最新醫學 70巻9号 
特集 変貌するウイルス肝炎治療:最新知見とさらなる課題


要  旨


座談会
 新しい時代に入ったウイルス肝炎治療

信州大学           田中 榮二
広島大学           茶山 一彰
北海道大学          坂本 直哉 (司会)

 座談会の内容
 ・ウイルス培養系
 ・疫学
 ・抗ウイルス療法の現状
 ・C型肝炎治療の変化
 ・残されたアンメットニーズ
 ほか
 
  茶山先生    田中先生        坂本先生

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肝炎ウイルス総論:基礎・疫学・臨床の接点
C型肝炎ウイルス感染培養系から抗ウイルス薬へ

脇田隆字*
* 国立感染症研究所 副所長

要  旨
 C型肝炎ウイルス(HCV)は1989年に発見された.HCVは肝臓に持続感染し,長期間の感染を経て肝硬変,肝臓がんを発症させるため,抗ウイルス療法の開発が望まれてきた.インターフェロンとリバビリンによる治療が長く臨床で用いられてきたが,近年,直接作用型抗ウイルス薬(DAA)と呼ばれる抗ウイルス薬によりHCVの治療は画期的に改善した.HCVの培養増殖実験系により,抗ウイルス薬感受性や耐性ウイルスが解析可能である.さらに,新規抗ウイルス薬のスクリーニングが可能となる.

キーワード
直接作用抗ウイルス薬(DAA)、プロテアーゼ阻害薬、ポリメラーゼ阻害薬、ウイルス生活環、薬剤耐性変異

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肝炎ウイルス総論:基礎・疫学・臨床の接点
ヒト肝細胞キメラマウスを用いた抗ウイルス薬の薬効評価と臨床応用

今村道雄**   平賀伸彦*  茶山一彰***
* 広島大学大学院医歯薬保健学研究院消化器・代謝内科学 ** 同講師 *** 同教授

要  旨
 直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の登場により,C型慢性肝炎に対する抗ウイルス療法の安全性,有効性は飛躍的に向上した.DAAの薬効評価には,動物モデルを用いた検討が有用である.ヒト肝細胞キメラマウスは肝臓が高度にヒト肝細胞に置換されたマウスであり,C型肝炎ウイルス(HCV)の持続感染が可能である.HCV感染ヒト肝細胞キメラマウスはDAAの薬効評価に有用であり,本マウスを用いて,C型慢性肝炎に対するより有効性の高い治療法の開発が期待される.

キーワード
ヒト肝細胞キメラマウス、C型肝炎ウイルス(HCV)、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)、耐性変異

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肝炎ウイルス総論:基礎・疫学・臨床の接点
疫学的視点から見た肝炎ウイルス感染者の状況とその対策

田中純子*
* 広島大学大学院医歯薬保健学研究院疫学・疾病制御学 教授

要  旨
 我が国では,この 25 年間に肝炎対策基本法を基盤とした【検査,診断,治療】を見据えた肝炎・肝がん対策を進めてきた.2011年時点の肝炎ウイルスキャリア数は約 210~280万人,「感染を知らないまま社会に潜在しているキャリア」は77.7万人と推定されている.治療効果の高い新薬の導入と併せて,効果的な肝炎・肝がん対策をさらに実施していくために,肝疾患患者フォローアップシステムの構築等の地域連携が重要である.

キーワード
肝炎ウイルス感染者、肝炎ウイルスキャリア、肝炎対策基本法、肝がん、肝疾患診療支援ネットワーク

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B型肝炎の最新知見
HBs 抗原量と抗ウイルス効果,肝発がん
朝比奈靖浩*

* 東京医科歯科大学消化器内科・肝臓病態制御学 教授

要  旨
 従来HBs抗原は定性的に検査され,その存在はB型肝炎ウイルスの感染状態であることの診断に広く用いられてきた.近年HBs抗原の定量が高感度で可能になり,これを定量することは自然経過における病態の鑑別や抗ウイルス療法における効果判定,さらには発がんリスクの評価に有用であることが明らかとなってきた.また,B型慢性肝炎における抗ウイルス療法の長期治療目標はHBs抗原の陰性化であり,HBs 抗原の定量は診療上重要である.

キーワード
B型肝炎ウイルス(HBV)、HBs抗原、インターフェロン(IFN)、核酸アナログ、肝がん

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B型肝炎の最新知見
核酸アナログ製剤による抗ウイルス療法の現況

鈴木文孝*
*1 京都大学大学院医学研究科循環器内科学 *2 国立循環器病センター心臓血管内科部門不整脈科

要  旨
 B型慢性肝炎に対する核酸アナログ製剤の長期的効果について検討した.ラミブジンは長期投与にて耐性ウイルスが高率に出現する.ラミブジン耐性ウイルスに対するアデホビルの併用療法の長期的効果は高い.少数例で多剤耐性ウイルスの出現を認め,抗ウイルス効果が減弱する.核酸アナログ未使用例に対しては,エンテカビルまたはテノホビルが第1選択となる.いずれの治療も高い抗ウイルス効果を認め,耐性ウイルスの出現率は低い.また,核酸アナログ不応例ではテノホビルとラミブジンまたはエンテカビルの併用療法が有効である.

キーワード
B型肝炎、エンテカビル、テノホビル、アデホビル、ラミブジン

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B型肝炎の最新知見
B型肝炎再活性化の現状と対策
持田 智*

* 埼玉医科大学消化器内科・肝臓内科 教授

要  旨
 HBVが肝細胞に感染すると,その複製過程でcccDNAが形成され,キャリアのみならずHBs抗原陰性の既往感染例でもこれが核内に残存している.このためHBV感染例は,免疫抑制・化学療法を実施するとウイルス増殖が活発になり,これに起因する肝炎を発症する場合がある.HBV既往感染例のウイルス再活性化による肝炎をdenovoB型肝炎と称するが,劇症化する頻度が高く,予後不良である.厚生労働省研究班は2009年にその予防ガイドラインを発表し,これは日本肝臓学会のガイドラインに引き継がれたが,いまだ再活性化による急性肝不全症例は根絶できていない.    

キーワード
B型肝炎ウイルス(HBV)、cccDNA、劇症肝炎、de novo B型肝炎、核酸アナログ

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B型肝炎の最新知見
核酸アナログ時代のシーケンシャル療法の位置づけ
松本晶博*

* 信州大学医学部消化器内科 准教授

要  旨
 B型慢性肝炎に対する核酸アナログ治療は,予後の改善に大きく貢献しているが,HBVDNA の減少は見せかけであり,HBs 抗原や HB コア関連抗原で見ると,肝臓内のB型肝炎ウイルスの増殖を抑制する効果は限定的である.今後,HBs 抗原量減少を目標として,核酸アナログ中止時にペグインターフェロン(PEG-IFN)α2a 48 週長期投与を用いる,核酸アナログ/PEG-IFNα2a シーケンシャル療法の効果の検討が必要である.

キーワード
HBs抗原、核酸アナログ中止、HBコア関連抗原、cccDNA

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C型肝炎の最新知見
Direct Acting Antivirals(DAA)とインターフェロン併用・非併用プロトコール
須田剛生*   伊藤 淳*   坂本直哉**

* 北海道大学大学院医学研究科内科学講座消化器内科学分野 ** 同教授

要  旨
 DAAは大きく3クラス,プロテアーゼ活性を有するNS3タンパク質に対する阻害薬,HCVNS5Aタンパク質に対する阻害薬,そしてポリメラーゼ活性を有するNS5Bタンパク質に対する阻害薬の3つに分けられる.
インターフェロン(IFN)併用プロトコールとしては,本邦ではプロテアーゼ阻害薬併用プロトコールが行われ,IFNフリーの治療法ではプロテアーゼ阻害薬/NS5A 阻害薬併用療法,NS5B/NS5A 阻害薬併用療法が申請もしくは行われている.

キーワード
C型肝炎ウイルス(HCV)、Direct acting antivirals(DAA)、インターフェロン

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C型肝炎の最新知見
C型肝炎に対するプロテアーゼ阻害薬併用インターフェロン療法
平松直樹*

* 大阪大学大学院医学系研究科消化器内科学 講師
要  旨
 2011年に保険認可となった我が国初のDAAである第1世代プロテアーゼ阻害薬テラプレビルとペグインターフェロン(PEGミIFN),リバビリン(RBV)との3剤併用療法では,抗ウイルス効果は増強したが,高度の貧血への進行,重篤な皮膚病変の出現など,副反応の増強も認めた.第2世代プロテアーゼ阻害薬であるシメプレビルとPEGミIFN,RBVとの3剤併用療法は,バニプレビル3剤併用療法とともに現時点での第1選択薬であり,PEGミIFN+RBV併用療法に比し,副反応はほぼ同等で,著効率は初回治療例ならびに前治療再燃例で約9割,前治療無効例で4~5割に向上した.
キーワード
テラプレビル、シメプラビル、薬剤耐性変異、IL28B SNP

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C型肝炎の最新知見
第1世代インターフェロンフリー療法ダクラタスビル・アスナプレビル併用療法はC型肝炎治療の裾野を変えた
狩野吉康*

* 札幌厚生病院 第三消化器内科(肝臓内科)院長
要  旨
 ダクラタスビル・アスナプレビル併用療法は,日本初のインターフェロン(IFN)フリーのC型肝炎に対する抗ウイルス療法である.治療の認容性が高く,IFN 不適格例・不耐容例中心に高齢者に対して導入が進み,C型肝炎の抗ウイルス療法の裾野を広げている.NS5A領域の薬剤耐性ウイルスを有する症例では効果が減弱するが,薬剤耐性がなければ高い SVR 率が期待される.

キーワード
C型肝炎、ダクラタスビル、アスナプレビル、インターフェロンフリー、薬剤耐性変異

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C型肝炎の最新知見
遺伝子型 1・2 型に対する NS5B ポリメラーゼ阻害薬ソホスブビルを用いた IFN フリー経口抗 HCV 療法
是永匡紹*   溝上雅史**

* 国立国際医療研究センター肝炎・免疫研究センター ** 同センター長

要  旨
 世界では核酸型NS5Bポリメラーゼ阻害薬ソホスブビル(SOF)を使用するレジメンが標準的であり,併用する経口抗HCV薬やリバビリン(RBV)や投与期間が異なるものの,さまざまな遺伝子型で95%前後のウイルス排除率を示している.我が国でも,遺伝子型2(GT-2)に対してSOF(ソバルディ■)が2015年3月26日に承認,GT-1に対するSOFとNS5A阻害薬レジパスビル(LDV)も2015年7月3日に承認され,欧米治療とやっと肩を並べるに至った.本稿では,我が国で行われたGT-2に対するSOF/RBV,GT-1に対するLDV/SOF配合剤(ハーボニー■)の第Ⅲ相試験の治療成績と今後の課題について紹介する.

キーワード
C型慢性肝炎、ソホズブビル、レジパスビル、チェーンターミネーション、薬剤耐性変異株

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C型肝炎の最新知見
Direct Acting Antivirals(DAA)に対する薬剤耐性変異の問題と対策
坂本 穣*1*2 榎本信幸**2
*1 山梨大学医学部附属病院肝疾患センター長 *2 山梨大学医学部内科学講座第一教室(消化器内科) 准教授 **2 同教授

要  旨
 C型肝炎に対する DAA の進歩は著しく,現在NS3/4プロテアーゼ阻害薬,NS5A阻害薬,NS5Bポリメラーゼ阻害薬の3種の薬剤が使用可能である.しかしDAAは,特にインターフェロン(IFN)フリーの治療での薬剤耐性変異の問題がある.そこで,現在使用可能な薬剤の特性と薬剤耐性変異の意義について,十分な知識を持つことが必要である.

キーワード
NS3/4プロテアーゼ阻害薬、NS5A阻害薬、NS5Bポリメラーゼ阻害薬、薬剤耐性変異、個別化医療

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C型肝炎の最新知見
C型肝炎ウイルス治療後肝発がんの危険因子と血清マーカー
八橋 弘*
* 国立病院機構長崎医療センター臨床研究センター センター長

要  旨
 C型肝炎ウイルス(HCV)駆除によって肝がんの発生は抑制されるも,一部の例ではがん化する.インターフェロン(IFN)をベースにした治療でHCVを駆除した例での発がん例の特徴としては,①高齢者,②男性,③飲酒者,④脂肪肝合併例,⑤肝線維化進展例,⑥血小板数低下,⑦AFP高値例などが報告されている.そのような中でも,AFP値は未治療例,治療例での発がんリスクマーカーであり,治療後AFP非低下例はHCV排除後も依然として発がんリスクが高いことを前提に患者の経過観察を行うべきである.

キーワード
C型肝炎ウイルス(HCV)感染、自然経過、HCV排除、インターフェロン(IFN)治療、発がん防止

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C型肝炎の最新知見
残された課題 ―C型肝炎治療困難例への対策(非代償性肝硬変,肝移植後,透析例,HIV 合併など)―
上野義之*
* 山形大学医学部内科学第二講座 教授

要  旨
 近年の経口薬によるC型肝炎ウイルス(HCV)治療の進歩は著しく,大多数の患者では治癒を目指すようになった.これまで治療困難例であった非代償性肝硬変でも,末期以外の患者ではウイルス駆除の可能性が高くなり,また透析患者でも使用が可能なプロトコールが開発されている.さらに肝移植待機あるいは移植手術後でもウイルス駆除が報告され,HIVとの共感染例でも良好な効果が見込めるなど,治療困難例の割合は今後さらに減少することが見込まれる.

キーワード
非代償性肝硬変、腎不全、透析、肝移植、HIV

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痛みのClinical Neuroscience
(3)生物心理社会モデルから見た慢性痛への対応 ―諸外国の状況も含めて―
北原 雅樹

東京慈恵会医科大学附属病院ペインクリニック 准教授

要  旨
 こじれた慢性痛の治療には,従来の生物医学モデルでは歯がたたず,生物心理社会的モデルに基づいた治療が必要となる.そのような治療法の1つが学際的痛み治療であり,学際的痛み治療とともに,痛みについての教育,研究,広報も行う拠点が学際的痛みセンターである.諸外国のように,日本でも痛み治療を医療政策の中に位置づけ,国レベルで痛みに対応するシステムを早急に作る必要がある.

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連載
肉眼解剖学者がみたヒト大脳の立体構造

 脳の肉眼解剖学に40年間携わってこられた金沢医科大学・篠原治道先生による誌面講義の第6回は「外側からのアプローチ(3)上縦束・鉛直束・無名の白質層・矢状層と視放線」です。
 開業医、研修医、専門医の方々にもご興味やご関心をもって頂けるような内容となっています。


外側からのアプローチ(3)上縦束・鉛直束・無名の白質層・矢状層と視放線(本文より)

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連載
トップランナーに聞く(第55回)
蛍光イメージング法を用いた造血器腫瘍のex vivo/in vivo 研究

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
  第55回はイメージングの技術を使って多発性骨髄腫の髄外腫瘍や循環腫瘍細胞の研究をされているがん研有明病院の三嶋 雄二 先生にお話を伺いました。

 三嶋 雄二 先生

 私の研究のテーマは、造血器腫瘍を中心に、腫瘍の浸潤の機序、分子標的薬の作業機序や抵抗性の機序の解明であり、こういった基礎研究やトランスレーショナルリサーチから得られた知見から新しい治療ストラテジーの開発を目指しています。具体的には、臨床の生検や、circulating tumor cellsのpathophysiologyの解析やゲノム解析と、平行して動物モデルを用いたスクリーニング研究やバリデーション研究などを行なっています。 研究を行なう上で、さまざま現象をより直感的に理解することを重視して、生細胞イメージングやin vivoイメージング等を積極的に活用しています。イメージングは貴重な臨床由来の検体を無駄にすることなく多くの情報を得ること大きなアドバンテージであり、また私の研究は、汎用のイメージング機器を使用したものが中心で、他の研究者と成果を共有することが容易であることが特徴だと考えています。

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連載
ノーベル賞と医学の進歩・発展

 68巻10号からノーベル賞の対象となった業績やその業績が現在どのような恩恵をもたらしているかについて、各領域の専門家の先生方に詳しいご解説をお願いしております。

第33回は京都中央診療所所長・長井 苑子 先生による「糖質科学の進歩 ―ルイ・F・ルロワールの業績を中心に―」です。

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トピックス
タウイメージング
北村聡一郎*    島田 斉**

* 放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター分子神経イメージング研究プログラム ** 同主任研究員

要  旨
 タウタンパク質は神経細胞骨格を形成するタンパク質であり,アルツハイマー型認知症など神経変性疾患で異常リン酸化タウタンパク質の集積による神経原線維変化が重要な病理学的特徴として知られる.近年,タウPETイメージングにより,神経変性疾患の生体脳におけるタウタンパク質病変の評価を行うことが可能になってきている.今後,神経疾患や精神疾患での鑑別診断,病態生理の理解やタウタンパク質を標的とした新規創薬における薬効評価への応用が期待される.

キーワード
タウタンパク質、タウPETイメージング、アルツハイマー型認知症、神経変性疾患

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トピックス
慢性骨髄性白血病の治癒を目指して
松村 到*

* 近畿大学医学部血液・膠原病内科 主任教授

要  旨
 慢性期の慢性骨髄性白血病(CML)の現在の治療目標は治癒させることである.このために CML 幹細胞において機能する細胞内シグナル伝達,自己複製,細胞周期,代謝,立体構造,オートファジーの制御分子などを標的とした新規分子標的薬剤の臨床試験が進んでいる.また,インターフェロン,ワクチン,PD-1/PD-L1 などの免疫チェック機構を標的とした抗腫瘍免疫機構を活性化する治療法の開発も進んでいる.

キーワード
BCR-ABL、CML幹細胞、微小残存病変、無治療寛解

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