最新醫學 71巻4号 
特集 免疫不全患者における感染症の現状と展望


要  旨


座談会
 免疫不全患者における感染症 ―内科系および外科系の見地から考える―

広島大学        大毛 宏喜
長崎大学        泉川 公一
愛知医科大学     三鴨 廣繁 (司会)

 座談会の内容
 ・何をもって低侵襲と見なすか
 ・手術療法と非手術療法
 ・胸腔鏡・腹腔鏡・ロボット支援手術の現状
 ・がん低侵襲治療の方向性
 など
 
   泉川先生   大毛先生         三鴨先生

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総論
原発性免疫不全症

高田英俊*
* 九州大学大学院医学研究院周産期・小児医療学 教授

要  旨
 生体防御機構は極めて複雑な仕組みであり,そのいずれかが先天的に破綻している状態を原発性免疫不全症と言う.これは,ヒト免疫不全ウイルスなどの感染症や,抗がん剤やステロイド・免疫抑制薬による治療に伴う続発性免疫不全症とは対照的な病態である.他方,原発性免疫不全症の病態の解明から,どのような種類の病原体に,どのようなシステムで生体防御を行っているのかが理解されるようになった.感染症を起こす微生物の種類や臨床経過は,原発性免疫不全症の疾患ごとに特徴がある.原発性免疫不全症の原因が次々と解明されるに伴い,特定の病原体のみに易感染性を示すような原発性免疫不全症も明らかになり,原発性免疫不全症に新しい概念が追加されてきている.原発性免疫不全症は必ずしも小児期発症とは限らない.さらに生体防御機構の異常は,病原体に対する易感染性だけでなく,自己免疫疾患や悪性腫瘍の発症にも関連していることが明確になってきた.

キーワード
易感染性、自然免疫、獲得免疫

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総論
感染免疫機構と後天的に免疫不全を来す病態

小泉祐介*1*2 山岸由佳**1**2 三鴨廣繁***1***2
*1 愛知医科大学病院感染症科 講師 **1 同准教授 ***1 同教授
*2 同感染制御部 講師 **2 同准教授 ***2 同教授

要  旨
 臨床的に重要な免疫不全は,好中球減少症,細胞性免疫不全,液性免疫不全に大別され,それぞれの原因と結果的に生じ得る感染症は大きく異なる.後天的に生じる免疫不全の多くは医原性であり,医療従事者は正常免疫機能と免疫不全の病態,リスク因子を適切に把握して,早期発見と適切な治療に努める必要がある.

キーワード
好中球減少症、細胞性免疫不全、液性免疫不全、日和見感染症

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各論
糖尿病と感染症

寺坂喜子*   安西慶三**
* 佐賀大学医学部内科学講座肝臓・糖尿病・内分泌内科学 ** 同教授

要  旨
 糖尿病患者は感染症に罹患しやすく,また感染は血糖をさらに悪化させ,悪循環に陥らせる.そのメカニズムについて理解し,日々の診療にあたる必要がある.また,急性期に現在推奨されている血糖管理目標値を提示した.今後増え続けると予想される高齢糖尿病患者の感染症を,患者,医療従事者,社会全体で,予防・早期発見・治療に努めることが重要である.新規糖尿病治療薬と感染症の関係を理解し,適切な対応を心掛けていく必要がある.

キーワード
糖尿病、感染症、急性期血糖管理、SGLT2阻害薬、人工膵臓

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各論
肝硬変患者に合併する細菌感染症
井津井康浩*1*2 朝比奈靖浩**1*3

*1 東京医科歯科大学消化器内科講師 **1 同教授 *2 同医学部附属病院総合教育研修センター 講師
*3 同大学院肝臓病態制御学 教授

要  旨
 肝硬変では,肝臓の働きである代謝・解毒・胆汁分泌が損なわれており,感染にかかわる働きは解毒作用である.つまり消化管から門脈を通じて細菌やエンドトキシンなどが肝臓にて処理=解毒されているが,肝硬変患者ではその機能が低下しているため,細菌感染症を引き起こす.肝硬変に特徴的な感染症として,特発性細菌性腹膜炎(SBP)がある.本稿では,肝硬変において易感染性となる機序や,SBPなどの感染症について概説する.

キーワード
肝硬変、肝臓の免疫応答、特発性細菌性腹膜炎、二次感染

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各論
腎不全(透析患者を含む)

川口祐輝*   浦松 正**
* 長崎大学病院腎臓内科 ** 同講師

要  旨
 慢性腎不全(保存期)および透析患者では,好中球・リンパ球・単球・マクロファージの異常により,免疫機能が健常人と比べ有意に低下している.このため,腎機能の低下により感染症のリスクは増加することが報告されている.また,近年の日本透析医学会による透析調査結果では,透析患者の死亡原因として感染症が第2位(20.9%)であり,感染症への対策は生命予後の改善において重要である.慢性腎不全(保存期)・透析患者の感染症への対応や検討課題について言及する.

キーワード
感染症、慢性腎不全、透析

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各論
好中球減少症における感染症対策

神田善伸*
* 自治医科大学附属病院・附属さいたま医療センター血液科 教授

要  旨
 好中球は細菌や真菌を貪食,殺菌する働きを持つので,好中球減少状態では細菌感染症,真菌感染症が増加する.特に造血器腫瘍に対する化学療法後は高度な好中球減少状態となり,さまざまな感染症に罹患する危険が高まる.このような患者の感染症対策を考えるうえで重要なことは,個々の患者の感染症罹患リスクを評価して,それぞれに適した予防対策,治療対策を考えていくことである.

キーワード
造血器腫瘍、化学療法、好中球減少症、細菌感染症、真菌感染症

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各論
HIV 感染症/後天性免疫不全症候群(AIDS)
笠井大介*   上平朝子**

* 国立病院機構大阪医療センター感染症内科 ** 同科長

要  旨
 HIV感染症は患者数が年々増加しており,日常診療で診察する機会も増えてきた疾患である.全身疾患であるため,患者は専門診療科のみならず,さまざまな診療科を受診する.本稿では,HIV感染症/AIDSを診断するために必要な病態,検査に関して解説するとともに,抗HIV療法の総論と職業曝露予防に関しても述べてゆく.    

キーワード
HIV感染症、AIDS、職業曝露予防

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各論
臓器移植患者の感染症
高倉俊二*

* 京都大学医学部附属病院感染制御部 准教授

要  旨
 実質臓器移植後は,外科手術そのものおよび免疫抑制薬投与という2つによって高度の易感染状態にあり,致命率も高い.拒絶反応などの非感染症性の発熱原因も多く,非免疫抑制者と比較して幅広い種類の微生物が原因の感染症が発症するため,エンピリック治療を中心に考えると見逃しが生じやすい.移植臓器,移植後の時期,免疫抑制状態により想定される多種の原因微生物を把握して対処する必要がある.

キーワード
実質臓器移植、拒絶反応、免疫抑制薬、サイトメガロウイルス、深在性真菌症

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各論
生物学的製剤使用患者
松本智成*1*2*3

*1 大阪府結核予防会大阪病院 副院長 *2 同診療部長 *3 同内科部長

要  旨
 生物学的製剤を関節リウマチ発症早期に使用することで,QOL維持,改善が期待できるようになった.生物学的製剤は細菌感染の副作用が起きる場合があることが知られている.その投与において慎重な投与前スクリーニング,適切な予防内服法が求められ,投与中もモニタリングが重要である.また今後,感染症によりサイトカインストームが起きた場合に,感染症治療薬とともに生物学的製剤が使用される時代が来るかもしれない.

キーワード
生物学的製剤、TNF阻害薬、細菌性肺炎、結核、非結核性抗酸菌症

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各論
膠原病疾患
坂野章吾*

* 愛知医科大学腎臓・リウマチ膠原病内科 特任教授

要  旨
 膠原病疾患に併発する感染症は,副腎皮質ステロイド(グルココルチコイド),免疫抑制薬治療による感染症が主体である.膠原病疾患は全身性多臓器疾患であるため,膠原病自身の臓器病変,感染症併発,薬剤による有害事象の鑑別が重要である.臓器病変評価のため侵襲的検査も必要で,病原微生物同定を繰り返すが困難な場合,補助診断で有用な検査を行い,エンピリックに治療を開始することも必要である.
キーワード
膠原病、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、日和見感染症、免疫抑制薬

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各論
炎症性腸疾患
安藤 朗*

* 滋賀医科大学医学部消化器内科 教授
要  旨
 潰瘍性大腸炎とクローン病に代表される炎症性腸疾患(IBD)の内科治療は,強力な免疫抑制薬や生物学的製剤の導入により飛躍的に向上した.一方で,低栄養状態や高齢患者の増加などの要因も重なり,すべてのIBD患者は免疫不全状態と考え,常に日和見感染の危険性を考えるべきともされている.IBDにおける日和見感染の実際について,サイトメガロウイルス腸炎,Clostridium difficile感染症,結核,JCウイルス感染症を中心に解説する.

キーワード
潰瘍性大腸炎、クローン病、サイトメガロウイルス腸炎、Clostridium difficile腸炎

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各論
免疫低下状態において注意すべき皮膚感染症
中原真希子*   古江増隆**

* 九州大学大学院医学研究院皮膚科学 診療講師 ** 同教授

要  旨
 一般臨床においてもさまざまな皮膚感染症が見られるが,免疫低下状態ではさらに高頻度に皮膚感染症が出現し,その臨床経過は難治化,遷延化し,また通常とは異なる臨床像を呈する場合もある.よって,疑えば速やかに皮膚科コンサルトが望ましい.本稿では,免疫低下状態にて日常診療においてしばしば遭遇する,ウイルス,細菌,真菌などによる皮膚感染症などの中から,特に注意すべき感染症について概説する.

キーワード
皮膚感染症

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各論
ICU における免疫不全
大下慎一郎*   志馬伸朗**

* 広島大学大学院救急医学 講師 ** 同教授
要  旨
 ICUにおける免疫不全患者の感染症診療は,考慮すべき点が多く難易度が高い.臨床症状が典型的でなく,感染臓器が1つとは限らないという特徴があるためである.ICUで遭遇することが多い免疫不全には,脾臓摘出後重症感染症,HIV関連感染症,移植術後感染症,熱傷がある.免疫不全患者の診療では,免疫不全を一括りにせず,どの防御機構が障害された免疫不全なのかを考えながら治療方針を立てることが重要である.

キーワード
ニューモシスチス、結核、サイトメガロウイルス、日和見感染

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痛みのClinical Neuroscience
(10)進化する脊髄刺激療法(SCS)
山本隆充

日本大学医学部脳神経外科学系応用システム神経科学分野 主任教授

要  旨
 8極の経皮的リードを2本結線することのできる脊髄刺激装置が開発され,電極間の刺激や複数の刺激点を組み合わせた Dualミlead SCS が可能となった.また,20極の外科的パドルリードも使用可能となっている.体位によって自動で刺激強度を調節する機能を有する刺激装置,再充電が可能な刺激装置に加え,全身MRIに対応の脊髄刺激装置も使用可能となっている.このほかにも新たな多くの機能を有する脊髄刺激装置が開発されている.


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連載
肉眼解剖学者がみたヒト大脳の立体構造

 脳の肉眼解剖学に40年間携わってこられた金沢医科大学・篠原治道先生による誌面講義の第12回は「外側・下方からのアプローチ(2)海馬錐体細胞層,錐体小丘(仮),放線層,アンモン角第1~4領域(CA1~4),歯状回門,網状層,分子層」です。
 開業医、研修医、専門医の方々にもご興味やご関心をもって頂けるような内容となっています。

外側・下方からのアプローチ(2)海馬錐体細胞層,錐体小丘(仮),放線層,アンモン角第1~4領域(CA1~4),歯状回門,網状層,分子層(本文より)

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連載
トップランナーに聞く(第61回)
大学発の創薬の実現を目指して

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
  最終回は低分子のアディポネクチン受容体アゴニスト(AdipoRon)を同定し、その経口投与によるインスリン抵抗性改善や寿命の延長について研究されている東京大学の岩部(岡田)美紀 先生にお話を伺いました。


 岩部(岡田)美紀 先生

 大学院時代は、微生物学や生化学・分子生物学手法を中心に細胞内カルシウムシグナル伝達機構の解明や分子シャペロンの研究を行ってきました。「分子から疾患へ」から、「疾患から分子へ」と研究のアプローチを大きく転換させたく、東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科の門脇 孝先生の研究室に移り、現在まで一貫して生活習慣病の鍵分子であるアディポネクチン/アディポネクチン受容体に関する研究を行ってきました。アディポネクチン受容体をターゲットにした機能性食品の開発や大学発の創薬の実現を目指しています。

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トピックス
肺がん診療におけるリキッドバイオプシーの現状
千原佑介*   髙山浩一**

* 京都府立医科大学大学院医学研究科呼吸器内科学 ** 同教授

要  旨
 肺がん治療は分子標的薬の登場により生存期間が大きく延長してきており,その標的となるドライバー変異の検索は治療戦略において非常に重要となっている.近年,耐性遺伝子による耐性化が明らかになり,頻回の生検が望まれるが,組織採取は侵襲が大きく困難なことも多い.リキッドバイオプシーは,血液中を循環する腫瘍細胞や腫瘍DNAから遺伝子情報を取得する低侵襲で頻回の採取を可能とする技術であり,肺がん治療においても実用化が期待されている.

キーワード
膵β細胞、再生医療、iPS細胞、分化誘導、糖尿病

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トピックス
CRISPR-Cas9 システムを用いた人工的なヒト大腸がんの再構築
伊達昌一*   佐藤俊朗**

* 慶應義塾大学医学部消化器内科 ** 同特任准教授

要  旨
 大腸がんでは adenoma-carcinoma sequence が知られているが,ヒト正常大腸上皮幹細胞への複数のドライバー遺伝子変異導入がどのような形質変化をもたらすかは不明である.我々はオルガノイド培養系とゲノム編集技術を用いて検証を行い,正常上皮幹細胞はドライバー遺伝子変異によりニッチ非依存性からなる腫瘍形成能を得ること,染色体不安定性を持つ腺腫幹細胞では肝転移能を獲得することを明らかにした.

キーワード
次世代シークエンシング、遺伝子変異、先天性甲状腺機能低下症

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特報:平成27年度井村臨床研究賞受賞記念論文
臨床研究と生物統計学
大橋靖雄*1*2

*1 中央大学理工学部人間総合理工学科 教授 *2 東京大学 名誉教授

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総説
後天性 von Willebrand 症候群診断の参照ガイド
毛利 博*1  松下 正*2  家子正裕*3 田村俊寛*4  一瀬白帝*5

*1 藤枝市立総合病院内科 *2 名古屋大学医学部輸血部 *3 北海道医療大学歯学部内科学 *4 天理よろづ相談所病院循環器内科(外部委員) *5 山形大学医学部分子病態学

要  旨
 後天性 von Willebrand 症候群(AVWS)は,von Willebrand 病様の病態を呈する比較的まれな後天性凝固異常症である.その基礎疾患は,リンパ増殖性疾患,自己免疫疾患,骨髄増殖性疾患,心血管疾患,悪性疾患,甲状腺機能低下症など多岐にわたる.出血症状は紫斑や粘膜内出血がほとんどで,比較的軽微なことが多い.発症機序は,von Willebrand 因子(VWF)産生低下,抗VWF自己抗体,ずり応力変化によるVWFの分解亢進,腫瘍細胞へのVWF吸着などである.VWF活性の低下により診断され,VWF抗原,第Ⅷ/8因子活性,APTT,出血時間などを検討する.VWFマルチマー解析が可能な施設は少なく,VWF抗原/VWF活性比を検討することにより病型を診断する.混合試験にてVWF活性阻害の有無,ELISAにてVWFに対する抗体の存在を検索する.AVWSは,基礎疾患に対する治療が奏効すると病態は改善するため,基礎疾患の治療が第一である.基礎疾患の治療が奏効しないときには,DDAVP,VWF含有第Ⅷ/8因子製剤などの投与にて止血管理を行う.

キーワード
膵β細胞、再生医療、iPS細胞、分化誘導、糖尿病

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