最新醫學 70巻12号 
特集 肺がんの個別化医療


要  旨


座談会
 バイオマーカーに基づく肺がん個別化医療の到来

国立がん研究センター    河野 隆志
近畿大学           光冨 徹哉
東京大学           間野 博行 (司会)

 座談会の内容
 ・分子標的治療薬による肺がん治療の歴史
 ・薬剤耐性とその克服
 ・免疫チェックポイント阻害薬
 ・遺伝子診断

 
   河野先生        間野先生     光冨先生

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個別化医療時代における肺がんの病理分類

二宮浩範*   石川雄一*
* 公益財団法人がん研究会がん研究所病理部

要  旨
 肺がんは,以前は難治がんの1つであったが,ドライバー変異が次々に発見され,それに対する分子標的薬が使われるようになって,治る可能性のあるがんになった.肺がんは病理組織像が多様であることも特徴の1つで,遺伝子型-組織型関係を利用して,正確な病理診断による層別化ができる.肺がんの病理診断は,個別化医療の実現に最も近いということもできる.

キーワード
層別化、組織型、新WHO分類、ドライバー変異

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肺腺がんにおける TTF-1/NKX2-1 の相反する2つの機能

山口知也*   高橋 隆**
* 名古屋大学大学院医学系研究科分子腫瘍学分野 ** 同教授

要  旨
 TTF-1遺伝子はNKX2-1とも呼ばれ,ホメオドメインタンパク質ファミリーに属する転写因子として,正常末梢肺の発生・分化と生理機能の維持に重要な役割を果たしている.近年,このTTF-1がリネジ生存がん遺伝子として,肺腺がん細胞の生存に必須であることが明らかとなる一方で,TTF-1は抑制的な機能も担っていることが判明し,肺腺がんの発生・進展過程において相反する2つの役割を有していることが分かってきた.

キーワード
肺腺がん、TTF-1/NKX-2-1、リネジ生存がん遺伝子

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EGFR 遺伝子変異と阻害薬 ―さらなる個別化治療への展望―

小林祥久*   光冨徹哉**
* 近畿大学医学部外科学講座呼吸器外科部門 ** 同主任教授

要  旨
 第1世代EGFR-TKIのゲフィチニブとエルロチニブ,第2世代のアファチニブはEGFR遺伝子変異陽性肺がんの分子標的治療を確立した.これらに対する獲得耐性機序であるT790M変異に特異的な第3世代TKIも奏効率が約60%と有望である.新たなTKIが次々と開発されており,今後は最適な使い分けが課題となる.EGFR遺伝子変異の種類ごとまたは転移再発臓器ごとのより細分化した個別化治療を目指すことが重要である.

キーワード
肺がん、分子標的治療、上皮成長因子受容愛(EGFR)、アファチニブ

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肺がんの EGFR チロシンキナーゼ阻害薬耐性とその克服
矢野聖二*

* 金沢大学がん進展制御研究所腫瘍内科 教授

要  旨
 第1世代EGFR-TKIの代表的耐性機構には,EGFR-T790M耐性変異,側副経路の活性化,小細胞がんへの転化,EMTなどがある.EGFR-T790M変異による耐性を克服するために創薬された第3世代EGFR-TKIが高い抗腫瘍効果を示すことが,最近の臨床試験により明らかにされた.さらに,第3世代EGFR-TKIの耐性機構としても,EGFR-C797S耐性変異,側副経路の活性化などが明らかにされてきている.今後,EGFR変異肺がんの薬物療法は,第3世代EGFR-TKIが中心になると予想される.

キーワード
耐性変異、T790M、C797S、第3世代チロシンキナーゼ阻害薬

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EML4-ALK 融合型がん遺伝子

曽田 学*
* 東京大学大学院医学研究科細胞情報学分野

要  旨
 EML4-ALK遺伝子は,2007年に非小細胞肺がんにおいて発見された新たながん遺伝子で,受容体型チロシンキナーゼをコードしており,遺伝子融合によって恒常的にチロシンキナーゼ活性が亢進する結果,がん化に寄与する.本遺伝子陽性肺がんに対してはALK阻害薬が良い適応であり,高い治療効果が得られるものの,多くの症例が治療経過中に薬剤耐性を示すことが報告されており,耐性機序の解明とその克服が課題となっている.

キーワード
EML4-ALK、ALK阻害薬

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第2世代の ALK 阻害薬
豊川剛二*   瀬戸貴司*

* 九州がんセンター呼吸器腫瘍科

要  旨
 ALK融合遺伝子陽性肺がんに対して,クリゾチニブが標準的殺細胞性抗がん剤よりも高い奏効率を有することが示され,我が国を含めクリゾチニブはALK融合遺伝子陽性肺がんに対する標準的一次・二次治療とされている.さらに,アレクチニブ,セリチニブ,AP26113,PF-06463922,X-396 や TSR-011 などの次世代 ALK 阻害薬も開発され,クリゾチニブ未治療だけでなく,耐性獲得例を含めた既治療例においても奏効することが,複数の臨床試験によって証明されつつある.    

キーワード
未分化リンパ腫キナーゼ(anaplastic lymphoma kinase)、非小細胞肺がん、クリゾチニブ、次世代ALK阻害薬、脳転移

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肺癌における融合型がん遺伝子
冨樫由紀*   竹内賢吾**

* 公益財団法人がん研究会がん研究所分子標的病理プロジェクト ** 同プロジェクトリーダー

要  旨
 肺癌におけるEML4-ALKの発見をきっかけに,融合遺伝子の探索が加速し,ROS1やRETといった受容体チロシンキナーゼを代表とする多彩な融合遺伝子が報告されている.受容体リガンドの融合遺伝子も報告された.近年では,次世代シークエンサーを活用した探索が主流になりつつあり,治療に直結するactionableな融合遺伝子の発見が期待される.

キーワード
融合遺伝子、肺癌、coiled-coilドメイン、阻害薬

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肺がんのドライバー遺伝子変異 Update
河野隆志*

* 国立がん研究センター研究所ゲノム生物学研究分野

要  旨
進行肺がんにおける治療方針の決定の中心となるのが,がんの発生・進展に必須となるドライバー遺伝子変異の情報である.それが,がん遺伝子の活性化変異であれば,その活性化機能を抑制する,がん抑制遺伝子の失活変異であれば,その遺伝子と合成致死の関係にある遺伝子の機能を阻害するなど,治療・創薬の基盤となる.主な組織型の肺がんでは,大規模なゲノム網羅的シークエンス解析により遺伝子異常の全貌が明らかになり,さらなる治療法の革新が期待される.

キーワード
肺がん、ドライバー遺伝子変異、遺伝子融合、合成致死、クリニカルシークエンス

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KRAS 遺伝子変異肺がんに対する治療開発
衣斐寛倫*

* 金沢大学がん進展制御研究所腫瘍内科研究分野
要  旨
 KRAS遺伝子変異は最も早期に発見されたがん遺伝子の1つである.これまで薬剤による直接阻害が困難であることから治療開発に難渋していたが,最近になり,結晶構造解析などを用いた創薬が試みられている.一方,変異KRASの下流シグナルを抑制し細胞死を誘導する試みがMEK阻害薬を中心としてなされ,奏効例も報告されている.また,遺伝子スクリーニングを用いた変異KRASの生存に必要な遺伝子の同定も進んでいる.
キーワード
エフェクターシグナル、合成致死、MEK阻害薬

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肺がん治療における血管新生阻害薬
岩間映二*   馬場英司**

* 九州大学大学院医学研究院九州連携臨床腫瘍学講座 ** 同教授
要  旨
 血管新生にかかわる薬剤は抗体薬とマルチキナーゼ阻害薬に分類され,さまざまながんに対して使用されている.肺がんにおいてもこれらの薬剤の開発が進められ,細胞障害性薬剤との併用による全生存期間(OS)の延長効果が示されている.本稿では肺がん治療における血管新生阻害薬の役割について,抗体薬であるベバシズマブとラムシルマブ,マルチキナーゼ阻害薬であるニンテダニブのエビデンスを中心に概説を行う.

キーワード
血管新生阻害薬、ベバシズマブ、ラムシルマブ、ニンテダニブ

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がんゲノム解析の医療応用
土原一哉*

* 国立がん研究センター先端医療開発センタートランスレーショナルリサーチ分野 分野長

要  旨
 がん治療開発において,標的分子の多様化により細分化される対象を複数の臨床試験に振り分けるアンブレラ型臨床試験には,全国規模の患者集積とマルチプレックス診断法が不可欠である.各国でその体制作りが進む中,日本でも数千例規模の肺がん,消化器がんのゲノムスクリーニングを実施するSCRUM-Japanが開始された.SCRUM-Japanは,ゲノム診断に基づく最適化医療実現の恰好のモデルでもある.

キーワード
臨床シークエンス、バイオマーカー、臨床試験、コンパニオン診断、データベース

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血中腫瘍 DNA による非侵襲性遺伝子診断
加藤菊也*1  今村文生*2
*1 大阪府立成人病センター研究所疾患分子遺伝学部門 部門長 *2 同呼吸器内科主任部長

要  旨
 血中腫瘍DNA(ctDNA)は,血液中のがん細胞由来遊離DNAである.最近リキッド・バイオプシーとして注目を集め,重要な研究分野になりつつある.私たちが開発した次世代シークエンサーを用いた変異検出システムにより,ctDNAを用いたEGFR変異検査が現実的になった.本稿では多施設前向き性能評価試験を中心に紹介する.

キーワード
血中腫瘍DNA、次世代シークエンサー

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肺がんの診療ガイドライン
赤松弘朗*   山本信之**
* 和歌山県立医科大学内科学第三教室 ** 同教授

要  旨
 肺がんの診療ガイドラインとして,本邦では日本肺癌学会発行のガイドラインがあり,毎年の定期的な改訂を行ってきた.海外では米国臨床腫瘍学会(ASCO),米国総合がんネットワーク(NCCN)によるものが汎用されているが,いずれも形式や内容に少しずつ差異がある.ここではそれぞれの特徴と異同について概説するとともに,肺癌学会の肺癌診療ガイドラインの作成過程と今後の展望についても少し述べさせていただく.

キーワード
EBMの手法により肺癌診療ガイドライン、米国臨床腫瘍学会(ASCO)、米国総合がんネットワーク(NCCN)

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痛みのClinical Neuroscience
(6)心理生物学的モデルに基づく慢性疼痛の精神心理分析
笠原  諭

東京大学医学部附属病院 麻酔科・痛みセンター

要  旨
 器質的病変で説明の困難な慢性疼痛は心因性疼痛として扱われることが多いが,近年は痛みの神経メカニズムと痛みの心理学を統合した心理生物学的モデルで説明されている.そのモデルの構成要素であるレスポンデント条件づけと破局的な認知・信念,疼痛行動,オペラント条件づけを評価することで,認知行動学的な介入方法が明確となる.

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連載
肉眼解剖学者がみたヒト大脳の立体構造

 脳の肉眼解剖学に40年間携わってこられた金沢医科大学・篠原治道先生による誌面講義の第6回は「外側からのアプローチ(6)放線冠(皮質線条体線維など),大脳脚(皮質脊髄線維・皮質核線維・皮質橋線維),内包(視床放線/視床脚,皮質脊髄線維,皮質核線維など),脳梁下束」です。
 開業医、研修医、専門医の方々にもご興味やご関心をもって頂けるような内容となっています。

外側からのアプローチ(6)放線冠(皮質線条体線維など),大脳脚(皮質脊髄線維・皮質核線維・皮質橋線維),内包(視床放線/視床脚,皮質脊髄線維,皮質核線維など),脳梁下束(本文より)

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連載
トップランナーに聞く(第57回)
iPS 細胞を用いた神経変性疾患の研究

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
  第58回はiPS細胞を用いた神経疾患の治療、創薬研究の第一人者である京都大学iPS研究所の井上 治久 先生にお話を伺いました。

 井上 治久 先生

 神経変性疾患は、ある特定の神経細胞が選択的に変性・死滅することによって生じる難治性疾患である。これまで、分子生物学によって、遺伝性神経変性疾患の原因遺伝子の発見、それに続く機能解析、新たな仮説の誕生、モデル動物の作製など、神経変性疾患の研究は大きく進展してきた。しかしながら、遺伝歴のない孤発性神経変性疾患は未だ謎につつまれている。また、原因遺伝子を導入したモデルマウスがヒトの症状と類似した病態を呈し、治療法開発が一気に進むことが期待されたが、根本的治療法開発は未だ成功していない。そのような状況のなかで、iPS 細胞が誕生し、iPS 細胞技術を用いることにより、これまで入手できなかった神経変性疾患の標的となるヒトの神経細胞を入手することが可能になった。私達は、iPS細胞作製技術の発見によって作り出すことが可能になった、これまでは手にいれることが全く不可能であった患者さん由来の細胞を用いることによって、分子機構のさらなる理解に基づく、ALSなど難治性神経変性疾患の制圧を目指している。

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連載
ノーベル賞と医学の進歩・発展

 68巻10号からノーベル賞の対象となった業績やその業績が現在どのような恩恵をもたらしているかについて、各領域の専門家の先生方に詳しいご解説をお願いしております。

第36回は新見公立大学学長・難波 正義 先生による「神経細胞成長(NGF)と上皮細胞増殖因子(EGF)の発見」です。

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トピックス
キメラ抗原受容体を発現させた遺伝子改変T細胞による養子免疫遺伝子療法
内堀亮介*

* 自治医科大学免疫遺伝子細胞治療学(タカラバイオ)講座 特命助教

要  旨
 近年,CD19特異的キメラ抗原受容体を用いたB細胞性造血器腫瘍に対する養子免疫遺伝子療法の臨床試験結果が相次いで報告されている.従来の治療法に抵抗性の難治性造血器腫瘍に対しても優れた治療効果が認められる一方で,重篤な有害事象も報告されており,十分な安全管理や対策を講じたうえでの治療が望まれる.本稿では,CARを用いた治療戦略の概念と,これまでに報告された臨床試験について概説する.

キーワード
キメラ抗原受容体、免疫療法、遺伝子改変T細胞、B細胞性腫瘍、CD19

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症 例
陰圧閉鎖療法が創傷患者の地域連携クリティカルパスに有用と思われた1例

菊地大輝*   那須和佳子*   伊藤浩信*
* 滝沢中央病院外科

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