード
津波、避難所、在宅酸素療法、粉塵、喫煙

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地震・津波
阪神・淡路大震災と呼吸器医療

石原享介*
* 神戸市立医療センター西市民病院 前院長

要  旨
 阪神・淡路大震災では,冬期に発生した大規模災害であり,都市における生活基盤が破壊された.高齢者をはじめとした災害弱者は避難所という環境の中に取り残され,その結果,肺炎が多数発生した.「避難所肺炎」と言われるゆえんである.在宅酸素療法患者も多大な影響を受けた.二次被災を最小限にとどめるには個々の疾病対策もさることながら,災害地内外の連携のもと,組織的な介入による災害弱者の救出と生活環境の改善を図るとともに,地域医療・福祉ネットワークの早期の回復を目指した活動が不可欠である.

キーワード
阪神・淡路大震災、呼吸器疾患、避難所肺炎、救護資料、地域医療・福祉ネットワーク

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地震・津波
津波と呼吸器疾患

尾形英雄*
* 公益財団法人結核予防会複十字病院 副院長

要  旨
 東日本大震災発生から40日間に,岩手県の災害拠点病院に入院した呼吸器疾患患者の分析を通して,災害医療における呼吸器科医の役割を検討した.震災直後には,在宅酸素療法患者・人工呼吸器患者の病院への速やかな収容そして支援病院への転送が重要である.また被災地ではライフラインの遮断が関係すると思われる高齢者肺炎が多発するので,呼吸器科医はその治療と予防に診療支援できると考えた.

キーワード
東日本大震災、津波、在宅酸素療法、高齢者肺炎、呼吸器科医

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地震・津波
津波堆積物・災害廃棄物と呼吸器疾患
内山巌雄*

* ルイ・パストゥール医学研究センター上 席研究員

要  旨
 地震災害の後には,大量の災害廃棄物・津波堆積物が発生する.これらの処理の際には,有機粉塵,化学物質,アスベスト粉塵を吸入する可能性が高く,過敏性肺炎,有機粉塵中毒症候群,レジオネラ症などの呼吸器疾患のほかに,数十年の潜伏期を持つアスベストによる肺がん,中皮腫を引き起こす可能性がある.これらの二次災害を防止するためにも,これまでの教訓を無駄にしないよう十分な知識をもって行動することが重要である.

キーワード
災害廃棄物、津波堆積物、粉塵、アスベスト、呼吸器疾患

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地震・津波
災害時ストレスと気管支喘息
佐藤 俊*   棟方 充**

* 福島県立医科大学医学部呼吸器内科学講座 ** 同教授

要  旨
 気管支喘息は,その発症と増悪に心理社会的背景が深く関与する.ストレスはストレスホルモンの分泌を行う視床下部-下垂体-副腎皮質系と交感神経-副腎髄質系と関連し,免疫系に作用し気道炎症を増悪させる.特に災害時の高ストレス状態下では,心的ストレスが喘息増悪に深く関与すると推測されている.しかしこれまでの経験から,災害後の安定的な薬剤供給によりストレス下の喘息増悪もある程度制御可能と考えられる.

キーワード
災害、気管支喘息、ストレス、東日本大震災

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地震・津波
災害時の在宅呼吸療法

中山秀章*
* 東京医科大学内科学第一講座(呼吸器内科) 准教授

要  旨
 日本では世界に類を見ない高齢化が進行し,在宅医療のニーズが増加し,呼吸器疾患においても同様と予想されている.在宅呼吸療法は,在宅酸素療法,在宅人工呼吸療法,持続陽圧呼吸療法で,前二者では医療機器への依存がより高い.ほとんどが電化製品であり,災害時に備えての対応・対策を関係者が連携し,平時より準備しておくことが重要である.また医療政策として,在宅療養支援医療機関に災害時の対策を求めている.

キーワード
在宅酸素療法、在宅人工呼吸療法、持続陽圧呼吸療法、在宅呼吸療法事業者、災害

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火山噴火
雲仙普賢岳火山噴火と呼吸器障害 ―自覚症状を中心として―
竹本泰一郎*1*2

*1 長崎県立佐世保看護学校 校長 *2 長崎大学 名誉教授

要  旨
 火山灰曝露による自覚症状をもとに,粉塵曝露がリスク要因である慢性閉塞性肺疾患(COPD)および気管支喘息の個人および地域社会でのリスクの評価を試みた.    

キーワード
自覚症状、火山灰、慢性閉塞性肺疾患、気管支喘息

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火山噴火
桜  島
秋葉澄伯*1  樋口健太*2

*1 鹿児島大学学術研究院 *2 鹿児島医療技術専門学校

要  旨
 桜島の南岳は1955年から2006年までの期間,盛んな火山活動を繰り返した.これに伴って周辺地域に大量の降灰があり,また,二酸化硫黄などが大気へ放出された.この影響として急性症状が出現したが,慢性的な健康影響は確認されていない.

キーワード
桜島、火山灰、シリカ、ラドン、SPM

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火山噴火
三 宅 島
岩澤聡子*   大前和幸**

* 慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室 専任講師(学部内) ** 同教授

要  旨
 三宅島では,2000年6月に多量の火山灰,火山ガスの発生を伴って噴火が始まった.同年9月より全島避難となり,2005年2月に避難命令が解除された.しかし,二酸化硫黄濃度は環境基本法で定める基準を達成せず,村民が火山ガスのリスクを受容し,「火山との共生」を基本とし,帰島可能とする方針となった.毎年の健康診断による検討では,二酸化硫黄曝露による自覚症状の増加を観察したが,呼吸機能検査では影響が明らかにならなかった.

キーワード
三宅島、二酸化硫黄、自覚症状、呼吸機能検査、リスクコミュニケーション

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大気汚染
微小粒子状物質(PM2.5)および黄砂の呼吸器系への影響
島 正之*

* 兵庫医科大学公衆衛生学 主任教授
要  旨
 大気中に浮遊する粒径2.5μm以下の微小粒子状物質(PM2.5)の呼吸器系への影響が懸念されている.喘息児では,低濃度のPM2.5 への短期曝露により肺機能の低下や喘鳴の出現が認められている.また,長期曝露によって肺がんとの関連が見いだされている.さらに,中国大陸から飛来する黄砂と喘息の悪化との関連も報告されている.今後はPM2.5 および黄砂をはじめとする大気汚染物質の成分組成と健康影響との関連を解明する必要がある.

キーワード
微小粒子物質(PM2.5)、黄砂、喘息、ピークフロー、疫学

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大気汚染
ディーゼル排気微粒子
金 俊行*1  滝澤 始*2

*1 帝京大学医学部附属溝口病院第四内科 *2 杏林大学医学部第一内科学(呼吸器内科)教授
要  旨
 ディーゼル排気微粒子(DEP)が呼吸器系に及ぼす影響は,発がん影響と非発がん影響に大別され,また急性と慢性影響という観点からも検討されてきた.DEPをはじめとする大気汚染物質の健康影響が直接的・間接的な酸化ストレスによることが明らかにされ,その生体側の防御因子である抗酸化酵素の役割が注目されている.DEPの生態影響を解明するためには,臨床疫学的なアプローチに加え,実験的研究を組み合わせていく必要がある.

キーワード
ディーゼル排気微粒子、浮遊粒子状物質、抗酸化酵素、IL-10、GSTP1遺伝子型

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大気汚染
酸性霧・エアロゾルによる呼吸器障害
田中裕士*1*2

*1 NPO 法人札幌せき・ぜんそく・アレルギー センター理事長
*2 医療法人社団潮陵会医大前南4条内科 院長

要  旨
 霧の粒子サイズは5~30μmであり,上気道と下気道の末梢気道の直前まで到達する可能性があり,霧水自体の低浸透圧,霧に吸着する大気汚染物質,気温の低下による気道冷却が原因と考えられる.北海道太平洋沿岸に発生する酸性霧により,気管支喘息患者の8.8~29%,特に非アトピー型に傷害が起こり,その機序として霧水中の硫黄酸化物による好酸球の活性化が考えられる.動物実験では神経ペプチド受容体拮抗薬が気道過敏性を改善し,吸入ステロイドとともに治療薬として期待される.

キーワード
酸性霧、気管支喘息、好酸球、気道過敏性亢進、神経ペプチド受容体拮抗薬

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大気汚染
ナノ粒子
森本泰夫**1  和泉弘人*1  友永泰介*1 吉浦由貴子*1  矢寺和博*2
*1 産業医科大学産業生態科学研究所呼吸病態学 **1 同教授
*2 同医学部呼吸器内科

要  旨
 ナノ粒子により誘発されたことが特定されている呼吸器疾患はないが,動物実験等ではミクロンレベルとは異なるナノ特有の生体反応を引き起こすことが報告されている.ナノ粒子の特徴とは,①ミクロンレベルの粒子では影響が見られない少量曝露でも炎症・線維化を誘発すること,②一定の長さを持ち難溶性の繊維状物質も炎症・線維化能を有すること,③直接曝露を受けた臓器(肺)以外の臓器にも移動する粒子が存在することである.これらのことは,酸化ニッケル,二酸化チタン,シリカ(非晶質),カーボンナノチューブを中心としたナノ材料を用いた吸入曝露試験や気管内注入試験等で報告されている.これらのナノ粒子の特徴を具体的に示すとともに,厚生労働省より通達された工業用ナノ材料の労働衛生管理などについて紹介する.

キーワード
ナノ粒子、肺、工業用ナノ材料、二酸化チタン、酸化ニッケル

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痛みのClinical Neuroscience
(1)痛みのシリーズを始めるにあたって
牛田 享宏

愛知医科大学学際的痛みセンター 教授   愛知医科大学運動療育センター センター長

要  旨
 痛み」はヒトにとって不快なものであり,時に日常生活にも苛ませることがある.国際疼痛学会では,「痛みとは,組織の実質的あるいは潜在的な障害に結びつくか,このような障害をあらわす言葉を使って述べられる不快な感覚情動体験である」と定義している.「痛み」を構成する要因はさまざまであり,いわゆる器質的要因だけでなく,精神的や心理社会的な要因も複雑に絡み合って起こる慢性痛も本邦で問題となっている.今後このシリーズではNeuroscienceという面から「痛み」を科学として分析し,最近の知見から現在,そして将来どのように制御できるのか考えていく.

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連載
肉眼解剖学者がみたヒト大脳の立体構造

 脳の肉眼解剖学に40年間携わってこられた金沢医科大学・篠原治道先生による誌面講義の第4回は「大脳の回と溝:大脳内側面・島葉」です。
 開業医、研修医、専門医の方々にもご興味やご関心をもって頂けるような内容となっています。


外側からのアプローチ(1)島回・輪状溝・横側頭回・側頭平面(本文より)

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連載
トップランナーに聞く(第53回)
抗悪性度肝がんの診断治療に挑む

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
  第53回は肝幹細胞形質(stem cell feature)を持った肝がんの研究で世界をリードされているた金沢大学の山下 太郎 先生にお話を伺いました。

 山下 太郎  先生

 私はこれまで肝臓学を中心に研鑽を積み、肝がんの病態に関する研究を行いました。当初は発現mRNAを解析するオーミックス解析を進め、特に外科切除後早期再発、死亡につながる未分化性の高い幹細胞型肝がんを同定しました。さらに幹細胞型肝がんではいわゆるがん幹細胞が存在すること、肝がん幹細胞は多様性に富み、術後経過や抗がん剤耐性に関わっていることを示しました。研究を通じて肝がんに苦しんでいる患者を救うことを目標としています。

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連載
ノーベル賞と医学の進歩・発展

 68巻10号からノーベル賞の対象となった業績やその業績が現在どのような恩恵をもたらしているかについて、各領域の専門家の先生方に詳しいご解説をお願いしております。

第31回は京都府立医科大学名誉教授・井端 泰彦 先生による「LHRH など脳内ペプチドホルモンの発見とその測定法の開発によるノーベル生理学・医学賞受賞とその後の研究の発展」です。

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トピックス
制御性T細胞の発生と分化の制御機構
金森光広*    吉村昭彦**

* 慶應義塾大学医学部微生物学免疫学教室   ** 同教授

要  旨
 制御性T細胞(Treg)は,免疫寛容の中心をなすと考えられる.Tregには胸腺で発生する nTreg(naturalミoccurring Treg)と末梢でTGFbの作用で誘導されるiTreg(induced Treg)が存在する.Tregのマスター遺伝子がFoxp3であり,Foxp3の発現と維持がTregとしての性質を規定する.nTreg,iTregともに,Foxp3の発現誘導と維持にはさまざまなシグナルと転写因子がかかわる.さらにFoxp3の発現制御については,エピジェネティクスをはじめさまざまな知見が集積している.一方,強い炎症などでそれらの維持機構が破綻すると,TregがFoxp3を失い炎症性サイトカインを産生し,むしろ病原性を発揮する可能性も示唆されている.

キーワード
Treg、ヘルパーT細胞、自己免疫、免疫寛容

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トピックス
デング出血熱重症化マウスモデル
黒須 剛*

* 国立感染症研究所ウイルス第一部

要  旨
 デングウイルス感染症は,世界中で毎年5千万から1億人が感染し,25万人の重症化例をみる蚊媒介性の重要な疾患である.血管透過性の亢進と血小板減少症を特徴とし,重症化すると出血を伴う血漿漏出によりショック症状に陥り,時に死亡する.その病原機序は明らかではなく,効果的な治療法・予防法はない.重症化は宿主の過剰な反応によると考えられているが,これまで適切な動物感染モデルがなく,開発が急がれている.

キーワード
デングウイルス、デング熱、出血熱、マウスモデル、血管透過性亢進

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平成26年度 井村臨床研究奨励賞受賞記念論文
次世代ゲノム解析,次世代タンパク解析技術を利用し心血管エピゲノム解析による創薬標的分子探索研究
朝野仁裕*

* 大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学

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