最新醫學 70巻8号 
特集 心筋再生の現状と展望


要  旨


座談会
 心筋再生医療の今後の展望

京都大学            山下 潤
大阪大学              福嶌 五月
慶應義塾大学            福田 恵一 (司会)

 座談会の内容
 ・心筋再生医療の現状
 ・iPS細胞は自家か他家か?
 ・心筋細胞の移植方法
 ・心筋細胞移植の対象疾患
 ほか
 
   福嶌先生      福田先生      山下先生

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臨床応用へ向けた再生医療用 iPS 細胞樹立法

関 倫久*1*2   福田恵一**2
*1 慶應義塾大学医学部救急科 *2 同循環器内科 **2 同教授

要  旨
 現在のところ,iPS細胞の臨床応用へ向けたプロジェクトが数多く進行しており,すでに加齢黄斑変性症に対するヒトでの治験も開始され,実際にヒトへのiPS細胞由来の再生組織の移植が行われている.今後,多くの分野でiPS細胞由来の細胞または組織を用いた移植医療が進んでいくと考えられる.現在,iPS細胞治療に関する安全性の確保という面から,より安全なiPS細胞の樹立方法,より安全なiPS細胞株の選抜方法について多くの議論がなされている.質の高いiPS細胞,または臨床応用に適したiPS細胞を作製,選抜するために何が重要視されるべきなのかについては,今後さらなる発展が期待される研究分野である.本稿では,これらの話題に関する現状を踏まえ,現在までのiPS細胞の樹立方法の改善の経緯および将来的な展望について概説する.

キーワード
iPS細胞、移植、再生医療、樹立法、安全性

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iPS 細胞からの心筋細胞誘導法

山下 潤*
* 京都大学 iPS 細胞研究所/再生医科学研究所 教授

要  旨
 多能性幹細胞の心筋細胞誘導能は,組織幹細胞等に比べ圧倒的に優れており,「多能性幹細胞ならば真の心臓再生をもたらしうる」と期待されている.また,ヒトiPS細胞由来心筋細胞は,創薬研究応用をはじめとしたさまざまな細胞モデルとしての有用性も大きい.ヒト多能性幹細胞からの心筋細胞分化技術はある程度成熟しつつあり,今後は目的に合わせた種々の品質の細胞の誘導が求められるだろう.

キーワード
心筋細胞、iPS細胞、細胞治療、疾患モデル、創薬

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心筋細胞の大量培養

阪本 覚*1*2 松浦勝久**1**2
*1 東京女子医科大学先端生命医科学研究所 **1 同准教授 *2 同循環器内科 **2 同特任講師

要  旨
 効果的かつ安全な再生医療の実現に向けた課題が山積している中,質・量ともに十分な目的細胞の確保は,第一に解決すべき課題である.心臓再生医療において最も重要である心筋細胞の確保に関しては,ES/iPS 細胞から心筋細胞への分化誘導法に関する世界的な知見集積により可能性が示されている一方,十分量を供給するための大量培養技術も実用化に不可欠である.本稿では,我々が開発している iPS 細胞大量培養技術を基盤に,心筋再生の大量培養に関して概説する.

キーワード
三次元浮遊撹拌培養、大量培養、iPS細胞、心筋細胞、再生医療

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ヒト iPS 細胞由来分化細胞における未分化幹細胞除去と心筋純化精製
遠山周吾*

* 慶應義塾大学医学部循環器内科

要  旨
 ヒトiPS細胞は,さまざまな細胞に分化する能力を有する万能細胞であり,心臓領域のみならずさまざまな領域における再生医療の実現化に向けて着々と研究が進められている.その一方で,多分化能を有するがために残存未分化幹細胞や目的とする細胞以外の細胞が混在してしまい,腫瘍形成を来すことが問題となっている.したがって,腫瘍形成を来さない安全な移植細胞を作製することが求められている.安全な移植細胞を作製するために,大きく分けて2つのアプローチがある.その1つは「未分化幹細胞のみを効率良く取り除く手法」,もう1つは「目的とする細胞のみを効率良く回収する方法」である.本稿では,これらの手法に関する筆者らのアプローチや最近の知見も含めて紹介する.

キーワード
iPS細胞、代謝、未分化幹細胞除去、純化精製、再生医療

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ヒト iPS 細胞由来心筋細胞の長期培養における成熟化

牧山 武*1  鎌倉 令*1*2
*1 京都大学大学院医学研究科循環器内科学 *2 国立循環器病センター心臓血管内科部門不整脈科

要  旨
 ヒト iPS 細胞は,移植治療,疾患の病態解明への有用性が期待され,現在,非常に盛んな研究が行われている.ヒトiPS細胞由来分化心筋は,成人心筋に比べて未熟であることが研究応用への妨げとなっており,今回我々は,1年までの長期接着培養における組織学的,遺伝子発現の成熟化を検討した.電子顕微鏡を用いた解析では,経時的にサルコメアの緻密化,A,H,I帯の形成を認めた.しかし成熟心筋に見られるM帯に関しては,1年の長期培養にてようやく認められたが,一部の心筋のみであった.M帯関連タンパク質は,ヒト成人心筋に比べて遺伝子発現が低く,組織学的所見と合致した.本研究では,初めてM帯を形成したiPS細胞由来分化心筋を認めたが,成熟化は緩徐で不完全であり,より効率的な成熟化法の開発が期待される.

キーワード
ヒトiPS細胞、心筋、成熟化、電子顕微鏡、長期培養

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細胞シート工学による心筋組織構築
本間 順*   清水達也**

* 東京女子医科大学先端生命医科学研究所 ** 同教授

要  旨
 心筋再生研究が徐々に臨床応用されつつあり,一定の治療効果が報告されているが,効果は限定的で,改善の余地は多い.近年,組織工学的手法を用いた心筋再生の研究が進み,中でも細胞シート工学は,scaffoldを用いないという点で世界的に注目を集めている.この細胞シート工学を用いた血管付三次元心筋組織で,心臓のポンプ機能を直接補う次世代の心筋再生医療を実現すべく研究が進んでいる.    

キーワード
細胞シート、組織工学、心不全、心筋再生医療

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心不全における細胞シート法のトランスレーショナルリサーチ
宮川 繁*

* 大阪大学大学院医学系研究科免疫再生制御学講座 特任准教授

要  旨
 重症心不全治療として最も重要な治療法である心臓移植は,極めて深刻なドナー不足であり,新しい移植法案が可決されたものの,欧米レベルの汎用性の高い治療法としての普及は困難が予想される.一方,左室補助人工心臓(LVAD)については,日本では移植待機期間が長期であるため,感染症や脳血栓などの合併症が成績に大きく影響している.このような状況を克服するため,世界的に再生医療への期待が高まっているが,重症心不全を治癒させるまでには至らず,心臓移植やLVADに代わる新しい治療法開発が急務である.このような現状の中,重症心不全においては,細胞移植,組織移植,また再生医療的手法を用いた再生創薬の研究が進み,臨床応用化が進んでいる.本稿では,細胞シートを用いた心不全治療の試みに関して紹介するとともに,今後の展望に関して概説する.

キーワード
心不全、再生医療、細胞シート

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心筋細胞塊による効率的移植方法「ボール法」の確立と展開
服部文幸*1*2

*1 慶應義塾大学医学部循環器内科 講師(非常勤) *2 アスビオファーマ株式会社 主任研究員

要  旨
 心筋細胞移植による心臓再生医療の実現のためには,生着率の向上が必要である.我々は低い生着率の原因を調査し,多くの心筋細胞が移植直後から心臓外へ流出する現象を見いだした.さらに,この現象は線維芽細胞と比較して心筋細胞で顕著であったことから,心筋細胞の特性こそが一因である可能性が考えられた.そこで我々は,心筋細胞らしさを逆に利用することで移植生着性を高める方法を考案した.心筋細胞塊による効率的移植方法,いわゆる「ボール法」である.このボール法は,心筋細胞が移植後に心臓外へ流出することを抑制し,かつ長期間の生着を可能とした.本稿では,まずこのボール法の開発経緯を記述する.さらに,ボール法を用いた,非ヒト霊長類,コモンマーモセットにおける心筋梗塞治療への試みを紹介する.また,最新の医工学的手法との連携を示す.

キーワード
心臓再生、ヒトiPS細胞由来心筋細胞、細胞移植治療

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バイオ 3D プリンターで立体造形したScaffold Free の血管組織構築
伊藤 学*1  中山功一*2  野出孝一*3 森田茂樹**1

*1 佐賀大学医学部胸部・心臓血管外科 **1 同教授 *2 同臓器再生医工学講座 教授 *3 同循環器内科 教授
要  旨
 iPS細胞の樹立以後,拒絶の心配がない自己の細胞を用いた立体組織・臓器再生への期待が高まっている.任意のXYZの位置に複数の細胞を配置するロボットシステム「バイオ3Dプリンター」により,三次元データと細胞を投入することで,生きた細胞による立体的な構造体を作ることが可能となった.足場(scaffold)を含まず,細胞だけで機能的な血管構造体を構築し,外科的血行再建への応用に向けて研究・開発に取り組んでいる.
キーワード
バイオ3Dプリンター、再生医療、組織工学、小口径人工血管、血行再建術

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iCM 細胞の樹立と臨床応用への展望
家田真樹*

* 慶應義塾大学医学部循環器内科 専任講師
要  旨
 体の組織を構成する細胞の運命は発生過程で決定され(プログラミング),細胞は一度分化すると元の未分化な状態や他の系列の細胞には変化しないと長年考えられてきた.しかしながら,細胞運命の再編成(リプログラミング)に関する最近の目覚ましい研究成果により,細胞内の遺伝子発現や環境(培養条件)を人為的に操作することで,ある細胞を全く別の細胞に直接転換できることが明らかとなってきた(ダイレクトプログラミング).本稿では,心筋リプログラミングの発見と,この新しい技術を用いた革新的医療創生に向けた展望について述べる.

キーワード
ダイレクトプログラミング、心臓再生、繊維芽細胞

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iPS 細胞を用いた遺伝性不整脈の病態解明と創薬
湯浅慎介*

* 慶應義塾大学医学部循環器内科 講師

要  旨
 ヒトiPS細胞は,患者から容易に作製することができる多能性幹細胞である.iPS細胞はゲノムにコードされた遺伝情報を受け継いでおり,遺伝性疾患の病態解明と新規治療方法の開発に向けた疾患モデル作製として,患者特異的iPS細胞研究が盛んに行われている.未解決であった病気の原因解明や,同細胞を用いたドラッグスクリーニング等により,新規治療方法の開発が期待されている.本稿においては不整脈疾患に関して概説する.

キーワード
iPS細胞、遺伝性不整脈、疾患モデル

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患者(疾患)特異的 iPS 細胞を用いた肥大型心筋症の疾患モデリング研究
田中敦史*
* 佐賀大学医学部循環器内科

要  旨
 肥大型心筋症(HCM)は,心筋のサルコメアを構成するタンパク質の遺伝子変異に起因し,心筋の構造的異常から心機能障害や不整脈を来す心筋疾患である.原因遺伝子の同定以降,遺伝子改変動物モデルによる多くの分子遺伝学的な知見が得られてきたが,実臨床におけるHCMの患者像は多様性に富んでおり,ヒトでの解析モデルが求められている.そこで,患者の遺伝情報を引き継ぐ患者(疾患)特異的iPS細胞を用いた病態解析が複数報告されている.

キーワード
肥大型心筋症、患者(疾患)特異的iPS細胞、疾患表現型解析、カルシウムイオン、エンドセリン-1

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iPS 細胞を用いた拡張型心筋症の病態解析
伊藤正道*   内藤篤彦*   小室一成**
* 東京大学大学院医学系研究科循環器内科学 ** 同教授

要  旨
 iPS細胞は,由来となる分化体細胞と同一のゲノムを有するという特性を生かし,疾患モデリングのツールとしての利用が期待されている.循環器領域では,遺伝性の拡張型心筋症の患者からiPS細胞を作製し,分化誘導した心筋細胞を健常人と比較することで,疾患発症のメカニズムの解明や新規治療薬の候補の探索を目指す研究が行われている.また,薬剤の心毒性や催不整脈性の検出においても,疾患iPS細胞由来心筋細胞の有用性が報告されている.

キーワード
iPS細胞、拡張型心筋症、心毒性試験

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痛みのClinical Neuroscience
(2)痛みの概念を歴史から振り返る
小山 なつ* 等   誠司**

*滋賀医科大学 生理学講座 准教授   **同教授

要  旨
 国際疼痛学会(IASP)は,1979年に痛みの定義と注釈を発表した.定義には「組織損傷,言葉,不快な感覚・情動体験」,注釈には「主観,学習,心理的な理由で生じる痛み」といったキーワードがあり,純粋な医学・生物学的な痛みの概念とは一線を画すものであった.IASPの定義に影響を及ぼした可能性のあるデカルトの「心身合一」とウィトゲンシュタインの「言語哲学」における痛みに焦点を当ててみた.

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連載
肉眼解剖学者がみたヒト大脳の立体構造

 脳の肉眼解剖学に40年間携わってこられた金沢医科大学・篠原治道先生による誌面講義の第5回は「外側からのアプローチ(2)最外包・前障・鈎状束・聴放線・レンズ核脚・下前頭後頭束葉」です。
 開業医、研修医、専門医の方々にもご興味やご関心をもって頂けるような内容となっています。


外側からのアプローチ(2)最外包・前障・鈎状束・聴放線・レンズ核脚・下前頭後頭束(本文より)

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連載
トップランナーに聞く(第54回)
ミスフォールドタンパク質/MHC クラスⅡ複合体による新たな自己免疫疾患の発症機構の解明

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
  第54回はMHC分子のミスフォールデングと自己免疫疾患との関係を解明されている大阪大学の荒瀬 尚 先生にお話を伺いました。

 荒瀬 尚  先生

 免疫システムは病原体等に対する生体防御を担っています。従って、免疫と病原体との宿主病原体相互作用について今まで解析してきました。その結果、病原体の免疫逃避機構や病原体に対する抵抗性機構を明らかにしてきました。もともとMHCや自己免疫疾患を解析してきたのではありませんが、これらの解析から偶然にもMHCクラスII分子を介した自己免疫疾患の発症機序が明らかになってきました。

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連載
ノーベル賞と医学の進歩・発展

 68巻10号からノーベル賞の対象となった業績やその業績が現在どのような恩恵をもたらしているかについて、各領域の専門家の先生方に詳しいご解説をお願いしております。

第32回は京都中央診療所所長・長井 苑子 先生による「副腎皮質ホルモン(コルチコステロイド)の発見の歴史」です。

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トピックス
咳喘息の最新の話題
新実彰男*

* 名古屋市立大学大学院医学研究科呼吸器・免疫アレルギー内科学 教授

要  旨
 咳喘息は,咳のみを症状とする喘息の亜型であり,本邦での慢性咳嗽の最多の原因疾患である.咳喘息の最近のトピックスとして,従来より理解されてきた好酸球性炎症に加えての好中球性炎症の合併が重症化に関連する可能性,アレルギー性鼻炎合併の頻度と臨床的意義,近年増加が指摘される胃食道逆流症(GERD)が高頻度に合併し病態に寄与する可能性,慢性咳嗽に関する新たな概念である cough hypersensitivity syndrome について紹介する.

キーワード
咳喘息、炎症サブタイプ、胃食道逆流症、アレルギー性鼻炎、cough hypersensitivity syndrome

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トピックス
C5 遺伝子多型と発作性夜間血色素尿症(PNH)治療薬エクリズマブに対する反応不良
西村純一*

* 大阪大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科学 講師

要  旨
 発作性夜間血色素尿症(PNH)に対する治療薬エクリズマブ投与を受けた日本人PNH患者の一部に,溶血所見が改善しない不応症を認めた.全例でC5のミスセンスヘテロ接合性変異c.2654G>Aを認め,p.Arg885Hisが予測された.変異型C5は野生型C5とともに溶血活性を保持していたが,野生型C5のみエクリズマブと結合し,阻害を受けた.この in vitro 溶血は,エクリズマブと異なるC5結合エピトープを有する N19/8 抗体を用いると,野生型 C5,変異型C5ともに阻害され,エクリズマブ不応症の機序を説明し得ることが示された.

キーワード
発作性夜間血色素尿症、補体介在性溶血、エクリズマブ、遺伝子多型

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平成26年度 井村臨床研究奨励賞受賞記念論文
次世代ゲノム解析,次世代タンパク解析技術を利用し心血管エピゲノム解析による創薬標的分子探索研究
朝野仁裕*

* 大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学

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