最新醫學 71巻2号 
特集 神経と免疫のクロストーク



要  旨


座談会
 見えてきた!?神経・免疫クロストーク

大阪大学           鈴木 一博
大阪大学           山下 俊英
大阪大学           熊ノ郷 淳 (司会)

 座談会の内容
 ・神経・免疫クロストークの研究の歴史
 ・神経系と免疫系の相互作用の分子基盤
 ・神経系と炎症
 ・神経・免疫クロストークと疾患
 など
 
   鈴木先生      熊ノ郷先生      山下先生

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総説
交感神経による免疫細胞動態の制御

鈴木 一博*
* 大阪大学免疫学フロンティア研究センター 准教授

要  旨
 神経系が免疫系の調節にかかわることは古くから指摘されてきたところである.しかし,神経系からの入力がどのようにして免疫系からの出力に変換されるのか,そのメカニズムは長らく不明であった.最近の研究から,交感神経が好中球やリンパ球の体内動態をそれぞれ異なる分子機構で調節していることが明らかになった.本稿では,交感神経による免疫細胞動態の制御機構に関する最新の知見を紹介し,その生理的意義について考察する.

キーワード
交感神経系、免疫細胞動態、アドレナリン受容体、ケモカイン受容体

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総説
神経刺激による免疫細胞の血管ゲートの形成制御

上村大輔**  有馬康伸*   村上正晃***
* 北海道大学遺伝子病制御研究所・大学院医学研究科分子神経免疫学分野助教 ** 同講師 *** 同教授

要  旨
 近年,慢性炎症が多くの疾患に関与することが明らかになっている.炎症は免疫細胞の臓器浸潤を伴うが,血液中を循環する免疫細胞が標的臓器のどこから,どのように侵入するのかはあまり知られていない.我々は,中枢神経系への免疫細胞の侵入口(ゲート)を同定し,このゲートの開閉には神経刺激を介した反射が必要であることを見いだした.本稿では,このゲートウェイ反射とその基盤となる分子機構である炎症回路について解説する.

キーワード
ゲートウェイ反射、炎症回路、非免疫細胞、NF-κB、STAT

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総説
神経炎症と神経再生を制御する RGM の機能

山下俊英*
* 大阪大学大学院医学系研究科分子神経科学 教授

要  旨
 中枢神経系には,神経回路の再生を抑制する機能を持つ軸索再生阻害因子と呼ばれる膜タンパク質が存在する.これらのタンパク質は,神経細胞の周りを取り巻くミエリンやアストロサイト,ミクログリアなどに発現し,損傷された神経回路の再生を阻止し,機能回復を阻む.RGMは軸索再生阻害因子であるが,免疫制御にも働いている.特に自己免疫性脳脊髄炎の発症と病態の増悪にかかわっていることが示されており,多発性硬化症などの神経免疫疾患の新しい分子標的として注目されている.本稿では,RGM の機能と臨床応用の可能性について概説する.

キーワード
多発性硬化症、Repulsice guidance molecule、ヘルパーT細胞、中枢神経、軸索再生

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総説
神経ガイダンス因子による免疫制御
伊藤大介*   熊ノ郷 淳**

* 大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫アレルギー内科学 ** 同教授

要  旨
 セマフォリンは反発性の神経ガイダンス因子として知られている.近年では,セマフォリンの中で免疫反応にかかわるものが明らかになり,樹状細胞,マクロファージ,T細胞,B細胞に発現し,細胞間における副刺激作用,免疫細胞の移動機能制御,そして骨免疫制御に関与していることが明らかになっている.現在,セマフォリンとその受容体はさまざまな疾患の診断および治療ターゲットとなる可能性があると考えられている.

キーワード
セマフォリン、免疫セマフォリン、Sema4A、Sema4D

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総説
免疫性神経疾患と腸管免疫

三宅幸子*
* 順天堂大学免疫学 教授

要  旨
 腸内環境が免疫性疾患の病態に影響を与えることが注目されている.無菌飼育下や抗生物質投与により腸内細菌を変化させると,実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)病態が影響を受ける.Th17細胞を誘導する細菌を移入すると病態が悪化する一方,制御性T細胞の増殖に関与する細菌を移入するとEAE病態が軽減すること,polysaccharideAや短鎖脂肪酸が関与することなどが報告されている.免疫調節に最適な腸内環境の維持が可能になれば治療や予防にもつながることから,研究の進展が期待される.

キーワード
腸内細菌、SFB細菌、クロストリジウム、短鎖脂肪酸、制御性T細胞

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総説
脳内環境維持細胞としてのミクログリア ―正常状態・異常状態―

山﨑 亮*
* 九州大学病院神経内科病院 講師

要  旨
 ミクログリアは,中枢神経免疫担当細胞として中枢神経系に異常が生じたときに活性化するが,静止型と考えられていた定常状態のミクログリアも実は非常に活発な活動をしており,脳内環境維持のみならず,その発達,学習にも重要な役割があることが判明した.また,従来は精神科疾患と考えられていたてんかんや自閉症の発症にも深く関与していることが明らかとなった.ミクログリアの詳細な機能開発が,新規治療法開発に有用と考えられた.

キーワード
ミクログリア、シナプス可塑性、M1/M2

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総説
皮膚における神経免疫クロストーク
中村史雄*1  五嶋良郎**1  相原道子*2

*1 横浜市立大学大学院医学研究科分子薬理神経生物学 准教授 **1 同教授
*2 横浜市立大学大学院医学研究科環境免疫病態皮膚科学 教授

要  旨
 皮膚においても神経系と免疫系は密接に相互作用する.ヒスタミン,プロスタグランジン類,ニューロペプチド類が末梢神経系と免疫系に与える作用を概説した.末梢知覚神経の伸長をNGFは促進し,Sema3Aは抑制する.二者のバランスがアトピー性皮膚炎や乾癬ではNGFに偏っている.この変化が過剰な知覚神経の浸潤や免疫細胞の過剰活性化をもたらすことから,Sema3A補充が疾患の症状軽減に有効であると考えられる.    

キーワード
ヒスタミン、セマフォリン3A、NGF、アトピー性皮膚炎

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総説
骨神経クロストーク ―骨免疫の観点も含めて―
福田 亨*   竹田 秀**

* 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科細胞生理学分野 ** 同教授

要  旨
 レプチン欠損マウスでの骨量増加の発見により,従来から内分泌系を中心に考えられてきた骨代謝制御が,神経系によっても制御されていることが明らかとなった.中でもこれまでの研究により,交感神経-副交感神経系が骨代謝を調節することが解明されつつある.また最近では,感覚神経系が骨代謝を制御していることが報告されるなど,骨と神経は密接に関連していることが明らかになっている.

キーワード
交感神経系、副交感神経系、感覚神経系、セマフォリン3A

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イメージング
神経への免疫細胞侵入のイメージング
川上直人*

* ミュンヘン大学

要  旨
 中枢神経系は免疫寛容器官であると考えられてきた.しかし最近の知見より,定常状態においても免疫細胞が侵入することが示されている.特に,自己反応性の細胞が侵入した場合には,重篤な自己免疫反応が引き起こされる.多光子顕微鏡を用いた生体内イメージングにより,免疫細胞がどのように血液脳関門を乗り越えて中枢神経系に侵入し,その後どのように活性化を受けるかが視覚化された.この知見をもとに,自己免疫反応が誘導される機構の解明が期待される.

キーワード
自己免疫、中枢神経、ライブイメージング、多発性硬化症

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イメージング
中枢神経系の神経炎症イメージング
中原 仁*

* 慶應義塾大学医学部神経内科
要  旨
 中枢神経系には血液脳関門が立ちはだかり,免疫細胞の自由な往来は制限されている.このことから,中枢神経系には「免疫特権」があると推定されてきたが,ミクログリアやアストロサイトに代表されるグリア細胞が炎症(神経炎症)を惹起し得ることが次第に明らかになってきている.昨今,ミクログリアやアストロサイトを標的としたPETトレーサーが開発され,あるいはMRIを駆使することによって神経炎症をさまざまな角度から非侵襲的に観察することが可能になってきた.
キーワード
陽電子放出断層撮影法(PET)、核磁気共鳴撮影法(MRI)、ミクログリア、アストロサイト

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各論
脳虚血と炎症
伊藤美菜子*1  七田 崇**1*2 森田林平**1 吉村昭彦***1

*1 慶應義塾大学医学部微生物学免疫学教室 **1 同講師 ***1 同教授 *2 科学技術振興機構さきがけ
要  旨
 高齢化社会に伴って,脳卒中医療の重要性はますます高まっている.脳梗塞後の炎症の惹起には虚血壊死に陥った脳組織から放出されるDAMPsが重要であり,脳内に浸潤した免疫細胞を活性化する.マクロファージやT細胞は炎症を促進,遷延化させる.やがて炎症は収束に向かい,さまざまな抗炎症性因子や修復因子が脳内で産生される.脳虚血後炎症の経過を解明し,適切な炎症の制御を行うことで,新規の脳梗塞治療法開発の可能性がある.

キーワード
脳梗塞、炎症、DAMPs、インフラマソーム、T細胞

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各論
筋萎縮性側索硬化症と炎症 ―神経・免疫連関の立場から―
山中宏二*

* 名古屋大学環境医学研究所病態神経科学分野 教授

要  旨
 筋萎縮性側索硬化症の病巣において,グリア細胞の活性化やT細胞の浸潤が認められる.これらの細胞群により神経炎症が惹起され,神経栄養因子や炎症性サイトカイン等の神経傷害性因子の放出といったさまざまな機能的変化が生じて運動神経変性に関与すると考えられる.神経炎症には神経傷害性,保護性の二面性があり,グリア細胞やT細胞が関与する病態機序の解明を通じ,神経炎症を制御することを通じた神経変性疾患の治療法開発が期待される.

キーワード
筋萎縮性側索硬化症、ミクログリア、アストロサイト、神経炎症、非細胞自律性

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各論
ギラン・バレー症候群と自己免疫
上田昌美*1*2 楠  進**1

*1 近畿大学医学部神経内科 講師 **1 同教授 *2 近畿大学リハビリテーション科
要  旨
 ギラン・バレー症候群は,急性発症の自己免疫性末梢神経障害であり,あらゆる年齢層に発症する.病態には液性免疫・細胞性免疫,感染因子・宿主因子が複合的に関与しており,多くの症例で呼吸器系,消化器系などの先行感染を有す.急性期治療として免疫療法が有効であり,経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)と血漿浄化療法(PP)のいずれかを第1選択とする.

キーワード
ギラン・バレー症候群、自己免疫性末梢神経障害、ガングリオシド、抗糖脂質抗体、抗糖脂質複合体抗体

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各論
視神経脊髄炎の免疫病態とIL-6 シグナル標的治療
山村 隆*

* 国立精神・神経医療研究センター神経研究所免疫研究部 部長

要  旨
 視神経脊髄炎(NMO)は抗アクアポリン4抗体が介在する自己免疫疾患で,適切な治療が施されなければ視神経炎や脊髄炎を繰り返し重篤な症状を残す.NMOの治療薬開発は黎明期にあるが,我々はIL-6依存性プラズマブラストの役割に着目して,抗IL-6受容体抗体トシリズマブ(TCZ)のNMOに対する有効性を検証してきた.臨床試験ではTCZ治療による再発回数減少,疲労感や疼痛の軽減効果が観察され,NMOの病態におけるIL-6シグナルの関与が明確になった.

キーワード
視神経脊髄炎、抗アクアポリン4抗体、プラズマブラスト、抗IL-6受容体抗体、トシリズマブ

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痛みのClinical Neuroscience
(8)脊髄機能変化と痛み ―アロディニアなどのメカニズムを巡って―
谷口  亘*   中塚 映政**

* 和歌山県立医科大学整形外科学教室 ** 関西医療大学保健医療学部疼痛医学分野

要  旨
 アロディニアなどの難治性疼痛には,脊髄内における中枢性感作や神経可塑性が大きく関与している.脊髄後角内では末梢からの痛み刺激をシナプス伝達する際に,興奮性あるいは抑制性に修飾したうえで上位中枢に中継している.この脊髄内における機能変化が起こると正常な痛覚伝達が逸脱し,痛覚過敏やアロディニアなどの異常疼痛が生じると考えられている.

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連載
肉眼解剖学者がみたヒト大脳の立体構造

 脳の肉眼解剖学に40年間携わってこられた金沢医科大学・篠原治道先生による誌面講義の第11回は「外側からのアプローチ(8)下縦束,極回,視放線,脈絡組織,脈絡叢,脳弓ひも,脈絡ひも,脈絡裂,終帆」です。
 開業医、研修医、専門医の方々にもご興味やご関心をもって頂けるような内容となっています。

外側からのアプローチ(8)下縦束,極回,視放線,脈絡組織,脈絡叢,脳弓ひも,脈絡ひも,脈絡裂,終帆(本文より)

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連載
トップランナーに聞く(第59回)
ターゲットシークエンスによる難治性進行がんの治療開発研究

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
  第59回は慢性閉塞性肺疾患(COPD)の肺気腫期待するフラクタル解析や同事物実験などを通してCOPDのb様態解明を進められている京都大学の室 繁郎 先生にお話を伺いました。


 室  繁郎 先生

 COPDの自然歴・増悪を中心とした臨床研究が主たるテーマです。CT画像を用いた形態解析も得意としており、気腫の破壊のパターンと臨床経過・炎症論を関連づけることに注力しており、将来的には診断時の画像形態パターンから、病態を推定できるようになればと考えております。そのために、共同研究者とマウスを用いた動物実験も平行して遂行しています。

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連載
ノーベル賞と医学の進歩・発展

 68巻10号からノーベル賞の対象となった業績やその業績が現在どのような恩恵をもたらしているかについて、各領域の専門家の先生方に詳しいご解説をお願いしております。

第37回は京都大学・前田 道之 先生による「病原ウイルスの培養」です。

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トピックス
ミトコンドリアとパーキンソン病を直接つなぐ遺伝性パーキンソン病新規原因遺伝子の同定
舩山 学*1*2*3 服部信孝**1**2**3

*1 順天堂大学大学院医学研究科老人性疾患病態・治療研究センター **1 同副センター長
*2 順天堂大学医学部 神経学講座 **2 同教授
*3 順天堂大学大学院医学研究科ゲノム・再生医療センター **3 同室長

要  旨
 Coiled-coil-helix-coiled-coil-helix domain containing 2(CHCHD2)は,日本人優性遺伝性パーキンソン病家系から発見された新規遺伝性パーキンソン病の原因遺伝子である.CHCHD2はミトコンドリア膜間腔に局在し,電子伝達系の調節に関与する.パーキンソン病とミトコンドリア機能を直接つなぐ新規分子であり,パーキンソン病の病態解明や新規治療薬の開発に寄与することが期待されている.

キーワード
パーキンソン病、ミトコンドリア、電子伝達系、遺伝性

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