最新醫學 71巻1号 
特集 インクレチン薬による糖尿病治療の革新 
    -基礎と臨床の架け橋-



要  旨


座談会
 インクレチン 7年の歩み ―基礎と臨床の架け橋―

東京大学           門脇 孝
関西電力病院         清野 裕
秋田大学           山田 祐一郎 (司会)

 座談会の内容
 ・インクレチン薬登場のインパクト
 ・インクレチン薬の膵作用と予想外の作用
 ・サルコペニアと糖尿病
 ・今後の研究の方向
 など
 
   門脇先生        山田先生      清野先生

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基礎研究
インクレチンの膵作用 ―ホルモン分泌と細胞量の調節―

横井伯英*   清野 進**
* 神戸大学大学院医学研究科分子代謝医学部門 特命准教授 ** 同教授

要  旨
 インクレチン(GLP-1とGIP)は,グルコース濃度依存的に膵b細胞からのインスリン分泌を増強するとともに,膵α細胞からのグルカゴン分泌を調節することで血糖恒常性の維持に関与している.また,膵β細胞の増殖・保護作用を有する可能性が高いことから,インクレチンの作用に基づく糖尿病治療薬のさらなる開発が期待されている.

キーワード
インスリン、グルカゴン、膵β細胞、膵α細胞、ソマトスタチン

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基礎研究
インクレチンの心血管系への作用

森 雄作*   平野 勉**
* 昭和大学医学部内科学講座糖尿病・代謝・内分泌内科学部門 ** 同教授

要  旨
 活性型GLP-1とGLP-1受容体作動薬は,動脈硬化モデルマウスにおいてGLP-1受容体シグナルを介してプラーク形成を抑制し,すでに形成されたプラークを安定化させる.この効果には,①血管内皮機能の改善,②マクロファージの泡沫化抑制,③血管平滑筋の増殖・遊走抑制が関与する.また,非活性型GLP-1やGLP-1代謝産物はプラーク形成を抑制しないが,GLP-1受容体を介さない機序でプラークの安定化に寄与する.

キーワード
動脈硬化、GLP-1、GLP-1受容体作動薬、動脈硬化モデルマウス

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基礎研究
インクレチンの腎臓への作用

金崎啓造*1*2
*1 金沢医科大学糖尿病内分泌内科学講座 准教授 *2 同先制分子食料科学寄附講座

要  旨
 本邦において1998年以降20年近くにわたり,糖尿病性腎症が透析導入原因疾患の不動の第1位である.糖尿病性腎症の発症進展機構は十分に解明されておらず,病態分子機構を標的とした特異的治療戦略は確立していない.2009年に本邦初めてのインクレチン関連薬であるシタグリプチンが上市されて以来急速に普及し,今日の糖尿病診療に欠かせないものとなった.インクレチン関連薬に関しては,血糖低下作用のみならず,多彩な膵外作用-臓器保護作用にも注目が集まっている.本稿では,インクレチン関連薬の膵外作用を腎臓を中心として最近の知見を解析し,将来の治療戦略を含めた今後の展望について,我々の研究成果を含めて紹介する.

キーワード
DPP-4、インクレチン、糖尿病性腎症、線維化、内皮細胞

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基礎研究
インクレチンの神経系を介した多様な作用
桂田健一*1*2 矢田俊彦**1

*1 自治医科大学医学部生理学統合生理学部門 **1 同教授 *2 同内科学循環器内科学部門

要  旨
 GLP-1は,腸L細胞と延髄孤束核ニューロンに由来する.腸由来GLP-1は自律神経求心路を介して脳に情報伝達し,一部は血液脳関門を通過して脳に作用する.脳産生GLP-1は神経伝達物質として摂食を抑制している.糖尿病治療薬GLP-1受容体作動薬は安定で中枢に移行しやすく,中枢作用がより大きい.このように,GLP-1は脳機能を調節し,中枢性に摂食・代謝・循環調節を営み,多彩な効果を発揮する.

キーワード
GLP-1、GLP-1ニューロン、迷走神経求心路、摂食、循環調節

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基礎研究
インクレチンの骨への作用

鈴木敦詞*
* 藤田保健衛生大学医学部内分泌・代謝内科学 教授

要  旨
 2型糖尿病患者での高い骨折リスクが報告されている.糖尿病関連骨粗鬆症による骨折を防ぐためには,骨代謝に対して安全性の高い抗糖尿病薬を使用することが重要であるとの声が高まってきた.インクレチン関連薬により血中濃度が上昇するGLPとGIPは,ともに骨代謝への正の影響が期待されている.現在上市されている薬剤が実際に骨折リスク低減につながるか否かの結論は出ていないが,少なくとも骨折リスクを高めることはないと考えられている.

キーワード
骨芽細胞、骨代謝回転、生活習慣病関連骨粗鬆症

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基礎研究
インクレチンの炎症への作用

佐藤雄大
* 秋田大学大学院医学系研究科内分泌・代謝・老年内科学講座

要  旨
 インクレチンは,血糖調節のみならず,さまざまな働きを有すると考えられている.インクレチンであるGLP-1とGIPのシグナルは,ともに細胞内セカンドメッセンジャーがcAMPとされる.cAMPは,炎症に対して抑制的に働く側面と,促進的に働く側面があると考えられていることから,これらインクレチンシグナルが炎症に対してどのように作用するのかは複雑であり,根本的な部分はいまだ不明な点が多い.

キーワード
インクレチン、GLP-1、GIP、炎症

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基礎研究
糖尿病と心不全 ―DPP-4 阻害薬は是か否か―
坂東泰子*   室原豊明**

* 名古屋大学大学院医学系研究科循環器内科学 講師 ** 同教授

要  旨
 糖尿病患者の生命予後を左右する心血管疾患は,大血管傷害に関する基礎・臨床エビデンスは多く集積している.一方,大血管傷害とは独立して,糖尿病と心不全のかかわりは1970年代から糖尿病性心筋症(diabetic cardiomyopathy)の用語で知られてきたが,いまだメカニズムは不明な点が多い.一方,最近の大規模臨床試験(SAVOR-TIMI53)がDPP-4阻害薬の予期せぬ心不全増加効果を報告し,さらなる注目を集めている.    

キーワード
糖尿病、心不全、DPP-4阻害薬、心臓リモデリング、大規模臨床試験

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臨床
インクレチン作用の評価
濱崎暁洋*

* 公益財団法人田附興風会医学研究所北野病院糖尿病内分泌センター 主任部長

要  旨
 膵β細胞は,経口摂取により血中に取り込まれた栄養素刺激によりインスリンを分泌するが,消化管から分泌されるインクレチンがそれを増幅する.このインクレチンホルモンによるインスリン分泌の増強効果をインクレチン効果と言う.インクレチン作用の評価に,この従来定義のインクレチン効果は,算出の条件について注意が必要であるとともに,最近の知見から,インクレチン作用全体を評価するには不十分であることが明らかとなってきた.本稿では,インクレチン関連薬開発の基礎となり,広く解釈されているインクレチン効果について,種々の評価法とあわせて,インクレチン作用をめぐる最近の知見とともに解説する.

キーワード
インクレチン、インクレチン作用、インクレチン効果、グルカゴン、糖処理

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臨床
減量手術とインクレチン
卯木 智*   前川 聡**

* 滋賀医科大学糖尿病腎臓神経内科 講師 ** 同教授

要  旨
 肥満外科治療は,高度肥満症患者に対する強力な減量治療法であるが,合併する代謝異常,特に糖尿病を劇的に改善する.現在,国内で年間200例程度施行されているが,腹腔鏡下スリーブ状切除術が2014年4月に保険収載され,施行する施設が増加しつつある.糖代謝改善機序として,従来からインクレチンの関与が示唆されており,これまで数多くの報告がある.しかし,一方ではそれを否定する報告もある.さらに,最近ではインクレチンによらないさまざまな新しい機序が報告されてきており,研究は広がりをみせている.

キーワード
GLP-1、胃バイパス術、スリーブ状胃切除術、2型糖尿病、高度肥満症

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臨床
インクレチン大規模臨床試験
小田原雅人*

* 東京医科大学糖尿病・代謝・内分泌・リウマチ膠原病内科学分野 主任教授
要  旨
 DPP-4阻害薬の心血管アウトカム試験では,サキサグリプチンのSAVOR-TIMI53,アログリプチンのEXAMINE,シタグリプチンのTECOSが報告されている.対象は少し異なるが,いずれの試験においてもプラセボ群に比して非劣性が証明され,優越性は示されなかった.心不全による入院が増加する傾向にあり,インクレチン関連薬に共通するクラス効果である可能性もある.膵炎も増加傾向であったが発症例数は少なかった.
キーワード
DPP-4阻害薬、心血管疾患、GLP-1、大規模臨床試験、有害事象

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臨床
長期作用型インクレチン関連薬について
原田範雄*   稲垣暢也**

* 京都大学大学院医学研究科糖尿病・内分泌・栄養内科学 ** 同教授
要  旨
 インクレチン関連薬は,日本人2型糖尿病の治療に現在広く用いられている.最近では週1回投与製剤が登場し,これまでの1日1~2回投与製剤と同等の血糖改善を有している.よって内服アドヒアランス不良や内服自己管理が困難な患者の糖尿病治療に有用な可能性がある.しかし,副作用出現時には内服中止後も長期間にわたり生体内で薬物効果が残存する可能性が高いため,薬物中止後も副作用については注意深く見守る必要がある.
訂正

キーワード
GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬、週1回投与製剤、インクレチン関連薬

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臨床
超高齢者社会におけるインクレチン製剤の意義
荒木 厚*

* 東京都健康長寿医療センタ糖尿病・代謝・内分泌内科内科 総括部長

要  旨
 高齢者におけるインクレチン関連薬は,重症低血糖を起こしにくいことが大きな利点である.GLP-1受容体作動薬やDPP-4阻害薬は認知症のモデル動物の認知機能低下を抑制するが,ヒトでのデータは乏しい.インクレチン関連薬は骨質に好影響を与える可能性があるが,臨床的には転倒・骨折に影響を及ぼさないという報告が多い.GLP-1受容体作動薬やDPP-4阻害薬は,SU薬やインスリンの量を減らすことで将来の重症低血糖を減らすことができる可能性がある.また,高齢2型糖尿病患者におけるインクレチン関連薬は,認知症などを合併し社会サポートが乏しい患者に対するインスリンの離脱や回数を減らすことにより,在宅医療にも貢献することが期待される.

キーワード
インクレチン製剤、高齢者糖尿病、認知機能、転倒、骨折

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痛みのClinical Neuroscience
(7)慢性痛難治化の心理社会的因子 ―養育スタイルとアレキシサイミア―
細井 昌子**   柴田 舞欧*   岩城 理恵*   安野 広三*

* 九州大学病院心療内科   ** 同講師

要  旨
 慢性痛の難治化には,養育環境で醸成された認知行動特性としての過剰適応・過活動が影響していることが多い.多数の慢性痛難治例の心理社会的背景を分析し,過干渉・低ケアの被養育体験から,自尊心が低下し,自己否定感を覚え,感情への気づきの低下(アレキシサイミア)に至り,これらが慢性痛難治化の準備因子・持続因子になっているメカニズムを概説した.さらに,心身医学的疫学研究で得られた慢性痛の有症率に関する知見を紹介した.

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連載
肉眼解剖学者がみたヒト大脳の立体構造

 脳の肉眼解剖学に40年間携わってこられた金沢医科大学・篠原治道先生による誌面講義の第7回は「外側からのアプローチ(7)大脳辺縁系,海馬傍回鈎,扁桃体,ジアコミニ帯,嗅索,内側・外側嗅条,前有孔質,ブローカの対角帯,前交連,グラチオレット管,側坐核,線条体底(仮称),皮質線条体線維」です。
 開業医、研修医、専門医の方々にもご興味やご関心をもって頂けるような内容となっています。

外側からのアプローチ(7)大脳辺縁系,海馬傍回鈎,扁桃体,ジアコミニ帯,嗅索,内側・外側嗅条,前有孔質,ブローカの対角帯,前交連,グラチオレット管,側坐核,線条体底(仮称),皮質線条体線維(本文より)

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連載
トップランナーに聞く(第58回)
ターゲットシークエンスによる難治性進行がんの治療開発研究

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
  第58回はがん患者の診断時に腫瘍のゲノム解析を行い,その結果を基に薬剤を選択するという活動を行っておられる国立がん研究センターの土原 一哉 先生にお話を伺いました。


 土原 一哉 先生

 がん代謝標的療法の開発,ゲノムバイオマーカーの開発,大規模シークエンスを活用した治療標的探索,全国規模のゲノムスクリーニング体制の構築をしています.

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連載
ノーベル賞と医学の進歩・発展

 68巻10号からノーベル賞の対象となった業績やその業績が現在どのような恩恵をもたらしているかについて、各領域の専門家の先生方に詳しいご解説をお願いしております。

第37回は関西医科大学名誉教授・玄番 央恵 先生による「神経細胞の膜機能 ―活動電位とシナプス後電位の研究―」です。

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トピックス
モガムリズマブの新しい展開
鈴木 進*1 中山睿一*2 黒瀬浩史*3 上田龍三**1

*1 愛知医科大学医学部腫瘍免疫寄附講座 准教授 **1 同教授 *2 川崎医療福祉大学医療福祉学部 教授
*3 川崎医科大学附属病院呼吸器内科

要  旨
 ヒト型抗ヒトC-Cケモカイン受容体4(CCR4)モノクローナル抗体モガムリズマブは,制御性T細胞(Treg)除去効果が確認されている唯一の抗体医薬であること,また,成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)患者治療において免疫亢進効果が認められる事象を背景に,モガムリズマブの固形がんを対象とした治験が実施された.治療効果は限定的であったが,重篤な有害事象を示すことなく,全例において効果的な Treg 除去効果が明らかとなり,今後,がん免疫治療薬としての応用が期待される.

キーワード
CCR4、モガムリズマブ、ADCC、Treg、CTL

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第52回 2015年度 ベルツ賞受賞論文
EML4-ALK がん遺伝子の発見と分子標的療法の実現

間野博行**1  曽田 学*1  崔 永林*2 竹内賢吾*3
*1 東京大学大学院医学系研究科細胞情報学分野助教 **1 同教授 *2 同ゲノム医学講座 特任准教授
*3 がん研究会がん研究所分子標的病理プロジェクトプロジェクトリーダー

要  旨
 Targeting essential growth drivers that cancer cells cannot live without would be one of the ideal ways to treat this intractable disorder. To identify such essential drivers, we developed a highly sensitive functional screening system with retroviral cDNA expression libraries. Application of this technology to a non-small cell lung cancer (NSCLC) specimen identified the EML4-ALK fusion oncogene. This was the first example of recurrent tyrosine kinase fusions in major epithelial tumors, and clearly argued against the previous notion that chromosome rearrangement-mediated oncogenesis is specific to hematological malignancies/sarcomas but not to epithelial tumors. Wild-type ALK encodes a receptor-type protein-tyrosine kinase, but a small inversion within the short arm of chromosome 2 leads to the production of a constitutively active, and highly oncogenic fusion kinase. In response to such observation, a large number of ALK inhibitors are currently under development or clinical trials, and a marked efficacy of the first inhibitor (crizotinib) was already reported with a response rate of ~60%. Only four years after our initial discovery of EML4-ALK, crizotinib was approved, as of August 26, 2011, as a therapeutic drug against lung cancer by U.S. FDA, which was the record-breaking speed in the history of cancer drug development. Furthermore, from a patient with NSCLC who was once effectively treated with crizotinib but underwent rapid relapse after 6 monthsユ treatment, we discovered secondary mutations within EML4-ALK that confer resistance to ALK inhibitors. One of the acquired mutations was an L1196M substitution that is placed at the identical position to Thr-790 in EGFR and Thr-315 in ABL; the メgatekeeperモ position in the ATP-binding pocket. Our discovery of the gatekeeper mutation swiftly led to the development of the second generation of ALK inhibitors. One of such inhibitors, alectinib, demonstrated a magical response rate of 93.5%, and has been already approved in Japan.Our series of basic and translational research has thus brought the most effective drug to epithelial cancer in a remarkably short period of time. Further, successful treatment by a single ALK inhibitor of non-lung tumors with other ALK fusions further validates an idea of メALKomaモ, a step toward a beyond-organ, driver gene-based cancer classification.
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