最新醫學 71巻 9号 
特集 腸内細菌学の新潮流
   -基礎医学的見地から新規治療開発まで-


要  旨


座談会
 腸内細菌 ―基礎・臨床の連携―

早稲田大学           服部 正平
慶應義塾大学         福田 真嗣
慶應義塾大学         金井 隆典(司会)

 座談会の内容
 ・腸内細菌研究の歴史
 ・ヒトゲノム計画から腸内細菌研究へ
 ・腸内細菌叢の人種間差
 ・糞便微生物移植
 ・腸内細菌研究の未来
 など
 
   福田先生        金井先生     服部先生

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腸内細菌学の温故知新

神谷 茂*
* 杏林大学医学部感染症学 教授

要  旨
 腸内細菌の研究のルーツは,Pasteur,Escherich,Metchnikoffなどが活躍した19世紀後半に求められる.20世紀より,腸内細菌叢の研究が多くの研究者によってなされてきた.嫌気培養法の開発,無菌動物の作製,分子遺伝学的解析法(16S rRNA遺伝子解析法やメタゲノム解析法等)の導入などにより,現在の新たな腸内研究が進展することとなった.先人による過去の腸内細菌研究の重要な視点を温め,今後の研究に重要な事柄を知っていく姿勢が肝要である.
キーワード
腸内細菌、正常細菌叢、歴史、培養、メタゲノム解析

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メタゲノミクスとヒト腸内マイクロバイオーム研究

服部 正平*
* 早稲田大学理工学術院先進理工学研究科 教授

要  旨
 人体の腸には約1,000種類,数百兆個の細菌からなる腸内細菌叢が形成されている.近年における次世代シークエンサーを用いたメタゲノム技術により,ヒト腸内細菌叢の研究はこの約10年間に飛躍的に進展した.今日までに世界各国で収集された大量のヒト腸内細菌叢のゲノム・遺伝子情報からは,ヒト腸内細菌叢が有する菌種と遺伝子の全貌が見えてきた.本稿では,メタゲノム解析技術およびヒト腸内細菌叢の実態および多様性を解説する.

キーワード
マイクロバイオーム、メタゲノム、常在菌、微生物、次世代シークエンサー

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腸内細菌による免疫修飾作用

長谷 耕二*
* 慶應義塾大学薬学部 教授

要  旨
 腸管粘膜は,食事に含まれる微生物や毒素,あるいは常在細菌に曝露されている.そのため,腸管は食品の消化吸収を行う器官であると同時に,食物抗原や腸内細菌などの抗原に対する免疫応答をつかさどる免疫器官としての側面を持つ.近年,腸内細菌の定着が制御性T細胞やTh17といった免疫担当細胞の分化を調節することが明らかになりつつある.本稿では,腸内細菌による免疫修飾作用に関する最新の知見を紹介する.

キーワード
腸内細菌、粘膜免疫系、Th17、制御性T細胞

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腸内細菌による宿主エネルギー代謝制御機構

中島 啓*   宮路 茜*   木村 郁夫**
* 東京農工大学大学院農学研究院応用生命化学専攻 ** 同特任准教授

要  旨
 腸内細菌は腸管内容物の代謝を担い,宿主のエネルギー代謝に大きな影響を与える.近年,腸内細菌叢の変化が宿主のエネルギー調節や栄養の摂取,免疫機能などに影響を与え,肥満や糖尿病などの病態に直接関与するという報告が多数なされており,医学的側面からも腸内細菌分野への関心がますます高まっている.本稿では,腸内細菌叢および腸内細菌代謝産物と宿主のエネルギー代謝疾患との関連について,これまでの知見を紹介する.

キーワード
短鎖脂肪酸、エネルギー代謝、肥満、糖尿病

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腸内細菌と循環器疾患
山下 智也*   平田 健一**

* 神戸大学大学院医学研究科内科学講座循環器内科学分野 准教授 ** 同教授

要  旨
腸内細菌と各種疾患発症との関連性が盛んに研究されており,疾患の危険因子や,新たな治療ターゲットとしての可能性が注目されている.循環器疾患でも腸内細菌の病態への関与が報告されている.我々も腸内細菌と循環器疾患との関連に注目して臨床研究を進め,冠動脈疾患に特徴的な腸内細菌叢のタイプを報告した.腸内細菌が将来の循環器疾患予防のための治療標的になる可能性もあり,今後の展望も含めて概説したい.
キーワード
腸内細菌叢、制御性T細胞、TMAO、entrotype

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腸内細菌と肝疾患

中本 伸宏*   金井 隆典**
* 慶應義塾大学医学部内科学(消化器) 専任講師 ** 同教授

要  旨
 近年,腸内細菌叢の次世代シークエンサーを用いた遺伝子レベルでの網羅的解析が可能となり,炎症性腸疾患,過敏性腸症候群などの消化管疾患のみならず,肝疾患をはじめとするさまざまな腸管外疾患の病態に腸内細菌が関与することが明らかにされている.本稿において,腸内細菌叢の乱れ,すなわちdysbiosisが肝疾患の病態に寄与する機序と,非アルコール性肝疾患,アルコール性肝疾患,原発性硬化性胆管炎などの肝疾患の病態進展への疾患特異的腸内細菌の関与と治療標的としての可能性について,最近の報告を中心に概説する.

キーワード
腸内細菌、肝硬変、アルコール、原発性硬化性胆管炎

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腸内細菌とストレス応答

須藤 信行*
* 九州大学大学院医学研究院心身医学 教授

要  旨
 今,さまざまな研究分野において腸内細菌が注目を集めており,関連する研究も飛躍的に進んでいる.その結果,腸内細菌はこれまで知られていなかった脳や中枢神経の発達や機能に影響を及ぼしていることが明らかにされた.ここでは,筆者らの人工菌叢マウスを用いたストレス応答に関する研究を紹介し,この分野の現状について概説した.

キーワード
行動特性、ストレス応答、短鎖脂肪酸、腸内細菌、脳腸相関

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常在細菌叢によるバリア上皮の細胞死とアレルギー炎症応答の制御
小田 ちぐさ*1  澁谷 彰**1*2

*1 筑波大学医学医療系免疫制御医学 **1 同教授
*2 同生命領域学際研究(TARA)センター教授

要  旨
 腸管,皮膚,気管などバリア組織には常在細菌叢が棲息する.筆者らは,これらの常在細菌叢がバリア組織の樹状細胞を刺激し,制御性T細胞の増殖を亢進する一方,上皮の細胞死を誘導し,樹状細胞に発現するホスファチジルセリン受容体であるCD300aを介して樹状細胞の活性化を抑制し,制御性T細胞の増殖を抑制する経路を発見した.常在細菌叢による制御性T細胞の増殖制御は,腸炎,アトピー,喘息などのアレルギー疾患の病態に関与した.これは常在細菌叢によるバリア組織の恒常性維持機構の1つと言える.
キーワード
常在細菌、アポトーシス細胞、CD300a受容体、炎症、アレルギー

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腸内細菌と肝発がん
大谷 直子*

* 東京理科大学理工学部応用生物科学科 教授

要  旨
 ヒトは腸内細菌と共生し,適切に生体の恒常性を保っている.先行研究にて筆者らは,肥満誘導性に増える腸内細菌叢が産生するデオキシコール酸が腸肝循環により肝臓に到達し,肝臓の間質に存在する肝星細胞に作用し,肝がん促進的ながん微小環境を形成することを示した.このように,肝臓は腸肝循環という流れによって長期に腸内細菌関連物質に曝露される臓器である.近年,このような腸肝軸(gut-liver axis)による肝臓の病態が注目されている.

キーワード
腸内細菌、肝がん、腸肝循環、リポ多糖、デオキシコール酸

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腸内細菌と機能性消化管疾患
山根 剛*   正岡 建洋**  金井 隆典***

* 慶應義塾大学医学部消化器内科 ** 同専任講師 *** 同教授

要  旨
 機能性消化管疾患は,器質的疾患を認めないにもかかわらず,腹部症状を呈する疾患である.その国際的診断基準であるRome基準は本年,RomeⅣ基準に改訂された.近年になり,機能性消化管疾患に腸内細菌が関連していることを示す報告が散見されるようになった.従来,腸内細菌に着目した治療戦略として,プロバイオティクスの有効性が示されてきた.新たな治療戦略として,糞便微生物移植法(便移植)の臨床研究が始まっている.本総説では,以上の点について最新の知見を交えて解説する.

キーワード
機能性ディスペプシア(FD)、過敏性腸疾患(IBS)、RomeⅣ、腸内細菌、糞便微生物移植法(便移植)

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プロバイオティクスおよびシンバイオティクス
野本 康二*

* 株式会社ヤクルト本社中央研究所

要  旨
 プロ(シン)バイオティクスの食品としての保健機能として,整腸作用やさまざまな疾病や病的状態の予防や改善がうたわれており,これを支持する臨床研究や非臨床研究の結果が報告されている.その作用メカニズムとして,継続摂取による腸内細菌叢および環境の改善ならびに自然免疫系などの宿主免疫機能の調節の可能性が示唆されている.新規の作用メカニズムを有する腸内常在細菌のプロバイオティクスとしての開発も期待される.
キーワード
プロバイオティクス、新バイオティクス、腸内細菌叢、保健機能

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糞便微生物移植療法
安藤 朗**** 西田淳史*   今枝広丞* 馬場重樹**  杉本光繁***

* 滋賀医科大学医学部消化器内科 ** 同講師 *** 同准教授 **** 同教授
要  旨
 難治性再発性Clostridium difficile(CD)感染症に対する劇的効果から注目されているのが,糞便微生物移植療法(FMT)である.FMTはCD感染症患者の(小)大腸に,内視鏡やチューブを用いて健康なドナー便を直接投与する治療法である.重篤な副作用はほとんどなく,CD腸炎に対する有効率はほぼ90%に達する.一方,炎症性腸疾患を含めCD感染症以外の疾患での有効性は,いまだ確立されていない.ここでは,CD感染症を中心にFMTの現状について解説する.

キーワード
クロストリジウム腸炎、腸内細菌、炎症性腸疾患

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腸内マイクロバイオームを標的とした医薬品開発 ―マイクロバイオーム関連バイオベンチャー企業の動向―
金 倫基*1*2

*1 Vedanta Biosciences,Inc. *2 慶應義塾大学薬学部生化学教室 准教授
要  旨
 我々の腸管に棲息している細菌叢(マイクロバイオータ)とその代謝産物,さらにこれらを含む腸内環境(マイクロバイオーム)がさまざまな疾患と深くかかわっていることが,この10年余りの間に急速に明らかになってきた.さらに,欧米でのマイクロバイオーム関連企業の増加や,米国のホワイトハウスで今年5月に発表された,National Microbiome Initiative(NMI)による約130億円規模の資金投入など,マイクロバイオームの基礎研究,トランスレーショナル研究が世界中で一層活発化している.本稿では,現在特に活気を帯びている欧米のマイクロバイオーム関連バイオベンチャー企業の動向を中心に紹介する.

キーワード
マイクロバイオーム、バイオベンチャー、生菌製剤、低分子化合物

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痛みのClinical Neuroscience
(15)痛みとプラセボ効果
赤居 正美   
国際医療福祉大学大学院 教授

要  旨
プラセボは偽薬にとどまらず,医療行為全般に同様の反応がある.認知症が進んだ人にはプラセボ効果が認められず,遺伝的な素因によってプラセボ効果に違いが出る.また,プラセボによる鎮痛効果はモルヒネ受容体の阻害薬を入れると失われる.PETなどの脳画像検査から,プラセボの効果は帯状回や一次感覚野などに現れ,痛みの情報処理と共通のシステムがある.治療への期待や見返り/報酬などが,プラセボ効果を生み出すらしい.


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連載
肉眼解剖学者がみたヒト大脳の立体構造

 脳の肉眼解剖学に40年間携わってこられた金沢医科大学・篠原治道先生による誌面講義の第17回は「外側・下方からのアプローチ(7)外側膝状体と内側膝状体―視床外側髄板,内側膝状体(核),横側頭回,下丘,下丘腕―」です。
 開業医、研修医、専門医の方々にもご興味やご関心をもって頂けるような内容となっています。

外側・下方からのアプローチ(7)外側膝状体と内側膝状体―視床外側髄板,内側膝状体(核),横側頭回,下丘,下丘腕―(本文より)

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トピックス
JAK 阻害薬 ―JAK2 阻害薬-骨髄線維症,JAK3 阻害薬-関節リウマチ, を統合して―
竹中 克斗*
* 九州大学病院遺伝子・細胞療法部 講師
要  旨
 サイトカインがサイトカイン受容体の細胞外領域に結合した際に,細胞内への情報伝達を担っているのがJAKファミリーのチロシンキナーゼである.JAK-STAT系は細胞内のシグナル伝達を制御しているため,その制御機構の破綻はアレルギー疾患や自己免疫疾患,造血器腫瘍などさまざまな疾患の発症を引き起こす.JAK-STAT系の活性化の抑制により疾患のコントロールを目指す新規治療法としてJAK阻害薬が開発され,実地医療にも導入されている.

キーワード
JAK2阻害薬、JAK3阻害薬、骨髄線維症、関節リウマチ

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トピックス
虚血再灌流障害に対する水素ガス吸入療法
佐野 元昭*1**3 鈴木 昌**2*3 林田 敬*2*3 多村 知剛*2*3
*1 慶應義塾大学医学部循環器内科 准教授 *2 同救急医学教室 **2 同講師
*3 慶應義塾大学水素ガス治療開発センター **3 同センター長

要  旨
 水素ガスが虚血再灌流障害に対して治療効果を発揮するという結果が,非臨床研究では確立している.超急性期の脳梗塞や心筋梗塞に対する再灌流療法は普及しており,死亡率を減らして後遺症を軽減するため,水素ガスの治療の臨床におけるPOCの獲得とそれに基づく薬事承認が待たれる.

キーワード
急性心筋梗塞、冠動脈インターベンション

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特別寄稿
SGLT2 阻害と心血管保護 ―特に心不全の予後改善効果を考える―
木村 玄次郎*

* 独立行政法人労働者健康安全機構旭労災病院 病院長


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