最新醫學 70巻7月増刊号 
特集 糖尿病と合併症(後篇) 糖尿病合併症 


要  旨


座談会 糖尿病と合併症 -最新のトピックス-

愛知医科大学             中村 二郎
横浜市立大学              寺内 康夫
旭川医科大学             羽田 勝計 (司会)

 座談会の内容
 ・糖尿病の病態生理
 ・経口治療薬
 ・糖尿病合併症の発症メカニズム
 ・糖尿病神経障害の治療 など
 
   寺内先生   中村先生           羽田先生

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糖尿病血管合併症の疫学


我が国の糖尿病血管合併症とそのリスク因子の実態

曽根 博仁
新潟大学大学院医歯学総合研究科血液・内分泌・代謝内科 教授

要  旨
 2型糖尿病の合併症には,人種差が見られるため,欧米の疫学データをそのまま使用するのは適切ではなく,我が国独自のエビデンス構築が必要である.近年我が国でも,Japan Diabetes Complications Study(JDCS)を始めとする前向き研究から,日本人患者の合併症や治療の実態に関するエビデンスが築かれつつある.さらに,個別患者における各合併症発症のリスク予測も可能になっており,臨床疫学が糖尿病診療の具体化や個別化に貢献できるようになった.

キーワード
Japan Diabetes Complications Study、糖尿病合併症、人種差、運動療法

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糖尿病血管合併症の疫学
動脈硬化性疾患と耐糖能異常の関連

中神 朋子
東京女子医科大学糖尿病センター内科(糖尿病・代謝内科) 講師

要  旨
 動脈硬化性疾患の進展において,耐糖能障害は最も重要な危険因子であり,その悪化に伴い発症リスクは上昇する.また,耐糖能障害の中でも,急峻な一過性の血糖上昇(食後高血糖・耐糖能異常(IGT))により引き起される酸化ストレスは,動脈硬化性疾患の発症・進展のトリガーである.一方,糖尿病患者の血糖管理という点から見ると,血糖コントロールの指標 HbA1c は,高すぎても低すぎても動脈硬化性疾患進展に関与しており,最適な血糖管理が必要である.

キーワード
耐糖能障害、心血管疾患、食後高血糖、耐糖能異常(IGT)、疫学

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糖尿病慢性合併症の発症メカニズム
メイラード反応と終末糖化産物(AGEs)

山本 靖彦
金沢大学医薬保健研究域医学系血管分子生物学 教授

要  旨
 終末糖化産物(AGEs)とは,タンパクなどの生体高分子が,還元糖によって非酵素的に糖化修飾される産物の総称である.このような糖化反応はメイラード反応とも称され,食品科学の分野では反応生成物のことをメラノイジンと呼ぶ.AGEsは糖尿病患者や病変部に蓄積し,さらにAGEsの受容体(RAGE)との相互作用によって,糖尿病合併症の発症進展に関与すると考えられる.本稿では,AGEs形成が生体に及ぼす影響について概説する.

キーワード
終末糖化産物、糖尿病合併症、受容体

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糖尿病慢性合併症の発症メカニズム
糖尿病合併症成因における酸化ストレスの役割

井口 登與志
九州大学先端融合医療レドックスナビ研究拠点 教授

要  旨
 糖尿病では酸化ストレスが亢進しており,合併症の成因として注目される.酸化ストレス亢進の機序として,さまざまな産生源が推定されているが,高血糖に由来する心腎血管系のプロテインキナーゼC(PKC)-NAD(P)Hオキシダーゼ系の活性化が重要と考えられる.ビリルビンの抗酸化作用に着目した多くの臨床研究の成績は,合併症に対する酸化ストレス抑制の重要性を示している.糖尿病合併症に対する抗酸化療法の確立が期待される.
キーワード
合併症、酸化ストレス、プロテインキナーゼC、NAD(P)Hオキシダーゼ、ビリルビン

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糖尿病慢性合併症の発症メカニズム
プロテインキナーゼC(PKC)の活性化
北田 宗弘*   古家 大祐**

*金沢医科大学糖尿病・内分泌内科学 准教授 **同教授

要  旨
 プロテインキナーゼC(PKC)の活性化は,高血糖により引き起される細胞内代謝異常であり,糖尿病合併症の成因の1つとして重要である.PKCは,細胞内情報伝達系として,細胞外基質タンパクの遺伝子発現・細胞の分化/増殖,イオンチャネルの活性など,血管機能に深く関与しており,その異常な活性化は,多彩な細胞機能障害を誘導する.糖尿病状態では,各臓器/組織/細胞により活性化されるPKCアイソザイムに違いがあるが,現在PKCb阻害薬の開発と臨床応用が進められ,網膜症・腎症・神経障害に関して,一部有効性を示す結果も示されている.

キーワード

プロテインキナーゼC(PKC)、糖尿病血管合併症、プロテインキナーゼC阻害薬

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糖尿病慢性合併症の発症メカニズム
ERストレスと腎障害
川浪 大治

東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科 講師

要  旨
 小胞体(ER)は,タンパクの合成・分解を制御する細胞小器官である.ERでは分子シャペロンや関連する酵素の働きによって,タンパクの折り畳みが行われる.折り畳み不全タンパクがERに過剰に蓄積すると,ERストレスが発生する.さらに,回避能力を上回るERストレスがかかると,アポトーシスや炎症機転など細胞機能障害が誘導される.本稿では,糖尿病腎症発症機転における,ERストレスの機能について述べる.

キーワード
ERストレス、糖尿病腎症

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糖尿病慢性合併症の発症メカニズム
血管内皮機能障害

西尾 善彦
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科糖尿病・内分泌内科学 教授

要  旨
 糖尿病の血管合併症は,全身の大小さまざまな血管を障害することで,全身あらゆる臓器障害と関連しうる.血管合併症の初期の変化として,血管内皮の障害が重要である.高血糖は酸化ストレス,プロテインキナーゼC(PKC)活性の亢進などさまざまな機序で内皮の機能障害を引き起すが,近年ではさらに血糖値の変動や低血糖,さらにはインスリン抵抗性も,内皮機能障害に重要な因子であることが明らかにされている.

キーワード
酸化ストレス、高血糖、インスリン抵抗性

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糖尿病慢性合併症の発症メカニズム
慢性炎症
四方 賢一*1*2

*1岡山大学病院新医療研究開発センター 教授 *2同糖尿病センター 副センター長

要  旨
 動脈硬化の成因に炎症が関与することは以前から知られていたが,その後,腎症を始めとする糖尿病細小血管障害にも,炎症が関与することが明らかになった.近年注目されているメタボリックシンドロームの成因や心腎連関のメカニズムにも,慢性炎症がかかわっていることが示唆されている.このような慢性炎症は,血管に起る軽微な慢性炎症であることから,microinflammation や low grade vascular inflammatoin などと呼ばれているが,最近その成因に,インフラマソームの活性化がかかわることが示唆されている.今後,糖尿病を始めとする生活習慣病に対して,炎症を標的とした新しい治療法の開発が期待される.
キーワード
糖尿病腎症、炎症、サイトカイン、インフラマソーム、マクロファージ

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細小血管障害と大血管障害
糖尿病腎症診断のバイオマーカー
荒木 信一

滋賀医科大学内科学講座糖尿病・腎臓・神経内科学内 講師

要  旨
 糖尿病腎症の“確定診断”には病理診断が必要であるが,すべての患者に腎生検を行うことは現実的ではなく,腎症のバイオマーカーである尿中アルブミン排泄量と糸球体濾過量(GFR)によって,腎症の“臨床診断”を行っている.さらに,腎症の発症・進展阻止の観点から,より早期に腎症を診断し,治療を開始するため,また,腎・心血管疾患に対するハイリスク症例の早期同定のために,新たなバイオマーカーに関する知見も集積されてきている.

キーワード
糖尿病腎症、微量アルブミン尿、eGFR、Ⅳ型コラーゲン、尿中L-FABP

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細小血管障害と大血管障害
糖尿病性腎症の病理-機能との関連-
守屋 達美**  吉田 友紀*   岸原 絵梨子*   松原 まどか*

*北里大学健康管理センター **同教授

要  旨
 糖尿病性腎症(腎症)の典型的な糸球体組織所見は,古くから指摘されているメサンギウム拡大,糸球体基底膜(GBM)の肥厚である.腎症病期分類2014の“正常アルブミン尿期(第1期,腎症前期)”は,臨床的には腎症が存在しない時期と定義されているが,実際には糸球体および尿細管間質・細動脈の病理組織学的変化が存在しうる.臨床家にとっての病理組織における重要事項は,腎症の初期,特に正常アルブミン尿期で慢性腎臓病(CKD)の有無による組織病変の差異,腎症組織は寛解(remission)するか,組織から機能変化の推察(逆もある),どのような組織の患者が将来悪化するのか,ほかの血管合併症(含網膜症)との関連は,など,腎症早期の腎組織と機能の関連である.

キーワード
糖尿病性糸球体硬化症、糸球体基底膜肥厚、メサンギウム拡大、腎組織・機能連関、糖尿病性網膜症

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細小血管障害と大血管障害
糖尿病性腎症の病期分類と最新の治療戦略
馬場園 哲也**  山下 真平*   竹村 俊輔*   吉田 宣子*   豊永 愛子*

*東京女子医科大学糖尿病センター内科 **同准教授
要  旨
 糖尿病性腎症病期分類 2014 が策定され,第1期から第3期をアルブミン尿の程度に加え推算糸球体濾過量(eGFR)30mL/分/1.73m2 以上,第4期をアルブミン尿の程度にかかわらず eGFR 30mL/分/1.73m2 未満と定義され,第5期は旧分類同様透析導入後とされた.腎症はその発症予防が治療の中心であるが,第2期以降は厳格な血糖管理に加え,レニン・アンジオテンシン(RA)系抑制薬を中心とした降圧療法が,進展を阻止するうえで極めて重要である.

キーワード
糖尿病腎症、慢性腎臓病(CKD)、アルブミン尿、eGFR

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細小血管障害と大血管障害
糖尿病網膜症の病態と最新の治療
北野 滋彦

東京女子医科大学糖尿病センター眼科 教授
要  旨
 全世界的に,糖尿病患者は増加の一途をたどっている.糖尿病患者数の増加により,糖尿病の慢性合併症である糖尿病網膜症による失明も増えていることが推測される.糖尿病網膜症や糖尿病黄斑浮腫の発症・進展には,ほかの糖尿病合併症と同様に,血糖コントロールと罹病期間が大きく関与していることが明らかにされている.近年の血糖コントロールを始めとした内科的管理の向上に加えて,眼科的治療の進歩があり,糖尿病網膜症により失明に至るケースは年々減少している.一方,中等度の視力障害を来す糖尿病黄斑浮腫は,糖尿病網膜症の一病型であって,増加傾向にある.2014年2月より糖尿病黄斑浮腫に対して,抗血管内皮成長因子(VEGF)療法の適応が拡大され,今後のその臨床効果が期待されている.

キーワード
糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜光凝固、小切開硝子体手術、抗VEGF療法

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細小血管障害と大血管障害
糖尿病末梢神経障害の早期診断と介入
馬場 正之
青森県立中央病院神経内科 医療顧問

要  旨
 糖尿病末梢神経障害(DPN)は,すべての糖尿病患者に不可避の合併症である.感覚異常を訴える糖尿病患者は20%程度に過ぎず,大半のDPNは無症状のまま,潜行性に進行する.重症化したDPNは足病変形成や生命予後を短縮させるので,症状を訴えない患者においてこそ,足部の感覚・自律・運動,各神経の障害徴候把握が重要である.神経伝導検査は神経障害診断の gold standard と位置づけられ,客観的障害度の把握に有効である.

キーワード
末梢神経障害、神経症状、神経徴候、重症度、神経伝導検査

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細小血管障害と大血管障害
神経障害に伴う疼痛
真田  充*1  安田  斎*2
*1金沢医科大学神経内科 講師 *2一般財団法人滋賀保健研究センター

要  旨
 糖尿病には種々の末梢神経障害が合併する.その臨床症状は多彩であるが,我慢のできない“疼痛”は有痛性糖尿病神経障害と呼ばれ,早急な管理・治療が必要となる場合が多い.
 本稿ではプレガバリン,デュロキセチンを中心とした,最近の治療動向について概説する.また強い疼痛を伴うことの多い,治療後有痛性神経障害および糖尿病筋萎縮症と,その特殊な病態・特異的な治療法についても解説する.

キーワード
有痛性糖尿病神経障害、プレガバリン、デュロキセチン、治療後有痛性神経障害、糖尿病筋委縮症

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細小血管障害と大血管障害
糖尿病自律神経障害の特徴と治療
佐々木 秀行
和歌山県立医科大学附属病院紀北分院内科 教授

要  旨
 糖尿病自律神経障害(DAN)の多くは,典型的全身性多発神経障害の部分症状だが,治療後有痛性神経障害でも発症する.無症状 DAN はメタボリックシンドロームや初期2型糖尿病でも見られ,動脈硬化症の危険因子である.明らかな DAN は病変進行例で見られ,重症例ではQOLや生命予後が悪化する.自覚症状は診断の契機になるが,起立血圧試験や心拍変動検査での確認を要する.これらの検査を定期的に実施し,早期診断に努めることが重要である.

キーワード
糖尿病自律神経障害、治療後有痛性神経障害、自覚症状、心拍変動検査、起立性低血圧

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細小血管障害と大血管障害
インクレチンと糖尿病神経障害
姫野 龍仁*   神谷 英紀**  中村 二郎***
*愛知医科大学医学部内科学講座糖尿病内科 **同准教授 ***同教授

要  旨
 インクレチン,すなわちグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)とグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)は,それぞれ中枢および末梢神経系において神経保護作用を示すことが,げっ歯類を用いた実験で示されている.中枢神経系では,アルツハイマー病やパーキンソン病において,GLP-1の有効性が示唆されている.末梢神経系では,GLP-1の糖尿病神経障害の改善効果が確認されている.GIPは,記憶や知覚機能に影響すると考えられている.臨床試験は現在進行中であり,今後の展開が期待される.

キーワード
インクレチン、GLP-1、GIP、糖尿病神経障害、DPP-4阻害薬

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細小血管障害と大血管障害
糖尿病と冠動脈疾患
庄司 哲雄
大阪市立大学大学院医学研究科老年血管病態学 准教授

要  旨
 糖尿病は冠動脈疾患の高リスク病態で,慢性の高血糖,脂質異常症,高血圧,糖尿病腎症の影響などが,リスク上昇に関与している.個々のリスク因子への介入によって,冠動脈疾患やそれを含む心血管疾患発症リスクが低下するので,包括的リスク管理が重要である.
キーワード
糖尿病、冠動脈疾患、疫学、介入試験、診療ガイドライン

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細小血管障害と大血管障害
糖尿病足病変
河野 茂夫
国立病院機構京都医療センターWHO 糖尿病協力センター センター長

要  旨
 糖尿病足病変に罹患する患者が増加している.糖尿病足病変は一般に難治性であり,高い下肢切断率や再発率が特徴として挙げられる.患者へのフットケア教育,足のアセスメントと足病変発症予防のためのフットケアを定期的に行い,足病変を発症させないことが最も重要である.発症後は成因と重症度を明らかにし,集学的なチーム医療を迅速に行うことにより,切断から足を守ることが必要となる.

キーワード
糖尿病足病変、足潰瘍、足壊疽、フットケア

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糖尿病急性合併症
糖尿病における急性代謝失調
島田  朗
東京都済生会中央病院糖尿病・内分泌内科 担当部長

要  旨
 糖尿病ケトアシドーシス(DKA)を疑うポイントは,意識レベルの低下,悪心,嘔吐,といった症状であり,高血糖(250mg/dL以上),重炭酸の低下(15mEq/L以下),血中,尿中のケトン体の上昇を伴うアシドーシス(pH7.2以下)を認めれば,DKAとして対応する.治療の基本は,補液(原則は,生理食塩水),インスリン療法(持続静脈内投与),電解質の補充(主としてカリウムの補給),である.

キーワード
糖尿病ケトアシドーシス、高血糖高浸透圧症候群、急性代謝失調、インスリン療法、1型糖尿病

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糖尿病急性合併症
重症低血糖と心血管リスク
辻本 哲郎
国立国際医療研究センター病院糖尿病内分泌代謝科

要  旨
 糖尿病患者における重症低血糖は,その後の心血管疾患や死亡リスクを上昇させる可能性が指摘されている.1型糖尿病において重症低血糖は“dead-in-bed syndrome”と関連し,2型糖尿病において重症低血糖は心血管疾患と関連することが報告されている.1型と2型糖尿病における重症低血糖の病態が徐々に解明されてきており,重症低血糖と心血管リスクに関する最近の知見も含め,概説する.

キーワード
重症低血糖、1型糖尿病、2型糖尿病、心血管リスク

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糖尿病急性合併症
乳酸アシドーシスとビグアナイド薬
長坂 昌一郎
昭和大学藤が丘病院糖尿病・代謝・内分泌内科 教授

要  旨
 乳酸アシドーシスは,乳酸の産生過剰や代謝低下により血中乳酸濃度が上昇し,代謝性アシドーシスを来した病態である.多くはショックや腎障害に伴って発症する.乳酸アシドーシスは糖尿病に特異的な合併症ではないが,糖尿病患者において,ビグアナイド薬投与と関連して発症しうることが知られている.メトホルミンによる乳酸アシドーシス発症リスクは,禁忌症例などに投与されなければ,メトホルミン非投与患者と差異がない.

キーワード
乳酸、ピルビン酸、メトホルミン、フェンホルミン、TCA回路

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糖尿病急性合併症
糖尿病患者に特有の感染症
小泉 祐介*1*2  山岸 由佳**1**2 三鴨 廣繁***1***2
*1愛知医科大学病院感染症科 講師 **1同准教授 ***1同教授
*2愛知医科大学病院感染制御部 講師 **2同准教授 ***2同教授

要  旨
 糖尿病患者では,組織ブドウ糖濃度の上昇や好中球機能の低下,虚血,神経障害の影響などから健常者と比べて感染症の発生頻度が高い.特に,足潰瘍を含む皮膚軟部組織感染症や気腫性腎盂腎炎,気腫性胆D炎,悪性外耳道炎など,糖尿病特有の感染症病態があり,病原体も嫌気性菌や接合菌など健常者とやや異なる.また,近年登場したさまざまな新規糖尿病薬が尿路・性器感染症を増加させると報告されており,注意を要する.

キーワード
好中球機能障害、気腫性腎盂腎炎、糖尿病の足感染、嫌気性菌、カンジダ症、接合菌症

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糖尿病に多く見られる併発症
歯周病と糖尿病の関連
成瀬 桂子
愛知学院大学歯学部内科学講座 准教授

要  旨
 糖尿病患者における歯周病は,高い罹患率と重症化を特徴とし,糖尿病合併症の1つである.糖尿病と歯周病の関連は双方向性である.血糖コントロールが不良であるほど,重症歯周病の罹患率が高く,歯周病がより進行するリスクが高い.一方で,歯周病有病者は糖尿病発症リスクが高い.歯周病による慢性炎症は,糖尿病の病態に悪影響を及ぼしていると考えられ,糖尿病合併症にも影響する可能性があり,定期的な歯周病検査と適切な治療が望まれる.

キーワード
糖尿病、糖尿病合併症、歯周病、歯周炎

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糖尿病に多く見られる併発症
糖尿病患者における認知機能障害
横野 浩一
北播磨総合医療センター 病院長

要  旨
 高齢者における認知症の頻度は増加するとともに,将来の予測値も著明に上方修正されている.その増加の最大の要因に,糖尿病の存在が挙げられる.特に,糖尿病による脳血管性認知症(VD)の増加に加え,今や認知症の最大の原因であるアルツハイマー病(AD)との関連が,最近特に注目されている.その成因には低血糖を始めとする多くの因子が関与しているが,メタボリックシンドロームや軽症糖尿病に認められるインスリン抵抗性が,AD発症とかかわる機序が提唱されている.さらに,糖尿病からのADへのアプローチが新たな治療法の開発につながる可能性も示唆されている.加えて,高齢者糖尿病の治療目標に,認知機能を考慮したコントロール基準が設定されるようになってきた.

キーワード
アルツハイマー病、脳血管性認知症、低血糖、インスリン抵抗性、高齢者糖尿病の血糖コントロール

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糖尿病に多く見られる併発症
糖尿病と骨粗鬆症
山本 昌弘*   杉本 利嗣**
*島根大学医学部内科学講座内科学第一 講師 **同教授

要  旨
 糖尿病患者では,骨密度から予測される以上に骨折リスクが高い.骨コラーゲンの過剰糖化や,骨形成刺激の低下,骨代謝回転の低下,細くて多孔化した骨形状により,骨質が低下し骨脆弱性が亢進すると考えられている.現在,骨折予防を証明した骨粗鬆症治療薬は不明であるが,骨代謝への影響を考慮して糖尿病治療薬を選択し,良好な血糖状態を維持することが,骨折予防に有効である可能性がある.

キーワード
骨質、ペントシジン、骨代謝回転、多孔化、チアゾリジン

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糖尿病に多く見られる併発症
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)
本多  靖*   今城 健人*   藤田 浩司* 米田 正人*   中島  淳**
*公立大学法人横浜市立大学医学部肝胆膵消化器病学 **同主任教授

要  旨
 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は,メタボリックシンドロームの肝臓での表現型とされ,肥満や糖尿病はNAFLDの発症や進展に重要である.糖尿病患者の30~40%に肝障害を認め,その多くがNAFLDである.NAFLDは肝硬変,肝細胞がんを発症しうる疾患であり,脳・心血管疾患など,全身疾患の発症にも関与する.糖尿病を合併している場合にはそのリスクがさらに高く,糖尿病診療においては,脳・心血管イベントのみならず,肝疾患にも十分に留意する必要がある.

キーワード
NAFLD、NASH、メタボリックシンドローム、糖尿病、非B非C肝がん

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糖尿病に多く見られる併発症
糖尿病とがんの関連性
能登  洋*1*2
*1聖路加国際病院内分泌代謝科 医長 *2東京医科歯科大学医学部 臨床教授

要  旨
 2型糖尿病では,がんのリスクが増加することが国内外で注目されている.2型糖尿病でがんのリスクが増加する機序として,高インスリン血症・高血糖などの関与が提唱されている.2型糖尿病でのがんのリスク低下策として,減量・禁煙・運動の励行が推奨される.さらに,糖尿病治療薬として,メトホルミンの発がん予防効果が期待されている.

キーワード
発がん、がん死、メタアナリシス、交絡因子、がん検診

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糖尿病に多く見られる併発症
糖尿病におけるレニン・アンジオテンシン系亢進のメカニズムとその対策
小川  晋*1*2
*1東北大学病院腎・高血圧・内分泌科 *2東北大学高度教養教育・学生支援機構学生支援開発部門臨床医学開発室 准教授

要  旨
 糖尿病においてはレニン・アンジオテンシン系(RAS)が亢進し,その亢進は食塩感受性,高血圧,臓器障害など,多くの病態に関与している.糖尿病では高血糖,インスリン抵抗性,高インスリン血症などにより,心腎血管など多くの臓器において活性酸素(ROS)が発生する.ROSはRASを亢進させ,RASはROSを増大するという悪循環を形成し,ROSもRASも飛躍的に増大していき,臓器障害に至ると考えられている.

キーワード
レニン・アンジオテンシン系、糖尿病、インスリン、食塩感受性、高血圧

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糖尿病に多く見られる併発症
糖尿病と心理状態およびうつ病
石井  均
奈良県立医科大学糖尿病学講座 教授

要  旨
 糖尿病患者の心理状態は,自己管理の程度や血糖コントロールに影響する.特にうつ病の合併は種々の糖尿病合併症のリスクを高める.最近,認知症のリスクも高まることが報告されている.うつ病は,発見すれば治療可能な病態であるが,全般的な心理状態も含めて,診察室で医療者から評価されていることが少ない.糖尿病患者の心の状態を評価することは臨床的に必須であり,質問紙などを適切に用いることも助けになる.

キーワード
うつ病、心理社会的状況、糖尿病

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糖尿病に多く見られる併発症
睡眠時無呼吸症候群
本庶 祥子
公益財団法人田附興風会医学研究所北野病院糖尿病内分泌センター

要  旨
 閉塞性睡眠時呼吸障害は,高血圧や心血管疾患のリスクと関連しており,2型糖尿病においても,肥満とは独立して関連が示されている.睡眠呼吸障害(SDB)における間欠的低酸素(IH)や睡眠の断片化が,インスリン抵抗性にかかわり,耐糖能に影響していると考えられている.2型糖尿病患者における閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の診断と治療が,糖尿病患者の予後を改善するうえで重要な課題である.

キーワード
睡眠呼吸障害、閉塞性睡眠時無呼吸、インスリン抵抗性、糖尿病

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