最新醫學 71巻 10号 
特集 新たに難病指定された内分泌代謝疾患の臨床


要  旨


座談会
 我が国の内分泌代謝領域における指定難病の現状と今後

久留米大学           柳瀬 敏彦
大阪大学            大薗 恵一
京都医療センター        島津 章 (司会)

 座談会の内容
 ・指定難病とは
 ・副腎疾患領域における指定難病の現状
 ・受容体異常症、カルシウム代謝異常領域、
   小児領域
 ・間脳下垂体機能障害 など
 
   大薗先生       島津先生       柳瀬先生

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ADH 分泌異常症

有馬 寛*
* 名古屋大学大学院医学系研究科糖尿病・内分泌内科学 教授

要  旨
 中枢性尿崩症は,バソプレシンの合成および分泌の障害により多尿が生じる病態である.治療にはバソプレシンのアナログであるデスモプレシンを用いる.SIADHは,低ナトリウム血症にもかかわらずバソプレシンの抗利尿作用が持続している病態である.治療は水制限が基本となるが,重篤な低ナトリウム血症では高張食塩水を投与する.この際に,浸透圧性脱髄症候群の発症を予防するために,血清ナトリウム濃度の上昇は10mEq/L/日以内とする.
キーワード
バソプレシン、中枢性尿崩症、多尿、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)、低ナトリウム血症

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下垂体前葉機能低下症

西山 充*1  岩﨑 泰正*2
*1 高知大学医学部内分泌代謝・腎臓内科 准教授   *2 高知大学保健管理センター 教授

要  旨
 下垂体前葉機能低下症は,視床下部・下垂体の病変(腫瘍,炎症,外傷・手術,虚血)により下垂体前葉ホルモンの分泌不全を来した病態である.標的内分泌腺の機能不全を伴うことにより,多彩な症状や検査異常を呈し,確定診断のために内分泌負荷試験や画像検査が必要である.治療として,原疾患に対する治療,および欠乏したホルモンに応じて,糖質コルチコイド,甲状腺ホルモン,性ホルモン,成長ホルモンの補充療法を行う.

キーワード
下垂体機能低下症、副腎皮質機能低下症、甲状腺機能低下症、性腺機能低下症、成人成長ホルモン分泌不全症

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甲状腺ホルモン不応症

石井 角保*   山田 正信**
* 群馬大学大学院医学系研究科病態制御内科学 ** 同教授

要  旨
 甲状腺ホルモン不応症は,甲状腺ホルモンに対する標的臓器の反応性が減弱している症候群で,多くは甲状腺ホルモン受容体β遺伝子変異が原因である.甲状腺ホルモンが過剰であるにもかかわらず甲状腺刺激ホルモン(TSH)が抑制されない,TSH不適切分泌症候群を呈する.診断においては下垂体TSH産生腫瘍との鑑別が鍵となる.甲状腺中毒症様の症状から甲状腺機能低下症様の症状まで,さまざまな症状を呈し得る.無治療または対症療法で良い症例が多い.

キーワード
甲状腺ホルモン不応症、甲状腺刺激ホルモン不適切分泌症候群、甲状腺ホルモン受容体β遺伝子変異

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副甲状腺機能低下症

福本 誠二*
* 徳島大学藤井節郎記念医科学センター 特任教授

要  旨
 副甲状腺機能低下症は,副甲状腺ホルモン(PTH)作用障害を特徴とする疾患である.本稿では,PTH分泌不全による副甲状腺機能低下症を対象とする.本症では,主に低カルシウム(Ca)血症によるテタニーやしびれ感などの症状が問題となる.本症の低Ca血症の予防に対しては,活性型ビタミンD3による治療が行われている.海外ではPTH製剤が使用可能となった.

キーワード
副甲状腺ホルモン、1,25-水酸化ビタミンD、テタニー、活性化型ビタミンD

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偽性副甲状腺機能低下症
皆川 真規*

* 千葉県こども病院内分泌科 診療部長

要  旨
 偽性副甲状腺機能低下症は,副甲状腺ホルモン不応性による低カルシウム血症である.ホルモン受容機構を構成するGsαタンパク質の機能低下が原因となる.GNAS遺伝子のコード領域の塩基変異あるいは転写調節領域のエピジェネティック変異が原因であり,変異が母由来遺伝子に生じたときに発症する.診断する際に最も重要な点は,ビタミンD欠乏症を除外することである.知能障害を含めた合併症候の程度が患者の日常生活を制約する大きな因子となる.
キーワード
副甲状腺ホルモン、低カルシウム血症、Albright遺伝性骨ジストロフィー、多内分泌腺不応症、活性化型ビタミンD製剤

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ビタミンD抵抗性くる病/骨軟化症

山本 威久*
* 箕面市立病院小児科 副院長

要  旨
 ビタミンD抵抗性くる病/骨軟化症は,ビタミンD受容体異常に由来するものと,fibroblast growth factor 23(FGF23)関連低リン血症性くる病/骨軟化症に大別され,最も頻度の高いものはX染色体優性低リン血症性くる病/骨軟化症(XLH)である.FGF23はXLHの病態で重要な因子であるため,活性型ビタミンDおよびリンによる標準治療のほか,FGF23作用抑制を標的とした治療が検討されている.

キーワード
ビタミンD受容体、Fibroblast growth factor 23(FGF23)、1,25(OH)2D、リン、成長障害

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ビタミンD依存性くる病/骨軟化症

北中 幸子*
* 東京大学大学院医学系研究科小児医学講座 准教授

要  旨
 ビタミンD依存性くる病/骨軟化症は,先天性の異常による疾患であり,ビタミンD1α水酸化酵素遺伝子の異常によるビタミンD依存性くる病1型と,ビタミンD受容体遺伝子の異常によるビタミンD依存性くる病2型がある.両者とも常染色体劣性遺伝形式をとるが,症状の多様性や遺伝形式の多様性がある.まれな疾患であり,治療法が遺伝子型や症例により異なるため,遺伝子解析で正確な診断をすると良い.

キーワード
ビタミンD、くる病、1α水酸化酵素、ビタミンD受容体

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低ホスファターゼ症
大薗 恵一*

* 大阪大学大学院医学系研究科小児科学 教授

要  旨
 低ホスファターゼ症は,組織非特異的アルカリホスファターゼ(ALP)遺伝子の異常によって引き起こされる先天性代謝性骨疾患である.血清ALP値は低値となり,骨石灰化の低下,くる病様変化,骨変形,呼吸障害,乳歯の早期脱落,低身長など多彩な症状が見られ,周産期重症型,周産期軽症型,乳児型,小児型,成人型,歯限局型の6病型に分類される.重症型では長期生存が望めなかったが,酵素補充療法が開発され,予後の改善が期待される.
キーワード
低ホスファターゼ症、酵素補充療法、低石灰化、呼吸障害、くる病

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先天性副腎皮質酵素欠損症
志村 和浩*1  長谷川 奉延*2

*1 川崎市立川崎病院小児科 *2 慶應義塾大学医学部小児科学教室 教授

要  旨
 先天性副腎皮質酵素欠損症は,副腎皮質での3種類のステロイドホルモン(鉱質コルチコイド,糖質コルチコイド,副腎性アンドロゲン)の合成経路にかかわる酵素が欠損している疾患である.多くは常染色体劣性遺伝疾患である.症状は各種ホルモンの欠損症状であり,発症時期には変異による酵素活性の程度が関与する.治療には根本的な治療は存在せず,生涯にわたって不足するホルモンの補充が必要である.

キーワード
先天性副腎皮質酵素欠損症、先天性副腎皮質過形成

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先天性副腎低形成症
田島 敏広*

* 自治医科大学とちぎ子ども医療センター小児科 教授

要  旨
 先天性副腎低形成症は,主に新生児期から小児期に副腎不全により発症する疾患である.ほとんどはX連鎖性で,DAX1異常による.この疾患では副腎低形成のほかに,低ゴナドトロピン性性腺機能低下症を合併する.先天性副腎低形成症は,副腎クリーゼを契機に発見されることがある.この場合,クリティカルサンプルを得た後,糖質コルチコイドの投与を行う.遺伝子診断はDAX1異常,その他の先天性副腎低形成の診断に有用である.

キーワード
X連鎖性、DAX1、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症

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副腎皮質刺激ホルモン不応症
勝又 規行*

* 国立成育医療研究センター研究所分子内分泌研究部

要  旨
 副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)不応症とは,副腎皮質のACTHに対する反応は低下しているが,レニン・アンジオテンシン系に対する反応は正常である病態である.本症の基本は,コルチゾール分泌不全に起因する低血糖などの症状と,ACTH分泌過剰に起因する皮膚色素沈着である.本症に無涙症,アカラシアを合併することがあり,トリプルA症候群と呼ばれる.一部で遺伝子診断が可能であるが,責任遺伝子が同定されない例も多数存在する.
キーワード
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、コルチゾール、トリプルA症候群、遺伝子診断

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アジソン病
柳瀬 敏彦*

* 福岡大学医学部内分泌・糖尿病内科 主任教授
要  旨
 アジソン病は,後天性に副腎に病変が原発し,慢性副腎皮質機能不全症を呈する疾患で,自己免疫性と非自己免疫性に分類される.診断上,副腎不全症の臨床徴候と同時に,色素沈着の有無や内分泌検査所見(血中コルチゾール低値,ACTH高値)の把握が重要である.成因的には,感染症のチェックならびに多腺性自己免疫症候群の範疇での発症も含めた自己免疫の可能性を検討する.2014年に作成された本症の診断基準や重症度分類,また副腎不全症の診療指針の概略も紹介する.

キーワード
アジソン病、自己免疫性アジソン病、原発性副腎皮質機能不全症、多腺性自己免疫症候群

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脂肪萎縮症
日下部 徹*1*2  中尾 一和**1

*1 京都大学大学院医学研究科メディカルイノベーションセンター **1 同教授
*2 国立病院機構京都医療センター臨床研究センター内分泌代謝高血圧研究部
要  旨
 脂肪萎縮症は,先天的あるいは後天的原因により,全身性あるいは部分性に脂肪組織が萎縮・消失する疾患で,インスリン抵抗性を特徴とする糖尿病や高中性脂肪血症,脂肪肝等,肥満症と酷似した合併症を発症する.これまで脂肪萎縮症は,治療抵抗性の希少難病として知られてきたが,レプチン補充療法により脂肪萎縮症の代謝異常が著明に改善することが示された.さらに,2015年には脂肪萎縮症は指定難病として承認された.最近,関連病態とも考えられる疾患群が報告されてきており,脂肪萎縮症,レプチン補充療法に対する正しい理解が必要と考えられる.

キーワード
脂肪委縮症、糖尿病、脂質異常症、脂肪肝、インスリン抵抗性

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痛みのClinical Neuroscience
(16)オピオイドがもたらす功罪
冨永 陽介   
横浜市立大学附属病院麻酔科
北原 雅樹   東京慈恵会医科大学ペインクリニック 准教授

要  旨
医療系麻薬(オピオイド)は,強い鎮痛作用効果を持ち,最近では非がん性の慢性痛患者にも強オピオイド(フェンタニル)が使用可能となり,今後臨床の場で処方が広まっていくと思われる.一方で長期間の強オピオイド処方は,身体への副作用はもとより,流用,乱用,依存という社会問題にもつながる可能性がある.慢性痛の治療の目標は,痛みの除去ではなく患者のADL・QOLの向上であることを常に念頭に入れ,処方を考慮すべきである.


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連載
肉眼解剖学者がみたヒト大脳の立体構造

 脳の肉眼解剖学に40年間携わってこられた金沢医科大学・篠原治道先生による誌面講義の第18回は「前・下方および内・外側からのアプローチ(1)視床・前脳基底部・大脳基底核―視床(視床枕・視床髄条・視床間橋),視床下部,尾状核,後交連,前交連,被殼,大脳脚,四丘体(下丘),側坐核,前脳基底部,腹側線条体,(マイネルトの)大細胞性基底核,腹側淡蒼球,グラチオレット管(再掲),黒質網様部,レンズ核の外側髄板・内側髄板,淡蒼球の外節・内節―」です。
 開業医、研修医、専門医の方々にもご興味やご関心をもって頂けるような内容となっています。

前・下方および内・外側からのアプローチ(1)視床・前脳基底部・大脳基底核―視床(視床枕・視床髄条・視床間橋),視床下部,尾状核,後交連,前交連,被殼,大脳脚,四丘体(下丘),側坐核,前脳基底部,腹側線条体,(マイネルトの)大細胞性基底核,腹側淡蒼球,グラチオレット管(再掲),黒質網様部,レンズ核の外側髄板・内側髄板,淡蒼球の外節・内節―(本文より)

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トピックス
自然免疫賦活による難治性呼吸器感染症の制御
中村 茂樹*
* 国立感染症研究所真菌部 主任研究官
要  旨
 新規抗菌薬の開発が滞っている今,抗菌薬のみに依存しない新しい感染症治療戦略の必要性が高まっている.宿主に本来備わっている自然免疫は,自己と非自己を認識することで,あらゆる病原体に対し迅速かつ強力に防御機能を発揮する.Toll様受容体作動薬やマクロライド系薬によって誘導される自然免疫の活性化は,従来の抗菌化学療法では対応が困難な難治性感染症に対する新規治療法の1つと考えられる.

キーワード
難治性感染症、自己免疫賦活、マクロライド系薬、Toll様受容体作動薬

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トピックス
肺線維症におけるテトラスパニンCD151の役割と肺胞上皮のIntegrity
辻野 和之*1*2 武田 吉人*1
*1 大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫アレルギー内科学
*2 カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部

要  旨
 CD151を含むテトラスパニンは,細胞膜4回貫通型のタンパク質ファミリーで,インテグリンやその他の膜タンパク質と細胞膜にて複合体を形成することで,接着,分化,アポトーシス,がん転移などさまざまな機能を修飾することが知られている.CD151は上皮細胞や血管内皮細胞に強く発現し,その欠損マウスの肺を病理学的,生化学的,ならびに生理学的に解析したところ,線維化傾向を示した.CD151欠損肺胞上皮細胞が間葉系マーカーの亢進やTGFβシグナルの亢進を認めること,また基底膜成分であるマトリゲルとの結合力が低下していることより,CD151は肺胞上皮と基底膜の安定した結合を供給することで,その恒常性(integrity)の維持にかかわっていると考えられた.近年,肺胞上皮の障害が肺線維症発症の根底にあると考えられている.CD151欠損マウスは肺胞上皮障害の観点から,肺線維症発症のメカニズムを解明するのに有用なマウスモデルと考えられる.

キーワード
テトラスパニン、インテグリン、肺線維症、上皮細胞

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