最新醫學 70巻11月増刊号 
特集 感染性胃腸炎 


要  旨


座談会 ウイルス性胃腸炎の課題と展望

日本大学             牛島 廣治
藤田保健衛生大学         谷口 孝喜
長崎大学             中込 治 (司会)

 座談会の内容
 ・ウイルス性胃腸炎における分子疫学とその役割
 ・新しいウイルスの発見
 ・ウイルス診断法
 ・ロタウイルスワクチン など
 
   谷口先生     中込先生        牛島先生

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ウイルス


ウイルス性胃腸炎の我が国における現状

牛島 廣治**1  Thongprachum Aksara*1  高梨 さやか*2
*1日本大学医学部病態病理学系微生物学分野 **1同客員教授 *2東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻発達医科学教室

要  旨
 ウイルス性下痢症は,免疫学的手法や遺伝子学的手法で診断ができるようになり,また分子レベルでの疫学が明らかになってきている.21世紀になって,新しいウイルスの発見や,新しい流行株が次々と出てきている.したがって,それに対応する診断法の開発や改良が必要である.ロタウイルスワクチンの普及によって,重症の症例は少なくなってきたが,新たな課題も出てきている.

キーワード
ウイルス、胃腸炎、日本、現状

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ウイルス
ロタウイルスの分子疫学 -遺伝子型の世界的動向-

小林 宣道
札幌医科大学医学部衛生学講座 教授

要  旨
 ヒトロタウイルス(A群)のVP7/VP4遺伝子に基づくG/P型で,普遍的に多いのは,G1P[8],G2P[4],G3P[8],G4P[8],G9P[8],の5つである.全11遺伝子分節に基づく遺伝子型配座には,3つの遺伝子群(Wa様,DS-1様,AU-1様)がある.最近ではG1P[8]の相対的割合が低下し,地域によってはG2,G3,G8,G9,G12などが増加,遺伝子群間でのさまざまなリアソータントが検出されるなど,世界的に遺伝学的多様性が増す傾向が見られる.

キーワード
ロタウイルス、G型、P型、遺伝子型、分子疫学

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ウイルス
ロタウイルスのウイルス学的基礎

河本 聡志*   谷口 孝喜**
*藤田保健衛生大学医学部ウイルス・寄生虫学講座 講師 **同教授

要  旨
 ロタウイルスは,冬季乳幼児嘔吐下痢症の病因ウイルスである.ロタウイルス感染症によって,開発途上国を中心に毎年45万人の乳幼児が死亡している.1973年にヒトロタウイルスが発見されて以来,ウイルス粒子構造,ゲノム構造,ウイルスタンパク質の構造と機能,増殖過程,病態,疫学,進化,などが次々と明らかにされてきた.本稿では,ロタウイルスのウイルス学的基礎について,最新の知見を交えて紹介したい.

キーワード
ロタウイルス、レオウイルス科、二重殻粒子、2本鎖RNA、遺伝子分節

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ウイルス
ロタウイルスの病原性と合併症

津川  毅
札幌医科大学医学部小児科学講座臨床研修センター 特任講師

要  旨
 ロタウイルス胃腸炎は主に5歳未満の児に,下痢,嘔吐,腹痛,発熱を起し,小児の急性胃腸炎による入院の約半数を占め,重症度はほかのウイルス性胃腸炎よりも高い.病原性と関連する遺伝子には,VP7,VP4(中和抗原),VP6(細胞内中和抗原),NSP4(エンテロトキシン)などがある.通常は1週間程度で自然軽快するが,比較的頻度の高い合併症として,胃腸炎関連けいれん,熱性けいれん,重篤なものでは脳症や菌血症が重要である.
キーワード
ロタウイルス、病原性、合併症、胃腸炎関連けいれん、脳症

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ウイルス
ロタウイルスの免疫とワクチン
中込 とよ子

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科感染免疫学講座 客員研究員

要  旨
 ロタウイルスに感染すると,再感染は防がないが,感染を繰り返すに従い,発現する症状は減弱し,不顕性感染となる病後免疫ができる.感染によってできたロタウイルス特異的メモリーB細胞から,再感染に際し,ロタウルス特異的免疫グロブリン(Ig)Aが分泌され,腸管粘膜表面で働く.便中IgAは腸管内IgAを反映する防御免疫の,不完全ながらも代替指標となる.ロタウイルスワクチンは,病後免疫を原理とする弱毒生ワクチンであり,血清型特異的免疫に加えて交差免疫を誘導する.複数の接種機会によってテイク率が上昇する.

キーワード

ロタウイルス、血清型、中和抗体、交差免疫、ワクチン

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ウイルス
ロタウイルス感染と糖鎖
山田 佳太

大阪大谷大学薬学部衛生・毒性学講座

要  旨
 多くのウイルスは,宿主細胞上に存在する糖鎖に結合することで,細胞への侵入を開始する.したがってウイルス感染症を理解するうえで,糖鎖を無視することはできない.ロタウイルス感染症についても例外ではなく,ウイルスエントリーの過程で糖鎖が非常に重要な役割を担っている.本稿では,ロタウイルスと糖鎖の相互作用を中心に,ロタウイルスに関連する糖鎖について概説する.

キーワード
ウイルスエントリー、シアル酸、血液型抗原、ポリラクトサミン、ミルクオリゴ糖

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ウイルス
ノロウイルスの疫学と分子疫学

中込  治
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科感染免疫学講座 教授

要  旨
 ノロウイルスは,乳児から老人に及ぶ全年齢層に感染し,罹患率の高い散発性胃腸炎および食中毒を含む胃腸炎の集団発生の原因となる.ウイルスゲノムは多様性に富み,変異が速く,新しい変異株は大きな流行を起す.主要な流行株は,カプシド遺伝子型がGⅡ.4およびGⅡ.3の株であり,直近のGⅡ.4変異株Sydney_2012を含め,ノロウイルスの4分の1以上はポリメラーゼ遺伝子型とカプシド遺伝子型が不一致な組換え体である.最近,中国および日本で,集団発生の原因として新たに出現した,GⅡ.P17_GⅡ.17株に対する監視が必要である.

キーワード
ノロウイルス、感染性胃腸炎、食中毒、GⅡ.4変異株、GⅡ.17

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ウイルス
ノロウイルスの分子進化
佐藤 裕徳

国立感染症研究所病原体ゲノム解析研究センター第二室 室長

要  旨
 ノロウイルスは,医療施設,高齢者施設,学校,ホテルなどの,ヒトが密集する環境で急性胃腸炎の集団発生を誘発する.被害の拡大を抑えるには,対象病原体の正しい理解が必要となる.本稿では,ウイルスの分子進化に焦点を絞り,流行株がどのような原則のもとに発生し,どのように変化していくのかを概説する.分子進化の研究は,学際研究としての魅力に富み,流行株予測,ワクチン開発,創薬などの重要な感染症対策の論理基盤を提供する.
キーワード
ノロウイルス、流行株、分子進化、感染症対策

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ウイルス
ノロウイルスのウイルス学的基礎研究・最近のトピックス
片山 和彦

国立感染症研究所ウイルス第二部第一室 室長

要  旨
 ヒトに感染するノロウイルス(HuNoV)は,培養細胞で増殖させることができず,感染モデル動物がないことから,基礎研究が遅れている.分子生物学,構造生物学,細胞生物学を駆使したHuNoV研究への挑戦は,ウイルス様中空粒子(VLP)と結合する組織血液型抗原(HBGA)の発見,ウイルスタンパク質の構造解析で成果を上げ,ついにリバースジェネティックスシステム(RGS)を実現した.ヒトエンテロイドの成功によって,HuNoVの細胞への侵入機構,複製機構,粒子形成機構に残された,多くの謎に迫る扉は開かれた.

キーワード
ノロウイルスの特徴、増殖機構、感染様式リバースジェネティックす、ワクチン

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ウイルス
ノロウイルスと血液型抗原
白土 東子

国立感染症研究所ウイルス第二部第一室 主任研究官

要  旨
 ノロウイルスは,ヒトの腸管上皮細胞上に発現している血液型抗原を認識して,細胞に吸着する.このため,ノロウイルス感染への感受性は,その人の血液型と腸管上皮における血液型抗原の発現の有無によって異なる.30遺伝子型以上を有するノロウイルスの多様性は,血液型抗原認識の多様性にも反映されており,遺伝子型によって認識する血液型抗原の種類,数は,さまざまであることが証明されている.

キーワード
血液型抗原、1型糖鎖、2型糖鎖、分泌型個体、非分泌型個体

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ウイルス
ノロウイルスの免疫とワクチン開発
田中 智之

国保日高総合病院感染症・病理
要  旨
 分離ノロウイルス(NoV)を用いたワクチン生成方法は,ウイルス分離の方向が見つかったが,ワクチン株とするには時期尚早と考える.遺伝子操作産物,いわゆる遺伝子組換えのNoVウイルス様中空粒子(VLPs)は諸外国のこれまでの臨床試験成績から,免疫反応性,安全性,経済性でNoVワクチンの主役となってきている.現時点では小児,高齢者を対象として,感染経路に基づいた経口投与が安全な感染予防対策と考える.NoV-VLPs の抗原決定部位に,ほかのウイルス抗原部位を遺伝子操作によって挿入するキメラワクチンの開発も活発に行われている.

キーワード
ノロウイルス、VLPs、ワクチン、P particle

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ウイルス
ヒトアストロウイルス・ヒトアデノウイルス
沖津 祥子

日本大学医学部病態病理学系微生物学分野 客員研究員
要  旨
 乳幼児の感染性胃腸炎の病因ウイルスとして,ヒトアストロウイルス(HAstV),ヒトアデノウイルス(HAdV)の頻度は低い(10%以下)が,重要な病原体である.症状からはウイルスの特定は困難で,HAdVでは免疫クロマトグラフィーが使用されているが,HAstVではすべてのウイルスを検出できる免疫キットなどは本邦では市販されていない.共に新たなウイルスが発見され,その臨床的意義,本邦での疫学が注目される.

キーワード
ヒトアストロウイルス、ヒトアデノウイルス、古典的アストロウイルス、組換えアデノウイルス

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ウイルス
サポウイルス胃腸炎
中田 修二
医療法人社団智愛会なかた小児科 院長

要  旨
 サポウイルス(SaV)はカリシウイルス科に属し,主に5歳未満の小児に急性胃腸炎を引き起す.遺伝子型によっては学童から成人にも感染し,集団発生や食中毒を起すことがある.臨床的には軽症例や不顕性感染が多いが,遺伝子型によっては,より重症である可能性が指摘されている.通年性に発生するが,冬から春にやや多い.確定診断は,糞便中のウイルス抗原もしくは遺伝子の検出で行われるが,主に逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法が用いられている.

キーワード
サポウイルス、カリシウイルス、急性胃腸炎、食中毒、経口感染

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ウイルス
アイチウイルス
佐々木 潤
藤田保健衛生大学医学部ウイルス・寄生虫学講座 講師

要  旨
 アイチウイルス(AiV)は,1989年に愛知県で発生した牡蠣の生食による胃腸炎集団発生事例から初めて発見された,ピコルナウイルスである.以来,世界各地で疫学研究が行われてきたが,研究報告数はまだ限られているのが実情である.本稿では,胃腸炎患者や環境水,二枚貝などからの検出事例や,抗体保有率についての調査結果を紹介し,AiVと胃腸炎とのかかわりを考察した.

キーワード
アイチウイルス、コブウイルス、ピコルナウイルス、急性胃腸炎

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細菌
細菌性腸炎の我が国における現状
大西 健児
東京都保健医療公社荏原病院 副院長

要  旨
 幾つかの統計資料を分析し,我が国の細菌性腸炎の現状について以下の知見を得た.
・下痢原性大腸菌,カンピロバクター属菌,サルモネラ属菌,ウエルシュ菌,黄色ブドウ球菌,が細菌性腸炎の主要起因菌である.
・これらの細菌は,夏期に分離される頻度が増加し,冬期には分離頻度が低下するが,年間を通して感染者の発生がある.
・発生1件あたりの患者数は,ウエルシュ菌と腸管出血性大腸菌(EHEC)以外の下痢原性大腸菌が多く,カンピロバクター属菌で少ない.
・レボフロキサシン(LVFX)とホスホマイシン(FOM)に対し,EHEC とサルモネラ属菌は良好な感受性を示し,カンピロバクター属菌はエリスロマイシン(EM)に良好な感受性を示す.
ただし,使用した資料にはさまざまな制約があるため,この結果は現状の一面を示すものである.

キーワード
細菌性腸炎、感染性腸炎、食中毒、感染症発生動向調査

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細菌
下痢原性大腸菌
西渕 光昭
京都大学東南アジア研究所人間生態相関研究部門 教授

要  旨
 ヒトの腸管に感染し,胃腸炎などの病気の原因となる大腸菌(本稿では,下痢原性大腸菌という総称を用いる)は,その病原性メカニズムに基づいて,6種類に分類・命名されている.それらを概説し,そのうちでも特に国内外で重視されている腸管出血性大腸菌(EHEC)について,読者にとって重要だと思われる項目を詳述し著者の経験した関連トピックを紹介する.

キーワード
下痢性大腸炎、腸管病原性大腸炎、腸管出血性大腸炎、毒素原性大腸炎、O157

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細菌
カンピロバクター感染症の最新の動向
山崎 伸二
大阪府立大学大学院生命環境科学研究科獣医環境科学分野感染症制御学領域 教授

要  旨
 カンピロバクター(Campylobacter)属細菌は,現在少なくとも26菌種存在するが,通常,胃腸炎患者から分離される95%以上は,C.jejuniとC.coliである.しかし,非選択培地と水素を含む微好気または嫌気培養を組み合わせることで,C.jejuni/C.coli以外のカンピロバクター属細菌も多数分離されている.一方,カンピロバクターは胃腸炎のみならず,炎症性腸疾患や髄膜炎,尿路感染症,ギラン・バレー症候群および反応性関節炎など,さまざまな腸管外感染症にも関係している.本稿ではC.jejuniとC.coliに加え,近年注目されているC.concisusやC.ureolyticusなど,C.jejuni/C.coli 以外のカンピロバクター感染症について,最新の知見を概説する.
キーワード
カンピロバクター、下痢症、胃腸炎、炎症性腸疾患、人獣共通感染症

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細菌
腸炎ビブリオ
飯田 哲也
大阪大学微生物病研究所難治感染症対策研究センター細菌感染分野 教授

要  旨
 腸炎ビブリオは,海産魚介類の摂食を通じてヒトに感染し,胃腸炎を引き起す.従来,耐熱性溶血毒(TDH)およびTDH類似溶血毒(TRH)が本菌の主要な病原因子と考えられてきたが,ゲノム解析の結果,ゲノム上に3型分泌装置遺伝子群が見いだされ,本菌の病原性研究に新たな展開がもたらされた.近年,腸炎ビブリオの3型分泌装置についての解析が急速に進んでおり,本菌の病原性に関する新知見が得られつつある.

キーワード
腸炎ビブリオ、急性胃腸炎、ゲノム解析、3型分泌装置、エフェクター

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細菌
腸チフス・パラチフス
クリストファー・パリー*1*2 齊藤 信夫*3
*1長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科 教授
*2ロンドン大学衛生学熱帯医学大学院臨床医学研究科 教授
*3長崎大学熱帯医学研究所臨床感染症学分野

要  旨
 チフス菌による腸チフスとパラチフスA菌によるパラチフスにより,年間1,200万~2,000万人が罹患し,13万~22万人が死亡している.診断は血液培養が基本であるが,感度は約60%と低い.核酸増幅法は高感度であるが,日常診療では使用されていない.迅速診断キットは感度,特異度ともに不十分である.クロラムフェニコール,アンピシリン,ST合剤,などの従来からの抗菌薬や,ニューキノロン系,セフトリアキソン,アジスロマイシンなどの新規抗菌薬に至る耐性化が,アジアやアフリカで増加している.乳幼児を対象としたタンパク質結合型Viワクチンが新たに開発されている.

キーワード
腸チフス、パラチフス、チフス性疾患、サルモネラ

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細菌
コレラ菌
山城  哲*1*2
*1長崎大学熱帯医学研究所アジア・アフリカ感染症研究施設 教授 *2熱帯医学研究所ベトナム拠点 拠点長

要  旨
 コレラは,Vibrio cholerae O1 または O139 血清群に感染後,産生されるコレラ毒素(CT)が誘発する,大量の下痢を特徴とする.CT遺伝子などの病原因子は,バクテリオファージが感染することによって導入されたものが多い.治療は,下痢のため喪失した水分および電解質の補正が中心となる.抗生剤の投与は,病期の短縮につながる.ワクチンはコレラ死菌および生菌製剤があるが,効果は接種後2~3年とする報告が多い.

キーワード
下痢症、細菌性下痢症、コレラ、コレラ菌

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細菌
赤痢菌の感染と宿主免疫応答
鈴木 敏彦
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科細菌感染制御学分野 教授

要  旨
 赤痢菌は,大腸菌と極めて近縁であるにもかかわらず,非常に特徴ある感染様式を示す病原細菌である.この菌は,病原性に強く関与する毒素を産生しないが,ヒトの腸管組織へ感染して炎症を誘導することによって,粘血性下痢という病態を惹起する.本稿では,その感染様式の特徴を概説するとともに,近年明らかになってきたⅢ型分泌装置とエフェクターの多彩な役割と,非常に巧妙な宿主免疫回避機構についても触れる.

キーワード
Ⅲ型分泌装置、エフェクター、細胞死、感染防御、免疫回避

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細菌
偽膜性腸炎
塚本 美鈴*   泉川 公一**
*長崎大学病院感染制御教育センター **同センター長 教授

要  旨
 クロストリジウム・ディフィシル(C.difficile)感染症の発生率は,世界的に急激に上昇している.BI/NAP1/027という,強毒株による集団感染の報告もある.治療は,軽~中等症ではメトロニダゾールまたはバンコマイシンの経口投与,重症例ではバンコマイシンを投与する.経口や経鼻胃管から投与できない場合は,メトロニダゾールの経静脈投与を行う.バンコマイシンの静脈投与は効果がない.C.difficile は接触感染で伝播するため,本菌による下痢症状があれば,接触予防策を行う.芽胞菌であるため,アルコールが効かない.流水石鹸による手指衛生で,物理的に本菌を除去することが重要である.

キーワード
偽膜性腸炎、抗菌薬、クロストリジウム・ディフィシル

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寄生虫
アメーバ赤痢やクリプトスポリジウム症の現状と最新の知見:通常の抗生物質が無効な原虫性下痢症
原田 倫世*1  中村 梨沙*2  濱野 真二郎**2
*1東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻生物医化学教室
*2長崎大学熱帯医学研究所寄生虫学分野 **2同教授

要  旨
 社会基盤・衛生環境が脆弱な途上国では,しばしば水や食物に病原微生物が混入し,下痢を主体とした病気を引き起す.細菌やウイルスに加えて,単細胞真核生物である原虫も,下痢の原因となる.これらは途上国に限られたものではなく,例えばクリプトスポリジウムによる水系集団感染は,日本や欧米でもしばしば報告されている.下痢の原因の特定が難しい場合には,近年急速に開発が進んでいる病原微生物の一括検出法がスクリーニングとして有効であろう.原虫に対しては,抗生物質の多くが無効である.低酸素環境である大腸や小腸に寄生する赤痢アメーバやランブル鞭毛虫には,メトロニダゾールが著効を示す.クリプトスポリジウムには,メトロニダゾールの類縁体であるnitazoxanideが比較的高い効果を示すものの完治には至らず,新規薬剤の開発が必要である.本稿では,アメーバ赤痢やクリプトスポリジウム症に代表される,原虫性下痢症の現状,新規スクリーニング法や薬剤に関する最新の知見を紹介したい.

キーワード
アメーバ赤痢、クリプトスポリジウム症、病原微生物の一括検出、メトロニダゾール、ニタゾキサニド、アスコフラノン

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環境
将来の社会システムにおける感染性胃腸炎リスク
佐野 大輔
北海道大学大学院工学研究院環境創生工学部門 准教授

要  旨
 貿易自由化や人口減少などのさまざまな社会構造の変化は,将来における社会資本のあり方を半ば強制的に変容させる影響力を持つ.その過程で,重要な社会資本の1つである水処理システムが将来への適応に失敗すれば,病原体に汚染された輸入食材や水処理事業経営の破綻などを通じ,先進国でも感染性胃腸炎リスクが増大するであろう.将来世代に向けて,最適な水処理システムを創出できるか,衛生工学に課せられた課題は大きい.

キーワード
衛生工学、下水道事業、水ストレス、貿易自由化、持続可能性

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