最新醫學 72巻1号 
特集 高齢者における糖尿病治療Update 


要  旨


座談会
 高齢者糖尿病の診療向上を目指して

旭川医科大学             羽田 勝計
東京都健康長寿医療センター     井藤 英喜
京都大学               稲垣 暢也 (司会)

 座談会の内容
 ・インクレチン薬登場のインパクト
 ・インクレチン薬の膵作用と予想外の作用
 ・サルコペニアと糖尿病
 ・今後の研究の方向
 など
 
   羽田先生       稲垣先生        井藤先生

目次へ戻る



高齢者糖尿病の特徴

井藤英喜*
* 東京都健康長寿医療センター 理事長

要  旨
 我が国の高齢化率は2015年に26.7%に達した.加齢とともに糖尿病の頻度が高くなることから高齢者糖尿病が増加し,60歳以上の糖尿病が全糖尿病患者の77%を占めるに至っている.高齢者糖尿病には,低血糖を起こしやすい,ADL低下,認知症など糖尿病療養上の問題となる老年症候群の合併が多い,多彩な職種とのチーム医療が必要となるなど多くの特徴があり,成人糖尿病とは異なった医療上の留意点が必要となる.

キーワード
糖尿病、高齢者、老年症候群、低血糖

目次へ戻る



高齢者糖尿病における合併症の特徴

荒木厚*
* 東京都健康長寿医療センター糖尿病・代謝・内分泌内科内科 総括部長

要  旨
 高齢者糖尿病の高血糖は合併症発症のリスク因子であるが,後期高齢者ではその関連が弱くなる.身体活動量低下や心理状態悪化は脳卒中のリスク因子である.高血糖,低血糖は認知症,ADL低下,フレイル,転倒・骨折などの老年症候群を来しやすくする.高齢者糖尿病では老年症候群を含めた合併症予防のために,適切な血糖のコントロール,運動療法,栄養サポート,心理サポート,社会サポートなどの包括的対策を立てることが大切である.

キーワード
高齢者糖尿病、老年症候群、糖尿病合併症、高血糖、低血糖

目次へ戻る



糖尿病を有する高齢者におけるフレイル,サルコペニアの意義

荒井秀典*
* 国立長寿医療研究センター 副院長

要  旨
 生活習慣の欧米化,急速な高齢化と糖尿病の管理が向上したことにより,糖尿病高齢者が増加している.糖尿病高齢者においても,合併症予防のための血糖,血圧,脂質,肥満の管理が重要であるのは言うまでもないが,同時に加齢とともに増加するさまざまな老年症候群への対応も必要になってくる.その老年症候群の中で認知症とともに注目を集めている病態が,フレイル,サルコペニアである.本稿ではフレイル,サルコペニアへの理解を深めるとともに,糖尿病高齢者のマネジメントについて概説する.

キーワード
超高齢化社会、握力、歩行速度、基本チェックリスト、低栄養

目次へ戻る



糖尿病と認知機能障害
河村孝彦*

* 中部ろうさい病院 副院長

要  旨
 糖尿病患者は非糖尿病者に比べ,認知症の頻度が約2倍高いとされている.糖尿病患者に認知機能障害が合併する要因は数多いが,その基盤には高血糖や低血糖といった血糖異常と,インスリン不足やインスリン抵抗性といったインスリン作用異常が存在する.現在,高齢糖尿病患者の1/5~1/4に認知機能障害が合併していると言われており,日常診療に際しては認知症の予防や認知機能障害の合併を念頭に置いた対応が必要とされる.

キーワード
認知症、低血糖、インスリン抵抗性、脳血管障害

目次へ戻る



高齢者糖尿病の機能評価法

櫻井 孝*
* 国立長寿医療研究センター もの忘れセンター長

要  旨
 高齢者糖尿病は多様であり,通常の糖尿病診療に加え,認知症やADL低下などの高齢者に特有な症候を考えた治療が必要となる.健常な生活を営んでいる高齢者でも,次第に食が細くなり,体重が減り,筋力や体力が低下する.総合機能評価は,栄養,うつ,QOL,社会・経済的状況までを包括的に評価する.総合機能評価はチーム医療として実践すべきである.本年,新たに提唱された高齢者糖尿病の管理目標(HbA1c値)のカテゴリー分類にも活用されることが期待される.

キーワード
高齢者糖尿病、総合機能評価、認知機能、日常生活動作、フレイル

目次へ戻る



糖尿病高齢者における低血糖の特徴と問題点

原 賢太*   横野浩一**
* 北播磨総合医療センター糖尿病・内分泌内科,総合内科・老年内科 部長 ** 同病院長

要  旨
 高齢者は低血糖を起こしやすく,低血糖に対する脆弱性を有する.しかし,低血糖症状は非特異的で無自覚低血糖が多く,気づかれにくい.低血糖は死亡率の上昇に関連するとともに,認知機能の低下や転倒・骨折など老年症候群の増加と密接に関連し,高齢者をフレイルや要介護状態に陥らせる大きなリスクとなる.したがって高齢者の糖尿病診療においては,治療に伴う低血糖リスクを評価し回避することを常に念頭に置くべきである.

キーワード
低血糖、高齢者、糖尿病、フレイル、老年症候群

目次へ戻る



高齢者糖尿病における経口糖尿病薬服薬管理の注意点
鈴木 亮*

* 東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科br>
要  旨
 高齢者における薬物療法の効果や安全性は,さまざまな要因による複合的な影響を受ける.SU薬はできるだけ少量で使用し,腎機能障害がある場合は減量や中止を検討する.メトホルミンはeGFRが30mL/min/1.73m2未満の場合禁忌で,75歳以上の高齢者では「より慎重な判断が必要」であるが,以前より柔軟な処方が可能となった.SGLT2阻害薬は脱水と脳梗塞に注意し,適切な水分補給を指導する.いずれもシックデイの指導が重要である.    

キーワード
スルホニル尿素(SU)薬、メトホルミン、SGLT2阻害薬、シックデイ

目次へ戻る



高齢者糖尿病のインスリン療法
登坂祐佳*   綿田裕孝**

* 順天堂大学大学院医学研究科糖尿病内分泌内科 ** 同教授

要  旨
 高齢者糖尿病の血糖コントロール目標の作成により,高齢者糖尿病の治療は患者の特徴,健康状態に応じて,より重症低血糖を起こさない安全性の高い治療が求められた.インスリン療法を選択する場合,回数を減らすことや,家族,介護者など第三者の見守りや介助により重症低血糖を回避する必要がある.今後,さらなる高齢化社会へ向けて,高齢インスリン患者の社会的サポートの充実や,安全かつ簡便な治療方法のエビデンスの構築が望まれる.

キーワード
高齢者、インスリン療法、認知症、低血糖

目次へ戻る



高齢者糖尿病の血糖コントロール目標
山根俊介*   稲垣暢也**

* 京都大学大学院医学研究科糖尿病・内分泌・栄養内科学 ** 同教授br>
要  旨
 高齢者糖尿病の診療にあたっては,患者の年齢や罹病期間,合併症,低血糖のリスクならびにサポート体制といった患者の状態によって,治療目標を個別に設定する必要性が近年特に強調されてきた.2016年,日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会から提唱された「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」の基本的な考え方・特徴に関して解説する.

キーワード
高齢者、糖尿病、血糖コントロール目標

目次へ戻る



高齢者糖尿病の食事療法
梅垣宏行*   葛谷雅文**

* 名古屋大学大学院医学系研究科地域在宅医療学・老年科学 准教授 ** 同教授
要  旨
 高齢者糖尿病では,ADL障害,認知機能障害,抑うつのリスクが高いため,個々の状態を把握し,糖尿病の状態のみでなく,身体機能(BADL,IADL)の評価,認知機能,抑うつなどを含む精神心理面の評価,家族状況などの評価を包括的に行ったうえで,食事療法の指導を行う必要がある.また,高齢者糖尿病ではサルコペニア,フレイルの合併も多いことが知られており,その予防・治療を意識した適切な食事療法が重要である.

キーワード
サルコペニア、フレイル、QOL、高齢者総合機能評価、認知機能

目次へ戻る



高齢者糖尿病の運動療法
細井雅之**  薬師寺洋介*   小原正也*/b>
* 大阪市立総合医療センター糖尿病内分泌センター糖尿病内科 ** 同部長
要  旨
 ・運動療法に伴うリスク(高血糖悪化,運動後低血糖,網膜出血,タンパク尿増加,虚血性心疾患の悪化,足病変悪化など)を把握しておくこと.
・運動療法処方前に必ずメディカルチェックを行い,患者の病態を評価すること.
・患者の血糖コントロール状態,合併症の程度などから,運動療法の適応,運動療法処方内容を考慮すること.
・身体活動量の増加を図ること,あるいは少なくとも活動量の低下を防ぐことが全ステージで重要である.

キーワード
レジスタンス運動、メディカルチェック、身体活動、高齢者糖尿病、有酸素運動

目次へ戻る



高齢者糖尿病の血圧管理
杉本 研*   楽木宏実**

* 大阪大学大学院医学系研究科老年・総合内科学 講師 ** 同教授

要  旨
 高血圧治療ガイドライン2014(JSH2014)では,年齢による降圧目標を達成したのちに,忍容性があれば糖尿病合併高血圧の目標を達成することが明記されているが,高齢者においては年齢ではなく合併症や老年症候群の程度に基づいた目標設定が求められる.このコンセプトに基づいて降圧目標を明確化するエビデンスは十分ではないため,さらなるエビデンス構築が必要である.

キーワード
冠動脈疾患、フレイル、認知症、転倒、多剤服用(ポリファーマシー)

目次へ戻る



高齢者糖尿病の脂質管理
越坂理也*1*2*3 横手幸太郎**2**3

*1 千葉大学大学院医学研究院地域災害医療学寄附講座 *2 同細胞治療内科学 **2 同教授
*3 千葉大学医学部附属病院糖尿病・代謝・内分泌内科 **3 同教授

要  旨
 高齢者糖尿病の脂質管理は動脈硬化性疾患の予防のために重要である.前期高齢者では非高齢者と同様にガイドラインに沿った脂質管理を行う.糖尿病患者ではLDL-C 120mg/dL以下,二次予防なら100mg/dL以下を目標値とする.後期高齢者においてもエビデンスが蓄積しつつあるが不明な点も多く,ADL,QOL,価値観や腎機能など合併症の程度を評価し,個々の症例に合わせた包括的なアプローチが必要である.

キーワード
動脈硬化性疾患、後期高齢者、一次予防、二次予防、LDLコレステロール

目次へ戻る


痛みのClinical Neuroscience
(19)不活動性疼痛に対するリハビリテーション戦略
沖田  実**1   片岡英樹*1   濱上陽平*1   中野治郎*2   坂本 淳哉*2

*1 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科運動障害リハビリテーション学分野 **1 同教授 
*2 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科理学療法学分野 准教授

要  旨
 身体局所あるいは全身の不活動は,痛みの発生・増悪のリスク因子になるとされ,実際,基礎研究では四肢の一部を不活動に曝すだけで痛みが惹起される事実が示され,不活動性疼痛の存在は周知の事実となりつつある.本稿では,末梢組織の変化と神経系の変化に区分して不活動性疼痛の発生メカニズムを整理し,併せて,その対策としてのリハビリテーション戦略について臨床での実践例も交えながら概説した.

目次へ戻る



連載
肉眼解剖学者がみたヒト大脳の立体構造

 脳の肉眼解剖学に40年間携わってこられた金沢医科大学・篠原治道先生による誌面講義の第22回は「大脳半球内面からのアプローチ(1)大脳半球内側壁の GAT―外面の GAT,帯状回小帯(仮称,再掲),球状に窪んだ区画,内面の GAT,小丘状に膨隆した区画―」です。
 開業医、研修医、専門医の方々にもご興味やご関心をもって頂けるような内容となっています。

大脳半球内面からのアプローチ(1)大脳半球内側壁の GAT―外面の GAT,帯状回小帯(仮称,再掲),球状に窪んだ区画,内面の GAT,小丘状に膨隆した区画―(本文より)

目次へ戻る



トピックス
PD-1 抗体を用いた卵巣がんの治療
濵西潤三*1  万代昌紀*2  小西郁生**1

*1 京都大学大学院医学研究科器官外科学婦人科学産科学講師 **1 同教授 *2 近畿大学医学部産科婦人科教授

要  旨
 卵巣がんは半数以上が進行がんで見つかることが多いため,婦人科がんでは最も予後不良であり,新規治療開発が求められている.近年のがん免疫抑制経路を標的にした免疫チェックポイントPD-1経路阻害薬(抗PD-1抗体,抗PD-L1抗体)は,卵巣がんに対する新しい治療薬の候補としても注目されている.そこで本稿では,①PD-1経路と阻害薬のUp to date,②当科の医師主導治験を含む,卵巣がんに対するPD-1経路阻害薬の現状,③今後の展望と課題について概説する.

キーワード
PD-1、PD-L1、免疫チェックポイント、ニボルマブ、ペンブロリズマブ

目次へ戻る


第53回 2016年度 ベルツ賞受賞論文
腸内細菌叢と宿主免疫相互作用インターフェースの理解と臨床応用

本田賢也*1  竹田 潔*2*3br> *1 東京大学大学院医学系研究科細胞情報学分野助教 **1 同教授 *2 同ゲノム医学講座 特任准教授
*3 がん研究会がん研究所分子標的病理プロジェクトプロジェクトリーダー

要  旨
 In gut mucosal tissues, epithelial cells and innate and adaptive immune cells have locus-specific phenotypes and functions. Our series of studies have revealed that members of the gut microbiota differentially influence the development and function of epithelial cells and immune cell populations. Indeed, we identified epithelial molecules and immune cell subsets that are unique to the intestine. Furthermore, by combining gnotobiotic technique and anaerobic culturing of members of the intestinal microbiota, we have identified several bacterial species that strongly affect the intestinal lymphocyte characteristics. In particular, bacterial species falling within clustersⅥandⅩⅣa of the class Clostridia affect the generation and function of colonic regulatory T (Treg) cells, whereas segmented filamentous bacteria (SFB) and other epithelial adhesive bacteria are strong inducers for T helper 17 (Th17) cells in the intestine. They play pivotal roles in maintenance of immune homeostasis by suppressing immune responses against harmless antigens and by enforcing the integrity of gut mucosal barrier functions. On the other hand, imbalance of the gut microbiota, known as dysbiosis, can trigger pathogenesis in several immune disorders, through the disruption of epithelial barrier integrity and the aberrant activation of immune cells both locally and distal to their site of activation. Further elucidation of mechanisms distinguishing homeostatic from pathogenic microbiota-host interactions may identify attractive targets for prevention and treatment of autoimmune and inflammatory diseases.
目次へ戻る